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「お帰りくださいな。マリーは病気ですよ。面会謝絶です!」
第一応接室からローズの怒声が響いたが、ワイアット・デスティニーも負けずに大声で応酬している。
「面会謝絶とはどんな病気でしょうか? それほど重病ならば公爵家の侍医を呼びましょう。マリーは妹エルサの尊敬すべき先生だ。黙ってこのまま放っておくことはできません」
「デスティニー公爵家には関係のないことです。もうそちらの家庭教師は辞職させたはずですわ」
「本人の口から聞かなければエルサは納得しない。マリー先生に会いたいと妹は食事も手をつけない」
「あら、ずいぶん我が儘なお嬢様ですわね。こちらは妹の体調がおもわしくないので退職させると言っているのですよ。マリーは辞める自由もないのですか?」
「そうではなく……話にならないな……いい大人が仕事を退職するのです。姉に言わせたり手紙だけではなく、直接デスティニー公爵家に出向き退職事由の説明をするべきでしょう。病気だというのなら名医をこちらにいくらでも遣わしましょう」
「ちっ! うるさいわね! ならば……」
「……ん……目が霞むな……おかしい……ローズ……あなたはとても美しいですね。女神のようだ……」
マリーが軟禁された自室から耳をすますと、窓が大きく開け放たれた階下の応接室からいきなりローズへの賞賛が始まった。
(どういうことなの? ワイアット様が別人のようにお姉様に愛の言葉を囁きだしたわ)
マリーはドアの鍵を壊すことを諦めベッドからシーツを剥ぎ取った。窓辺の柱に固く結わいつけると窓の外に向かって先端を垂らし怖々と二階から庭園につたわり降りた。応接室の前を腰をかがめてこっそりと通り過ぎようとしたのだが、姉のローズとワイアットが抱き合う光景が目に飛び込んできたのである。
「こ、これは、いったいどういうことなの! お姉様、あなたは……」
マリーは逃亡するのも忘れて思わず大きな声で姉に声をかけた。
「うふふ。美しいって罪なのよね。マリーに近づく男はみんな私のものよ? わかる? あなたは私の陰で生きていくのよ。ところでなぜ、あなたはそんなところにいるの? お部屋に閉じ込めたはずよねぇ? 抜け出すなんていけない子だわ。そんな子にはお仕置きしないとねぇ?」
にやりと笑うローズから逃れるために駆け出そうとするマリーの腕を、いつのまにか外に出てきたワイアットが掴んで止めた。
「マリー、君は病気なんだね。だめだよ、家にいなければ。デスティニー公爵家のみんなには伝えておくよ。君が正式に家庭教師を辞めるということを」
「待ってください。私は辞めたりなんかしません。私は病気じゃないわ!」
「うふふ。病気の人はみんなそう言うのよ。自分は元気だってね。あなたは病気よ」
ローズの手がマリーの両手をしっかりと握りしめマリーは絶望の声をあげた。
「いやぁああぁああぁーー!!」
ローズの傍らには、どこか焦点のあわない目をしたワイアットがローズの腰に愛おしげに手をまわす。
庭園でマリーがローズの手を振りほどこうと抵抗したその一瞬後、
「デスティニー公爵家の嫡男、フィンレー様がお越しでございます」
執事の慌てた声があたりに響きわたったのである。
「いきなりの訪問を申し訳なく思う。しかしどうにもマリーが気になって……。ん? ワイアット、目が赤いがどうしたのだ? なぜキャメロン女伯爵の腰を抱いている?」
フィンレーは不愉快な表情でワイアットをにらみつけたのだった。
第一応接室からローズの怒声が響いたが、ワイアット・デスティニーも負けずに大声で応酬している。
「面会謝絶とはどんな病気でしょうか? それほど重病ならば公爵家の侍医を呼びましょう。マリーは妹エルサの尊敬すべき先生だ。黙ってこのまま放っておくことはできません」
「デスティニー公爵家には関係のないことです。もうそちらの家庭教師は辞職させたはずですわ」
「本人の口から聞かなければエルサは納得しない。マリー先生に会いたいと妹は食事も手をつけない」
「あら、ずいぶん我が儘なお嬢様ですわね。こちらは妹の体調がおもわしくないので退職させると言っているのですよ。マリーは辞める自由もないのですか?」
「そうではなく……話にならないな……いい大人が仕事を退職するのです。姉に言わせたり手紙だけではなく、直接デスティニー公爵家に出向き退職事由の説明をするべきでしょう。病気だというのなら名医をこちらにいくらでも遣わしましょう」
「ちっ! うるさいわね! ならば……」
「……ん……目が霞むな……おかしい……ローズ……あなたはとても美しいですね。女神のようだ……」
マリーが軟禁された自室から耳をすますと、窓が大きく開け放たれた階下の応接室からいきなりローズへの賞賛が始まった。
(どういうことなの? ワイアット様が別人のようにお姉様に愛の言葉を囁きだしたわ)
マリーはドアの鍵を壊すことを諦めベッドからシーツを剥ぎ取った。窓辺の柱に固く結わいつけると窓の外に向かって先端を垂らし怖々と二階から庭園につたわり降りた。応接室の前を腰をかがめてこっそりと通り過ぎようとしたのだが、姉のローズとワイアットが抱き合う光景が目に飛び込んできたのである。
「こ、これは、いったいどういうことなの! お姉様、あなたは……」
マリーは逃亡するのも忘れて思わず大きな声で姉に声をかけた。
「うふふ。美しいって罪なのよね。マリーに近づく男はみんな私のものよ? わかる? あなたは私の陰で生きていくのよ。ところでなぜ、あなたはそんなところにいるの? お部屋に閉じ込めたはずよねぇ? 抜け出すなんていけない子だわ。そんな子にはお仕置きしないとねぇ?」
にやりと笑うローズから逃れるために駆け出そうとするマリーの腕を、いつのまにか外に出てきたワイアットが掴んで止めた。
「マリー、君は病気なんだね。だめだよ、家にいなければ。デスティニー公爵家のみんなには伝えておくよ。君が正式に家庭教師を辞めるということを」
「待ってください。私は辞めたりなんかしません。私は病気じゃないわ!」
「うふふ。病気の人はみんなそう言うのよ。自分は元気だってね。あなたは病気よ」
ローズの手がマリーの両手をしっかりと握りしめマリーは絶望の声をあげた。
「いやぁああぁああぁーー!!」
ローズの傍らには、どこか焦点のあわない目をしたワイアットがローズの腰に愛おしげに手をまわす。
庭園でマリーがローズの手を振りほどこうと抵抗したその一瞬後、
「デスティニー公爵家の嫡男、フィンレー様がお越しでございます」
執事の慌てた声があたりに響きわたったのである。
「いきなりの訪問を申し訳なく思う。しかしどうにもマリーが気になって……。ん? ワイアット、目が赤いがどうしたのだ? なぜキャメロン女伯爵の腰を抱いている?」
フィンレーは不愉快な表情でワイアットをにらみつけたのだった。
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