2 / 11
2
しおりを挟む
「まさかエルガー様の密会現場に遭遇するなんて。さぁ、こんなところにいたら不愉快だから、あちらに移動しましょう」
私はジャン様に言われるまま、急いでその場を離れた。
「わたしをちゃんと見て欲しい。エルガー様はリーズ様を愛しているわけじゃない。家同士の結びつきを強固にするためだけの義務だと考えているのだと思います。だから、こんな場所で女と抱き合うのです」
ジャン様の言葉には妙に説得力があった。
(そういうことなのかな。確かに私は愛しているとか、好きって一度も言われていないわ。エルガー様は責任感も人一倍強いから、私と結婚することを義務と考えているのかも)
私がお父様にエルガー様ではなく、ジャン様と結婚したいと言ったのは、それから数ヶ月後のことだ。お父様は困惑し、お母様は大層がっかりなさった。
「なぜ、エルガー様じゃないの? エルガー様はとても優秀だしリーズを愛しているのよ。婚約者を裏切るなんて社交界で生きていけなくなるわよ」
「私はエルガー様に愛しているなんて言われたことは一度もないわ。それにエルガー様はお兄様みたいですもの。いつも愛していると言ってくれるのはジャン様なのよ」
「やれやれ。リーズはなにもわかっていないな。言葉で愛しているなんてささやくのはとても簡単なことなのさ」
お父様は私の顔を見てため息をついた。
「そうよ。言葉じゃないのよ、行動なのよ。もちろん、リーズの願いは叶うはずよ。お父様はとてもリーズには甘いですからね。でも、きっと後悔するわ」
お母様はかなり怒っていらっしゃった。
お父様は私を溺愛していたので、バロワ侯爵家に頭を下げて婚約は解消された。その際、一切慰謝料の話にはならなかったらしい。
「わたしがリーズ嬢の心を繋ぎとめておくだけの魅力がなかっただけのことです。反省するべきなのはわたしのほうです。ですから、リーズ嬢の思うようにさせてあげてください。これはわたしの落ち度です」
エルガー様の言葉を私はお父様から伝え聞き、さすがだと思った。彼らしい言葉だし、私をひとことも責めない。
「逃した魚は大きかったことを、リーズは後から気づくでしょうね。婚約者がいるのを知って近づいてくるようなジャンと結婚しても、幸せにはなれないのよ」
「そんなことないもの。私は絶対幸せになるわ」
私はお母様に否定的な意見を言われて、なおさら意固地になってしまう。そして、私は両親が太鼓判をおすエルガー様ではなく、しぶしぶとしか許可がもらえなかったジャン様と結婚したのだった。
私はジャン様に言われるまま、急いでその場を離れた。
「わたしをちゃんと見て欲しい。エルガー様はリーズ様を愛しているわけじゃない。家同士の結びつきを強固にするためだけの義務だと考えているのだと思います。だから、こんな場所で女と抱き合うのです」
ジャン様の言葉には妙に説得力があった。
(そういうことなのかな。確かに私は愛しているとか、好きって一度も言われていないわ。エルガー様は責任感も人一倍強いから、私と結婚することを義務と考えているのかも)
私がお父様にエルガー様ではなく、ジャン様と結婚したいと言ったのは、それから数ヶ月後のことだ。お父様は困惑し、お母様は大層がっかりなさった。
「なぜ、エルガー様じゃないの? エルガー様はとても優秀だしリーズを愛しているのよ。婚約者を裏切るなんて社交界で生きていけなくなるわよ」
「私はエルガー様に愛しているなんて言われたことは一度もないわ。それにエルガー様はお兄様みたいですもの。いつも愛していると言ってくれるのはジャン様なのよ」
「やれやれ。リーズはなにもわかっていないな。言葉で愛しているなんてささやくのはとても簡単なことなのさ」
お父様は私の顔を見てため息をついた。
「そうよ。言葉じゃないのよ、行動なのよ。もちろん、リーズの願いは叶うはずよ。お父様はとてもリーズには甘いですからね。でも、きっと後悔するわ」
お母様はかなり怒っていらっしゃった。
お父様は私を溺愛していたので、バロワ侯爵家に頭を下げて婚約は解消された。その際、一切慰謝料の話にはならなかったらしい。
「わたしがリーズ嬢の心を繋ぎとめておくだけの魅力がなかっただけのことです。反省するべきなのはわたしのほうです。ですから、リーズ嬢の思うようにさせてあげてください。これはわたしの落ち度です」
エルガー様の言葉を私はお父様から伝え聞き、さすがだと思った。彼らしい言葉だし、私をひとことも責めない。
「逃した魚は大きかったことを、リーズは後から気づくでしょうね。婚約者がいるのを知って近づいてくるようなジャンと結婚しても、幸せにはなれないのよ」
「そんなことないもの。私は絶対幸せになるわ」
私はお母様に否定的な意見を言われて、なおさら意固地になってしまう。そして、私は両親が太鼓判をおすエルガー様ではなく、しぶしぶとしか許可がもらえなかったジャン様と結婚したのだった。
123
お気に入りに追加
1,424
あなたにおすすめの小説
(完結)私より妹を優先する夫
青空一夏
恋愛
私はキャロル・トゥー。トゥー伯爵との間に3歳の娘がいる。私達は愛し合っていたし、子煩悩の夫とはずっと幸せが続く、そう思っていた。
ところが、夫の妹が離婚して同じく3歳の息子を連れて出戻ってきてから夫は変わってしまった。
ショートショートですが、途中タグの追加や変更がある場合があります。
妹が私の婚約者と結婚しちゃったもんだから、懲らしめたいの。いいでしょ?
百谷シカ
恋愛
「すまない、シビル。お前が目覚めるとは思わなかったんだ」
あのあと私は、一命を取り留めてから3週間寝ていたらしいのよ。
で、起きたらびっくり。妹のマーシアが私の婚約者と結婚してたの。
そんな話ある?
「我がフォレット家はもう結婚しかないんだ。わかってくれ、シビル」
たしかにうちは没落間近の田舎貴族よ。
あなたもウェイン伯爵令嬢だって打ち明けたら微妙な顔したわよね?
でも、だからって、国のために頑張った私を死んだ事にして結婚する?
「君の妹と、君の婚約者がね」
「そう。薄情でしょう?」
「ああ、由々しき事態だ。私になにをしてほしい?」
「ソーンダイク伯領を落として欲しいの」
イヴォン伯爵令息モーリス・ヨーク。
あのとき私が助けてあげたその命、ぜひ私のために燃やしてちょうだい。
====================
(他「エブリスタ」様に投稿)
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
私から略奪婚した妹が泣いて帰って来たけど全力で無視します。大公様との結婚準備で忙しい~忙しいぃ~♪
百谷シカ
恋愛
身勝手な理由で泣いて帰ってきた妹エセル。
でも、この子、私から婚約者を奪っておいて、どの面下げて帰ってきたのだろう。
誰も構ってくれない、慰めてくれないと泣き喚くエセル。
両親はひたすらに妹をスルー。
「お黙りなさい、エセル。今はヘレンの結婚準備で忙しいの!」
「お姉様なんかほっとけばいいじゃない!!」
無理よ。
だって私、大公様の妻になるんだもの。
大忙しよ。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
アリシアの恋は終わったのです【完結】
ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。
その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。
そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。
反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。
案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。
ーーーーー
12話で完結します。
よろしくお願いします(´∀`)
不実なあなたに感謝を
黒木メイ
恋愛
王太子妃であるベアトリーチェと踊るのは最初のダンスのみ。落ち人のアンナとは望まれるまま何度も踊るのに。王太子であるマルコが誰に好意を寄せているかははたから見れば一目瞭然だ。けれど、マルコが心から愛しているのはベアトリーチェだけだった。そのことに気づいていながらも受け入れられないベアトリーチェ。そんな時、マルコとアンナがとうとう一線を越えたことを知る。――――不実なあなたを恨んだ回数は数知れず。けれど、今では感謝すらしている。愚かなあなたのおかげで『幸せ』を取り戻すことができたのだから。
※異世界転移をしている登場人物がいますが主人公ではないためタグを外しています。
※曖昧設定。
※一旦完結。
※性描写は匂わせ程度。
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載予定。
欲に負けた婚約者は代償を払う
京月
恋愛
偶然通りかかった空き教室。
そこにいたのは親友のシレラと私の婚約者のベルグだった。
「シレラ、ず、ずっと前から…好きでした」
気が付くと私はゼン先生の前にいた。
起きたことが理解できず、涙を流す私を優しく包み込んだゼン先生は膝をつく。
「私と結婚を前提に付き合ってはもらえないだろうか?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる