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9 公爵家で大事にされるマリー / ローズとライアンのつわり地獄
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※ローズの場面ではお食事中は読むのに注意です! お食事が終わってから読んでくださいね。
マリーは公爵家で大事にされる(マリーside)
「さぁて、ラインハルトちゃんはこちらにいらっしゃい。マリー先生は今日はお休みよ。家庭教師も母親業も全部休んで楽しい一日にしてちょうだい。そうね、今日は素晴らしいお天気だしおしゃれでもしてお買い物にでも行ってらっしゃいよ」
デスティニー公爵夫人がにこやかに提案するが、マリーはその気にはなれないのだった。
「おしゃれはもう少し子供が大きくなってからでいいですし、お買い物はありませんわ」
「マリー先生。最近とても流行っているチョコレイトというお菓子を知っていますか? 一口食べるだけでとても幸せな気分になるのだとか……私、是非食べてみたいわ……一緒に行きませんこと?」
エルサがマリーに抱きつき、ふっくらした頬に可愛いえくぼを浮かべた。
「あら、いけませんよ。エルサは今日は屋敷にいてちょうだい」
デスティニー公爵婦人に窘められたエルサは途端にショボンと項垂れた。
「私が買ってきてあげるわ。それほどお高い物でないなら……」
「まぁ、お金はデスティニー公爵家が出しますよ。エルサの分だけではなく20箱ほど買ってきてもらっていいかしら?」
マリーはあれよあれよという間に、今話題のスイーツを買い出しに行くというお使いをデスティニー公爵夫人から頼まれたのだった。
話題の商店街まで歩いて行こうとしたマリーがデスティニー公爵家の屋敷を出ると、馬車がすっと前に止まり馬車の扉が開かれ中からフィンレーが手招きをしている。
「さぁ、乗って! 俺は今日、母上から荷物持ちを言いつかっているからね」
「え? 荷物持ちですか?」
「そう、菓子を20箱も買ってくるんだろう? 君のかぼそい腕じゃぁ持ちきれないと思うよ。それに俺は今日甘い物が無性に食ベたくてね、付き合ってくれるだろう? 女性ばかりがいる話題のカフェでパフェってものが食べてみたい」
棒読み口調でそう言うフィンレーに思わず笑って頷いたマリーだった。
エルサ情報によれば甘い菓子は苦手で辛党のはずのフィンレー。きっと無理をして自分を元気づけようとしているのだとマリーは思ったのである。その心遣いにマリーの心がふんわりと優しい気持ちで満たされる。
実の姉や夫だった男には子供を産む製造器のように扱われたけれど、血のつながらないデスティニー公爵家では家族のように大事にされていることに感謝した。
「マリーはデスティニー公爵家ではたくさん甘えていいんだよ。君はエルサが姉のように慕っている存在だから俺も……」
「えぇ、わかります。妹のように思ってくださっているのですよね? ありがとうございます」
マリーの言葉にフィンレーが困ったような微笑みを向けた。
「あぁ……う、うん。そうだね、今はそんな感じでいいよ。今はね」
「?」
マリーはほんの少し小首を傾げた。
馬車の窓から入り込むそよ風はマリーを切なく見つめるフィンレーの横顔を撫で、マリーの髪を優しく揺らしたのだった。
一方、ローズは
「六つ子ですな! これはすごいことですよ。しかも母体もすこぶる健康。まさに魔法のようです」
医者が叫ぶその言葉にローズは心の中で悪態をついた。
(そうよ、魔法そのものよ! お偉い宮廷魔法使いが呪いをかけたのよ。六つ子! ありえないわ。しかもこれほどつわりが酷いのに私は健康体で余裕で出産できると医者が太鼓判を押す異常事態! あぁ、なんて悪夢なの! うぇぇ~~気持ち悪いぃぃいいぃい!)
ライアンもなぜかローズと同じようにつわりの症状が出ていた。
「うげぇ~~! げぇ~~! うっぷ!! この気持ち悪さはなんだ? それからいつもの整髪料が臭くてたまらないよ。パンの焼ける匂いもダメだ。あぁ、すべての匂いに敏感になっているよ。げぇえぇえぇえーー」
夫婦そろって吐いては食べて、食べては吐いて……つわりの時期は通常安定期までと思われていたがローズの場合は出産直前まで吐き気に悩まされライアンも同様だった。
毎日、毎日キャメロン伯爵家では嘔吐に苦しむ夫婦の声が響いていたのである。
マリーは公爵家で大事にされる(マリーside)
「さぁて、ラインハルトちゃんはこちらにいらっしゃい。マリー先生は今日はお休みよ。家庭教師も母親業も全部休んで楽しい一日にしてちょうだい。そうね、今日は素晴らしいお天気だしおしゃれでもしてお買い物にでも行ってらっしゃいよ」
デスティニー公爵夫人がにこやかに提案するが、マリーはその気にはなれないのだった。
「おしゃれはもう少し子供が大きくなってからでいいですし、お買い物はありませんわ」
「マリー先生。最近とても流行っているチョコレイトというお菓子を知っていますか? 一口食べるだけでとても幸せな気分になるのだとか……私、是非食べてみたいわ……一緒に行きませんこと?」
エルサがマリーに抱きつき、ふっくらした頬に可愛いえくぼを浮かべた。
「あら、いけませんよ。エルサは今日は屋敷にいてちょうだい」
デスティニー公爵婦人に窘められたエルサは途端にショボンと項垂れた。
「私が買ってきてあげるわ。それほどお高い物でないなら……」
「まぁ、お金はデスティニー公爵家が出しますよ。エルサの分だけではなく20箱ほど買ってきてもらっていいかしら?」
マリーはあれよあれよという間に、今話題のスイーツを買い出しに行くというお使いをデスティニー公爵夫人から頼まれたのだった。
話題の商店街まで歩いて行こうとしたマリーがデスティニー公爵家の屋敷を出ると、馬車がすっと前に止まり馬車の扉が開かれ中からフィンレーが手招きをしている。
「さぁ、乗って! 俺は今日、母上から荷物持ちを言いつかっているからね」
「え? 荷物持ちですか?」
「そう、菓子を20箱も買ってくるんだろう? 君のかぼそい腕じゃぁ持ちきれないと思うよ。それに俺は今日甘い物が無性に食ベたくてね、付き合ってくれるだろう? 女性ばかりがいる話題のカフェでパフェってものが食べてみたい」
棒読み口調でそう言うフィンレーに思わず笑って頷いたマリーだった。
エルサ情報によれば甘い菓子は苦手で辛党のはずのフィンレー。きっと無理をして自分を元気づけようとしているのだとマリーは思ったのである。その心遣いにマリーの心がふんわりと優しい気持ちで満たされる。
実の姉や夫だった男には子供を産む製造器のように扱われたけれど、血のつながらないデスティニー公爵家では家族のように大事にされていることに感謝した。
「マリーはデスティニー公爵家ではたくさん甘えていいんだよ。君はエルサが姉のように慕っている存在だから俺も……」
「えぇ、わかります。妹のように思ってくださっているのですよね? ありがとうございます」
マリーの言葉にフィンレーが困ったような微笑みを向けた。
「あぁ……う、うん。そうだね、今はそんな感じでいいよ。今はね」
「?」
マリーはほんの少し小首を傾げた。
馬車の窓から入り込むそよ風はマリーを切なく見つめるフィンレーの横顔を撫で、マリーの髪を優しく揺らしたのだった。
一方、ローズは
「六つ子ですな! これはすごいことですよ。しかも母体もすこぶる健康。まさに魔法のようです」
医者が叫ぶその言葉にローズは心の中で悪態をついた。
(そうよ、魔法そのものよ! お偉い宮廷魔法使いが呪いをかけたのよ。六つ子! ありえないわ。しかもこれほどつわりが酷いのに私は健康体で余裕で出産できると医者が太鼓判を押す異常事態! あぁ、なんて悪夢なの! うぇぇ~~気持ち悪いぃぃいいぃい!)
ライアンもなぜかローズと同じようにつわりの症状が出ていた。
「うげぇ~~! げぇ~~! うっぷ!! この気持ち悪さはなんだ? それからいつもの整髪料が臭くてたまらないよ。パンの焼ける匂いもダメだ。あぁ、すべての匂いに敏感になっているよ。げぇえぇえぇえーー」
夫婦そろって吐いては食べて、食べては吐いて……つわりの時期は通常安定期までと思われていたがローズの場合は出産直前まで吐き気に悩まされライアンも同様だった。
毎日、毎日キャメロン伯爵家では嘔吐に苦しむ夫婦の声が響いていたのである。
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