17 / 19
13 モロー家を訪ねるフィリップ
しおりを挟む
翌日、ロザンヌが学園に行くと、フリップは欠席していた。
「フィリップ殿下はしばらくお休みされるそうです」
アメリーはそれだけ言うと、いつものように授業を始める。休み時間になると、マルガレータとジョアナがロザンヌの席にやって来た。
「フィリップ皇太子殿下が休むなんて驚きましたわね? 昨日は元気そうだったのに」
「ロザンヌ様の身体の具合はどう? 昨日はフィリップ皇太子殿下も心配して、授業が終わってから、すぐにワイアット男爵家に向かったようですけど。授業のノートを持って行くっておっしゃっていたわ。お会いになりました?」
「いいえ。そのような話はまったく聞いていませんわ。屋敷に戻ってからは、ずっと寝ておりましたので。トワイラお母様もなにもおっしゃりませんでした」
「だったら、ワイアット男爵家に行かなかったのかもしれませんわね。なんにしても、ご病気でないと良いのですが」
「もともと、フィリップ皇太子殿下はネーブ王国に半年間だけ滞在なさる予定だったでしょう? もしかしたら、その予定が早まったのかもしれませんわ」
ロザンヌはこのままフィリップが登校しなければいいと願う。顔を見れば切なくなり、悲しい気分になってしまうから。
(私のことを好きだとおっしゃってくださった。私もフィリップ皇太子殿下が好きだから、とても嬉しかった。でも、こんなに恋しい気持ちが募る方とは一緒になれない。だって、フィリップ皇太子殿下には、ハーレムを持つ未来があるのだもの。私は大勢の妃のひとりになる勇気なんてないのよ。自分だけを選んでほしいのだもの)
ロザンヌは先の不安な恋よりも、もっと安定した恋がしたいと思った。自分の両親たちのように、お互いが唯一無二の存在になりたかったのだ。
昼休みになると、フィリップの代わりにランチのメンバーにローマンが加わるようになった。やたらとローマンがロザンヌに絡んでくるので、ほとほと困ってしまう。
「ローマン殿下。ここで私たちと一緒にランチを食べている場合ではないでしょう? 婚約者のエメリ様と一緒に召し上がるべきですわ」
「いいのだよ。エメリ嬢に言ったら快く賛成してくれた。だから、私たちは公認の仲になれる」
「公認の仲? そんなものになりたくありません」
「いいから、いいから。恥ずかしがらないで」
いよいよ我慢ができなくなったロザンヌは、エメリに会いにいくことにした。放課後、二年生の教室に行くと、エメリは待っていたかのように姿を現した。
「遅いじゃないの。やっと、私を責めにきたのね? さぁ、私に虐められていると大きな声で叫びなさい!」
こちらはワイアット男爵領にあるミッシェルの大邸宅である。
「奥様。フィリップ皇太子殿下がお会いしたいと、こちらにいらっしゃっています」
執事は冷静な面持ちで、ミッシェルも特に慌てる様子はなかった。この大邸宅には諸外国の尊い身分の方々が頻繁に来訪する。皇太子殿下と聞いてもなんら臆することなく、ミッシェルはサロンにフィリップを案内させた。
「フィリップ皇太子殿下、ようこそ、モロー家にお越しくださいました。常々、ロザンヌには良くしてくださり、感謝しております。それで、本日はどういった御用向きでしょうか?」
「本日は、相談したいことがあって、こちらに来ました。実のところ、私はロザンヌ嬢のことが好きなのです。ロザンヌ嬢も私を好きだと言ってくれました。ですが、『住む世界が違う』と言われて、ずっと避けられています。なにか、ロザンヌ嬢から聞いていませんか?」
「いいえ、なにも聞いておりませんわ。このように、私はロザンヌとは遠く離れて暮らしておりますからね。頻繁に手紙はきますが、そのような話はまったく聞いていないのですよ。トワイラなら、なにか聞いているかもしれません。」
フィリップはトワイラに言われたことをそのまま伝えた。
「あら、まぁ。トワイラがそんなに怒るなんて。やはり、フィリップ皇太子殿下は、なにかしてしまったのですわ。いったい、なにがあったのかしら? また、私も王都に行かねばならないようですね。愛娘の一大事と思いましたよ。好きなのに『住む世界が違う』だけで諦めるような子ではありませんからね」
「帝国は実力主義です。私の妃がロザンヌ嬢であっても、誰も異を唱える者はいないでしょう。父上も賛同してくださるはずです。私の母上は貴族ではなく、モロー商会と同じように大商人の娘でしたので」
「まぁ、だったら、ロザンヌも苦労しなくて済みそうですわね。私はロザンヌの幸せだけを考えておりますのでね。あの子には私と同じように、幸せな恋愛結婚をさせてあげたいのですよ」
「それは賛成です。父上と母上も恋愛結婚でした。ずっと仲睦まじく暮らしています」
「奥様、お話しの最中に、申し訳ございません。ロザンヌお嬢様からお手紙が届きました」
執事が恭しく入ってきて、手紙をミッシェルに差し出す。
「もしかしたら、フィリップ皇太子殿下のことが書いてあるかもしれませんね。読ませていただきますので、しばらくお待ちになって・・・・・・あら、まぁ、なるほどね。・・・・・・そういうことでしたか。確かに、これでは『住む世界が違う』と思うでしょうね」
「えっ? いったい、どういうことですか?」
「問題はハーレムですわよ! 到底、ロザンヌが我慢できることではありません。フィリップ皇太子殿下、どうか、ロザンヌのことはそっとしておいてくださいませ。今のあの子は、必死にあなたを忘れようとしているのですよ」
「ハーレム? あぁ、あのハーレムのことですか? あれは、何の問題もありません。実際、あれは・・・・・・」
「フィリップ殿下はしばらくお休みされるそうです」
アメリーはそれだけ言うと、いつものように授業を始める。休み時間になると、マルガレータとジョアナがロザンヌの席にやって来た。
「フィリップ皇太子殿下が休むなんて驚きましたわね? 昨日は元気そうだったのに」
「ロザンヌ様の身体の具合はどう? 昨日はフィリップ皇太子殿下も心配して、授業が終わってから、すぐにワイアット男爵家に向かったようですけど。授業のノートを持って行くっておっしゃっていたわ。お会いになりました?」
「いいえ。そのような話はまったく聞いていませんわ。屋敷に戻ってからは、ずっと寝ておりましたので。トワイラお母様もなにもおっしゃりませんでした」
「だったら、ワイアット男爵家に行かなかったのかもしれませんわね。なんにしても、ご病気でないと良いのですが」
「もともと、フィリップ皇太子殿下はネーブ王国に半年間だけ滞在なさる予定だったでしょう? もしかしたら、その予定が早まったのかもしれませんわ」
ロザンヌはこのままフィリップが登校しなければいいと願う。顔を見れば切なくなり、悲しい気分になってしまうから。
(私のことを好きだとおっしゃってくださった。私もフィリップ皇太子殿下が好きだから、とても嬉しかった。でも、こんなに恋しい気持ちが募る方とは一緒になれない。だって、フィリップ皇太子殿下には、ハーレムを持つ未来があるのだもの。私は大勢の妃のひとりになる勇気なんてないのよ。自分だけを選んでほしいのだもの)
ロザンヌは先の不安な恋よりも、もっと安定した恋がしたいと思った。自分の両親たちのように、お互いが唯一無二の存在になりたかったのだ。
昼休みになると、フィリップの代わりにランチのメンバーにローマンが加わるようになった。やたらとローマンがロザンヌに絡んでくるので、ほとほと困ってしまう。
「ローマン殿下。ここで私たちと一緒にランチを食べている場合ではないでしょう? 婚約者のエメリ様と一緒に召し上がるべきですわ」
「いいのだよ。エメリ嬢に言ったら快く賛成してくれた。だから、私たちは公認の仲になれる」
「公認の仲? そんなものになりたくありません」
「いいから、いいから。恥ずかしがらないで」
いよいよ我慢ができなくなったロザンヌは、エメリに会いにいくことにした。放課後、二年生の教室に行くと、エメリは待っていたかのように姿を現した。
「遅いじゃないの。やっと、私を責めにきたのね? さぁ、私に虐められていると大きな声で叫びなさい!」
こちらはワイアット男爵領にあるミッシェルの大邸宅である。
「奥様。フィリップ皇太子殿下がお会いしたいと、こちらにいらっしゃっています」
執事は冷静な面持ちで、ミッシェルも特に慌てる様子はなかった。この大邸宅には諸外国の尊い身分の方々が頻繁に来訪する。皇太子殿下と聞いてもなんら臆することなく、ミッシェルはサロンにフィリップを案内させた。
「フィリップ皇太子殿下、ようこそ、モロー家にお越しくださいました。常々、ロザンヌには良くしてくださり、感謝しております。それで、本日はどういった御用向きでしょうか?」
「本日は、相談したいことがあって、こちらに来ました。実のところ、私はロザンヌ嬢のことが好きなのです。ロザンヌ嬢も私を好きだと言ってくれました。ですが、『住む世界が違う』と言われて、ずっと避けられています。なにか、ロザンヌ嬢から聞いていませんか?」
「いいえ、なにも聞いておりませんわ。このように、私はロザンヌとは遠く離れて暮らしておりますからね。頻繁に手紙はきますが、そのような話はまったく聞いていないのですよ。トワイラなら、なにか聞いているかもしれません。」
フィリップはトワイラに言われたことをそのまま伝えた。
「あら、まぁ。トワイラがそんなに怒るなんて。やはり、フィリップ皇太子殿下は、なにかしてしまったのですわ。いったい、なにがあったのかしら? また、私も王都に行かねばならないようですね。愛娘の一大事と思いましたよ。好きなのに『住む世界が違う』だけで諦めるような子ではありませんからね」
「帝国は実力主義です。私の妃がロザンヌ嬢であっても、誰も異を唱える者はいないでしょう。父上も賛同してくださるはずです。私の母上は貴族ではなく、モロー商会と同じように大商人の娘でしたので」
「まぁ、だったら、ロザンヌも苦労しなくて済みそうですわね。私はロザンヌの幸せだけを考えておりますのでね。あの子には私と同じように、幸せな恋愛結婚をさせてあげたいのですよ」
「それは賛成です。父上と母上も恋愛結婚でした。ずっと仲睦まじく暮らしています」
「奥様、お話しの最中に、申し訳ございません。ロザンヌお嬢様からお手紙が届きました」
執事が恭しく入ってきて、手紙をミッシェルに差し出す。
「もしかしたら、フィリップ皇太子殿下のことが書いてあるかもしれませんね。読ませていただきますので、しばらくお待ちになって・・・・・・あら、まぁ、なるほどね。・・・・・・そういうことでしたか。確かに、これでは『住む世界が違う』と思うでしょうね」
「えっ? いったい、どういうことですか?」
「問題はハーレムですわよ! 到底、ロザンヌが我慢できることではありません。フィリップ皇太子殿下、どうか、ロザンヌのことはそっとしておいてくださいませ。今のあの子は、必死にあなたを忘れようとしているのですよ」
「ハーレム? あぁ、あのハーレムのことですか? あれは、何の問題もありません。実際、あれは・・・・・・」
1,228
お気に入りに追加
1,546
あなたにおすすめの小説
(完)なにも死ぬことないでしょう?
青空一夏
恋愛
ジュリエットはイリスィオス・ケビン公爵に一目惚れされて子爵家から嫁いできた美しい娘。イリスィオスは初めこそ優しかったものの、二人の愛人を離れに住まわせるようになった。
悩むジュリエットは悲しみのあまり湖に身を投げて死のうとしたが死にきれず昏睡状態になる。前世を昏睡状態で思い出したジュリエットは自分が日本という国で生きていたことを思い出す。還暦手前まで生きた記憶が不意に蘇ったのだ。
若い頃はいろいろな趣味を持ち、男性からもモテた彼女の名は真理。結婚もし子供も産み、いろいろな経験もしてきた真理は知っている。
『亭主、元気で留守がいい』ということを。
だったらこの状況って超ラッキーだわ♪ イケてるおばさん真理(外見は20代前半のジュリエット)がくりひろげるはちゃめちゃコメディー。
ゆるふわ設定ご都合主義。気分転換にどうぞ。初めはシリアス?ですが、途中からコメディーになります。中世ヨーロッパ風ですが和のテイストも混じり合う異世界。
昭和の懐かしい世界が広がります。懐かしい言葉あり。解説付き。
一年後に離婚すると言われてから三年が経ちましたが、まだその気配はありません。
木山楽斗
恋愛
「君とは一年後に離婚するつもりだ」
結婚して早々、私は夫であるマグナスからそんなことを告げられた。
彼曰く、これは親に言われて仕方なくした結婚であり、義理を果たした後は自由な独り身に戻りたいらしい。
身勝手な要求ではあったが、その気持ちが理解できない訳ではなかった。私もまた、親に言われて結婚したからだ。
こうして私は、一年間の期限付きで夫婦生活を送ることになった。
マグナスは紳士的な人物であり、最初に言ってきた要求以外は良き夫であった。故に私は、それなりに楽しい生活を送ることができた。
「もう少し様子を見たいと思っている。流石に一年では両親も納得しそうにない」
一年が経った後、マグナスはそんなことを言ってきた。
それに関しては、私も納得した。彼の言う通り、流石に離婚までが早すぎると思ったからだ。
それから一年後も、マグナスは離婚の話をしなかった。まだ様子を見たいということなのだろう。
夫がいつ離婚を切り出してくるのか、そんなことを思いながら私は日々を過ごしている。今の所、その気配はまったくないのだが。
婚約破棄してくださって結構です
二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。
※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています
私を家から追い出した妹達は、これから後悔するようです
天宮有
恋愛
伯爵令嬢の私サフィラよりも、妹エイダの方が優秀だった。
それは全て私の力によるものだけど、そのことを知っているのにエイダは姉に迷惑していると言い広めていく。
婚約者のヴァン王子はエイダの発言を信じて、私は婚約破棄を言い渡されてしまう。
その後、エイダは私の力が必要ないと思い込んでいるようで、私を家から追い出す。
これから元家族やヴァンは後悔するけど、私には関係ありません。
(完結)その女は誰ですか?ーーあなたの婚約者はこの私ですが・・・・・・
青空一夏
恋愛
私はシーグ侯爵家のイルヤ。ビドは私の婚約者でとても真面目で純粋な人よ。でも、隣国に留学している彼に会いに行った私はそこで思いがけない光景に出くわす。
なんとそこには私を名乗る女がいたの。これってどういうこと?
婚約者の裏切りにざまぁします。コメディ風味。
※この小説は独自の世界観で書いておりますので一切史実には基づきません。
※ゆるふわ設定のご都合主義です。
※元サヤはありません。
【完結】旦那様、契約妻の私は放っておいてくださいませ
青空一夏
恋愛
※愛犬家おすすめ! こちらは以前書いたもののリメイク版です。「続きを書いて」と、希望する声があったので、いっそのこと最初から書き直すことにしました。アルファポリスの規約により旧作は非公開にします。
私はエルナン男爵家の長女のアイビーです。両親は人が良いだけで友人の保証人になって大借金を背負うお人好しです。今回もお父様は親友の保証人になってしまい大借金をつくりました。どうしたら良いもにかと悩んでいると、格上貴族が訪ねてきて私に契約を持ちかけるのでした。いわゆる契約妻というお仕事のお話でした。お金の為ですもの。私、頑張りますね!
これはお金が大好きで、綺麗な男性が苦手なヒロインが契約妻の仕事を引き受ける物語です。
ありがちなストーリーのコメディーです。
※作者独自の異世界恋愛物語。
※コメディです。
※途中でタグの変更・追加の可能性あり。
※最終話に子犬が登場します。
【完結】欲をかいて婚約破棄した結果、自滅した愚かな婚約者様の話、聞きます?
水月 潮
恋愛
ルシア・ローレル伯爵令嬢はある日、婚約者であるイアン・バルデ伯爵令息から婚約破棄を突きつけられる。
正直に言うとローレル伯爵家にとっては特に旨みのない婚約で、ルシアは父親からも嫌になったら婚約は解消しても良いと言われていた為、それをあっさり承諾する。
その1ヶ月後。
ルシアの母の実家のシャンタル公爵家にて次期公爵家当主就任のお披露目パーティーが主催される。
ルシアは家族と共に出席したが、ルシアが夢にも思わなかったとんでもない出来事が起きる。
※設定は緩いので、物語としてお楽しみ頂けたらと思います
*HOTランキング10位(2021.5.29)
読んで下さった読者の皆様に感謝*.*
HOTランキング1位(2021.5.31)
(完)契約結婚から始まる初恋
青空一夏
恋愛
よくあるタイプのお話です。
ヒロインはカイリン・ブランストーン男爵令嬢。彼女は姉とは差別されて育てられていた。姉のメーガンは溺愛されて、カイリンはメイドのような仕事までさせられており、同じ姉妹でありながら全く愛されていなかった。
ブランストーン男爵家はメーガンや母モナの散財で借金だらけ。父親のバリントンまで高級ワインを買いあさる趣味があった。その借金の為に売られるように結婚をさせられた相手は、女嫌いで有名な男性だった。
※ゆるふわ設定のご都合主義です。異世界ですが現代社会的な文明器機が出てくる場合があるかもしれません。
※ショートショートの予定ですが、変更する場合もあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる