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4 キャンディス視点(母親)

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アーリィは、多分、夫のクリフトンの子供ではないかもしれない。私の、好きだった専属執事にそっくりだもの。彼のことは、幼い頃から大好きだった。クリフトンのように美しくはなかったけれど、心の温かい私をとても大事にしてくれる人だった。

なんとか、一緒になりたくて・・・でも、お父様からはカーディス侯爵家に嫁ぐように言われた。

駆け落ちしようとして、二人で手を取り合って屋敷を出ようとしたら、門前でお父様と最近新しく入ったメイドが待ち構えていた。

「キャンディス! 駆け落ちなど許さんぞ! コルニー伯爵家はカーディス侯爵家に借金があるんだ。嫁いでもらわないと、我が家が困ったことになる」

むりやり、嫁がされた私は、それでも、この生活を守るためにマーリィに冷たい仕打ちをするしかなかった。

夫は、多分、知っている。だから、わざとエストレラにアーリィを虐めさせているのだ。私は、たまに、アーリィの部屋の前でごめんね、と呟いていた。

私の専属執事のザッカリーは、きっと、お父様に奴隷として売られたに違いない。

アーリィはメイドの部屋に移され、使用人のように扱われはじめた。なにも、できない私が情けなくて・・・ザッカリーにもアーリィにも心のなかで謝った。




*:゚+。.☆.+*✩⡱:゚



あの日は朝から不穏な空気が漂っていた。もう何年も前から贅沢をしすぎる王属や貴族達に対して民衆は憤っていた。

私は、飾り気のない質素な服をわざとアーリィには与えていた。

平民が着るような木綿の簡素なワンピースは、貴族の令嬢は決して着ないものだ。それでも、アーリィは嫌な顔ひとつせず、黙ってそれを着た。私はアーリィが親しくしている見習いの執事に金貨が一杯詰まった財布を、そっと渡してあった。

「もしもの時は、アーリィを頼むわよ」

私は、その執事の手を握ってお願いした。



そして、あの日、民衆がドカドカとやって来て、私と夫が捕らえられ縄で縛られた。同じ部屋にいたアーリィは、粗末なワンピースのおかげで、使用人と思われた。

「娘がいるはずだ。侯爵家には2人いるはずだぞ! 探せ!」

「娘は一人だけです! この部屋にはいません!」

一回だけ、アーリィを振り返って、私はその姿を目に焼き付けた。

空は暗く重苦しい鉛色で、冷たい雨が降りそそぐなか、私と夫は地面に叩きつけられて、馬車に乗せられた。この空と雨が、最期の私が見る景色になるはずだ。

見上げた鉛色の雲の向こうでは、太陽が照っているのだろうか? 私は、アーリィのこれからの人生に明るい太陽が照ることを神に祈ったのだった。
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