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8 マリーの明るい未来 / ローズの懐妊(コメディー風味)

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「ここにライアン・フェリーとマリー・フェリーとの離婚を認める。……」
貴族籍管理課のお役所でマリーは証人フィンレーとワイアットに見守られながらライアンとの婚姻を解消した。

「なにか言うべき言葉があるよな?」
フィンレーの催促にライアンは嬉しげに答えた。
「この度は証人になっていただいてありがとうございます。しかもローズの体を壮健にしてくださり……」
「ちっ! そうではない! 俺にではなくマリーに言うべき言葉があるだろう? マリーと結婚しながらキャメロン女伯爵と浮気……いやキャメロン女伯爵と恋仲にありながらマリーと結婚をしたお前は、土下座を何万回しようとも本来なら許れるべきではないのだぞ!」

「あぁ、そのことですか……。マリー、すまないね。僕は君を愛しているよ……でもローズとは以前から恋人同士だったし……」

(愛している、という言葉が今日ほど軽薄に聞こえた瞬間はないわ。お姉様とライアンの言葉を勘案すれば彼らは私を利用しようとしただけだ。そこに愛はない。むしろ愛とは真逆に位置する悪意と蔑みしか感じないわよ)

「謝っていただく必要はないです。許すつもりもありませんし、男性がいかに信用に値しないか学べただけでも感謝ですわ」
マリーはそっけなくそう言ってお役所の大きな窓から差し込む強烈な西日に心が渇いて干上がっていきそうな感覚に陥る。

男性不信……マリーが自分では気づかずにこのような思いを抱え始める瞬間だった。

気丈に振る舞いながらも捨てられた子猫のような不安定な色を浮かべるマリーを感じ取ったフィンレーはマリーの手をしっかりと握りしめた。
「聞いて、マリー。男はライアンのような奴ばかりじゃないよ。むしろ、こんなのは珍しい。大丈夫。これからゆっくり傷を癒やしていけばいいからね。デスティニー公爵家の者は全員マリーの味方だよ」

握られた手から暖かい体温が伝わりマリーはほんの少し口元を緩めたのだった。まだ形になっていないなにかが芽生えた瞬間だった。それは優しい楽しい予感のするなにかだ。









一方、ローズはというと……
「おかしいわ。いつも体が火照っていてなんていうか……その……」
起きている間中ずっと考えているのは……ばかり。欲しくてたまらないのは男性だった。ローズはすでにライアンと結婚し新妻として夫の帰りを屋敷で待っている。


フィンレーがローズに後から追加した呪文は戦渦の子増誘術。鼠式多産鬼祈願である。
かつて大きな戦が幾多も続き混沌とした時代に戦死や餓死、病死で人民の数が激減したことがあった。その際になされた国家的政策秘魔法。『産めよ、育てよ』の国策で妊娠できる女性は際限なく子供を産ませられた闇魔法であった。


「ただいま!」
満面の笑みで帰ってきたライアンにローズはドレスを自ら脱いで抱きついた。もちろん、頭の中では最も恐れている結果を生み出す行為をするために。

「愛しい人。いいよ、いっぱいしてあげる。フットボールチームを作れるよ」
その言葉にぞっとしながらもローズの体は抵抗できない。だが心の中では壮絶な戦いを繰り広げていたのである。


(やめてよ、産みたくない! 子供なんて嫌よぉおおおぉおお~~! 懐妊回避術、始動! 子種殲滅作戦開始、回避! 殲滅! 無効化! 受精阻止術!!! くっ……こ、これは無理……なんでこんなに何回もするのよぉおおお!)

そしてローズは疲れ果て意識を失い、その間にもせっせと事に励んだライアンの成果が実を結ぶ。

「おめでとうございます! 懐妊ですな。ん? しかし、これは1人ではないなぁ……なんとまぁ」

医師がおったまげるような悲鳴をあげたのだった。
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