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1 間一髪、兄の帰還
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両親が亡くなったばかりのルミネ・カンザス公爵令嬢は恋人のヨハンから甘い言葉を囁かれる。
「君を愛しているよ。これからは僕が守ってあげるよ。だから僕の妻になってほしい」
大事に育てられた箱入り娘ルミネは、ヨハンの言葉をまっすぐに信じたのである。
ヨハンはカンザス公爵家の資産を次々と抵当に入れ儲かるはずのないインチキな事業を興しその実、金を自らの懐に収めていった。……その事業の連帯保証人にまでさせられた妻ルミネはなんの疑問も持たなかった。やがてヨハンは全ての責任をルミネに押しつけて姿をくらませたのだった。
ヨハンの実家のブラック侯爵家は「あのばか息子は勘当したから当家は関係ない」とばかりに知らぬふりを決め込んだ。そのわりにはブラック侯爵家の屋敷は日を追うごとに華美に飾り立てられていく。ヨハンからお金がブラック侯爵家に流れていることは充分推察できることだった。
今から3年前、ルミネの兄アーサーは騎士団長で魔物討伐に行ったきり行方不明になっていた。上位の魔物を討ち取った際の崖での転落。遺体は見つからなかったが死んだものと思われていた。国王陛下はアーサーに勲章と勇者の名を与え国葬として丁重に葬った。遺体のない墓は英雄の眠る聖地として有名になったものだ。兄のアーサーが生きていればブラック侯爵家もヨハンもこのような舐めた真似はできなかっただろう。
かつての英雄の妹は大借金を背負わされ娼館に売られたのだった。ルミネは娼館で与えられた狭い個室で瞑想にふける。守り刀を前に死を決意した時だった。
「待て! 早まるな!」
いきなりドアがぶち抜かれ手を掴み抱きしめられたルミネが聞いた声は、まさかの兄アーサーの声だったのである。
「君を愛しているよ。これからは僕が守ってあげるよ。だから僕の妻になってほしい」
大事に育てられた箱入り娘ルミネは、ヨハンの言葉をまっすぐに信じたのである。
ヨハンはカンザス公爵家の資産を次々と抵当に入れ儲かるはずのないインチキな事業を興しその実、金を自らの懐に収めていった。……その事業の連帯保証人にまでさせられた妻ルミネはなんの疑問も持たなかった。やがてヨハンは全ての責任をルミネに押しつけて姿をくらませたのだった。
ヨハンの実家のブラック侯爵家は「あのばか息子は勘当したから当家は関係ない」とばかりに知らぬふりを決め込んだ。そのわりにはブラック侯爵家の屋敷は日を追うごとに華美に飾り立てられていく。ヨハンからお金がブラック侯爵家に流れていることは充分推察できることだった。
今から3年前、ルミネの兄アーサーは騎士団長で魔物討伐に行ったきり行方不明になっていた。上位の魔物を討ち取った際の崖での転落。遺体は見つからなかったが死んだものと思われていた。国王陛下はアーサーに勲章と勇者の名を与え国葬として丁重に葬った。遺体のない墓は英雄の眠る聖地として有名になったものだ。兄のアーサーが生きていればブラック侯爵家もヨハンもこのような舐めた真似はできなかっただろう。
かつての英雄の妹は大借金を背負わされ娼館に売られたのだった。ルミネは娼館で与えられた狭い個室で瞑想にふける。守り刀を前に死を決意した時だった。
「待て! 早まるな!」
いきなりドアがぶち抜かれ手を掴み抱きしめられたルミネが聞いた声は、まさかの兄アーサーの声だったのである。
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