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6 俺は宮廷魔法使い(フィンレーside) 姉の断罪の始まりーコメディー風味

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フィンレーside

俺は弟のワイアットが赤い眼をしてキャメロン女伯爵の腰を抱いているのを見て、魔法をまず疑った。ワイアットは生真面目で婚約者のジュリア一筋の男だ。それがこうなるということはそれしか考えられなかったのである。

「汝捕らわれた罠より今こそ目覚めよ。忌まわしき術は溶氷の如く消え去れ! 浄化解術!」
俺はごく小さな声で詠唱しワイアットの頬を物理的にもビンタする。赤い眼が次第に元のブラウンに戻り始め、これが魔法だったことを確信した。おそらくは魅了の魔法、禁忌の闇魔法だ。

「キャメロン女伯爵。あなたはとてもいけない人だな。これは人を惑わす闇の魔法。なぜこのようなことをしたのかね?」
俺の問いかけにキャメロン女伯爵は眉尻を下げてむせび泣いた。

「哀れな女の話をどうかお聞きください。私は幼い頃から病弱で、今でも体は万全ではありません。女の幸せは子供を産んで育てることですわ。私はとても子供が好きなのです。でも子供を産むには私の体は繊細すぎるのです。それで妹の子を自分の子にしたくて……マリーがいけないのですわ。妊娠した当初から私に得意げに自慢して……ですから私は……」
俺は身勝手な女の話を辛抱強く聞いてやり最大限に同情するふりをした。

「そうかい。それはとても気の毒だ。かわいそうに。妹の子を奪うほど子供好きで、子供が産めないことがそれほど悲しいのなら俺がたった今直してあげよう。俺はトップシークレットにされている宮廷魔法使いの一人だ。特別に魔術をかけてあげよう」

「え? そんなことは恐れ多いことです! 私にはもったいないお話ですからどうかお気になさらず……」
しどろもどろになるキャメロン女伯爵に押し売りの善意の微笑み120パーセントを向ける俺だ。

「いや、遠慮せずとも良い。大事な妹の師の姉君であるキャメロン女伯爵よ。汝の身に豊穣の女神よりの祝福を授けん。懐妊誘術!……」
ローズは真っ青な顔でガタガタと震えながら俺の詠唱から逃れようと必死だった。

(この女の体はどこも悪くないはずだ、血の巡りを透視しても滞りは一切ない。このままでも十分お産はできるはず。ふん! この類いの女の本音はわかっているぞ。おおかた曲線美を失うのが怖いのだろう)

「良かったですね! キャメロン女伯爵。これであなたは子供が産める。婚活を早速したほうがいいですよ。僕の同僚を紹介します。騎士団には独身がいっぱいいますからね」
単純なワイアットはローズの言い訳にすっかり同情し、俺の術に感心してニコニコと微笑みながら提案したのである。

「それには及びませんわ。私は離婚しますからお姉様にライアンを譲りますわ。二人はそういう関係ですものね?」

「は?」
マリーの言葉に驚きすぎて弟ばかりか俺まで間抜け面をさらしそうになった。

(この女、妹の旦那まで魅了してたのか? 悪趣味すぎる。お仕置きだな。どうせならもっと多産にしてやろう)

俺は心の中で詠唱してやった。
(稲穂豊穣の如く、多くの子宝に恵まれ給え! 多産祈願、鼠の如く!)
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