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12 ドナルドの自白
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※ドナルド・ビアス侯爵代行視点
私は裁かれるために、王家の騎士達に護衛されながら王都に向かっていた。護送馬車は頑丈な鉄製の車体で、外部からの攻撃に対して耐性を持っている。これにより、囚人や貴族など重要な人物を安全に輸送できる。護送馬車には護送騎士が同乗し、私の行動を監視していた。
「おかしな真似をするなよ。お前は兄殺しを疑われていておそらく極刑だろうが、その前に死なれたら困るんだよ」
うっすらと笑う護送騎士は退屈そうに私の監視を始めた。兄上を殺した証拠なんて、もうどこにも残っていないはずだ。だったら、安心して良い。とことんしらばっくれてやろう。
裁判の日まで留置所に入れられた。そこは、容疑者が裁判の期間中や調査中に収監される場所だ。城壁に囲まれた要塞の中に設けられ、逃亡や証拠の改ざんを防ぐために監視された。独房内にはベッド、椅子、テーブルといった基本的な家具が配置されている。
窓は小さく、石造りの壁や床はひんやりと冷たい。薄暗い照明のせいか壁にたくさんの影ができ、たまにそれが人の顔のようにも見えた。かび臭い匂いが充満しており、薄気味悪い場所だ。
時折、風の音や遠くからの叫び声、他の囚人たちの声が聞こえる。気が狂ったように笑う声や、鞭の音なども響いてくれば、嫌でも恐怖心が沸き起こった。
そのうち、石造りの壁の影が、亡くなった兄の顔に見えてきた。
「なぜ、私を殺したんだ?」
悲しい顔で責めてくるんだ。なぜ、今頃でてくるんだよ?
兄上、あんたが金を貸してくれなかったのが悪いんだ。
俺は悪くない。
※ランちゃん視点
僕はドナルドの護送馬車に気づかれぬように乗り込んだ。あいつが独房に入るのを見届け、留置所の厨房に忍び込む。
人間の姿に変わると、食事にガマ毒を入れドナルドの独房の前まで運んだ。殺すわけじゃない。ただ、自分が恐れているものの幻覚が見えるようにしただけさ。
普通のガマ毒は吐き気、嘔吐、下痢を起こすだけだけど、僕たちには妖精の血も入っている。だから、幻を見させる作用もあるのさ。罪人が見る幻はきっと恐ろしいものだと思うよ。
これから、毎食入れてあげよう。だって、僕たちが守るって決めたブロッサム様の両親を殺した悪党だ。懲らしめないといけないよ。
※ドナルド・ビアス侯爵代行視点
王都の宮殿内にある王室の法廷は壮麗な大理石の柱で装飾され、高い天井からはシャンデリアが輝いていた。法廷の中央には大理石の玉座があり、その上に座るのは偉大なる国王だった。国王は威厳に満ち王冠を頭に戴き、紫色の王袍をまとっていた。
法廷の左右には宰相や大臣職に就いている貴族達が座り、厳粛な雰囲気が広がっていた。彼らは豪華な衣装に身を包み、冷静な表情を崩さない。
「さて、ドナルド・ビアス侯爵代理よ。お前には姪ブロッサム嬢に対する虐待と、兄ビアス侯爵殺害の疑いがかけられている。申し開きをすることはあるか?」
王の威厳に満ちた声に思わず震えた。しかし、ここはなんとか誤魔化さなければならない。
「はて、まるでそのようなことをした覚えはありません。ブロッサムは娘同然に可愛がってきましたし、兄は事故死でした」
「言い逃れはできませんぞ。ブロッサム嬢が王立貴族学園に通っていなかったのはなぜですか? 我々はブロッサム嬢が、どんな扱いを受けていたかすでに調査済みです」
王の側に立つ法務官の一人が、私を鋭く睨みながらそう言った。
「あの子は持病があるうえに、勉強嫌いで学園に行きたがりませんでした」
私はブロッサムがいかに身体が弱くて、怠け者だったかを説明し、到底学園生活を送るのは無理だったことを強調した。
「なるほどね。では、サンディさん。入室してください」
証人の出入り口からメイドのお仕着せ服姿の女性が姿を現した。
「ターナー伯爵家のメイド長をしておりますサンディと申します。ブロッサムさんは毎日元気に働いておりました。持病などありませんし、怠け者なんてとんでもない。とても勤勉でしたよ」
「王立貴族学園に入学する頃は、寝込んでばかりいたんだ。なにも知らないくせに、わかったような口を叩くな!」
そのメイド長の姿が、話しながらジャックリーン・ビアス侯爵夫人に変わった。口から血を一筋たらしている以外は、とても綺麗だしまるで生きているようだった。
「シーヴァはあなたを弟として愛していたのよ。お金を貸さなかったのは、あなたを思ってのことだったわ。なぜ、それがわからないの?」
墓から抜け出してきてまで、お説教をしに来たのかよ?
「うるさい、うるさい! 金を貸してくれなかったお前らが悪い。兄上が私を愛していただと? だったら、金をくれたら良かったじゃないか? そうしたら、まだ生かしといてやったのに!」
法廷内は私の自白によって、静寂が広がったのだった。
私は裁かれるために、王家の騎士達に護衛されながら王都に向かっていた。護送馬車は頑丈な鉄製の車体で、外部からの攻撃に対して耐性を持っている。これにより、囚人や貴族など重要な人物を安全に輸送できる。護送馬車には護送騎士が同乗し、私の行動を監視していた。
「おかしな真似をするなよ。お前は兄殺しを疑われていておそらく極刑だろうが、その前に死なれたら困るんだよ」
うっすらと笑う護送騎士は退屈そうに私の監視を始めた。兄上を殺した証拠なんて、もうどこにも残っていないはずだ。だったら、安心して良い。とことんしらばっくれてやろう。
裁判の日まで留置所に入れられた。そこは、容疑者が裁判の期間中や調査中に収監される場所だ。城壁に囲まれた要塞の中に設けられ、逃亡や証拠の改ざんを防ぐために監視された。独房内にはベッド、椅子、テーブルといった基本的な家具が配置されている。
窓は小さく、石造りの壁や床はひんやりと冷たい。薄暗い照明のせいか壁にたくさんの影ができ、たまにそれが人の顔のようにも見えた。かび臭い匂いが充満しており、薄気味悪い場所だ。
時折、風の音や遠くからの叫び声、他の囚人たちの声が聞こえる。気が狂ったように笑う声や、鞭の音なども響いてくれば、嫌でも恐怖心が沸き起こった。
そのうち、石造りの壁の影が、亡くなった兄の顔に見えてきた。
「なぜ、私を殺したんだ?」
悲しい顔で責めてくるんだ。なぜ、今頃でてくるんだよ?
兄上、あんたが金を貸してくれなかったのが悪いんだ。
俺は悪くない。
※ランちゃん視点
僕はドナルドの護送馬車に気づかれぬように乗り込んだ。あいつが独房に入るのを見届け、留置所の厨房に忍び込む。
人間の姿に変わると、食事にガマ毒を入れドナルドの独房の前まで運んだ。殺すわけじゃない。ただ、自分が恐れているものの幻覚が見えるようにしただけさ。
普通のガマ毒は吐き気、嘔吐、下痢を起こすだけだけど、僕たちには妖精の血も入っている。だから、幻を見させる作用もあるのさ。罪人が見る幻はきっと恐ろしいものだと思うよ。
これから、毎食入れてあげよう。だって、僕たちが守るって決めたブロッサム様の両親を殺した悪党だ。懲らしめないといけないよ。
※ドナルド・ビアス侯爵代行視点
王都の宮殿内にある王室の法廷は壮麗な大理石の柱で装飾され、高い天井からはシャンデリアが輝いていた。法廷の中央には大理石の玉座があり、その上に座るのは偉大なる国王だった。国王は威厳に満ち王冠を頭に戴き、紫色の王袍をまとっていた。
法廷の左右には宰相や大臣職に就いている貴族達が座り、厳粛な雰囲気が広がっていた。彼らは豪華な衣装に身を包み、冷静な表情を崩さない。
「さて、ドナルド・ビアス侯爵代理よ。お前には姪ブロッサム嬢に対する虐待と、兄ビアス侯爵殺害の疑いがかけられている。申し開きをすることはあるか?」
王の威厳に満ちた声に思わず震えた。しかし、ここはなんとか誤魔化さなければならない。
「はて、まるでそのようなことをした覚えはありません。ブロッサムは娘同然に可愛がってきましたし、兄は事故死でした」
「言い逃れはできませんぞ。ブロッサム嬢が王立貴族学園に通っていなかったのはなぜですか? 我々はブロッサム嬢が、どんな扱いを受けていたかすでに調査済みです」
王の側に立つ法務官の一人が、私を鋭く睨みながらそう言った。
「あの子は持病があるうえに、勉強嫌いで学園に行きたがりませんでした」
私はブロッサムがいかに身体が弱くて、怠け者だったかを説明し、到底学園生活を送るのは無理だったことを強調した。
「なるほどね。では、サンディさん。入室してください」
証人の出入り口からメイドのお仕着せ服姿の女性が姿を現した。
「ターナー伯爵家のメイド長をしておりますサンディと申します。ブロッサムさんは毎日元気に働いておりました。持病などありませんし、怠け者なんてとんでもない。とても勤勉でしたよ」
「王立貴族学園に入学する頃は、寝込んでばかりいたんだ。なにも知らないくせに、わかったような口を叩くな!」
そのメイド長の姿が、話しながらジャックリーン・ビアス侯爵夫人に変わった。口から血を一筋たらしている以外は、とても綺麗だしまるで生きているようだった。
「シーヴァはあなたを弟として愛していたのよ。お金を貸さなかったのは、あなたを思ってのことだったわ。なぜ、それがわからないの?」
墓から抜け出してきてまで、お説教をしに来たのかよ?
「うるさい、うるさい! 金を貸してくれなかったお前らが悪い。兄上が私を愛していただと? だったら、金をくれたら良かったじゃないか? そうしたら、まだ生かしといてやったのに!」
法廷内は私の自白によって、静寂が広がったのだった。
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