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「ねぇ、ジャン。そんなに親友の未亡人が大事なの? だったら、一週間後にお母様のお誕生日を祝うパーティがあるから、連れて来てもよろしくてよ」
「え? だってマイエ侯爵達にバレたくなかったのだろう? だからわたしも秘密にしてあげていたのだよ」
「いいえ、もうバレても構わないです。私が愚かでしたわ。ジャンはなにも悪いことなどしていないのだから、むしろ親友の未亡人を助けてあげている善行は皆様に公表したほうがいいと思うの」
「あ、うん。親友の未亡人を助けることは尊い善行だとわたしも思っていたよ」
「では、そのように未亡人さんにもお伝えくださいませ。私は本邸にしばらくおります。お母様のお誕生日パーティの準備をお手伝いしたいのです。では、ご機嫌よう。早速、本邸に参りますわ」
「え? 今からかい? こちらにはいつ戻るんだい?」
「そうね、パーティが終わるまでは帰りません。好きなようにこの屋敷を使っていいですよ。もしかしたら、パーティ後もここには住まないかもしれないので」
「どういうことだい? リーズがここに住まないなんて嬉し・・・・・・あわわ・・・・・・悲しいことだよ」
「お父様からお勉強することがたくさんありますの。今まで怠けていた分をとりもどさないといけませんわ」
私はできるだけ愛を込めてにっこりジャンに微笑んだ。これが最後のこいつに対する微笑みになる。
ここはマイエ侯爵家の本邸のサロンで目の前には両親がおり、私は冷静に今までのことを話し心から謝る。
「お父様、お母様。今まで申し訳ございませんでした。侯爵家の娘という自覚に欠けていましたわ。私のするべきことがやっとわかりました」
両親はジャンの私に対する扱いを聞き、猛烈に腹を立てていた。
「貧乏伯爵家の四男の小僧が! 我が娘を舐めくさりおって・・・・・・許さんぞ」
「その四男の小僧に引っかかったのはリーズの愚かさですよ。元はといえば、あなたが甘やかしすぎなのです。いいですか? これからは厳しくしますわよ?」
「はい、お母様。覚悟していますわ。絶対にルイ様を見返してやるんだからっ!」
「え? ルイ様を? おかしな子ね。なぜここでルイ様が出てくるの? ルイ様とお話しをしたの?」
「いいえ、なんでもないです。お話しなんてしていませんわ」
ルイ様の憎らしい顔が、なぜかあれ以来いつも浮かんでくるのは不思議だ。ルイ様のおっしゃった言葉が正論でありがたかった反面、あの言い方にとても傷ついたもの。愚かな残念な子を見る哀れみと侮蔑の混じり合ったあの目つき、もうあのような眼差しは向けさせないわ。
お母様のお誕生日パーティ当日、たくさんの貴族達が集った。マイエ侯爵家に関わる派閥の貴族達や一族はこぞってお祝いに駆けつける。お父様の大親友バロワ侯爵家の方々も加わり、かなりの人数である。
そこに意気揚々と現れたのが未亡人をエスコートしたジャンだ。なんと未亡人はジャンの瞳色を模したドレスを纏い現れた。
「まぁ、これがジャンの親友の未亡人なのですね? ジャンは病死した親友の為に大金を援助してさしあげていますのよ。素晴らしいと思いませんこと?」
私はわざと皆様に聞こえるように声高に話しかける。
「いや、わたしは当然のことをしたまでだよ。だってこの女性は娼館に売られそうになっていたからね。誰だって親友の奥方をそのような目に遭わせたくないよね?」
まるで自分の私財から援助したと言わんばかりの得意顔を浮かべるジャン。
「もちろんですわ。皆様、すばらしい我が家の婿殿に最後の乾杯をしましょう」
お母様はシャンパンを手に持つと、招待客も皆一斉にシャンパンを片手に微笑む。
「横領婿殿に最後の乾杯!」
あらかじめ手紙で”ジャンポイ捨て計画”を伝えていたマイエ侯爵家傍系一族が口々に声をあげた。
「私の夫だったジャンに最後の乾杯!」
と私。
詳細を知らせていない貴族達は、好奇心も露わにワクワクした表情を浮かべたのだった。
「え? だってマイエ侯爵達にバレたくなかったのだろう? だからわたしも秘密にしてあげていたのだよ」
「いいえ、もうバレても構わないです。私が愚かでしたわ。ジャンはなにも悪いことなどしていないのだから、むしろ親友の未亡人を助けてあげている善行は皆様に公表したほうがいいと思うの」
「あ、うん。親友の未亡人を助けることは尊い善行だとわたしも思っていたよ」
「では、そのように未亡人さんにもお伝えくださいませ。私は本邸にしばらくおります。お母様のお誕生日パーティの準備をお手伝いしたいのです。では、ご機嫌よう。早速、本邸に参りますわ」
「え? 今からかい? こちらにはいつ戻るんだい?」
「そうね、パーティが終わるまでは帰りません。好きなようにこの屋敷を使っていいですよ。もしかしたら、パーティ後もここには住まないかもしれないので」
「どういうことだい? リーズがここに住まないなんて嬉し・・・・・・あわわ・・・・・・悲しいことだよ」
「お父様からお勉強することがたくさんありますの。今まで怠けていた分をとりもどさないといけませんわ」
私はできるだけ愛を込めてにっこりジャンに微笑んだ。これが最後のこいつに対する微笑みになる。
ここはマイエ侯爵家の本邸のサロンで目の前には両親がおり、私は冷静に今までのことを話し心から謝る。
「お父様、お母様。今まで申し訳ございませんでした。侯爵家の娘という自覚に欠けていましたわ。私のするべきことがやっとわかりました」
両親はジャンの私に対する扱いを聞き、猛烈に腹を立てていた。
「貧乏伯爵家の四男の小僧が! 我が娘を舐めくさりおって・・・・・・許さんぞ」
「その四男の小僧に引っかかったのはリーズの愚かさですよ。元はといえば、あなたが甘やかしすぎなのです。いいですか? これからは厳しくしますわよ?」
「はい、お母様。覚悟していますわ。絶対にルイ様を見返してやるんだからっ!」
「え? ルイ様を? おかしな子ね。なぜここでルイ様が出てくるの? ルイ様とお話しをしたの?」
「いいえ、なんでもないです。お話しなんてしていませんわ」
ルイ様の憎らしい顔が、なぜかあれ以来いつも浮かんでくるのは不思議だ。ルイ様のおっしゃった言葉が正論でありがたかった反面、あの言い方にとても傷ついたもの。愚かな残念な子を見る哀れみと侮蔑の混じり合ったあの目つき、もうあのような眼差しは向けさせないわ。
お母様のお誕生日パーティ当日、たくさんの貴族達が集った。マイエ侯爵家に関わる派閥の貴族達や一族はこぞってお祝いに駆けつける。お父様の大親友バロワ侯爵家の方々も加わり、かなりの人数である。
そこに意気揚々と現れたのが未亡人をエスコートしたジャンだ。なんと未亡人はジャンの瞳色を模したドレスを纏い現れた。
「まぁ、これがジャンの親友の未亡人なのですね? ジャンは病死した親友の為に大金を援助してさしあげていますのよ。素晴らしいと思いませんこと?」
私はわざと皆様に聞こえるように声高に話しかける。
「いや、わたしは当然のことをしたまでだよ。だってこの女性は娼館に売られそうになっていたからね。誰だって親友の奥方をそのような目に遭わせたくないよね?」
まるで自分の私財から援助したと言わんばかりの得意顔を浮かべるジャン。
「もちろんですわ。皆様、すばらしい我が家の婿殿に最後の乾杯をしましょう」
お母様はシャンパンを手に持つと、招待客も皆一斉にシャンパンを片手に微笑む。
「横領婿殿に最後の乾杯!」
あらかじめ手紙で”ジャンポイ捨て計画”を伝えていたマイエ侯爵家傍系一族が口々に声をあげた。
「私の夫だったジャンに最後の乾杯!」
と私。
詳細を知らせていない貴族達は、好奇心も露わにワクワクした表情を浮かべたのだった。
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