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11 知らされた出生の秘密と見つけた本物の恋、そしてエミリーの文が面白すぎる(ルーカスside)
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ルーカス視点
今日もグレイスは俺に絵本を持ってきてくれる。なので病室の中はすっかり絵本の山だ。だが、少しも読んでいて飽きることはない。さすがはリッチモンド家が手がけた絵本で金がかかっており、細かな仕掛けがたくさん施されているからである。
「この本を分解してもかまわないか? もちろん元通りにまた組み立てるから」
「どうぞ。これは全部ルーカス様に差し上げたものです。充分にお楽しみくださいね。そうそう、最近は検査も大人しく受けて成長しましたね。クスリも上手に飲めて偉いですよ。苦いクスリもちゃんと飲めましたものね!」
「あ、うん。クスリは飲めるさ。ちゃんと検査してクスリを飲まないと看護師が絵本に触らせてくれないからな。とにかく、とっても楽しい!」
俺は絵本の仕掛けに夢中になって目を輝かせた。本当にこの絵本達はすごいんだ。そこかしこに極小のオルゴールが埋め込まれていて押すと楽しい音楽が流れ、それに合わせて動物達が自動で動き出すものまであって、もはや素晴らしいエンターテインメントだ。
俺はこの絵本のお陰で、面倒な病院での検査もそれほど苦痛ではなかった。苦いクスリでさえ甘く感じたほどだ。半年も病院に閉じ込められて血をとられたり体の隅々まで検査を念入りにされた結果はどこも異常なしだった。
俺が機嫌良くグレイスが新たに持って来てくれた絵本を眺めていると、「ルーカス様は真実を知る必要があります」そんな言葉と共にグレイスは俺に叔父が話さなかった俺の生まれの経緯を語ってくれたのだった。
「あなたはアシュリー様のお兄様がメイドに産ませたお子様で、あなたのお父様は面倒ごとが嫌で自分から蒸発してしまいました。それでアシュリー様が今まで育てたのですよ」
「え! 初めて聞いたぞ・・・・・・俺の母上はメイドなのか・・・・・・あの叔父が無理矢理父上を追い出したのではないのか・・・・・・」
「えぇ、そうです。絵本には継子を虐める話や、あなたのような立場の人間が悲しい思いをする物語が数多くありましたよね? もちろん最終的には幸せになるという結末でしたが、最初は惨めな生活を強いられていました。ですがルーカス様は一度でもそんな思いはなさっていないはずです。アシュリー様は大層お優しいとは思いませんか?」
グレイスは優しい口調でそう言うとたくさんの絵本を指さした。
俺が読んできた絵本の中には確かにそんな内容の絵本もたくさんあった。望まれない子供だった少年が親からの虐待で傷つきながらも、大きな豆の蔓をよじ登って天界の女神様を大鬼から助ける話。お礼に大鬼の財宝をたくさん貰って幸せになるとかいう物語だ。
もちろんなんで豆の蔓がそんな大木になるんだ? 天界の女神が大鬼に捕まっているのも不思議で、女神なら魔法ぐらい使えるよねって思ったけど、綺麗な絵が飛び出して動き音楽まで流れるからストーリーのナンセンスさは俺にとってはどうでも良かったが。
思い出せばどの主人公も大半は始めからまたは中盤に逆境に置かれる。それでも頑張って自分の未来を切り開きめでたしめでたしが多かった。
俺はグレイスが帰った後、ベッドの上でじっくりと考えてみたんだ。
(叔父が俺を育てる義務なんてなかったのにけっして絵本のように虐待は受けなかったよ。それどころか、俺は清潔な仕立てのいい服を着て十分な食事も与えられて我が儘放題だったのさ。俺は全て勘違いをして恨んで見当違いのことをしていたんだな・・・・・・婚約者のグレイスにはちゃんと謝ろう。叔父上は俺のことを思ってあんなに天使のような女性を俺に選んでくれたのに)
俺はグレイスがいつのまにか好きになっており、今ではすっかり恋に落ちていたのだった。
そう言えばエミリーとはあれから会っていないな。俺は同じ階のエミリーの病室に行き、警備員に声をかける。
「エミリーの部屋に入っても構わないかい? 少し話がしたいんだ」
(グレイスが好きになったことと、エミリーとは別れたいことを話すんだ。きっと泣かれると思うけど仕方がないよな)
許可がでてエミリーの病室に入ると、ねじり鉢巻きをしたエミリーが紙切れの山に埋もれていた。一心不乱にペンを走らせながらも、頬はうれしさにピンクに染まり鼻歌まで口ずさんでいたのである。
「なんの用ですか? ルーカス様とお話する時間などありませんわ。私は自分の使命に目覚めましたのよ。妖精の女王の継承者として自分の出生と冒険の日々をこうして書き記し、後生の者達に伝えるのですわ」
「・・・・・・なに、それ?」
「は? だからぁーー、私は妖精女王の娘、つまりは妖精界の王女様なんです! あぁ、執筆の邪魔ですわ。もう出て行ってくださらない?」
「あ、うん。ところで俺たちが将来結婚しようってあの話はナシにしてもらっていいかな?」
「え? そんなお話など忘れましたわ。もちろん私は妖精王女ですからルーカス様のようなただの人間とは釣り合いませんとも。それで結構ですわ」
俺はエミリーの頭が現実から遙か遠くに旅立っているのを感じた。すっかり妄想の世界の住人になっちゃっているよ!
妄想に酔いしれて夢中になってエミリーが書き殴っている紙を拾い上げて読んでみると・・・・・・めちゃくちゃ・・・・・・面白かった!!
これを絵本にしたらどんなに楽しい本になることか! そうだよ、この花の妖精や王子が薔薇や百合の花弁から顔を出す愛らしい場面とか、蜜蜂達が花の周りを飛び回る様子とか・・・・・・しかもこの蜜蜂はお母さんである女王蜂を探す旅に三千里も飛んでいるのか!!
うっ、これ花の妖精が主人公なの? 蜜蜂セブンが主人公なの? なんにしてもセブン可哀想すぎるーーーーー!!
今日もグレイスは俺に絵本を持ってきてくれる。なので病室の中はすっかり絵本の山だ。だが、少しも読んでいて飽きることはない。さすがはリッチモンド家が手がけた絵本で金がかかっており、細かな仕掛けがたくさん施されているからである。
「この本を分解してもかまわないか? もちろん元通りにまた組み立てるから」
「どうぞ。これは全部ルーカス様に差し上げたものです。充分にお楽しみくださいね。そうそう、最近は検査も大人しく受けて成長しましたね。クスリも上手に飲めて偉いですよ。苦いクスリもちゃんと飲めましたものね!」
「あ、うん。クスリは飲めるさ。ちゃんと検査してクスリを飲まないと看護師が絵本に触らせてくれないからな。とにかく、とっても楽しい!」
俺は絵本の仕掛けに夢中になって目を輝かせた。本当にこの絵本達はすごいんだ。そこかしこに極小のオルゴールが埋め込まれていて押すと楽しい音楽が流れ、それに合わせて動物達が自動で動き出すものまであって、もはや素晴らしいエンターテインメントだ。
俺はこの絵本のお陰で、面倒な病院での検査もそれほど苦痛ではなかった。苦いクスリでさえ甘く感じたほどだ。半年も病院に閉じ込められて血をとられたり体の隅々まで検査を念入りにされた結果はどこも異常なしだった。
俺が機嫌良くグレイスが新たに持って来てくれた絵本を眺めていると、「ルーカス様は真実を知る必要があります」そんな言葉と共にグレイスは俺に叔父が話さなかった俺の生まれの経緯を語ってくれたのだった。
「あなたはアシュリー様のお兄様がメイドに産ませたお子様で、あなたのお父様は面倒ごとが嫌で自分から蒸発してしまいました。それでアシュリー様が今まで育てたのですよ」
「え! 初めて聞いたぞ・・・・・・俺の母上はメイドなのか・・・・・・あの叔父が無理矢理父上を追い出したのではないのか・・・・・・」
「えぇ、そうです。絵本には継子を虐める話や、あなたのような立場の人間が悲しい思いをする物語が数多くありましたよね? もちろん最終的には幸せになるという結末でしたが、最初は惨めな生活を強いられていました。ですがルーカス様は一度でもそんな思いはなさっていないはずです。アシュリー様は大層お優しいとは思いませんか?」
グレイスは優しい口調でそう言うとたくさんの絵本を指さした。
俺が読んできた絵本の中には確かにそんな内容の絵本もたくさんあった。望まれない子供だった少年が親からの虐待で傷つきながらも、大きな豆の蔓をよじ登って天界の女神様を大鬼から助ける話。お礼に大鬼の財宝をたくさん貰って幸せになるとかいう物語だ。
もちろんなんで豆の蔓がそんな大木になるんだ? 天界の女神が大鬼に捕まっているのも不思議で、女神なら魔法ぐらい使えるよねって思ったけど、綺麗な絵が飛び出して動き音楽まで流れるからストーリーのナンセンスさは俺にとってはどうでも良かったが。
思い出せばどの主人公も大半は始めからまたは中盤に逆境に置かれる。それでも頑張って自分の未来を切り開きめでたしめでたしが多かった。
俺はグレイスが帰った後、ベッドの上でじっくりと考えてみたんだ。
(叔父が俺を育てる義務なんてなかったのにけっして絵本のように虐待は受けなかったよ。それどころか、俺は清潔な仕立てのいい服を着て十分な食事も与えられて我が儘放題だったのさ。俺は全て勘違いをして恨んで見当違いのことをしていたんだな・・・・・・婚約者のグレイスにはちゃんと謝ろう。叔父上は俺のことを思ってあんなに天使のような女性を俺に選んでくれたのに)
俺はグレイスがいつのまにか好きになっており、今ではすっかり恋に落ちていたのだった。
そう言えばエミリーとはあれから会っていないな。俺は同じ階のエミリーの病室に行き、警備員に声をかける。
「エミリーの部屋に入っても構わないかい? 少し話がしたいんだ」
(グレイスが好きになったことと、エミリーとは別れたいことを話すんだ。きっと泣かれると思うけど仕方がないよな)
許可がでてエミリーの病室に入ると、ねじり鉢巻きをしたエミリーが紙切れの山に埋もれていた。一心不乱にペンを走らせながらも、頬はうれしさにピンクに染まり鼻歌まで口ずさんでいたのである。
「なんの用ですか? ルーカス様とお話する時間などありませんわ。私は自分の使命に目覚めましたのよ。妖精の女王の継承者として自分の出生と冒険の日々をこうして書き記し、後生の者達に伝えるのですわ」
「・・・・・・なに、それ?」
「は? だからぁーー、私は妖精女王の娘、つまりは妖精界の王女様なんです! あぁ、執筆の邪魔ですわ。もう出て行ってくださらない?」
「あ、うん。ところで俺たちが将来結婚しようってあの話はナシにしてもらっていいかな?」
「え? そんなお話など忘れましたわ。もちろん私は妖精王女ですからルーカス様のようなただの人間とは釣り合いませんとも。それで結構ですわ」
俺はエミリーの頭が現実から遙か遠くに旅立っているのを感じた。すっかり妄想の世界の住人になっちゃっているよ!
妄想に酔いしれて夢中になってエミリーが書き殴っている紙を拾い上げて読んでみると・・・・・・めちゃくちゃ・・・・・・面白かった!!
これを絵本にしたらどんなに楽しい本になることか! そうだよ、この花の妖精や王子が薔薇や百合の花弁から顔を出す愛らしい場面とか、蜜蜂達が花の周りを飛び回る様子とか・・・・・・しかもこの蜜蜂はお母さんである女王蜂を探す旅に三千里も飛んでいるのか!!
うっ、これ花の妖精が主人公なの? 蜜蜂セブンが主人公なの? なんにしてもセブン可哀想すぎるーーーーー!!
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