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25 アレグラン視点
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……え?
まるで時間が止まったようだった。
白い門扉の向こうから、カリーナが姿を現した。
柔らかな金髪が陽の光を受けて、眩いほどに輝いている。
小柄な体に似合わず、その立ち姿にはどこか華やかな色気があり、可憐な笑顔はいつも俺の胸を締めつけた。
――俺にとって、彼女はまさに“女神”だった。
だが、その隣にいるのは、見知らぬ大柄な男だ。
そして、男の肩の上にちょこんと乗っていたのは――間違いなく、サイラスだった。
玄関前にしゃがみこんでいた俺たち三人と、彼女の視線が正面からぶつかった。
その瞬間――カリーナの顔から、見る間に血の気が引いていくのがわかった。
目を大きく見開いたまま、彼女は一歩、後ずさる。
その動きはまるで、咄嗟に逃げようとしたかのように見えた。
だが……それでも、澄んだ空のような青い瞳は、宝石のように美しかった。
――頼む、嘘だと言ってくれ。
これは何かの間違いだと、誰かが笑ってくれるんだろ?
……たとえば、今日はエイプリルフールとかさ。
……いや、違う。そんなはずはない。
エイプリルフールなんて、つい数日前に終わったばかりだ。
肩車されたサイラスが、「ただいまー!」と元気に叫ぶ。
男は彼女の手を引きながら、そのまま迷いなく家のほうへと歩を進めた。
カリーナも、もう後には引けないようだった。
仕方なく、けれど渋々といった足取りで、俺たちの前へと近づいてくる。
俺は、ただ何も言えずに立ち尽くしていた。
目の前にいる“家族らしき三人”を、現実のものとして受け止められずにいた。
――この女は違う。俺の知ってるカリーナじゃない。
……きっと、双子の姉とか妹とか。似てるけど別人なんだ。
そんなありえない可能性にすがるように、俺は彼女の顔をじっと見つめた。
頬のホクロの位置が、ほんの少しでもずれてないかな?
どうか誰か、この女はカリーナじゃない、と言ってくれ。
花束を持っていた男が、困惑した様子でカリーナに声をかけた。
「……カリーナさん?」
その声に反応するように、手土産の箱を抱えていた男も、驚いたように立ち上がる。
二人とも、新たな男の登場に、まるで頭上に雷でも落ちたかのように、唖然とした顔でカリーナを見つめている。
俺と同じだ。
二人とも、わけがわからずに立ち尽くしている。
これは――いったい、どういう状況なんだ?
大柄な男は、こちらを見ながら、ほんの少し戸惑ったような表情を浮かべた。
けれどすぐに、何気ない調子で口を開く。
「えっと……この家を安く貸してくださった大家さんって、どちらの方でしょうか? いや、ずいぶん立派な家ですね。こんな村で、これだけしっかりした造りの家って珍しいですよね」
――は?
その一言に、俺を含めた三人の動きが、ぴたりと止まった。
男は少し恥ずかしそうに笑って続けた。
「いやぁ……昔はまあ、いろいろありまして。
しばらく音信不通だったんですけど、最近になってこいつから連絡が来たんですよ。
“もう一度、ちゃんと話がしたい”って。
それで……子供にも会ってほしいって言われて。なんというか、希望を持っちゃったんですよね。俺も」
その横でカリーナは、口元を強ばらせながら、小さく首を振っていた。
――黙れ、言うな。そんな言葉が、あの目にはっきりと浮かんでいるようにも見えた。
「それで、いろいろ話してるうちに……またやり直せたらって、俺もちょっと期待しちゃって。はは……」
――やり直す? 誰と、何を?
……っていうか、カリーナは、未亡人だろ……?
もう、何がなんだかわからない。
言葉も出なかった俺の代わりに――次の瞬間、手土産の箱を抱えていた男が、混乱したように口を挟んだ。
「……え、待ってくれよ。そもそも、サイラスの父親って、亡くなっているんだよな?」
まるで時間が止まったようだった。
白い門扉の向こうから、カリーナが姿を現した。
柔らかな金髪が陽の光を受けて、眩いほどに輝いている。
小柄な体に似合わず、その立ち姿にはどこか華やかな色気があり、可憐な笑顔はいつも俺の胸を締めつけた。
――俺にとって、彼女はまさに“女神”だった。
だが、その隣にいるのは、見知らぬ大柄な男だ。
そして、男の肩の上にちょこんと乗っていたのは――間違いなく、サイラスだった。
玄関前にしゃがみこんでいた俺たち三人と、彼女の視線が正面からぶつかった。
その瞬間――カリーナの顔から、見る間に血の気が引いていくのがわかった。
目を大きく見開いたまま、彼女は一歩、後ずさる。
その動きはまるで、咄嗟に逃げようとしたかのように見えた。
だが……それでも、澄んだ空のような青い瞳は、宝石のように美しかった。
――頼む、嘘だと言ってくれ。
これは何かの間違いだと、誰かが笑ってくれるんだろ?
……たとえば、今日はエイプリルフールとかさ。
……いや、違う。そんなはずはない。
エイプリルフールなんて、つい数日前に終わったばかりだ。
肩車されたサイラスが、「ただいまー!」と元気に叫ぶ。
男は彼女の手を引きながら、そのまま迷いなく家のほうへと歩を進めた。
カリーナも、もう後には引けないようだった。
仕方なく、けれど渋々といった足取りで、俺たちの前へと近づいてくる。
俺は、ただ何も言えずに立ち尽くしていた。
目の前にいる“家族らしき三人”を、現実のものとして受け止められずにいた。
――この女は違う。俺の知ってるカリーナじゃない。
……きっと、双子の姉とか妹とか。似てるけど別人なんだ。
そんなありえない可能性にすがるように、俺は彼女の顔をじっと見つめた。
頬のホクロの位置が、ほんの少しでもずれてないかな?
どうか誰か、この女はカリーナじゃない、と言ってくれ。
花束を持っていた男が、困惑した様子でカリーナに声をかけた。
「……カリーナさん?」
その声に反応するように、手土産の箱を抱えていた男も、驚いたように立ち上がる。
二人とも、新たな男の登場に、まるで頭上に雷でも落ちたかのように、唖然とした顔でカリーナを見つめている。
俺と同じだ。
二人とも、わけがわからずに立ち尽くしている。
これは――いったい、どういう状況なんだ?
大柄な男は、こちらを見ながら、ほんの少し戸惑ったような表情を浮かべた。
けれどすぐに、何気ない調子で口を開く。
「えっと……この家を安く貸してくださった大家さんって、どちらの方でしょうか? いや、ずいぶん立派な家ですね。こんな村で、これだけしっかりした造りの家って珍しいですよね」
――は?
その一言に、俺を含めた三人の動きが、ぴたりと止まった。
男は少し恥ずかしそうに笑って続けた。
「いやぁ……昔はまあ、いろいろありまして。
しばらく音信不通だったんですけど、最近になってこいつから連絡が来たんですよ。
“もう一度、ちゃんと話がしたい”って。
それで……子供にも会ってほしいって言われて。なんというか、希望を持っちゃったんですよね。俺も」
その横でカリーナは、口元を強ばらせながら、小さく首を振っていた。
――黙れ、言うな。そんな言葉が、あの目にはっきりと浮かんでいるようにも見えた。
「それで、いろいろ話してるうちに……またやり直せたらって、俺もちょっと期待しちゃって。はは……」
――やり直す? 誰と、何を?
……っていうか、カリーナは、未亡人だろ……?
もう、何がなんだかわからない。
言葉も出なかった俺の代わりに――次の瞬間、手土産の箱を抱えていた男が、混乱したように口を挟んだ。
「……え、待ってくれよ。そもそも、サイラスの父親って、亡くなっているんだよな?」
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