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4 仕組まれたわなと不思議な食べ物
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「申し訳ありませんが、自分の犯してもいない罪を自白するなどできません」
「強情な女だな。自分の罪を認めたら婚約破棄だけで、罪は問わないと言っているんだ。王都から遠く離れたお前を知る者などいない場所に、一人で住むことができるくらいの家は用意してやる。『王家の財宝横領』は本来重い罪だから、一生牢獄に閉じ込められるのだぞ。それでいいのか?」
レオナルドは嬉しそうだ。アリアナの賢さがいつもレオナルドの劣等感を刺激していたので、アリアナを追い詰めることにほの暗い喜びを感じていたのだ。
「レオナルド王太子殿下の温情ですよ。早く認めなさい。そうでないと、クレスウエル公爵家に傷がつきます。あなたが罪人となり牢獄の住人になったら、クレスウエル公爵家の名声は地に落ちますよ」
クレスウエル公爵夫人が必死になって、アリアナにしてもいない罪を認めろ、と金切り声をあげた。
(なぜ、信じてくれないの? なぜ、エリナとレオナルド王太子のことを疑わないの?)
「お母様。私に嘘はつけません。やっていない罪を認めることなどできません」
「証拠があるのに図々しい。お前のような娘は一生地下牢にいたらいいのよ。私の娘はエリナだけだわ。旦那様、アリアナはクレスウエル公爵家から追放しましょう。由緒ある家柄に傷がつきます」
クレスウエル公爵夫人は冷たい眼差しでアリアナを睨みつけた。
「王室財宝の横領という不名誉な罪を犯したアリアナを、ただちに牢獄へと連れて行くのだ」
レオナルドは嬉々として声を弾ませる。
「お待ちください。今まで私がこなしてきたさまざまな仕事はどうするのですか? 今までなにもしてこなかったレオナルド王太子殿下にできるとは思えません」
「それなら心配ないさ。『アリアナ・スクプリタム』があれば、アリアナはもう要らない。私はアリアナの妹、エリナを妃に迎える!」
エリナがレオナルドの腕にしなだれかかり、にやりと笑った。
「ごめんなさい、お姉様。いつだって、愛されるのは私のほうなのよ」
☆彡 ★彡
地下牢の扉が開くと、湿った空気がアリアナの身体を包む。薄暗い窓のない部屋には小さなベッドがひとつ、壁には鎖が打ち付けられており、手錠や足かせをそれに繋ぐことができるようになっていた。床は冷たく湿っており、わずかな灯りは廊下に設置してある一本のランプだけだった。
劣悪な環境といえる地下牢でも、アリアナはある可能性を考え期待に胸を膨らませた。
(これで、ゆっくり眠ることができるのではないかしら? 地下牢に閉じ込められるのは嬉しくないけど、誰にも邪魔されずに眠れるって・・・・・・最高かもしれないわね!)
しかし、その期待は見事に裏切られた。アリアナがこの暗い牢獄に閉じ込められて、まもなくーーニヤニヤしながらやって来たレオナルドの横には、寄りそうように立っているエリナの姿があったのだ。
「お前に栄誉ある毒味役をさせてやるよ。ここに一生閉じ込められたままなのも退屈だろう? この実は魔族の王から贈られてきたものだ。あいつらは邪悪で醜悪な生き物だから、友好的なふりをして、おかしな果物を送りつけてきたんだ。見て見ろよ、表面が黒と緑のまだら模様で、螺旋状にねじれたこの果物を」
アリアナの目の前に突き出された不思議な果実からは、海藻と硫黄を思わせるような独特の香りがする。その皮をエリナが剥き、小皿に盛るとアリアナに食べるように促した。
「お姉様、私だって本当はこんなことはしたくないのよ。でも、お姉様が犯した罪を否定するのは間違っているわ。さあ、召し上がれ。お毒味は重要な役割だもの」
エリナは明らかに楽しんでいた。このエリナもレオナルド同様、アリアナの優れた能力にコンプレックスを感じていたひとりだった。
エリナとレオナルドは共通の敵、アリアナを一緒に陥れるために行動した。彼らは同じように愚かで怠け者だったため、非常に気が合ったのだった。
「強情な女だな。自分の罪を認めたら婚約破棄だけで、罪は問わないと言っているんだ。王都から遠く離れたお前を知る者などいない場所に、一人で住むことができるくらいの家は用意してやる。『王家の財宝横領』は本来重い罪だから、一生牢獄に閉じ込められるのだぞ。それでいいのか?」
レオナルドは嬉しそうだ。アリアナの賢さがいつもレオナルドの劣等感を刺激していたので、アリアナを追い詰めることにほの暗い喜びを感じていたのだ。
「レオナルド王太子殿下の温情ですよ。早く認めなさい。そうでないと、クレスウエル公爵家に傷がつきます。あなたが罪人となり牢獄の住人になったら、クレスウエル公爵家の名声は地に落ちますよ」
クレスウエル公爵夫人が必死になって、アリアナにしてもいない罪を認めろ、と金切り声をあげた。
(なぜ、信じてくれないの? なぜ、エリナとレオナルド王太子のことを疑わないの?)
「お母様。私に嘘はつけません。やっていない罪を認めることなどできません」
「証拠があるのに図々しい。お前のような娘は一生地下牢にいたらいいのよ。私の娘はエリナだけだわ。旦那様、アリアナはクレスウエル公爵家から追放しましょう。由緒ある家柄に傷がつきます」
クレスウエル公爵夫人は冷たい眼差しでアリアナを睨みつけた。
「王室財宝の横領という不名誉な罪を犯したアリアナを、ただちに牢獄へと連れて行くのだ」
レオナルドは嬉々として声を弾ませる。
「お待ちください。今まで私がこなしてきたさまざまな仕事はどうするのですか? 今までなにもしてこなかったレオナルド王太子殿下にできるとは思えません」
「それなら心配ないさ。『アリアナ・スクプリタム』があれば、アリアナはもう要らない。私はアリアナの妹、エリナを妃に迎える!」
エリナがレオナルドの腕にしなだれかかり、にやりと笑った。
「ごめんなさい、お姉様。いつだって、愛されるのは私のほうなのよ」
☆彡 ★彡
地下牢の扉が開くと、湿った空気がアリアナの身体を包む。薄暗い窓のない部屋には小さなベッドがひとつ、壁には鎖が打ち付けられており、手錠や足かせをそれに繋ぐことができるようになっていた。床は冷たく湿っており、わずかな灯りは廊下に設置してある一本のランプだけだった。
劣悪な環境といえる地下牢でも、アリアナはある可能性を考え期待に胸を膨らませた。
(これで、ゆっくり眠ることができるのではないかしら? 地下牢に閉じ込められるのは嬉しくないけど、誰にも邪魔されずに眠れるって・・・・・・最高かもしれないわね!)
しかし、その期待は見事に裏切られた。アリアナがこの暗い牢獄に閉じ込められて、まもなくーーニヤニヤしながらやって来たレオナルドの横には、寄りそうように立っているエリナの姿があったのだ。
「お前に栄誉ある毒味役をさせてやるよ。ここに一生閉じ込められたままなのも退屈だろう? この実は魔族の王から贈られてきたものだ。あいつらは邪悪で醜悪な生き物だから、友好的なふりをして、おかしな果物を送りつけてきたんだ。見て見ろよ、表面が黒と緑のまだら模様で、螺旋状にねじれたこの果物を」
アリアナの目の前に突き出された不思議な果実からは、海藻と硫黄を思わせるような独特の香りがする。その皮をエリナが剥き、小皿に盛るとアリアナに食べるように促した。
「お姉様、私だって本当はこんなことはしたくないのよ。でも、お姉様が犯した罪を否定するのは間違っているわ。さあ、召し上がれ。お毒味は重要な役割だもの」
エリナは明らかに楽しんでいた。このエリナもレオナルド同様、アリアナの優れた能力にコンプレックスを感じていたひとりだった。
エリナとレオナルドは共通の敵、アリアナを一緒に陥れるために行動した。彼らは同じように愚かで怠け者だったため、非常に気が合ったのだった。
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