（完）貴女は私の全てを奪う妹のふりをする他人ですよね？

番外編

4 フレヤ・プリンシペ公爵夫人の末路というかその後

私はペネロペ女公爵の屋敷に軟禁されている。理由は娘をないがしろにした罪で自殺するほど悲しませたからだ。

「フレヤ、あなたはどれだけ娘に酷いことをしたかわかるかい？」
「わかりませんわ。だって、ちゃんと可愛がっておりました。私なりの可愛がり方で……」
「それなら……仕方がないねぇ。ちょっと荒療治だが、これをしなさい。私の目を見て、それから揺れるこのコインを見なさい」
ペネロペ女公爵は私の耳に機械を取り付けコインを目の前で揺らした。




「おかぁさま～～！　その子はだぁれ？」
私が大好きなお母様に尋ねると、お母様は言った。
「この子はお母様のお友達の子よ。ほら、仲良くしてあげて？」
初めは仲良くしようとしたけれど、この子は嘘つきで私を貶めることが得意だった。
私は家族皆に叫んだ。
「この子は嫌いよ！　嘘ばっかり！　大嫌いよ！」
「この子は嘘つきではないわ。とても可哀想な子なのよ。両親を亡くして他に頼れる人がいないの。そんな子を可愛がるのは当然でしょう？　あなたはなぜそんなに我が儘なの？」
お母様は私をなじり、お父様もそれに同意した。
私の居場所はなくなり、食事どきにはいつもその子が話題の中心だ。私はいらない子なんだね？
酷いよ……酷いよ……こんな世界はいらない。




「はい！！　目を覚まして！！」
「ひっ！！　い、今のはなに？　私は子供になっていたわ。なんなのよ、あれは？」
私はまだあの嫌な残像がちらついて酷く悲しい気分を引きずっていた。

「あれは疑似体験催眠術よ。耳には催眠を促す音声が聞こえていたでしょう？　あなたがイサベラにしたような場面が繰り広げられていたはずよ？　多少は設定が違うかもしれないけれど概ね同じように体験できるはずよ。あなたはそこではイサベラなのよ」

「……なんだってこんなことをしなきゃならないの？　私はあんな酷いことなんてしなかったはずよ！　叔母様は医師として私を実験台にするつもりね！　酷い！」

「ふふふ。これはまだ序の口だからね。これからフレヤはイザベラが味わった絶望を全部体験するのよ。自分がいかに愚かな母親だったかを認識しなさい。その先に救いはありますよ」

「え？　嫌よ。いやぁあああぁあぁあ～～！」
毎日、毎日、私は子供に戻りお母様から可愛がられる他人をみる。その他人はお父様も味方にし侍女達まで私を裏切る。大好きなお兄様までが私を断罪するのだ！
「この他人を妹だと思わないならお前は人でなしだ！」と。

――他人を私より大事にして可愛がるのはやめてよ！　なぜ、私の居場所を取るの？　この他人は……これは、そうよイングリッドだ！

ひと月ほど続いたこの不愉快な疑似体験催眠術を終えた私は思い知った。自分がいかに愚かだったか。

ーー自分の娘も幸せにできないのに、なにがボランティアだ！　他人の子を可愛がるのはいけないことではない。けれど、自分の子に寂しい思いをさせたのなら、それはきっとバランスが間違っている。

私はそんな簡単なことにやっと気がついたのだった。

「叔母様……私が間違っていましたわ。どうすればイサベラに許してもらえるかしら？」

「そうね。あの子の記憶はきっとずっと戻らないでしょう。でも、あの子の子供が産まれたら思いっきり可愛がってやりなさい。祖母とは名乗れなくても遠縁のおばさんぐらいにはなれるでしょうよ」

「遠縁……そうね。そうします。許してもらえなくても孫には一目会いたいです」
私はそう言いながらも、結局は孫には会いに行かなかった。

修道院に入りイサベラや孫達が健やかであることを神に祈ることにしたのだ。もう私は見栄をはるだけのボランティアはしない。社交界の評判なども全く気にはならない。全てが単純で、ありのままの自分でいられた。救いはここにこそあったのだ。

だから、今日も私は祈る。イザベラ、私の娘に為に……



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これにて完結です
ｵﾖﾐｲﾀﾀﾞｷ(๑ˊ͈ ꇴ ˋ͈)ｱﾘｶﾞﾄ～🌼ｺﾞｻﾞｲﾏｽ