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1 お父様は最高

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 私のお父様はこのオキスト王国の貴族だった。家名はドナシアン伯爵家で長男だったお父様は、ドナシアン伯爵家を継ぐはずの立場であった。けれど、お父様は運命の出会いをしてしまう。それは私のお母様との出会い。

 お母様はブルダリアス男爵家の四女で、ドナシアン伯爵家で侍女として働いていた。ブルダリアス男爵家は貧しく名ばかり貴族だった為に、ドナシアン伯爵夫人としては相応しくない、とお祖父様達は判断されたのですって。

 勘当されたお父様は平民になりいろいろな職に就こうとしたけれど、どこも雇ってくれなかったらしい。でも、お父様はなんでも出来る方だった。





「お父様、それで絵描きになったのですね?」

「あぁ、そうだよ。どこも雇ってくれないなら自分でなにかを作ればいい。この国がダメなら隣の国でそれを売れば良い。こんなことは簡単なことさ」

「ふふふ。お父様って、すっごい!」

「それはもちろん、アリゼと大事なサラを守る為なら、なんだって考えつくさ」
 お父様は私の頭を撫でて、にっこりと笑った。

「シドニー様は最高の夫ですわ。そして、アリゼの最高のお父様です」
 お母様はうっとりとお父様を見つめる。

「うん、お父様は最高だわ」
 私は自慢のお父様に抱きつき甘えた。




 お父様は絵の才能がありたくさんの絵を描き始めると同時に、オキスト王国の北に位置するシアニア王国に絵を売りに行ったのだ。外国移住は認められないけれど、絵を売りに行くだけなら規制の抜け道を利用し、咎められることなく移動できる方法を見つけた。

 所詮、ドナシアン伯爵家だけの圧力。主だった商会で働くことができないだけで、絵を描くことや作曲を止めさせることは誰にもできないのだ。

 お父様の絵はたちまち高く評価され、シアニア王国ではとても有名な画家になった。加えて、音楽の才もあったお父様は、作曲をしてたくさんの曲をシアニア国で流行らせる。

 そうなるとお父様と取引をしたい方々は、あちらからやって来るようになった。私達はシアニア国とオキスト王国が隣り合う国境近くに住み、シアニア国からの利益で何不自由なく暮らした。

 お父様とお母様は大の仲良しで、娘の私が恥ずかしくなるほどのアツアツぶりだった。そして、私はこの二人にとても愛された。私の世界は完璧で幸せが満ちあふれていたこの頃、笑い声の絶えない明るい家庭は、最高の私の居場所だった。




 国境の向こう側には貴族の別荘があり、週に一回ほどお父様にピアノと絵を習いに来る兄妹がいた。兄がアドリアン、妹がメレーヌだった。上品な子達で性格も穏やかで優しい。私達は楽器を一緒に奏で、絵を学び一緒に遊んだ。

「アリゼ。大きくなったら必ず君を迎えに来るよ」

「迎えに? なんの為に?」

「・・・・・・それは、わたしの婚約者になってもらう為にさ」

「ふふふ。素敵な夢ね。でも、アドリアン様達はシアニア国の貴族なのでしょう? 私は平民です。一緒になれるはずがないわ」

 私はそう言って笑った。私は貴族なんて嫌いだ。お父様を勘当してお母様を嫁として認めなかったのは、貴族のお祖父様達。人間を肩書きだけで判断する愚かな人達だもの。爵位なんて興味はない。

 
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