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9 スティール侯爵がゴドフロアに仕掛けた罠
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(俯瞰視点)
ここはドナシアン伯爵家の応接室である。ゴドフロア・ドナシアン伯爵がペコペコと頭を下げているのがシアニア国のケビン・スティール侯爵だった。
「私はシドニーの絵をずっと扱っていたのですよ。彼とはとても親しかった。ところで、もう彼の絵はないのですか? 今だったら多分、1枚3億ダラ以上で売れるでしょうね。いや5億、10億、いやもっとかもしれないです。彼の絵は人気がありすぎて、世界中の大富豪が欲しがるものですからね。彼がいなくなるなんて考えられないなぁ。世界的な損失だ」
「そんなに価値があるのですか? えぇっと、まだ兄の絵はアトリエにあったものを4枚ほど保管しています」
「ほぉーー。ならばそれはまとめて、わたしが1億ダラでお預かりします。まずは手付けの3,000万ダラを今お支払いしましょう。わたしの画商に送って頂ければ残金をお支払いします。そしてもちろん売れた場合には、その分の手数料をお引きしてそちらに売り上げ金をお渡ししますよ」
「え? そんなに初めからもらえるのですか? 売れてからお金が手に入ると思っていました 」
「当然でしょう? 高名な画家の絵に限っての特別待遇です。こちらはお預かり料をお支払いしても充分なメリットがあるのです。つまり、一流天才画家の絵画はわたしの画商でなければ買うことができない、という概念を植え付けさせることに意味があるのです」
「あぁ、なるほど。宣伝効果抜群ですね。兄上の才能に乾杯したい」
ゴドフロアは満面の笑みを浮かべる。
「まだ彼の絵があるのなら、いくらでもお預かりしますよ。ところで、アリゼ嬢はわたしが引き取り保護しましょう。正式な書類もあることですし、そちらは弟とは言っても後見人指定はうけていないでしょう?」
「いいえ。兄上になにかあったら全てのことを私に任せる、という委任状をわたしは持っています。これは役所にも届けている!」
「そんな委任状など聞いたことがないな。それに未成年後見人なら裁判所の管轄のはずで家庭裁判所でしょう? このオキスト王国は法律的に適当な国なのですか? こちらは正式な書面があるのですがね。まぁ、実の弟さんだから姪の面倒をみたい気持ちはお察しします。ここは騒ぎ立てないでおいてさしあげますよ。ですが、アリゼ嬢をこちらに置く代わりに、このメイド達はつけさせてくださいね。彼女に不自由な思いをさせたら、シドニーに顔向けできないのでね」
スティール侯爵は連れてきたメイド二人を指し示す。
「あ、役所じゃないです。そうそう、家裁にね、書面は見せましたよ。わかりました。もちろんメイド達はお預かりします。それで、メイドの給金はどうなりますか?」
「もちろんこちらが負担します。このメイド達はアリゼ嬢の言うことしか聞きませんがよろしいですか?」
「了解です。こちらもお金の負担がなくて助かりました」
「ところで、奥様とお嬢さんのお姿がないですね?」
「あぁ、妻達はお茶会に出かけてしまっておりません」
兄の絵を扱っていた画商を経営するスティール侯爵の先触れを聞き、急遽妻と娘に外出をさせたゴドフロアは応接室にも使用人の出入りを許していない。部屋の前までお茶を持ってこさせると、立ち聞きできないように素早く部屋の扉を閉めるのだ。
(兄上が高名な画家で、お金をたんまり稼いでいたことは屋敷の者に知られるとまずい。妻や娘も騙しているのだからな。兄上より自分が劣っているなんて、これ以上は思われたくないんだ。王立学園の時代だって幼い頃だって、いつも常に兄上と比べられて笑われた。二度とそんな思いはごめんだ)
ゴドフロアは忌まわしい過去の記憶を、頭から追い出すようにブンブンと首を左右に振った。
「アリゼの絵はとても素晴らしいよね? これから毎日描いていこうね。絵の具やいろいろな画材はたっぷりと買ってあげよう」
ゴドフロアはスティール侯爵が帰った後、アリゼに話しかけながらニヤリと笑ったのだった。
ここはドナシアン伯爵家の応接室である。ゴドフロア・ドナシアン伯爵がペコペコと頭を下げているのがシアニア国のケビン・スティール侯爵だった。
「私はシドニーの絵をずっと扱っていたのですよ。彼とはとても親しかった。ところで、もう彼の絵はないのですか? 今だったら多分、1枚3億ダラ以上で売れるでしょうね。いや5億、10億、いやもっとかもしれないです。彼の絵は人気がありすぎて、世界中の大富豪が欲しがるものですからね。彼がいなくなるなんて考えられないなぁ。世界的な損失だ」
「そんなに価値があるのですか? えぇっと、まだ兄の絵はアトリエにあったものを4枚ほど保管しています」
「ほぉーー。ならばそれはまとめて、わたしが1億ダラでお預かりします。まずは手付けの3,000万ダラを今お支払いしましょう。わたしの画商に送って頂ければ残金をお支払いします。そしてもちろん売れた場合には、その分の手数料をお引きしてそちらに売り上げ金をお渡ししますよ」
「え? そんなに初めからもらえるのですか? 売れてからお金が手に入ると思っていました 」
「当然でしょう? 高名な画家の絵に限っての特別待遇です。こちらはお預かり料をお支払いしても充分なメリットがあるのです。つまり、一流天才画家の絵画はわたしの画商でなければ買うことができない、という概念を植え付けさせることに意味があるのです」
「あぁ、なるほど。宣伝効果抜群ですね。兄上の才能に乾杯したい」
ゴドフロアは満面の笑みを浮かべる。
「まだ彼の絵があるのなら、いくらでもお預かりしますよ。ところで、アリゼ嬢はわたしが引き取り保護しましょう。正式な書類もあることですし、そちらは弟とは言っても後見人指定はうけていないでしょう?」
「いいえ。兄上になにかあったら全てのことを私に任せる、という委任状をわたしは持っています。これは役所にも届けている!」
「そんな委任状など聞いたことがないな。それに未成年後見人なら裁判所の管轄のはずで家庭裁判所でしょう? このオキスト王国は法律的に適当な国なのですか? こちらは正式な書面があるのですがね。まぁ、実の弟さんだから姪の面倒をみたい気持ちはお察しします。ここは騒ぎ立てないでおいてさしあげますよ。ですが、アリゼ嬢をこちらに置く代わりに、このメイド達はつけさせてくださいね。彼女に不自由な思いをさせたら、シドニーに顔向けできないのでね」
スティール侯爵は連れてきたメイド二人を指し示す。
「あ、役所じゃないです。そうそう、家裁にね、書面は見せましたよ。わかりました。もちろんメイド達はお預かりします。それで、メイドの給金はどうなりますか?」
「もちろんこちらが負担します。このメイド達はアリゼ嬢の言うことしか聞きませんがよろしいですか?」
「了解です。こちらもお金の負担がなくて助かりました」
「ところで、奥様とお嬢さんのお姿がないですね?」
「あぁ、妻達はお茶会に出かけてしまっておりません」
兄の絵を扱っていた画商を経営するスティール侯爵の先触れを聞き、急遽妻と娘に外出をさせたゴドフロアは応接室にも使用人の出入りを許していない。部屋の前までお茶を持ってこさせると、立ち聞きできないように素早く部屋の扉を閉めるのだ。
(兄上が高名な画家で、お金をたんまり稼いでいたことは屋敷の者に知られるとまずい。妻や娘も騙しているのだからな。兄上より自分が劣っているなんて、これ以上は思われたくないんだ。王立学園の時代だって幼い頃だって、いつも常に兄上と比べられて笑われた。二度とそんな思いはごめんだ)
ゴドフロアは忌まわしい過去の記憶を、頭から追い出すようにブンブンと首を左右に振った。
「アリゼの絵はとても素晴らしいよね? これから毎日描いていこうね。絵の具やいろいろな画材はたっぷりと買ってあげよう」
ゴドフロアはスティール侯爵が帰った後、アリゼに話しかけながらニヤリと笑ったのだった。
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