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「お願いです。リーズ嬢。わたしはあなただけを愛すると誓う。これほど君を愛しているのはわたしだけだ」

「でもね、私には両親が決めたエルガー様がいるのよ。彼はバロワ侯爵家の三男でお父様同士が大親友だし、お母様達もとても気が合うのよ。幼い頃からずっと守ってくれた、兄のような存在だわ」

 私がルーズ伯爵家四男ジャン様の愛の告白を断るのはこれで11回目だ。

「エルガー様は幼なじみですよね? ずっと昔から側にいたのでしょう?」

「えぇ、大抵そばにいてくれたわ。だって家族ぐるみのお付き合いですもの」
 
 バロワ侯爵家とマイエ侯爵家がとても仲がいいのは有名だ。お互い家柄も家格も釣り合い、社交界でも同等の影響力をもつ。


「リーズ様は本当にエルガー様が好きなのですか? ただ幼なじみというだけで一緒になるなんてナンセンスです。婚約者なんて替えてもらうべきですよ」

「そんなことはできませんわ」

「わたしの愛は真実の愛です。リーズ様のことを考えただけで夜も眠れないし、綺麗な花を見ればリーズ様にあげたいと思い、美味しい料理を食べればリーズ様にも食べさせてあげたいと思う。つまり24時間常にリーズ様だけを思っているのです。恋とはこのように人間の心を支配してしまう激しい感情です。リーズ様はエルガー様から愛の告白をされたことはありますか?」

 エルガー様は3歳年上でいつも冷静沈着。こんなふうに感情を表に出されたことはない。最近では私より、お父様とマイエ侯爵家の事業や領地のことを真剣に話していることが多い。そう言えば、愛しているとか好きなんて言われたことはあったかしら? ・・・・・・ないかも・・・・・・

「ないですわ。でも貴族の結婚ってこんなものだと思います」

「リーズ様。マイエ侯爵家は大金持ちだし、政略結婚なんて必要ない家柄だと思いますよ。だから、自分が好きな男を選ぶべきです」

「そうでしょうか? 好きな男性ねぇ・・・・・・」

「ちなみに、エルガー様が恋しくて眠れない夜はありますか?」

「ぷっ、ないわ。恋しい、というよりエルガー様はお兄様というかんじで、頼れるし一緒にいて安心なのよ」

「それは恋じゃないです。さぁ、わたしと恋をしましょう」

 キラキラと輝く金髪に、碧眼の瞳は海のように深く蒼い。とても整った顔立ちは、伯爵家の四男なのに王子様のように気品があった。

(確かにジャンは容姿がとてもいいわ。でもそれだけじゃぁ、結婚相手には相応しくない)





 



 ある日エルガー様のエスコートで夜会に出席した時に事件は起こった。エルガー様にバヤル・ギヨン様が話しかけてそのまま姿が消え、ジャン様が庭園に私を誘う。

「少し散歩でもしませんか? エルガー様も庭園にいたようです」

「まぁ、エルガー様も? それなら一緒に行きますわ」

 なんの疑問も持たずに庭園を散歩していくと、エルガー様の後ろ姿が見えピンクのドレス姿の令嬢が抱きついたのだった。


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バヤル・ギヨン:ギヨン男爵家の三男。
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