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16 アレグラン視点
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「原告アレグラン・セルデン卿より、王都騎士団長レオン・グリーンウッド侯爵殿に対し、不当な業務命令の撤回を請求する。内容は以下の通り――原告は現役の騎士でありながら、精神鍛錬および自己修養を名目とした“雑用任務”に従事させられている。これには日常の清掃、訓練器具の整備、騎士団の雑務全般が含まれ、名誉ある騎士の務めとはかけ離れた扱いであると主張。よって、原告はこれを人格権の侵害とし、当該命令の即時撤回を求めるものとする」
読み上げが終わると、法廷内には微妙な空気が漂った。先ほどまでの俺への怒りが、今度は薄い嘲笑と呆れに変わっていくのが感じられる。隣にいたガレット兄上は、静かに席を立ち、傍聴席へと移動してしまった。
「私はアレグランが未亡人を囲っているなど、まったく知らなかったのです。ほんの些細な過ちだとばかり思っていました。お金だってエレナさんに、じゅうぶん渡していると信じていたのです」
「アレグラン卿の言い分ばかり聞いているから、そうなるのです。エレナさんに直接確認を取るとか、アレグラン卿の部下に聞き取り調査をするとか、いくらでも真相に迫る方法はあったはずです。それにしても、私の自慢の弟を訴えるとは、セルデン男爵家はなかなかの度胸ですね」
ヴェルツェル公爵は冷静に返した。
「あっ、これはセルデン男爵家とはまったく関係のないことでして。今、この裁判が終わったら、国王陛下にアレグランの除籍願いを提出するつもりです……」
ガレット兄上は困惑の表情を浮かべながら答えた。
――そんな……ガレット兄上は本当に俺を見捨てるつもりなのか?
「雑用係?はは……実に身の丈に合った仕事じゃないか」
レオン団長の配下ではない騎士たちが、俺を見て嘲笑った。
――お前らは俺の味方になってくれるはずじゃないのか? きっと、お前らにだって妻の他に彼女がいるんだろ?
「レオン団長もなかなかお目が高い。性根が腐った者に剣を握らせるほうがよほど危険だからな」
横にいた壮年のボーンズ公爵が鼻で笑い、隣の夫人も小さく頷く。
「精神鍛錬や自己修養を名目に“雑用任務”を与えていただけるだけでも、感謝すべきですわ」
そう呟いたのはマクモロー侯爵夫人だ。
――なぜ、皆して寄ってたかって俺を蔑むんだ……。傍聴席にいる高位貴族たちだって、浮気の一つや二つ、しているくせに……。
「ふむ……王都騎士団長レオン・グリーンウッド侯爵の判断は、余が認めるところである。アレグラン卿、汝は騎士の称号を返上するか、己の未熟さを悟り、心の底より悔い改めるまで、雑用任務に従事せよ。この件に関して、異議は許さぬ」
裁判官の意見も待たず、王は速やかに、俺にそう言い渡した。
――詰んだ……兄上からも見捨てられ……俺はどうしたら?
王が退席しかけたその時、書記官が俺の訴状がまだ残っていることを知らせた。
「陛下、お待ちください。アレグラン卿からまだ『離婚無効の調停』の申し立てがございます」
「なんだとぉ?」
地を這うような王の怒声が響き渡り、俺は激しく後悔したのだった。
。:+* ゚ ゜゚ *+:。。:+* ゚ ゜゚ *+:。
⚖この異世界の王室法廷の仕組み。
※書記官:訴状を読み上げたり、裁判の記録をつけたりする役目。
※裁判官(廷臣あるいは法務卿):審理を進行し、証言や証拠を整理・確認する。最終的な意見(「このような判決が妥当であると存じます」など)を王に申し上げる役目。
※王:王国最高の裁定者として、裁判官の意見を聞いた上で最終的な判決を下す。
✒この物語に登場する法廷や裁判の慣習は、全て架空の設定です。現実の日本の司法制度とは異なりますので、ご注意ください。
読み上げが終わると、法廷内には微妙な空気が漂った。先ほどまでの俺への怒りが、今度は薄い嘲笑と呆れに変わっていくのが感じられる。隣にいたガレット兄上は、静かに席を立ち、傍聴席へと移動してしまった。
「私はアレグランが未亡人を囲っているなど、まったく知らなかったのです。ほんの些細な過ちだとばかり思っていました。お金だってエレナさんに、じゅうぶん渡していると信じていたのです」
「アレグラン卿の言い分ばかり聞いているから、そうなるのです。エレナさんに直接確認を取るとか、アレグラン卿の部下に聞き取り調査をするとか、いくらでも真相に迫る方法はあったはずです。それにしても、私の自慢の弟を訴えるとは、セルデン男爵家はなかなかの度胸ですね」
ヴェルツェル公爵は冷静に返した。
「あっ、これはセルデン男爵家とはまったく関係のないことでして。今、この裁判が終わったら、国王陛下にアレグランの除籍願いを提出するつもりです……」
ガレット兄上は困惑の表情を浮かべながら答えた。
――そんな……ガレット兄上は本当に俺を見捨てるつもりなのか?
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レオン団長の配下ではない騎士たちが、俺を見て嘲笑った。
――お前らは俺の味方になってくれるはずじゃないのか? きっと、お前らにだって妻の他に彼女がいるんだろ?
「レオン団長もなかなかお目が高い。性根が腐った者に剣を握らせるほうがよほど危険だからな」
横にいた壮年のボーンズ公爵が鼻で笑い、隣の夫人も小さく頷く。
「精神鍛錬や自己修養を名目に“雑用任務”を与えていただけるだけでも、感謝すべきですわ」
そう呟いたのはマクモロー侯爵夫人だ。
――なぜ、皆して寄ってたかって俺を蔑むんだ……。傍聴席にいる高位貴族たちだって、浮気の一つや二つ、しているくせに……。
「ふむ……王都騎士団長レオン・グリーンウッド侯爵の判断は、余が認めるところである。アレグラン卿、汝は騎士の称号を返上するか、己の未熟さを悟り、心の底より悔い改めるまで、雑用任務に従事せよ。この件に関して、異議は許さぬ」
裁判官の意見も待たず、王は速やかに、俺にそう言い渡した。
――詰んだ……兄上からも見捨てられ……俺はどうしたら?
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「なんだとぉ?」
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。:+* ゚ ゜゚ *+:。。:+* ゚ ゜゚ *+:。
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※書記官:訴状を読み上げたり、裁判の記録をつけたりする役目。
※裁判官(廷臣あるいは法務卿):審理を進行し、証言や証拠を整理・確認する。最終的な意見(「このような判決が妥当であると存じます」など)を王に申し上げる役目。
※王:王国最高の裁定者として、裁判官の意見を聞いた上で最終的な判決を下す。
✒この物語に登場する法廷や裁判の慣習は、全て架空の設定です。現実の日本の司法制度とは異なりますので、ご注意ください。
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