(完)大好きなお姉様、なぜ?ー夫も子供も奪われた私

青空一夏

文字の大きさ
上 下
11 / 15

11 公爵婦人教育始まる(マリーside) /  やぶ蛇だわよ(ローズside)

しおりを挟む
ーマリーsideー



「マリーちゃん。今日からあなたの授業を始めますよ。社交界の貴夫人達の力関係と交友関係について私が教えましょう。爵位だけでは測れない影響力についてです。彼女達の力関係は教養と話術・領地経営の成功度・資産や派閥によって微妙に変わります。異なるバックグランドをもった方達と上手にお付き合いをするには、まずはその方達のことをよく知らなければね。誰と誰の仲が良好なのかそうでないのか等、いくつかある派閥の掌握も重要です。狸顔の天然ぶりっ子や女狐嫌み女の攻撃を鮮やかにかわし、こちら側につかせる人たらし術……あら、間違えたわ。ゲフン、ゴホン、社交界の優雅なご婦人方と楽しい友好関係を築く極意といった方がいいわね。このようなものを伝授しますわ」

「はい? デスティニー公爵夫人、家庭教師の私にそのようなものが必要でしょうか? 社交界に最後に顔を出したのはもう2年ほど前ですわ。これからも夜会などには行くつもはありませんし……今の私は爵位も持たない離婚歴のある子持ちの女ですから……」

「これはエルサに教えてもらう為ですよ。エルサはマリーちゃんの言うことならなんでも素直に聞きますからね」
にっこりと笑ったデスティニー公爵夫人にマリーは納得顔で頷いた。

「かしこまりました。もうエルサ様はそのようなお勉強をするのですね? 社交界デビューはずっと先ですのに……さすがデスティニー公爵令嬢ですわね。私、ちゃんとエルサ様に教えられるように頑張ります」

その言葉に満足気に頷いたデスティニー公爵夫人の向かい側のソファでフィンレーは楽しげに笑って言う。
「それほど気張ることはないよ。マリーなら上手にこなせるさ。なにかあれば俺が守るし安心していい」
極甘な眼差しでマリーを見つめながら、いつものようにチョコレイトをマリーの舌に乗せるのだった。

「あのぉ、妹のように思っていただくのは嬉しいのですがこれはさすがに恥ずかしいです。デスティニー公爵夫人も見ていらっしゃいますし……エルサ様になさってください」

「え! マリー先生。お兄様からそんなことされるなんて私は嫌よ! あーん、なんて妹にはしませんわ。そういったことは恋人同士しかしないことではないかしら?……マリー先生って……鈍……コホン、えっとなんでもないわ。お兄様! このチョコレイトはとてもおいしいですわねぇ」
エルサはマリーを鈍いと言おうとして慌ててその言葉を引っ込めたのである。それは兄に怖い顔で睨まれたからで、どうやらフィンレーはまだマリーに愛の告白をしていないようだった。

(もうとっくに告白したのかと思っていたのに……お兄様はなし崩し的に結婚に持ち込む作戦ね。マリー先生がお姉様になってくれたら最高に嬉しいから応援しなくっちゃ)

「マリー先生! 一緒にお母様と夜会に出て私にいろいろと教えてくださいませ。やはり実際に現場体験しませんと私にちゃんと教えられないでしょう? そうだ、エスコートはフィンレーお兄様にお願いすればいいわ。とてもお似合いよ」
エルサの援護射撃にフィンレーは嬉しそうに微笑み、デスティニー公爵夫人も満面の笑みを浮かべたのである。

「それはとてもいい案だね。それならマリーのドレスは俺がプレゼントしよう。また一緒に買い物に行こう」
フィンレーはラインハルトを抱き上げながらマリーに言うと、なんとラインハルトはフィンレーに向かい初めての言葉を発した。

「パパーー!!」

マリーはすっかり困惑していたが、フィンレーは「うん、なんて賢い子だ」と目を細めたのであった。




ローズside


ある日の昼下がり、異常に膨らんだお腹を抱えたローズとライアンは吐き気を必死で抑えながらデスティニー公爵家のサロンの豪華なソファに座っていた。

「さて、なんの用だ? 俺はとても忙しい。早く要件を言いたまえ」
尊大なフィンレーにローズは思わずかっとなるが、なんとか怒りを収めて猫なで声を出そうとしていた。

「実はマリーにキャメロン伯爵位を譲ろうと思うのです。マリーは隣国の有名な学園を上位で卒業した才女ですし領地経営も私よりうまくこなせるはず……」

「ふーーん。領地経営がすっかり傾き負債だらけのキャメロン家をマリーが継ぐメリットはどこにあるんだ? 彼女にはもうすでに新たな地位が待っているのに」

「「え! どういう意味ですか?」」
ローズとライアンが口を揃えて疑問を口にするが、フィンレーは構わず先の言葉を紡いだ。

「だが、まぁラインハルトの為にはなるか……いいだろう、その爵位をマリーに譲ってもらおうか」
フィンレーの言葉にライアンは思わずにやけて目をギラギラと輝かせた。

「それで、お金なのですが……3億ポンス(1ポンス=1円)で……」
ライアンの金額提示にフィンレーが手を振った。

「あぁ、君らから金を取るつもりはないから安心しろ。マリーへの慰謝料の話だろう? いつその話をもってくるのかとイライラしていたが、やっとこのタイミングで聞けたわけだ。慰謝料はその爵位で良しとしよう。負債だらけのキャメロン伯爵家などたいした価値はないが、これから立て直しラインハルトが継ぐ頃にはマリーと俺とで今の数倍もいい領地にしてやるさ。では、話はこれでおしまいだ。ごきげんよう!」

「え! えぇ~~! ちょ、ちょっとお待ちを! フィンレー様!」
「しつこいな! まだ不満があるのなら裁判にかけてもいいぞ! ローズと不倫をしマリーを軟禁させたライアンの罪は軽くはないだろうな。妹の夫と不倫をし軟禁した姉の罪はもっと重い。無理矢理、子供を奪ったという経緯も加味すれば誘拐罪も適用される。デスティニー公爵家はどんなことがあってもマリーを守る。俺を敵にまわす覚悟はあるか?」

「あ、ありません……帰りますから……」
「うん、気をつけて帰るがいい。爵位譲渡の手続きはたった今済んだ。なぜなら、この会談のやり取りは実況中継魔術で陛下にもお見せしている。陛下、キャメロン伯爵家の当主をマリーに変更することの認可をお願いします」
フィンレーがサロンに鎮座する大きな水晶球に声をかけると国王陛下の厳めしい顔が映し出されたのだった。
しおりを挟む
感想 87

あなたにおすすめの小説

【完結】返してください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと我慢をしてきた。 私が愛されていない事は感じていた。 だけど、信じたくなかった。 いつかは私を見てくれると思っていた。 妹は私から全てを奪って行った。 なにもかも、、、、信じていたあの人まで、、、 母から信じられない事実を告げられ、遂に私は家から追い出された。 もういい。 もう諦めた。 貴方達は私の家族じゃない。 私が相応しくないとしても、大事な物を取り返したい。 だから、、、、 私に全てを、、、 返してください。

王宮で虐げられた令嬢は追放され、真実の愛を知る~あなた方はもう家族ではありません~

葵 すみれ
恋愛
「お姉さま、ずるい! どうしてお姉さまばっかり!」 男爵家の庶子であるセシールは、王女付きの侍女として選ばれる。 ところが、実際には王女や他の侍女たちに虐げられ、庭園の片隅で泣く毎日。 それでも家族のためだと耐えていたのに、何故か太り出して醜くなり、豚と罵られるように。 とうとう侍女の座を妹に奪われ、嘲笑われながら城を追い出されてしまう。 あんなに尽くした家族からも捨てられ、セシールは街をさまよう。 力尽きそうになったセシールの前に現れたのは、かつて一度だけ会った生意気な少年の成長した姿だった。 そして健康と美しさを取り戻したセシールのもとに、かつての家族の変わり果てた姿が…… ※小説家になろうにも掲載しています

え、幼馴染みを愛している? 彼女の『あの噂』のこと、ご存じないのですか?

水上
恋愛
「おれはお前ではなく、幼馴染である彼女を愛しているんだ」 子爵令嬢である私、アマンダ・フィールディングは、婚約者であるサム・ワイスマンが連れて来た人物を見て、困惑していた。 彼が愛している幼馴染というのは、ボニー・フルスカという女性である。 しかし彼女には、『とある噂』があった。 いい噂ではなく、悪い噂である。 そのことをサムに教えてあげたけれど、彼は聞く耳を持たなかった。 彼女はやめておいた方がいいと、私はきちんと警告しましたよ。 これで責任は果たしました。 だからもし、彼女に関わったせいで身を滅ぼすことになっても、どうか私を恨まないでくださいね?

【完結】裏切ったあなたを許さない

紫崎 藍華
恋愛
ジョナスはスザンナの婚約者だ。 そのジョナスがスザンナの妹のセレナとの婚約を望んでいると親から告げられた。 それは決定事項であるため婚約は解消され、それだけなく二人の邪魔になるからと領地から追放すると告げられた。 そこにセレナの意向が働いていることは間違いなく、スザンナはセレナに人生を翻弄されるのだった。

【完結】待ってください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ルチアは、誰もいなくなった家の中を見回した。 毎日家族の為に食事を作り、毎日家を清潔に保つ為に掃除をする。 だけど、ルチアを置いて夫は出て行ってしまった。 一枚の離婚届を机の上に置いて。 ルチアの流した涙が床にポタリと落ちた。

両親から溺愛されている妹に婚約者を奪われました。えっと、その婚約者には隠し事があるようなのですが、大丈夫でしょうか?

水上
恋愛
「悪いけど、君との婚約は破棄する。そして私は、君の妹であるキティと新たに婚約を結ぶことにした」 「え……」  子爵令嬢であるマリア・ブリガムは、子爵令息である婚約者のハンク・ワーナーに婚約破棄を言い渡された。  しかし、私たちは政略結婚のために婚約していたので、特に問題はなかった。  昔から私のものを何でも奪う妹が、まさか婚約者まで奪うとは思っていなかったので、多少驚いたという程度のことだった。 「残念だったわね、お姉さま。婚約者を奪われて悔しいでしょうけれど、これが現実よ」  いえいえ、べつに悔しくなんてありませんよ。  むしろ、政略結婚のために嫌々婚約していたので、お礼を言いたいくらいです。  そしてその後、私には新たな縁談の話が舞い込んできた。  妹は既に婚約しているので、私から新たに婚約者を奪うこともできない。  私は家族から解放され、新たな人生を歩みだそうとしていた。  一方で、私から婚約者を奪った妹は後に、婚約者には『とある隠し事』があることを知るのだった……。

お姉様のお下がりはもう結構です。

ぽんぽこ@書籍発売中!!
恋愛
侯爵令嬢であるシャーロットには、双子の姉がいた。 慎ましやかなシャーロットとは違い、姉のアンジェリカは気に入ったモノは手に入れないと気が済まない強欲な性格の持ち主。気に入った男は家に囲い込み、毎日のように遊び呆けていた。 「王子と婚約したし、飼っていた男たちはもう要らないわ。だからシャーロットに譲ってあげる」 ある日シャーロットは、姉が屋敷で囲っていた四人の男たちを預かることになってしまう。 幼い頃から姉のお下がりをばかり受け取っていたシャーロットも、今回ばかりは怒りをあらわにする。 「お姉様、これはあんまりです!」 「これからわたくしは殿下の妻になるのよ? お古相手に構ってなんかいられないわよ」 ただでさえ今の侯爵家は経営難で家計は火の車。当主である父は姉を溺愛していて話を聞かず、シャーロットの味方になってくれる人間はいない。 しかも譲られた男たちの中にはシャーロットが一目惚れした人物もいて……。 「お前には従うが、心まで許すつもりはない」 しかしその人物であるリオンは家族を人質に取られ、侯爵家の一員であるシャーロットに激しい嫌悪感を示す。 だが姉とは正反対に真面目な彼女の生き方を見て、リオンの態度は次第に軟化していき……? 表紙:ノーコピーライトガール様より

【完結】さよなら私の初恋

山葵
恋愛
私の婚約者が妹に見せる笑顔は私に向けられる事はない。 初恋の貴方が妹を望むなら、私は貴方の幸せを願って身を引きましょう。 さようなら私の初恋。

処理中です...