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11 真実が明かされる
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お父様がビアス侯爵代行? どういうことなの?
「ブロッサム嬢。儂はターナー伯爵だ。君のお父上とはとても仲が良かった。同じ年頃の子供が生まれたら、結婚させようと約束していたので二人を婚約させたが、フロイドがあのような愚かな息子とは思わなかった。申し訳なかったね」
しきりに私に謝ってくださったけれど、話がいまひとつわからない。
「こいつはブロッサム嬢のお父上じゃなくて叔父なのですよ」
クリスフォード様がお父様を指し示して私に教えてくださったけれど、今まで父親と思っていた人をすぐに叔父とは思えなくて戸惑うばかりだ。
すると、バニラがゆっくりと近づいてきて、小さな鼻をそっと私の手にすり寄せた。その甘えるような仕草は、まるで私に寄り添っているようだった。
その暖かで柔らかな毛に触れながら、つぶらな瞳を見つめていると、とても穏やかな気分になった。確かにそう言われれば、今までコーデリアお姉様とはずいぶん扱いが違っていたわ。
バニラは私達の言葉がわかるみたいで、私を慰めるように寄り添っている。しかも ガマガエル達は一斉にドナルド叔父様を包囲した。この子達は絶対に人間の言葉を理解している。
「シーヴァ・ビアス侯爵は天才だったのだよ。ジャクリーン侯爵夫人はブロッサム嬢に似て、可憐な女性だったしね。それに引き換え、弟のドナルドは凡庸で取り立てて才能がない男だった。その男がそいつだ」
ターナー伯爵様も、お父様を指さしながらそうおっしゃった。
その後、私は驚きと混乱の中でクリスフォード様からの話を聞き続けた。彼は、ビアス侯爵が他殺された可能性を示唆し、さらに犯人は今までお父様だと思っていたドナルド叔父様だと推察したのよ。
その驚くべき情報に、私は気を失うほどのショックを受けた。クリスフォード様の言葉は、まるで現実とはかけ離れたもののように響いたからよ。本当のお父様が他殺されていたなんて、まったく想像していなかった出来事だった。
しばらくの間、私は言葉を発することもできず、ただ座り込んでいた。頭の中が混乱し、感情が渦巻くなか、意識を手放したのだった。
☆彡 ★彡
(コーデリア視点)
ビアス侯爵家に王家の騎士達が乗り込んできて、私とお母様を拘束して王都に連れて行こうとしたわ。お父様はブロッサムを、ターナー伯爵家まで迎えに行っていたからいない。
「いったいなんの罪なのよ? 痛いわね、離してよ! 私はビアス侯爵令嬢なのよ!」
「あんたはビアス侯爵代行の娘なだけだよ」
騎士の一人が呆れかえった表情で呟いた。
「え?」
あぁ、そうだった。自分がすっかり本物の侯爵令嬢になった気でいた。でも、たまたまお父様がビアス侯爵家の次男として生まれただけで、私にだってビアス侯爵家の血はブロッサムと変わらず流れているのよ。
私は遠い過去を思い出す。度々、お金をビアス侯爵家から借りていたお父様は、その日もそんなつもりで、私を連れてビアス侯爵家を訪れた。
私より2歳下のブロッサムは、まるでおとぎ話から抜け出したような華麗な服を身に纏っていた。レモン色のシルク生地で作られたドレスは裾に繊細な刺繍が施され、小さな宝石が煌めいている。袖口にも刺繍と宝石があって、贅沢過ぎるドレスを当たり前のように着ていたのよ。
こんなちびが生意気よ!
ビアス侯爵家の次男に生まれただけで、お父様はなにも継げなかったとおっしゃっていた。長男だけがなんで良い思いをするの? 私だってあんな綺麗なドレスが着たい。
「いい加減、自立しなさい。お前が結婚してこの家を出た時に、母上はまとまったお金を渡していたはずだろう?」
ビアス侯爵はお父様に偉そうにお説教をし始めた。ビアス侯爵はケチだ。お婆様にいただいたというお金は、お父様が大胆なビジネスアイデアを思いつき、事業を立ち上げた際に使い切ってしまった。予想外の問題や競争が成功への道を阻んだと聞いている。
人間だもの、失敗はすると思う。もう一度ぐらいチャンスをくれても罰は当たらないのに。
「ちっ。兄上の馬車が事故でも起こさないかな」
その日からお父様は伯父様の事故を願うようになった。願っただけでなにかをしたわけではないと思う。お父様は根っからの善人なのよ。
「ブロッサム嬢。儂はターナー伯爵だ。君のお父上とはとても仲が良かった。同じ年頃の子供が生まれたら、結婚させようと約束していたので二人を婚約させたが、フロイドがあのような愚かな息子とは思わなかった。申し訳なかったね」
しきりに私に謝ってくださったけれど、話がいまひとつわからない。
「こいつはブロッサム嬢のお父上じゃなくて叔父なのですよ」
クリスフォード様がお父様を指し示して私に教えてくださったけれど、今まで父親と思っていた人をすぐに叔父とは思えなくて戸惑うばかりだ。
すると、バニラがゆっくりと近づいてきて、小さな鼻をそっと私の手にすり寄せた。その甘えるような仕草は、まるで私に寄り添っているようだった。
その暖かで柔らかな毛に触れながら、つぶらな瞳を見つめていると、とても穏やかな気分になった。確かにそう言われれば、今までコーデリアお姉様とはずいぶん扱いが違っていたわ。
バニラは私達の言葉がわかるみたいで、私を慰めるように寄り添っている。しかも ガマガエル達は一斉にドナルド叔父様を包囲した。この子達は絶対に人間の言葉を理解している。
「シーヴァ・ビアス侯爵は天才だったのだよ。ジャクリーン侯爵夫人はブロッサム嬢に似て、可憐な女性だったしね。それに引き換え、弟のドナルドは凡庸で取り立てて才能がない男だった。その男がそいつだ」
ターナー伯爵様も、お父様を指さしながらそうおっしゃった。
その後、私は驚きと混乱の中でクリスフォード様からの話を聞き続けた。彼は、ビアス侯爵が他殺された可能性を示唆し、さらに犯人は今までお父様だと思っていたドナルド叔父様だと推察したのよ。
その驚くべき情報に、私は気を失うほどのショックを受けた。クリスフォード様の言葉は、まるで現実とはかけ離れたもののように響いたからよ。本当のお父様が他殺されていたなんて、まったく想像していなかった出来事だった。
しばらくの間、私は言葉を発することもできず、ただ座り込んでいた。頭の中が混乱し、感情が渦巻くなか、意識を手放したのだった。
☆彡 ★彡
(コーデリア視点)
ビアス侯爵家に王家の騎士達が乗り込んできて、私とお母様を拘束して王都に連れて行こうとしたわ。お父様はブロッサムを、ターナー伯爵家まで迎えに行っていたからいない。
「いったいなんの罪なのよ? 痛いわね、離してよ! 私はビアス侯爵令嬢なのよ!」
「あんたはビアス侯爵代行の娘なだけだよ」
騎士の一人が呆れかえった表情で呟いた。
「え?」
あぁ、そうだった。自分がすっかり本物の侯爵令嬢になった気でいた。でも、たまたまお父様がビアス侯爵家の次男として生まれただけで、私にだってビアス侯爵家の血はブロッサムと変わらず流れているのよ。
私は遠い過去を思い出す。度々、お金をビアス侯爵家から借りていたお父様は、その日もそんなつもりで、私を連れてビアス侯爵家を訪れた。
私より2歳下のブロッサムは、まるでおとぎ話から抜け出したような華麗な服を身に纏っていた。レモン色のシルク生地で作られたドレスは裾に繊細な刺繍が施され、小さな宝石が煌めいている。袖口にも刺繍と宝石があって、贅沢過ぎるドレスを当たり前のように着ていたのよ。
こんなちびが生意気よ!
ビアス侯爵家の次男に生まれただけで、お父様はなにも継げなかったとおっしゃっていた。長男だけがなんで良い思いをするの? 私だってあんな綺麗なドレスが着たい。
「いい加減、自立しなさい。お前が結婚してこの家を出た時に、母上はまとまったお金を渡していたはずだろう?」
ビアス侯爵はお父様に偉そうにお説教をし始めた。ビアス侯爵はケチだ。お婆様にいただいたというお金は、お父様が大胆なビジネスアイデアを思いつき、事業を立ち上げた際に使い切ってしまった。予想外の問題や競争が成功への道を阻んだと聞いている。
人間だもの、失敗はすると思う。もう一度ぐらいチャンスをくれても罰は当たらないのに。
「ちっ。兄上の馬車が事故でも起こさないかな」
その日からお父様は伯父様の事故を願うようになった。願っただけでなにかをしたわけではないと思う。お父様は根っからの善人なのよ。
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