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5 クリスフォード、ブロッサムを救う / ターナー伯爵家でメイドになるブロッサム?
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※(クリスフォード・ターナー次期伯爵視点)
私はビアス侯爵代行の話を聞いて呆れていた。弟のフロイドは得意げに、式場に列席している貴族達を眺めている。隣には正当な跡継ぎであるブロッサム侯爵令嬢ではなく、ただのビアス侯爵代行の娘コーデリアが座っていた。
ブロッサム侯爵令嬢がまだ20歳になっていないから代行の名前を名乗れるだけで、正当な当主にブロッサム侯爵令嬢がなれば、あの者達にはなんの権限もなくなるのに、なぜそれほど尊大な態度でいるのか疑問だらけだ。
「ブロッサム侯爵令嬢に好きな男性ができた」とビアス侯爵代行が言ったが、王立貴族学園にも通わずデビュタントにも参加せず、お茶会にすら顔を見せないブロッサム侯爵令嬢が、どこで男性と知り合うというのか?
辻褄の合わないことばかりだ。しかし、この式場にはビアス侯爵代行に好意的な招待客ばかりだった。まるでブロッサム侯爵令嬢を尻軽女みたいに批判している。実に気分が悪かった。父上の代わりに列席している私だが、こんな展開になるなど、フロイドからは一切聞いていない。
可哀想にブロッサム侯爵令嬢はいたたまれなくて席を立った。私も少しだけ時間を置いて、外の空気を吸おうと式場から抜け出した。ブロッサム侯爵令嬢が気になり姿を探す。すると、なぜか彼女は護衛騎士とコックから追いかけられていた。
彼女が抱いているウサギは、多分明日の食材だろう。他国では愛玩用に飼うこともあるらしいが、この国のウサギは大抵食用に飼育される。ブロッサム侯爵令嬢はどうやらウサギを救いたいらしい。ここは私が助けてあげるべきだと思う。弟の愚行も詫びたいし、ターナー伯爵家としては、あのような結婚を祝福するわけにはいかない。
コックにはウサギの代価を払い、騎士達は軽く脅しておいた。ビアス侯爵家の正当な跡継ぎを知らないわけがないからだ。知りながらあのビアス侯爵代行の命令に従っているとしたら、お家乗っ取りに加担した大罪人になる。私は暗にそれを匂わした。
ブロッサム侯爵令嬢の後見人はビアス侯爵代行だ。彼女はまだ17歳で二十歳にならないと爵位は継げない。それまでは、誰かが彼女を守ってやらねばならない。それは私の役目だと思う。このまま見捨てるなどできるわけがない。
ブロッサム侯爵令嬢をターナー伯爵家の馬車に乗せ彼女から話を聞いた。やはり好きな男性などいないし、病弱でもなければ頭が弱いわけでもなかった。
☆彡 ★彡
ターナー伯爵家に到着し、私は居間でブロッサム侯爵令嬢にお茶を勧めた。ここにはしばらくいてもらうことになるため、来客用サロンではなく、家族用居間に案内した。ここは亡き母上が愛した部屋で、当時のままのイメージを保つよう心がけていた。
パステルブルーの壁紙は可愛い花柄だ。シャンデリアやシルクシェードのランプは、クリスタルやガラスの装飾が施されており、部屋にきらめく光を拡散している。照明は柔らかく、優雅な雰囲気になっていた。ここは女性が好みそうな空間だ。母上が愛したこの家族用居間を、父上もそのまま維持することを望んだ。
彼女も気に入ってくれると良いが・・・・・・
「素敵なお部屋ですね。私、このお部屋、好きです!」
ブロッサム侯爵令嬢は、ウサギと一緒にキョロキョロと部屋を見回し、にっこりと微笑んだ。とても愛らしい笑みだし、綺麗な女性だと思った。
弟よ。なぜこのような可憐な女性を裏切れたんだ?
そう思いながら、彼女の話をより詳しく聞いていく。コーデリア嬢がフロイドの子供を妊娠したかもしれない、という話には呆れて思わずお茶をこぼしてしまった。
「私の居場所はビアス侯爵家にはありません。だから、家を出てどこかで働こうと思います」
なんと、自分があのビアス侯爵代行の次女だと信じているではないか! 家を出ていくべきなのはビアス侯爵代行夫妻とその娘なんだが、今の彼女に伝えても信じてもらえそうになかった。
「ブロッサム侯爵令嬢。あなたはしばらくここにいてください。田舎暮らしを満喫している父上に急用ができました。王都にも寄らなければならない。外に出てはいけませんよ」
「あのぉ。でしたら、ここの屋敷で仕事をさせてください!」
なにができるのか聞くと、掃除も料理も縫い物もできると言う。メイド代わりにこき使われていたのかもしれない。なんてことだ・・・・・・
「そう言えば、領主として国王陛下に提出する書類を、一人で作成していたと言っていましたね? あれは王立貴族学園を優秀な成績で卒業したとしても、一人でできる量ではありませんよ。通常は専門家を2人ほど雇い、執事達にも手伝わせて作成するものです」
「え? そうなのですか? 道理でたくさん調べることがあると思いました」
朗らかに笑っている様子が、よけいに健気で気の毒に思えた。ここは怒っても良いし、泣いても良いところだろうに、穏やかに微笑む余裕はやはり正当な血筋の者が持つ器なのだろうか。
試しにターナー伯爵家の書類を見せると、すぐさま正確な年次収入報告書を作成しだした。
「ちょっと待って。それは、ブロッサム侯爵令嬢の仕事ではありません。ただ、本当に作成できるのかと試しただけでして、申し訳ない」
「全然構いません。こうして助けてくださったのですから、私のできることでしたらなんでもお手伝いしますわ」
なんと性格も良くて優しい女性だった。父上よ、なぜ、私の婚約者にしてくれなかった? この国では、爵位を継ぐ予定の者同士の結婚も、一般的に問題視されない習慣とされているのに。
☆彡 ★彡
私はすっかり隠居生活を満喫している父上を訪ねた。釣りを楽しみ絵画を気ままに描き、今でも剣の鍛錬を怠らない父上は、隠居生活をするには若々しい風貌だった。
久しぶりに訪ねてきた私を歓迎してくれ、釣った魚を自慢気に自分で焼いてくれた。
「魚もうまいのですが、父上も私と一緒に王都に向かってください。ブロッサム侯爵令嬢が、ずっと叔父から虐待されていた疑いがあります」
私の説明に父上が烈火のごとく怒った。
「友(故ビアス侯爵)が亡くなった時に、儂も共同後見人として、正式な書類を提出しておけば良かった。王都に行き、王に直訴しよう! しかもフロイドめ、儂の親友の愛娘になんてことを・・・・・・儂は申し訳なくて、あの世に逝けんぞ」
「父上、まだあの世に逝く歳ではありませんよ」
故ビアス侯爵に顔向けできないと唇を震わす父上を慰めた。私だって罪は同じだ。弟の婚約者だからと遠慮しないで、もっと交流するようにしていたら、と思うと悔しい。
※(ブロッサム侯爵令嬢視点)
ターナー伯爵家は心地良い。特に家族用居間は寛げてホッとする空間だった。思わず、クリスフォード様に奥様がいるのかと思ったほどだ。でも、婚約者もいないと言われ、この部屋は彼のお母様のお気に入りの部屋だったことを聞かされた。
とても良い趣味をしているわ。きっと素敵な方だったのでしょうね。
柔らかなサテンのカーペットが敷かれ、足元がふんわりとした感触で包まれ、心がふわりと温かくなる。窓から垂れるカーテンは、エレガントな生地で作られ、軽やかな風を受けながら美しく揺れていた。
部屋のあちらこちらには生花やシルクフラワーアレンジメントが飾られ、室内がぱっと明るく華やかな雰囲気になっている。壁や棚には女性らしいアートや装飾品が配置され、家具は繊細なデザインで、白やクリーム、淡いブルーなどの色調で統一されていた。
ソファやクッションも柔らかな素材で仕立てられており、レースとリボンが部屋中に使われ、女性らしいディテールを随所に取り入れている。
個室もいただいて、ここにしばらく置いてくださると言うけれど、なにもしなくて良いのかしら? クリスフォード様は所用ができたと言われ、お出かけになってしまわれた。使用人の方ともまだ碌な挨拶もしていないのに、ひとりぼっちになってしまい困っていた。
そんな時、侍女長のユーラさんに声をかけられた。
「あなたはどこのご令嬢ですか? クリスフォード様の恋人なのでしょうか?」
「まさか、私は・・・・・・私は、平民です!」
自分がビアス侯爵家の次女だとバレたくなかった。もう家族とは一緒にいたくないし、二度とあちらには戻りたくないから。
「だったら使用人として雇われたのでしょうか? 侍女として雇われたのなら、どこの学園出身ですか? 家柄をお伺いしたいです」
「学園は通っておりませんし、平民です!」
ユーラさんが私のドレスに視線を向けた瞬間、私はそのドレスが借り物であると巧みに誤魔化した。
「でしたら、メイドとして雇われたのでしょうか?」
「はい! メイドのお仕着せを貸していただけますか? 今から働かせてください!」
私はにっこりと微笑んだ。なにもしないで待っているなんてできない。
庭園の方に目をやると、ウサギは庭園の一角に小屋を作ってもらうところで、男性の使用人達が小屋作りの作業をしていた。暢気にひなたぼっこを楽しんでいるウサギが私に気づいてピョンピョンと跳ねて来た。
「良かった。ウサギはここに置いてもらえるんですね」
「えぇ。クリスフォード様は動物好きでいらっしゃいますからね」
クリスフォード様が帰ってきたら、一緒に名前を考えたいな。あの方が婚約者だったら良かったのに・・・・・・
☆彡 ★彡ちょこっと侍女ケイティ視点
すごく可愛いご令嬢だった。クリスフォード様が連れてきて、とても愛おしそうに眺めていた。結婚してしまうのだろうか? いったいどこのご令嬢なの?
そう思っていたら、王立貴族学園にも通っていない平民だったなんて。メイドで雇われたと本人が言うのなら事実なのよね? だったら、意地悪してあげよう。クリスフォード様が戻られる前に追い出してやるわ!
だって、私はアイスズ男爵家の三女で、玉の輿を狙ってここに来たんだもの!
私はビアス侯爵代行の話を聞いて呆れていた。弟のフロイドは得意げに、式場に列席している貴族達を眺めている。隣には正当な跡継ぎであるブロッサム侯爵令嬢ではなく、ただのビアス侯爵代行の娘コーデリアが座っていた。
ブロッサム侯爵令嬢がまだ20歳になっていないから代行の名前を名乗れるだけで、正当な当主にブロッサム侯爵令嬢がなれば、あの者達にはなんの権限もなくなるのに、なぜそれほど尊大な態度でいるのか疑問だらけだ。
「ブロッサム侯爵令嬢に好きな男性ができた」とビアス侯爵代行が言ったが、王立貴族学園にも通わずデビュタントにも参加せず、お茶会にすら顔を見せないブロッサム侯爵令嬢が、どこで男性と知り合うというのか?
辻褄の合わないことばかりだ。しかし、この式場にはビアス侯爵代行に好意的な招待客ばかりだった。まるでブロッサム侯爵令嬢を尻軽女みたいに批判している。実に気分が悪かった。父上の代わりに列席している私だが、こんな展開になるなど、フロイドからは一切聞いていない。
可哀想にブロッサム侯爵令嬢はいたたまれなくて席を立った。私も少しだけ時間を置いて、外の空気を吸おうと式場から抜け出した。ブロッサム侯爵令嬢が気になり姿を探す。すると、なぜか彼女は護衛騎士とコックから追いかけられていた。
彼女が抱いているウサギは、多分明日の食材だろう。他国では愛玩用に飼うこともあるらしいが、この国のウサギは大抵食用に飼育される。ブロッサム侯爵令嬢はどうやらウサギを救いたいらしい。ここは私が助けてあげるべきだと思う。弟の愚行も詫びたいし、ターナー伯爵家としては、あのような結婚を祝福するわけにはいかない。
コックにはウサギの代価を払い、騎士達は軽く脅しておいた。ビアス侯爵家の正当な跡継ぎを知らないわけがないからだ。知りながらあのビアス侯爵代行の命令に従っているとしたら、お家乗っ取りに加担した大罪人になる。私は暗にそれを匂わした。
ブロッサム侯爵令嬢の後見人はビアス侯爵代行だ。彼女はまだ17歳で二十歳にならないと爵位は継げない。それまでは、誰かが彼女を守ってやらねばならない。それは私の役目だと思う。このまま見捨てるなどできるわけがない。
ブロッサム侯爵令嬢をターナー伯爵家の馬車に乗せ彼女から話を聞いた。やはり好きな男性などいないし、病弱でもなければ頭が弱いわけでもなかった。
☆彡 ★彡
ターナー伯爵家に到着し、私は居間でブロッサム侯爵令嬢にお茶を勧めた。ここにはしばらくいてもらうことになるため、来客用サロンではなく、家族用居間に案内した。ここは亡き母上が愛した部屋で、当時のままのイメージを保つよう心がけていた。
パステルブルーの壁紙は可愛い花柄だ。シャンデリアやシルクシェードのランプは、クリスタルやガラスの装飾が施されており、部屋にきらめく光を拡散している。照明は柔らかく、優雅な雰囲気になっていた。ここは女性が好みそうな空間だ。母上が愛したこの家族用居間を、父上もそのまま維持することを望んだ。
彼女も気に入ってくれると良いが・・・・・・
「素敵なお部屋ですね。私、このお部屋、好きです!」
ブロッサム侯爵令嬢は、ウサギと一緒にキョロキョロと部屋を見回し、にっこりと微笑んだ。とても愛らしい笑みだし、綺麗な女性だと思った。
弟よ。なぜこのような可憐な女性を裏切れたんだ?
そう思いながら、彼女の話をより詳しく聞いていく。コーデリア嬢がフロイドの子供を妊娠したかもしれない、という話には呆れて思わずお茶をこぼしてしまった。
「私の居場所はビアス侯爵家にはありません。だから、家を出てどこかで働こうと思います」
なんと、自分があのビアス侯爵代行の次女だと信じているではないか! 家を出ていくべきなのはビアス侯爵代行夫妻とその娘なんだが、今の彼女に伝えても信じてもらえそうになかった。
「ブロッサム侯爵令嬢。あなたはしばらくここにいてください。田舎暮らしを満喫している父上に急用ができました。王都にも寄らなければならない。外に出てはいけませんよ」
「あのぉ。でしたら、ここの屋敷で仕事をさせてください!」
なにができるのか聞くと、掃除も料理も縫い物もできると言う。メイド代わりにこき使われていたのかもしれない。なんてことだ・・・・・・
「そう言えば、領主として国王陛下に提出する書類を、一人で作成していたと言っていましたね? あれは王立貴族学園を優秀な成績で卒業したとしても、一人でできる量ではありませんよ。通常は専門家を2人ほど雇い、執事達にも手伝わせて作成するものです」
「え? そうなのですか? 道理でたくさん調べることがあると思いました」
朗らかに笑っている様子が、よけいに健気で気の毒に思えた。ここは怒っても良いし、泣いても良いところだろうに、穏やかに微笑む余裕はやはり正当な血筋の者が持つ器なのだろうか。
試しにターナー伯爵家の書類を見せると、すぐさま正確な年次収入報告書を作成しだした。
「ちょっと待って。それは、ブロッサム侯爵令嬢の仕事ではありません。ただ、本当に作成できるのかと試しただけでして、申し訳ない」
「全然構いません。こうして助けてくださったのですから、私のできることでしたらなんでもお手伝いしますわ」
なんと性格も良くて優しい女性だった。父上よ、なぜ、私の婚約者にしてくれなかった? この国では、爵位を継ぐ予定の者同士の結婚も、一般的に問題視されない習慣とされているのに。
☆彡 ★彡
私はすっかり隠居生活を満喫している父上を訪ねた。釣りを楽しみ絵画を気ままに描き、今でも剣の鍛錬を怠らない父上は、隠居生活をするには若々しい風貌だった。
久しぶりに訪ねてきた私を歓迎してくれ、釣った魚を自慢気に自分で焼いてくれた。
「魚もうまいのですが、父上も私と一緒に王都に向かってください。ブロッサム侯爵令嬢が、ずっと叔父から虐待されていた疑いがあります」
私の説明に父上が烈火のごとく怒った。
「友(故ビアス侯爵)が亡くなった時に、儂も共同後見人として、正式な書類を提出しておけば良かった。王都に行き、王に直訴しよう! しかもフロイドめ、儂の親友の愛娘になんてことを・・・・・・儂は申し訳なくて、あの世に逝けんぞ」
「父上、まだあの世に逝く歳ではありませんよ」
故ビアス侯爵に顔向けできないと唇を震わす父上を慰めた。私だって罪は同じだ。弟の婚約者だからと遠慮しないで、もっと交流するようにしていたら、と思うと悔しい。
※(ブロッサム侯爵令嬢視点)
ターナー伯爵家は心地良い。特に家族用居間は寛げてホッとする空間だった。思わず、クリスフォード様に奥様がいるのかと思ったほどだ。でも、婚約者もいないと言われ、この部屋は彼のお母様のお気に入りの部屋だったことを聞かされた。
とても良い趣味をしているわ。きっと素敵な方だったのでしょうね。
柔らかなサテンのカーペットが敷かれ、足元がふんわりとした感触で包まれ、心がふわりと温かくなる。窓から垂れるカーテンは、エレガントな生地で作られ、軽やかな風を受けながら美しく揺れていた。
部屋のあちらこちらには生花やシルクフラワーアレンジメントが飾られ、室内がぱっと明るく華やかな雰囲気になっている。壁や棚には女性らしいアートや装飾品が配置され、家具は繊細なデザインで、白やクリーム、淡いブルーなどの色調で統一されていた。
ソファやクッションも柔らかな素材で仕立てられており、レースとリボンが部屋中に使われ、女性らしいディテールを随所に取り入れている。
個室もいただいて、ここにしばらく置いてくださると言うけれど、なにもしなくて良いのかしら? クリスフォード様は所用ができたと言われ、お出かけになってしまわれた。使用人の方ともまだ碌な挨拶もしていないのに、ひとりぼっちになってしまい困っていた。
そんな時、侍女長のユーラさんに声をかけられた。
「あなたはどこのご令嬢ですか? クリスフォード様の恋人なのでしょうか?」
「まさか、私は・・・・・・私は、平民です!」
自分がビアス侯爵家の次女だとバレたくなかった。もう家族とは一緒にいたくないし、二度とあちらには戻りたくないから。
「だったら使用人として雇われたのでしょうか? 侍女として雇われたのなら、どこの学園出身ですか? 家柄をお伺いしたいです」
「学園は通っておりませんし、平民です!」
ユーラさんが私のドレスに視線を向けた瞬間、私はそのドレスが借り物であると巧みに誤魔化した。
「でしたら、メイドとして雇われたのでしょうか?」
「はい! メイドのお仕着せを貸していただけますか? 今から働かせてください!」
私はにっこりと微笑んだ。なにもしないで待っているなんてできない。
庭園の方に目をやると、ウサギは庭園の一角に小屋を作ってもらうところで、男性の使用人達が小屋作りの作業をしていた。暢気にひなたぼっこを楽しんでいるウサギが私に気づいてピョンピョンと跳ねて来た。
「良かった。ウサギはここに置いてもらえるんですね」
「えぇ。クリスフォード様は動物好きでいらっしゃいますからね」
クリスフォード様が帰ってきたら、一緒に名前を考えたいな。あの方が婚約者だったら良かったのに・・・・・・
☆彡 ★彡ちょこっと侍女ケイティ視点
すごく可愛いご令嬢だった。クリスフォード様が連れてきて、とても愛おしそうに眺めていた。結婚してしまうのだろうか? いったいどこのご令嬢なの?
そう思っていたら、王立貴族学園にも通っていない平民だったなんて。メイドで雇われたと本人が言うのなら事実なのよね? だったら、意地悪してあげよう。クリスフォード様が戻られる前に追い出してやるわ!
だって、私はアイスズ男爵家の三女で、玉の輿を狙ってここに来たんだもの!
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