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10 陽斗視点 (陽斗と樹理のざまぁ)
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ジュエリーブルダンなんて行かなければ良かった。あの場には近所の主婦たちも数人いたらしく、おしゃべりな女たちは尾ひれをつけたあげく、SNSでも拡散した。
『太田宝石店の店主は内助の功で売り上げを支える妻を蔑ろにし、なんと妻の親友と浮気をしていた。店主の両親は痴呆症を患っており、その介護は丸投げだった』
『太田宝石店の店主はモラハラだった。妻にいつも嫌がらせや脅迫、侮辱的な言葉を投げつけていた。時には手をあげることもあったらしい』
嘘ばかりの悪意のある噂が、ネット上で拡散された。当然、店に来る客はひとりもいなくなった。元々、常連のお得意様相手の商売だったこともあり、すぐに経営に行き詰まった。
請求書の山を見つめながら放心状態でいると、家庭裁判所から通知書が送付されてきた。その通知書には調停の日時や場所、必要な書類の提出期限などが記載されていた。樹理も同じように賢星さんから離婚を突きつけられていた。
浮気なんてもっと簡単に考えていたんだ。これほど、大事になるなんて思っていなかった。樹理から食事に誘われたのがきっかけだったが、肌を合わせることに罪悪感を覚えたのは最初の2回ぐらいだ。あとはすっかり慣れてしまい、当然のように定期的に密会していた。
一線を越えると、罪悪感なんてどっかにいってしまうんだ。それどころか、この浮気があるから、家庭がうまくいっていると考え始めた。これは必要悪なんだと自分を正当化していたんだ。
結果として僕はあかねに200万、賢星さんに150万を支払うことになった。樹理も同じような金額で、僕たちは合計700万ほどのお金を用意しなければならなかった。
店舗付き住宅を売却し金に替え、残りの売却代金で別の土地に引っ越した。どこに引っ越しても人目が気になった。SNSでは僕や母さんに父さんの顔までが拡散されているらしい。まるで犯罪者扱いで、あまりに酷すぎる。外出時にはサングラスをかけ帽子を被り、顔を隠すようになった。宝飾師の仕事に就こうとしても、面接で落とされた。
あかねの能力を見くびりすぎた。広瀬社長やお得意様たちの影響力を知らなすぎた。
☆彡 ★彡
それからの僕は工事現場の日雇い労働者として働いている。まるで専門外の仕事だし夢も希望もない。ただ、生活のために働く毎日だ。美優も瑠奈もますます我が儘で手がつけられなくなっていく。そのうち、仕事がなくなった僕の両親は認知症になっていった。生き甲斐がなくなった老人はやはり呆けるのが早いのだろうか。ご飯を食べたことも忘れ、自分が誰なのかも忘れ、息子の僕の顔も忘れ・・・・・・
しかし、施設に入れる金など全くないんだ。
さらに、美優と瑠奈は登校拒否になり、ぐれて家庭内で暴力を振るい出す。家のお金を盗んでは家出をして、帰ってきては金をせびる。
死にたい・・・・・・いや、こいつらを皆葬り去りたい。いやいや、そんなことをしたら犯罪者だ。でも、たまに思うんだ。自分でトイレにも行けなくなった呆けた両親と、ぐれて金をせびるしかしない美優と瑠奈が、目の前から消えてくれたらどんなに良いだろうって・・・・・・
ここは地獄だ。そして、樹理も同じようなことを言った。
「皆、いなくなっちゃえば良いのにね」
樹理は昼間は近所のスーパーで働き、夜はスナックで働いている。かつてはとても可愛かった樹理だが、今では年齢よりはずっと老け、娘たちが帰ってくるたびに殴られるから、いつもどこかに青あざを作っている。
どうして、あかねのようなできた嫁を裏切ってしまったんだろう? あかねに会いたい。離婚して10年以上が経っている今となっては、どこでなにをしているのかもわからない。かつての勤め先であるジュエリーブルダンの店先を覗きに行ったが、あかねの姿はなかった。
ある日、テレビをつけると、あかねが画面に映っていた。複数の店舗を構える宝石店の女社長として優雅に微笑むその顔は、昔よりずっと綺麗でむしろ若返っているようにも見える。その夫として紹介されたのは、なんと賢星さんだった。いろいろな業界の成功者を紹介するその番組では、二人のなれ初めが続いた。
「実のところ、私たちは再婚なんですよ。前の夫が私の親友と浮気をしておりましてね。親友の夫が今の私の夫になりました」
「まぁー、そうなのですね。裏切られた者同士で意気投合したというかんじですか?」
「えぇ、そんなかんじですわね。でもね、今となっては、かつての夫にお礼を言いたいぐらいです。私の親友と浮気をしてくれたから、今の私があるのですから」
「あーー。ということは、かつての旦那様のことは少しも恨んでいないのですね。とてもポジティブな考え方で素晴らしいですね」
「ありがとうございます。そう、全く恨んでいません。むしろ、感謝しております。そして、かつての夫の幸せも願っていますよ。きっと、あの人も本当に好きな女性と一緒になって、幸せになっていると思います」
一点の曇りもない笑顔がまぶしかった。きっと、あかねは僕の現状を知っている。あかねの顔が復讐をやり遂げた達成感に満ちた顔に見えたんだ。
そして、僕は今日も貧困に悩み介護に明け暮れ、夜中に見つめるのは・・・・・・研ぎ澄まされた包丁なのだった。
୨୧⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒୨୧
※暗いざまぁになりました。この先の地獄絵図が想像できるような終わり方になりますが、ここで陽斗と樹理のざまぁは終わりとなり、次回はあかねと賢星のロマンスになります。二人のハッピーエンドで完結とします。
『太田宝石店の店主は内助の功で売り上げを支える妻を蔑ろにし、なんと妻の親友と浮気をしていた。店主の両親は痴呆症を患っており、その介護は丸投げだった』
『太田宝石店の店主はモラハラだった。妻にいつも嫌がらせや脅迫、侮辱的な言葉を投げつけていた。時には手をあげることもあったらしい』
嘘ばかりの悪意のある噂が、ネット上で拡散された。当然、店に来る客はひとりもいなくなった。元々、常連のお得意様相手の商売だったこともあり、すぐに経営に行き詰まった。
請求書の山を見つめながら放心状態でいると、家庭裁判所から通知書が送付されてきた。その通知書には調停の日時や場所、必要な書類の提出期限などが記載されていた。樹理も同じように賢星さんから離婚を突きつけられていた。
浮気なんてもっと簡単に考えていたんだ。これほど、大事になるなんて思っていなかった。樹理から食事に誘われたのがきっかけだったが、肌を合わせることに罪悪感を覚えたのは最初の2回ぐらいだ。あとはすっかり慣れてしまい、当然のように定期的に密会していた。
一線を越えると、罪悪感なんてどっかにいってしまうんだ。それどころか、この浮気があるから、家庭がうまくいっていると考え始めた。これは必要悪なんだと自分を正当化していたんだ。
結果として僕はあかねに200万、賢星さんに150万を支払うことになった。樹理も同じような金額で、僕たちは合計700万ほどのお金を用意しなければならなかった。
店舗付き住宅を売却し金に替え、残りの売却代金で別の土地に引っ越した。どこに引っ越しても人目が気になった。SNSでは僕や母さんに父さんの顔までが拡散されているらしい。まるで犯罪者扱いで、あまりに酷すぎる。外出時にはサングラスをかけ帽子を被り、顔を隠すようになった。宝飾師の仕事に就こうとしても、面接で落とされた。
あかねの能力を見くびりすぎた。広瀬社長やお得意様たちの影響力を知らなすぎた。
☆彡 ★彡
それからの僕は工事現場の日雇い労働者として働いている。まるで専門外の仕事だし夢も希望もない。ただ、生活のために働く毎日だ。美優も瑠奈もますます我が儘で手がつけられなくなっていく。そのうち、仕事がなくなった僕の両親は認知症になっていった。生き甲斐がなくなった老人はやはり呆けるのが早いのだろうか。ご飯を食べたことも忘れ、自分が誰なのかも忘れ、息子の僕の顔も忘れ・・・・・・
しかし、施設に入れる金など全くないんだ。
さらに、美優と瑠奈は登校拒否になり、ぐれて家庭内で暴力を振るい出す。家のお金を盗んでは家出をして、帰ってきては金をせびる。
死にたい・・・・・・いや、こいつらを皆葬り去りたい。いやいや、そんなことをしたら犯罪者だ。でも、たまに思うんだ。自分でトイレにも行けなくなった呆けた両親と、ぐれて金をせびるしかしない美優と瑠奈が、目の前から消えてくれたらどんなに良いだろうって・・・・・・
ここは地獄だ。そして、樹理も同じようなことを言った。
「皆、いなくなっちゃえば良いのにね」
樹理は昼間は近所のスーパーで働き、夜はスナックで働いている。かつてはとても可愛かった樹理だが、今では年齢よりはずっと老け、娘たちが帰ってくるたびに殴られるから、いつもどこかに青あざを作っている。
どうして、あかねのようなできた嫁を裏切ってしまったんだろう? あかねに会いたい。離婚して10年以上が経っている今となっては、どこでなにをしているのかもわからない。かつての勤め先であるジュエリーブルダンの店先を覗きに行ったが、あかねの姿はなかった。
ある日、テレビをつけると、あかねが画面に映っていた。複数の店舗を構える宝石店の女社長として優雅に微笑むその顔は、昔よりずっと綺麗でむしろ若返っているようにも見える。その夫として紹介されたのは、なんと賢星さんだった。いろいろな業界の成功者を紹介するその番組では、二人のなれ初めが続いた。
「実のところ、私たちは再婚なんですよ。前の夫が私の親友と浮気をしておりましてね。親友の夫が今の私の夫になりました」
「まぁー、そうなのですね。裏切られた者同士で意気投合したというかんじですか?」
「えぇ、そんなかんじですわね。でもね、今となっては、かつての夫にお礼を言いたいぐらいです。私の親友と浮気をしてくれたから、今の私があるのですから」
「あーー。ということは、かつての旦那様のことは少しも恨んでいないのですね。とてもポジティブな考え方で素晴らしいですね」
「ありがとうございます。そう、全く恨んでいません。むしろ、感謝しております。そして、かつての夫の幸せも願っていますよ。きっと、あの人も本当に好きな女性と一緒になって、幸せになっていると思います」
一点の曇りもない笑顔がまぶしかった。きっと、あかねは僕の現状を知っている。あかねの顔が復讐をやり遂げた達成感に満ちた顔に見えたんだ。
そして、僕は今日も貧困に悩み介護に明け暮れ、夜中に見つめるのは・・・・・・研ぎ澄まされた包丁なのだった。
୨୧⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒୨୧
※暗いざまぁになりました。この先の地獄絵図が想像できるような終わり方になりますが、ここで陽斗と樹理のざまぁは終わりとなり、次回はあかねと賢星のロマンスになります。二人のハッピーエンドで完結とします。
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