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10 嘘つきなイジワルーイ

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「なんなのよ? あの人間! 嫌がらせのつもりでメイド部屋に案内してやったら、泣くどころかメイド服を着て働きだしちゃったじゃない。そこまでは楽しかったけど、リオン様軍団長には気に入られるし、最近ではゼイン様参謀カイル様魔界警察の長からも一目おかれているわ。こんなはずじゃなかったのに・・・・・・」

 イジワルーイ侍女長は、ずっと魔王の妻の座を狙ってきた。ちなみにイジワルーイ侍女長は、アリアナと同じような真っ直ぐな金髪に青い瞳である。ふたりの後ろ姿はよく似ていたが、アリアナの美しさはイジワルーイ侍女長より遙かに上だった。だが、イジワルーイ侍女長は大差ないと思い込んでいたし、何なら自分のほうがよっぽど綺麗だと信じていた。

イジワルーイ侍女長様。魔王様が執務室に来るようにとおっしゃっています」
 侍女のひとりが、魔王城の中庭で考え込むイジワルーイ侍女長に声をかけた。
「わかったわ。今、行きます」
(魔王様がなんの用かしら? あの素晴らしい美貌を間近で拝めるなんて役得よね)
 イジワルーイ侍女長は、いそいそと王の執務室に向かった。

☆彡 ★彡

 ここは魔王の執務室である。中央には巨大なデスクがあり、上には山積みの書類とインク壺が置かれている。デスクの背後には、高くそびえる背もたれの椅子があった。 
 一角には黒い革張りの応接ソファが置かれており、隣には同じく豪華なテーブルがあった。その上には銀の燭台が鎮座している。棚には古びた書物や魔法の道具が整然と並べられており、まさに魔王の知恵と権威を象徴しているかのようだった。
 執務室には魔王の他にリオン軍団長ゼイン魔王の参謀カイル魔界警察の長もいた。

「アリアナはいつまでメイドの真似事をするつもりなのだろう?『魔王妃の間』は気に入らなかったと聞いたが、あれから模様替えをさせた。今度こそ気に入るはずだが、新しい部屋に案内してみたか?」

「もちろん、案内しました。ですが、アリアナ様は大変気難しいところがあるようです。カーテンや絨毯、ソファの色まで文句をつけてきます。メイドの真似事は趣味だそうです。やはり、変わり者なのでしょう。そうでなければ、魔族を嫌う人間たちが、尊い身分の女性を送り込むはずがありません。きっと嫌われ者の変わり者だから、人間界を追放されたのですわ」

「アリアナがメイド部屋を気に入って、メイドの仕事をしたいのなら、止める必要もなかろう。しかし、変わった公爵令嬢だな。まったく想定外だ」
 魔王は首を傾げながら、ため息をついた。

(ふっ。なぜ男って自分で本人に聞かないのかしら? 私はアリアナを一度だって『魔王妃の間』になんて連れて行っていないわ。いきなりメイド部屋に連れて行っただけよ。そうしたら、勘違いして自発的に働きだしただけじゃない?)
 イジワルーイ侍女長は心の中で笑った。


☆彡 ★彡


 イジワルーイ侍女長が魔王の執務室から戻って半刻ほど経っていた。   
イジワルーイ侍女長様。メイド服の洗い替えはありますか? すっかり汚れてしまって、もう一着貸していただけると嬉しいのですが」
 使用人の更衣室で、アリアナがイジワルーイ侍女長に声をかけた。

「洗い替え? 下働き用の服ならありますよ。厨房で皿洗いや野菜の皮むきをするのです。ちょうど、ひとり辞めたところです。魔王様も、あなたがその仕事をすることを望んでいらっしゃいます」

「嘘をつかないでよ。私のアリアナを虐めたら許さないんだからねっ! シャドウスプライト妖精の私が、イジワルーイ侍女長の悪事に気づかないと思っているの? さっき、魔王に嘘をついているのを、ちゃんと聞いていたのよ」

 ジョアンナ妖精イジワルーイ侍女長の髪の毛を思いっきり引っ張った。すると、大量の髪の毛が抜けて? ーーチリチリのアフロヘアが飛び出した。色はブロンドではなくブラウンの剛毛だった。

「えぇ~~! 侍女長の頭、タワシみたい」
「雀の巣だわね。まるで、火事にあって髪が焼け焦げて縮れちゃったみたいにも見えるわ」
「あんなに髪を自慢していたくせに、カツラだったとはねぇ~~」

 周りにいたメイドや侍女たちは、お腹を抱えて笑い出した。この世界では真っ直ぐな艶のある髪が美しいとされ、チリチリの剛毛は醜いものと評価されているのだ。

「きゃぁ~~、なにするのよっ。私の大事なカツラを返してぇ」
「ふ~~ん。これって、とても大事なものなのね? アリアナ、隠していい? だって、この女は嘘つきなのよ。アリアナが『魔王妃の間』を拒んだって嘘をついたわ。嘘つき女のカツラは隠しちゃえ」
 ジョアンナ妖精はアリアナの肩に乗って、プンプンと顔を真っ赤にして怒っていた。

「え? どういうことなの?」
 アリアナはジョアンナ妖精から一部始終を聞かされたが、ただ静かに微笑んでいる。

「だいたいね。魔王が悪いのよ。人間界からはるばる来たアリアナを部屋に案内するぐらい、自分ですれば良いのよ。なんでイジワルーイ侍女長なんかに任せたのよ」

 ジョアンナ妖精はアリアナのぶんも怒らないと気が済まない。なにしろ、アリアナは生まれてはじめてできた友達なのだ。昼はアリアナの肩に乗り、夜はアリアナの寝顔を見ながら、アリアナ手作りの小さなベッドで安心して眠る。ジョアンナ妖精にとって、アリアナは母親のような存在にもなっていたのだった。

「私が魔王に文句を言ってくる! 一番悪いのは魔王だわ。魔王が怠慢だから、イジワルーイ侍女長がつけあがるのよ。使用人の管理がなっていないわ」

 イジワルーイ侍女長のカツラを隠しただけでは満足できなかったジョアンナ妖精は、更衣室からパッと姿を消して、魔王の部屋へと向かい・・・・・・
  

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