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私はジャンのバカさ加減に、笑いを堪えるので必死だった。お父様とこの1週間、”ジャンポイ捨て計画”を練っていたのだ。その際、ジャンが言いそうなことは全て予想していた。
「財産分与の意味もわからないくせに、さらに恥をここでかきたいのですか? あなたに財産分与はありません。私とジャンが婚姻してから、協力して形成した財産などひとつもないではありませんか? あなたはマイエ侯爵家の財産を食い潰していただけです。領地経営も事業もお父様がなさっていたし、ジャンはその手伝いもしていなかったでしょう?」
「そのとおりだ。そこの婿殿は、わたしの手伝いを三日で放り投げた愚か者だ。ジャン君のように、契約書や帳簿の書き方もまともにできない男は初めて見たよ。それでよくも財産分与などと寝ぼけたことを言えたものだ。呆れるぞ」
「・・・・・・あ、あのぉーー、わたしはこの女に騙されていたんです。この未亡人が一番悪いんだぁーー」
泣きわめきだしたジャンに、私はますます引いてしまう。こんな男と夫婦だったなんて・・・・・・恥ずかしい・・・・・・
ルイ様を見ると、ジャンに虫けらを見るような眼差しを向けていた。その後、ちらっと私と目が合う。私のことも虫けらを見る目で見るのかしら? ・・・・・・違う・・・・・・あの眼差しは知っている。家庭教師の先生が褒めてくれる時の目だ!
外国の言葉を頑張って流ちょうに話せるようになった時や、ダンスのステップを上手に踏めるようになった時に浮かべる先生が生徒を見る表情にそっくり・・・・・・
(ちょっと待って、私は子供扱いなの!? なんかむかつく)
唇をぎゅっと噛みしめると、ジャンがなにを思ったか私に近寄り肩を抱いて謝ってきた。
「ごめんよ、そんな泣きそうな顔をしないで。今、やっと目が覚めたよ。全部あの女が悪い。あいつがお金をせびってきたのが悪い」
(違う。ジャンのせいで唇を噛んだのじゃないわ。ルイ様に子供扱いされたからよっ! むかつくわ、大嫌いよ。昔だって、私が池に落ちた時に助けてくれなかったもの。『その池は浅いし自分で抜け出せるよね? 見ていてあげるから、自分で歩いて池から這いあげるんだ』と、言ったルイ様。エルガーはすぐに自分も飛び込んで、お姫様抱っこして助けてくれたのに)
「うるさいですわ! 私の肩を気やすく触るのはやめていただけませんこと? お金をせびられても、それに応じなければいいだけのことですわ。ジャンがお金をあの女性にあげたのは、全て自分の決断したことでしょう? 人のせいにするものではありません! 自分のしたことは全て自分に返ってくるのですわ」
(あぁ、本当にそうだわ。私が今ジャンに言ったことは、ブーメランにもなっている。しっかり生きていかなければ自分にいつかしっぺ返しがくるんだ)
「ですから、ジャン。あなたはもう私の人生には、いらない人間ですわ。私の前から消えていただけない?」
「離婚なんてしないぞ。嫌だよ、嫌だ。だって、わたしはリーズに見捨てられたらどこに住めばいいんだい? 実家は兄上が跡を取っているし、他の兄上達も格上貴族に婿入りしている。頼れる親類なんていないのだよ。この女のせいだ。こいつの・・・・・・」
「ちょっと、なんでもかんでも私のせいにしないでよ! 私はあんたの愛人になってやったでしょう? しかもジャンとバヤルの策略通りに、夜会でエルガー様に抱きついてやったじゃない? あれでエルガー様を蹴落として、あんたが婿入りできたくせに。恩知らずめ!」
ざわざわと貴族達が騒ぎ出した。新たな火種の登場にわくわくしており、期待に満ちた顔を私に向けてきたのだった。
「財産分与の意味もわからないくせに、さらに恥をここでかきたいのですか? あなたに財産分与はありません。私とジャンが婚姻してから、協力して形成した財産などひとつもないではありませんか? あなたはマイエ侯爵家の財産を食い潰していただけです。領地経営も事業もお父様がなさっていたし、ジャンはその手伝いもしていなかったでしょう?」
「そのとおりだ。そこの婿殿は、わたしの手伝いを三日で放り投げた愚か者だ。ジャン君のように、契約書や帳簿の書き方もまともにできない男は初めて見たよ。それでよくも財産分与などと寝ぼけたことを言えたものだ。呆れるぞ」
「・・・・・・あ、あのぉーー、わたしはこの女に騙されていたんです。この未亡人が一番悪いんだぁーー」
泣きわめきだしたジャンに、私はますます引いてしまう。こんな男と夫婦だったなんて・・・・・・恥ずかしい・・・・・・
ルイ様を見ると、ジャンに虫けらを見るような眼差しを向けていた。その後、ちらっと私と目が合う。私のことも虫けらを見る目で見るのかしら? ・・・・・・違う・・・・・・あの眼差しは知っている。家庭教師の先生が褒めてくれる時の目だ!
外国の言葉を頑張って流ちょうに話せるようになった時や、ダンスのステップを上手に踏めるようになった時に浮かべる先生が生徒を見る表情にそっくり・・・・・・
(ちょっと待って、私は子供扱いなの!? なんかむかつく)
唇をぎゅっと噛みしめると、ジャンがなにを思ったか私に近寄り肩を抱いて謝ってきた。
「ごめんよ、そんな泣きそうな顔をしないで。今、やっと目が覚めたよ。全部あの女が悪い。あいつがお金をせびってきたのが悪い」
(違う。ジャンのせいで唇を噛んだのじゃないわ。ルイ様に子供扱いされたからよっ! むかつくわ、大嫌いよ。昔だって、私が池に落ちた時に助けてくれなかったもの。『その池は浅いし自分で抜け出せるよね? 見ていてあげるから、自分で歩いて池から這いあげるんだ』と、言ったルイ様。エルガーはすぐに自分も飛び込んで、お姫様抱っこして助けてくれたのに)
「うるさいですわ! 私の肩を気やすく触るのはやめていただけませんこと? お金をせびられても、それに応じなければいいだけのことですわ。ジャンがお金をあの女性にあげたのは、全て自分の決断したことでしょう? 人のせいにするものではありません! 自分のしたことは全て自分に返ってくるのですわ」
(あぁ、本当にそうだわ。私が今ジャンに言ったことは、ブーメランにもなっている。しっかり生きていかなければ自分にいつかしっぺ返しがくるんだ)
「ですから、ジャン。あなたはもう私の人生には、いらない人間ですわ。私の前から消えていただけない?」
「離婚なんてしないぞ。嫌だよ、嫌だ。だって、わたしはリーズに見捨てられたらどこに住めばいいんだい? 実家は兄上が跡を取っているし、他の兄上達も格上貴族に婿入りしている。頼れる親類なんていないのだよ。この女のせいだ。こいつの・・・・・・」
「ちょっと、なんでもかんでも私のせいにしないでよ! 私はあんたの愛人になってやったでしょう? しかもジャンとバヤルの策略通りに、夜会でエルガー様に抱きついてやったじゃない? あれでエルガー様を蹴落として、あんたが婿入りできたくせに。恩知らずめ!」
ざわざわと貴族達が騒ぎ出した。新たな火種の登場にわくわくしており、期待に満ちた顔を私に向けてきたのだった。
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