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50(12) 神獣アルトのお仕置き-1
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【コルネリオ視点】
そして――神官たちが、ぽつり、ぽつりと証言を口にし始めた。
「確かに、コルネリオ大神官様がそのように発言されるのを聞きました」
「私も聞きました。“国王陛下に並ぶ者になりたい”と……そう、確かにおっしゃいました」
「それに、神殿の一番上等な部屋がアルト様のために用意されていましたが、そこには……頑丈な檻が設置されていたのです」
「……私たちも、さすがにまずいのではと感じました。でも……大神官様に逆らうなど、とても……」
――やめろ、やめてくれ。
なぜ今、この場でそれを言う?
国王陛下がいる前で、貴族たちが見守るなかで……こんな多くの民の前で――!
「さらに、俺はもう3人、証人を用意しております。陛下、よろしいですか?」
「うむ。レオンよ、その者たちを呼ぶがよい」
――まだいるのか? 誰だ……誰が来るというのだ?
「あっしは、檻を作った者でさぁ。特注でしたよ。魔力を遮断する特殊な鋼を使ってましてね、まぁ、そりゃあ高額にもなりますが――神殿側はポンと気前よく払ってくれました。へい、ちゃんと納品の控え、ここにございます」
中年の男が懐から納品書を取り出し、高く掲げた。
ざわっ、と周囲がどよめく。
「次は俺だ」
続いて口を開いたのは、がっしりした体つきの職人風の男だ。
「俺ぁ、太っい拘束鎖を納品したもんで。あれです、クマとかライオンみたいな猛獣用のやつでさぁ。
いやはや、最初“神殿から注文”って聞いた時は、正直耳を疑いましたよ。いったい何に使うのかと……」
見物人の間から「神獣って猛獣扱いかよ……」と小さく呆れる声が漏れた。
そして、三人目。封印符を作ったという術符師が、のそのそと前に出る。
「ご依頼の名義は“神殿上層部”ってことでしてな。直接どなたかは知りませんが……書類には、ちゃんと“大神官様の印”が押されとりましたわ」
そいつはそう言いながら、薄笑いを浮かべて書状をひらひらと揺らしてみせた。
「おまえたち……! 私がなぜあれほどの大金を払ったと思っている!? こういう事態を防ぐためではないかっ!
取引の秘密をペラペラ喋って……愚か者どもが!」
私の怒鳴り声に、職人たちは顔をしかめた。
「へいへい。金なら返してもかまいませんよ。神獣様を怒らせたら、何が起こるかわかったもんじゃありませんからねぇ」
職人のその言葉に、場の空気が一瞬静まり返る。
それは冗談のように聞こえながらも――誰ひとり笑わなかった。
「……本当に、封じようとしたのか」
「神獣様にそんな……正気じゃない」
「バチ当たりにも程がある……」
ざわ、ざわと広がっていくのは、戸惑いと怒り。
冷たい視線が私に集中する。
騎士たちは無言で私を睨みつけ、貴族たちは眉をひそめ、口元を固く結んでいた。
中には、私に向けて小さく十字を切るような仕草をする者までいる。
私の顔が、ますます熱を帯びていくのがわかる。
視線が突き刺さるたびに、皮膚が焼けるように痛む気がした。
もう、限界だ。
証人たちの声。さらされた書類。そこに刻まれた私の印。
――それらすべてが、確かな重みとなって私を押し潰してくる。
頭が真っ白になる。何か言わねばと焦るのに、言葉が出てこない。
喉が詰まる。息苦しい。
それでも、どうにかしてこの場を覆そうと、私は――怒鳴った。
「黙れぇ……っ! おまえたちは、何もわかっていない!」
私は両腕を大きく振り上げ、怒りのままに声を張り上げた。
「これは、神のご意志だ! 神獣など、所詮は神の器にすぎん!
私は、神の声を聞いたのだ! 神殿を強くせよと! 力こそが正義だと!!」
そのときだった。
凄まじい咆哮があたりに響いた。
そして――白い光が天から射し込む。
まぶしさに目を細めた私は、反射的に見上げた。
人々もまた、目をこするようにして空を仰いだ。
そこには――神獣が……
その毛並みは雪のように白く、光を帯びて柔らかく輝いていた。
背には透き通る羽、額には小さな角――神々しさと威厳を併せ持ったその姿に、誰もが息を呑んだ。
私も、目を逸らせなかった。
そして、そのモフモフの神獣は――ゆっくりと、私の前に降り立った。
「く、来るな……! 私は……私は神の代行者だぞ!」
声が裏返る。足が勝手に後ずさるが、鼻先をわずかに持ち上げた神獣は
――シュゥゥ……と、白い息を静かに吐き出し――
そして――神官たちが、ぽつり、ぽつりと証言を口にし始めた。
「確かに、コルネリオ大神官様がそのように発言されるのを聞きました」
「私も聞きました。“国王陛下に並ぶ者になりたい”と……そう、確かにおっしゃいました」
「それに、神殿の一番上等な部屋がアルト様のために用意されていましたが、そこには……頑丈な檻が設置されていたのです」
「……私たちも、さすがにまずいのではと感じました。でも……大神官様に逆らうなど、とても……」
――やめろ、やめてくれ。
なぜ今、この場でそれを言う?
国王陛下がいる前で、貴族たちが見守るなかで……こんな多くの民の前で――!
「さらに、俺はもう3人、証人を用意しております。陛下、よろしいですか?」
「うむ。レオンよ、その者たちを呼ぶがよい」
――まだいるのか? 誰だ……誰が来るというのだ?
「あっしは、檻を作った者でさぁ。特注でしたよ。魔力を遮断する特殊な鋼を使ってましてね、まぁ、そりゃあ高額にもなりますが――神殿側はポンと気前よく払ってくれました。へい、ちゃんと納品の控え、ここにございます」
中年の男が懐から納品書を取り出し、高く掲げた。
ざわっ、と周囲がどよめく。
「次は俺だ」
続いて口を開いたのは、がっしりした体つきの職人風の男だ。
「俺ぁ、太っい拘束鎖を納品したもんで。あれです、クマとかライオンみたいな猛獣用のやつでさぁ。
いやはや、最初“神殿から注文”って聞いた時は、正直耳を疑いましたよ。いったい何に使うのかと……」
見物人の間から「神獣って猛獣扱いかよ……」と小さく呆れる声が漏れた。
そして、三人目。封印符を作ったという術符師が、のそのそと前に出る。
「ご依頼の名義は“神殿上層部”ってことでしてな。直接どなたかは知りませんが……書類には、ちゃんと“大神官様の印”が押されとりましたわ」
そいつはそう言いながら、薄笑いを浮かべて書状をひらひらと揺らしてみせた。
「おまえたち……! 私がなぜあれほどの大金を払ったと思っている!? こういう事態を防ぐためではないかっ!
取引の秘密をペラペラ喋って……愚か者どもが!」
私の怒鳴り声に、職人たちは顔をしかめた。
「へいへい。金なら返してもかまいませんよ。神獣様を怒らせたら、何が起こるかわかったもんじゃありませんからねぇ」
職人のその言葉に、場の空気が一瞬静まり返る。
それは冗談のように聞こえながらも――誰ひとり笑わなかった。
「……本当に、封じようとしたのか」
「神獣様にそんな……正気じゃない」
「バチ当たりにも程がある……」
ざわ、ざわと広がっていくのは、戸惑いと怒り。
冷たい視線が私に集中する。
騎士たちは無言で私を睨みつけ、貴族たちは眉をひそめ、口元を固く結んでいた。
中には、私に向けて小さく十字を切るような仕草をする者までいる。
私の顔が、ますます熱を帯びていくのがわかる。
視線が突き刺さるたびに、皮膚が焼けるように痛む気がした。
もう、限界だ。
証人たちの声。さらされた書類。そこに刻まれた私の印。
――それらすべてが、確かな重みとなって私を押し潰してくる。
頭が真っ白になる。何か言わねばと焦るのに、言葉が出てこない。
喉が詰まる。息苦しい。
それでも、どうにかしてこの場を覆そうと、私は――怒鳴った。
「黙れぇ……っ! おまえたちは、何もわかっていない!」
私は両腕を大きく振り上げ、怒りのままに声を張り上げた。
「これは、神のご意志だ! 神獣など、所詮は神の器にすぎん!
私は、神の声を聞いたのだ! 神殿を強くせよと! 力こそが正義だと!!」
そのときだった。
凄まじい咆哮があたりに響いた。
そして――白い光が天から射し込む。
まぶしさに目を細めた私は、反射的に見上げた。
人々もまた、目をこするようにして空を仰いだ。
そこには――神獣が……
その毛並みは雪のように白く、光を帯びて柔らかく輝いていた。
背には透き通る羽、額には小さな角――神々しさと威厳を併せ持ったその姿に、誰もが息を呑んだ。
私も、目を逸らせなかった。
そして、そのモフモフの神獣は――ゆっくりと、私の前に降り立った。
「く、来るな……! 私は……私は神の代行者だぞ!」
声が裏返る。足が勝手に後ずさるが、鼻先をわずかに持ち上げた神獣は
――シュゥゥ……と、白い息を静かに吐き出し――
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