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3,私は虐められているのに加害者にされる(ソフィア・ローズ公爵令嬢side)
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『意地悪女』と書かれた落書きは、鉛筆で書かれた小さなものだった。これは、とても利口なやり口だ。
被害者は消しゴムですぐ消すから証拠は残らない。でも、被害者の心に傷は残すことができる。
私の心をその落書きひとつで一日、憂鬱にさせるぐらいの威力はある。
私の席の後ろでは、クラスの女生徒達がクスクス笑ったり、ひそひそ話をしている。
「「「ソフィア・ローズ公爵令嬢は捨てられたらしいわよ?」」」
「「「いい気味だわ。家柄が良くて美人だからってツンとしてたじゃない?」」」
「「「え? あのレティシア・パリセ男爵令嬢を突き飛ばしたのは痴情のもつれってほんと?」」」
私は、黙って机の落書きを消した。幼い頃から、女の子からは好かれた記憶があまりない。慣れてはいるけれど、必ず助けてくれたロミオ様はもういない。
レティシア・パリセ男爵令嬢は同じクラスだった。前の方の席で、はしゃいでいるレティシア様はクラスでも人気者だ。黒い髪と瞳の彼女は、いつも三つ編みをして前髪は眉毛の位置できっちり切りそろえていた。
真面目で成績が良くて、愛想がいい。これがレティシア様の評価だった。
ロミオ様は隣のクラスで、休み時間になると、必ずこのクラスに来るようになった。
「レティシアに会いに来たよ」そう言いながら、優しく微笑むその顔は少し前までは私に向けられていたのに。
今では、視線も合わせないのだった。
ランチの時間も、学食に行くと、ロミオ様がレティシア様と向かい合って嬉しそうに食べていた。今日から一人で食べなきゃならないのかも。そう思っていると、幼馴染みのハロルド・ピアーズ侯爵子息が話しかけてきた。
「良かったら、一緒に食べようか?」
幼馴染みだったけれど、久しぶりに話した気がした。なぜ、今まで話さないでいたのかしら?
私がそれを言うと、彼は笑った。
「だって、ソフィアはいつだって王太子と一緒だったからね。あれじゃぁ、誰も話しかけられなかったと思うよ」
私の世界はロミオ様中心に回っていたから、仕方ないわ。今だって、目はロミオ様をこうして追ってしまうことがやめられない。
私はハロルドとランチを食べた。食欲がなくて、ヨーグルトだけチビチビと食べていたら、口の前に小さくちぎったパンをもってくる。
「はい、食べて?」
私は、呆れて言った。
「学園で、しかもこの状況で『あーーん』したら、学校中の女生徒を敵にまわすわ」
「大丈夫だよ。そうなったら、今度は私が守る」
私は、短く笑った。学園の一番人気のロミオ様。それに勝るとも劣らない人気のハロルド。仲良くしていたら、また、なにを言われるかわからない。
ランチの後の授業中に、真後ろの女生徒が聞こえるように囁く言葉は予想どおりだった。
「王太子に振られたばかりで、もう次の男性と仲良くするって流石ソフィア・ローズ公爵令嬢よね?」
「金髪碧眼の美女は男には不自由しないのねぇーー」
一緒にヨーグルトを食べただけでこの言われようだ。
そうして、いつもレティシア様にべったりだったロミオ様は、今日はなぜか私の側にきて文句を言った。
「ソフィア! 貴女は、ずいぶん尻軽だったんだな! もう他の男に秋波を送るとは! それと、レティシアをまた虐めたそうだな? 油性マジックで机に『地味女』と書いてあるぞ! こんなことを書くのは貴女しかいない」
*:.。 。.:*・゚✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*
※秋波を送る(しゅうはをおくる)
異性の関心を引こうとして色目を使う。
被害者は消しゴムですぐ消すから証拠は残らない。でも、被害者の心に傷は残すことができる。
私の心をその落書きひとつで一日、憂鬱にさせるぐらいの威力はある。
私の席の後ろでは、クラスの女生徒達がクスクス笑ったり、ひそひそ話をしている。
「「「ソフィア・ローズ公爵令嬢は捨てられたらしいわよ?」」」
「「「いい気味だわ。家柄が良くて美人だからってツンとしてたじゃない?」」」
「「「え? あのレティシア・パリセ男爵令嬢を突き飛ばしたのは痴情のもつれってほんと?」」」
私は、黙って机の落書きを消した。幼い頃から、女の子からは好かれた記憶があまりない。慣れてはいるけれど、必ず助けてくれたロミオ様はもういない。
レティシア・パリセ男爵令嬢は同じクラスだった。前の方の席で、はしゃいでいるレティシア様はクラスでも人気者だ。黒い髪と瞳の彼女は、いつも三つ編みをして前髪は眉毛の位置できっちり切りそろえていた。
真面目で成績が良くて、愛想がいい。これがレティシア様の評価だった。
ロミオ様は隣のクラスで、休み時間になると、必ずこのクラスに来るようになった。
「レティシアに会いに来たよ」そう言いながら、優しく微笑むその顔は少し前までは私に向けられていたのに。
今では、視線も合わせないのだった。
ランチの時間も、学食に行くと、ロミオ様がレティシア様と向かい合って嬉しそうに食べていた。今日から一人で食べなきゃならないのかも。そう思っていると、幼馴染みのハロルド・ピアーズ侯爵子息が話しかけてきた。
「良かったら、一緒に食べようか?」
幼馴染みだったけれど、久しぶりに話した気がした。なぜ、今まで話さないでいたのかしら?
私がそれを言うと、彼は笑った。
「だって、ソフィアはいつだって王太子と一緒だったからね。あれじゃぁ、誰も話しかけられなかったと思うよ」
私の世界はロミオ様中心に回っていたから、仕方ないわ。今だって、目はロミオ様をこうして追ってしまうことがやめられない。
私はハロルドとランチを食べた。食欲がなくて、ヨーグルトだけチビチビと食べていたら、口の前に小さくちぎったパンをもってくる。
「はい、食べて?」
私は、呆れて言った。
「学園で、しかもこの状況で『あーーん』したら、学校中の女生徒を敵にまわすわ」
「大丈夫だよ。そうなったら、今度は私が守る」
私は、短く笑った。学園の一番人気のロミオ様。それに勝るとも劣らない人気のハロルド。仲良くしていたら、また、なにを言われるかわからない。
ランチの後の授業中に、真後ろの女生徒が聞こえるように囁く言葉は予想どおりだった。
「王太子に振られたばかりで、もう次の男性と仲良くするって流石ソフィア・ローズ公爵令嬢よね?」
「金髪碧眼の美女は男には不自由しないのねぇーー」
一緒にヨーグルトを食べただけでこの言われようだ。
そうして、いつもレティシア様にべったりだったロミオ様は、今日はなぜか私の側にきて文句を言った。
「ソフィア! 貴女は、ずいぶん尻軽だったんだな! もう他の男に秋波を送るとは! それと、レティシアをまた虐めたそうだな? 油性マジックで机に『地味女』と書いてあるぞ! こんなことを書くのは貴女しかいない」
*:.。 。.:*・゚✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*
※秋波を送る(しゅうはをおくる)
異性の関心を引こうとして色目を使う。
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