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「まさかエルガー様の密会現場に遭遇するなんて。さぁ、こんなところにいたら不愉快だから、あちらに移動しましょう」
 私はジャン様に言われるまま、急いでその場を離れた。

「わたしをちゃんと見て欲しい。エルガー様はリーズ様を愛しているわけじゃない。家同士の結びつきを強固にするためだけの義務だと考えているのだと思います。だから、こんな場所で女と抱き合うのです」
 ジャン様の言葉には妙に説得力があった。

(そういうことなのかな。確かに私は愛しているとか、好きって一度も言われていないわ。エルガー様は責任感も人一倍強いから、私と結婚することを義務と考えているのかも)






 私がお父様にエルガー様ではなく、ジャン様と結婚したいと言ったのは、それから数ヶ月後のことだ。お父様は困惑し、お母様は大層がっかりなさった。

「なぜ、エルガー様じゃないの? エルガー様はとても優秀だしリーズを愛しているのよ。婚約者を裏切るなんて社交界で生きていけなくなるわよ」

「私はエルガー様に愛しているなんて言われたことは一度もないわ。それにエルガー様はお兄様みたいですもの。いつも愛していると言ってくれるのはジャン様なのよ」

「やれやれ。リーズはなにもわかっていないな。言葉で愛しているなんてささやくのはとても簡単なことなのさ」
 お父様は私の顔を見てため息をついた。

「そうよ。言葉じゃないのよ、行動なのよ。もちろん、リーズの願いは叶うはずよ。お父様はリーズには甘いですからね。でも、きっと後悔するわ」
 お母様はかなり怒っていらっしゃった。

 お父様は私を溺愛していたので、バロワ侯爵家に頭を下げて婚約は解消された。その際、一切慰謝料の話にはならなかったらしい。

「わたしがリーズ嬢の心を繋ぎとめておくだけの魅力がなかっただけのことです。反省するべきなのはわたしのほうです。ですから、リーズ嬢の思うようにさせてあげてください。これはわたしの落ち度です」

 エルガー様の言葉を私はお父様から伝え聞き、さすがだと思った。彼らしい言葉だし、私をひとことも責めない。

「逃した魚は大きかったことを、リーズは後から気づくでしょうね。婚約者がいるのを知って近づいてくるようなジャンと結婚しても、幸せにはなれないのよ」

「そんなことないもの。私は絶対幸せになるわ」
 私はお母様に否定的な意見を言われて、なおさら意固地になってしまう。そして、私は両親が太鼓判をおすエルガー様ではなく、しぶしぶとしか許可がもらえなかったジャン様と結婚したのだった。


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