上 下
1 / 6

1 お姉様が好きだった私

しおりを挟む
私と姉はとても仲良しだ。綺麗で賢い姉は私をとても可愛がってくれた。自慢の姉は私の大事な宝だ。

ある日、姉は私の部屋に来て泣き始めた。
「私ね、上級学園に進学したいの。そこに行かせてとお母様に頼んだらお金がないから、無理だって言うのよ」

「え、そんな・・・・・・うちにはそんなにお金がないの?」

勉強が姉ほど好きではない私だが貴族学園には今年から入学する。それと入れ違いにお姉様は卒業。花嫁修業として上位貴族の屋敷に侍女として仕えて、適当な男性と結婚するしかないのだ。

アーバスノット男爵家は一代限りの爵位。貧乏で婚約者などはいないし、やっと貴族学園までは行かせてもらうことができる貴族とは名ばかりの侍女にしかなれない家柄だった。



「クララとアメリの貴族学園に行くお金と嫁入りの際にもたす二人の持参金だけでやっとなの。もともと上級学園は上位貴族か裕福な方達しか入学できないものよ」
お母様はそう言ってため息をついた。

「だったら、私が貴族学園に行くのを諦めるわ。だって私、それほどお勉強が好きでもないし・・・・・・お嫁に行くって言ってもお姉様のように美人じゃないから結婚に憧れていないし、私の分の持参金もお姉様に使ってちょうだい」

「ほんとに! ありがとう! あなたには一生、感謝するわ」

「うん! 自慢のお姉ちゃんだもん。頑張って!」

お母様もお父様も私には申し訳なさそうにお礼を言ったけれど、そんなにたいしたことじゃない。貴族学園なんか行かなくても大丈夫。私はエジャートン侯爵家の侍女見習いとして奉公に出た。

貴族学園を出ればすぐに侍女になれるけれど、出ていないと見習いとして雇われるらしい。それでも別に良いと思っていた。身体を動かして働くのは嫌いじゃないし。

奉公先のエジャートン侯爵家では、下女と侍女の中間ぐらいの扱いで水仕事が多かった。冬場の水仕事は手がアカ切れて痛かったし、侍女達からは「勉強が嫌いな子は掃除しかできない。貴族学園にも行かないなんて・・・・・・あり得ないわよ」とバカにされた。

貧乏でも貴族学園に行くのは当たり前で侍女として暮す低位貴族の女性のなかには、働いてからお給金を貯めて通った人もいると聞いた。

私は姉に学費を譲ったとは言えず「勉強が好きじゃなかったから」と言っていたので、かなりあからさまに軽蔑されたのだった。

それでも、お姉様から毎月届く手紙は楽しみだった。勉強が楽しいとか校舎が立派で高位貴族の友人がたくさんできたとか、盛りだくさんの華やかな世界を書き綴ってくれるそれは私の生き甲斐にもなっていた。

けれど、半年もすると手紙の頻度がめっきり少なくなっていき、私から手紙を出しても返事もくれなくなっていた。

それから3年ぶりの休暇に自宅に戻るとお姉様はどこか冷たくて心が痛んだ。両親もあまり私には話しかけなくて居心地の悪さに戸惑った。

でも、その理由はまもなく他人の口から明らかにされた。
「おめでとう! 君のお姉様はハワード伯爵家に嫁ぐらしいね! あそこは親戚筋なんだよ」
ある日、エジャートン侯爵家の嫡男のヘンリー様が教えてくれたのだ。

「え? そんなこと初めて聞きました」

「まさか? そうなのかい? そう言えばアーバスノット家では娘が一人しかいないって話になってるみたいだな。君って勘当されたからここで働いているのかい? なにをやらかしたの?」

理解不能なことを言われて呆然とする私だ。私、いないことにされているの?

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

旦那様のために一生懸命を尽くした私が邪魔者扱いですか⁉

ヘロディア
恋愛
幸せな結婚生活を送っていた主人公。しかし、ある日唐突に男の子が現れる。彼は、「パパはどこ?」と聞いてきて…

親友に婚約者を奪われ婚約破棄されました。呪われた子と家族に邪険にされ続けた私には帰る場所はありません。

五月ふう
恋愛
「サナ!  この呪われた奴め!!」 足を止めて振り返ると そこにいたのは、 「ハイリ、、、。  サンディア、、。」 私の婚約者であるハイリと 友人のサンディアだった。 「人の心を読み取れるんだろう!!  僕のことを  ずっと騙していたんだな!」 貴方も、 そう言って私を責めるのね。 この力のせいで、家族からずっと 気味悪いと邪険にされてきた。 「ハイリ。」 「俺の名を呼ぶな!!  気味が悪い!」 もう、貴方とはいられないのね。 「婚約破棄しましょうか?」 ハイリは私を絶望に突き落とした。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

姉の引き立て役にされている私。だけど、姉が狙っている男に告白されて?!

ほったげな
恋愛
私は姉の引き立て役にされている。ある日、姉が狙っている男との食事会に呼ばれたのだが、その男に告白されて……??!

もう一度婚約したいのですか?……分かりました、ただし条件があります

香木あかり
恋愛
「なあララ、君こそが僕の理想だったんだ。僕とやり直そう」 「お断りします」 「君と僕こそ運命の糸で結ばれているんだ!だから……」 「それは気のせいです」 「僕と結婚すれば、君は何でも手に入るんだぞ!」 「結構でございます」 公爵令嬢のララは、他に好きな人が出来たからという理由で第二王子レナードに婚約破棄される。もともと嫌々婚約していたララは、喜んで受け入れた。 しかし一ヶ月もしないうちに、再び婚約を迫られることになる。 「僕が悪かった。もう他の女を理想だなんて言わない。だから、もう一度婚約してくれないか?愛しているんだ、ララ」 「もう一度婚約したいのですか?……分かりました、ただし条件があります」 アホな申し出に呆れるララだったが、あまりにもしつこいので、ある条件付きで受け入れることにした。 ※複数サイトで掲載中です

完結 浮気して、仲間を蔑ろにした恋人を捨てたら追い縋ってきた。

音爽(ネソウ)
恋愛
冒険者ギルドで知り合い恋人になり、仲間を増やし次第に大きくなったPTはうまくやっていた。 だが、名が売れだすとリーダーで恋人の彼は調子に乗りはじめた。 乱れる仲間の和もお構いなしで、若い女魔法使いと現を抜かす。 崩壊したPT、仲間はどんどん辞めていく。 そして、大物モンスター退治に向かった先で……

処理中です...