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11 ファンタズムクリスタルの効果

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「こらぁーー! 魔王めっ。私のアリアナをイジワルーイ侍女長が、ずっと虐めていたのに気がつかないなんて、鈍感にもほどがあるわよ!」
 ジョアンナ妖精は魔王の黒髪を引っ張った。

「なに? どういうことだ? イジワルーイ侍女長は仕事ができて、思いやりがある。なにかの間違いだろう?」
「思いやりね。イジワルーイ侍女長は魔王が好きだから、魔王には思いやりがあって優しいわよ。でも、アリアナを『魔王妃の間』に一度も案内していないのよ」

 魔王は慌てて駆けつけてきたイジワルーイ侍女長を鋭く睨んだ。

「なぜだ? イジワルーイ侍女長は仕事ができて、信用できると思っていたのに・・・・・・」
「だって、だって・・・・・・ずっと、私は魔王様が好きだったのです。私は何千年もの間、魔王様だけを見てきました。それに、人間のこんな女はすぐに死にます。魔王妃に少しも相応しくありません」

「あぁ、残念。それはないわ。アリアナにはファンタズムクリスタルを毎日あげているもの。あれは、持ち主に魔力を授け、寿命を延ばすという力を持っているのよ。アリアナは私と同じだけ生きるわ。つまり、魔王と同じか、それ以上生きるってこと」

「ファンタズムクリスタル? 幻の貴石だな。誰も見たことがないぞ」
 魔王は驚きの声をあげた。
「ファンタズムクリスタルはシャドウスプライト妖精の私しか作ることができないのよ。作り方は・・・・・・秘密。私が最古の魔族という証でもあるわ。だいたい、考えればわかることでしょう? アリアナは私の友達なのよ。私より先に死なせるわけないじゃない?」

 絶望の表情を浮かべるイジワルーイ侍女長に、ジョアンナ妖精は勝ち誇った笑みを投げかけた。

「アリアナ! 試しにこのイジワルーイ侍女長に魔法をかけてみて。アリアナを虐めたんだから、おでこと鼻におできを作っちゃえ!」
「それは・・・・・・願うだけで、魔法が使えるんですか? 私は魔族ではないですよ?」
「心の中で、唱えるだけで叶うわよ。さぁ、アリアナ。やってみて!」
「はい、でしたら試しにやってみますわ。イジワルーイ侍女長様の・・・・・・」

「え? 嘘・・・・・・まさか? ありがとうございますぅ」
 次の瞬間、イジワルーイ侍女長が感動で涙していた。理由はアフロのように爆発していたブラウンの髪が、真っ直ぐなストレートヘアになっていたからだ。艶々と輝き、以前の剛毛が嘘のような美しさに変化していた。

「アリアナ。イジワルーイ侍女長はアリアナに、とんでもない嫌がらせをした女なのよ? これじゃぁ、ご褒美じゃない?」
「メイドの生活も、それほど悪くはなかったわ。きちんと睡眠時間は確保できたし、ジョアンナ妖精とも友達になれたしね。だから、罰する気にはなれないわ。イジワルーイ侍女長様も、これからは心を入れ替えてくれますよね。そうでしょう?」
「もちろんです。この剛毛はどんな魔法でも直せなかったのに。これほどの魔力を持つ方なら、魔王様に相応しいです」
 イジワルーイ侍女長は何度もうなずき、アリアナを褒め称えた。

「私は心のなかで唱えただけで、特にすごいことはしていないのだけれど・・・・・・喜んでもらえて嬉しいわ」

「アリアナ。魔族は姿形を変えられても、どういうわけか毛質だけは変えられないのよ。だから、髪の色は変えれてもチリチリボーボーの髪質は変わらないわ。どうやら、アリアナはファンタズムクリスタルの魔力を、期待以上に吸収できているみたい」
 ジョアンナはアリアナの周りを嬉しそうに飛び回った。


 魔王はイジワルーイ侍女長を辞めさせ、新しい侍女長をアリアナが選ぶように言ったが、アリアナは首を横に振った。
 
「特に私は意地悪されたと思っていませんし、反省して真面目に働いてくれれば罰する必要もありません。ここを辞めさせられたら、イジワルーイ侍女長様も困るでしょう?」

 通常、魔王城で懲戒解雇になった場合は、どこの貴族も雇ってくれず路頭に迷うことがほとんどだった。なので、イジワルーイ侍女長はアリアナの配慮に感謝して、これ以降はアリアナの忠実な部下として仕事に励むのだった。

 

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