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12 すれ違い
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「詳しくは聞かないで。でも、これは失恋ですわ。私のなかでは、そんな結論です」
「お相手の方だけ聞かせてちょうだい。いったい、失恋した相手はどなたなのかしら?」
「・・・・・・フィリップ皇太子殿下です。住む世界が違いすぎますから、当然なのですわ」
ここで、トワイラは盛大な勘違いをしてしまう。ロザンヌが告白して振られたと思ったのだ。
(いくら、ラーゲルグレーン国の皇太子でも、これはあんまりだわ。あのようなワンピースをプレゼントしておいて好意を持っているかのように振る舞っておきながら、可愛いロザンヌを振るなんて。だったら、初めから優しくしてくれなくて良いのに)
トワイラはプンプンと怒っていた。大事な娘をもてあそばれた気がしたのだ。
「奥様、フィリップ皇太子殿下がいらっしゃいました」
ロザンヌが帰ってきてから二刻ほど経った後、侍女がトワイラに報告にきた。
(ロザンヌを振っておきながら、よくもここに来られたものだわ)
「サロンにお通しして」
トワイラはキッパリとフィリップに言ってやろう、と決心したのだった。
フィリップはロザンヌが心配で午後の授業に身が入らない。ワイアット男爵家まで送っていきたかったのに、激しく拒絶されたことにも傷ついていた。授業が終わると、早速ワイアット男爵邸に向かった。
ワイアット男爵邸のサロンに通されたフィリップは、ワイアット男爵夫人の冷たい視線にたじろぐ。
「本日はどのような御用向きで、こちらにいらっしゃったのでしょうか?」
「ロザンヌ嬢が早退したので、心配になり様子を見にきました。ランチもほんの少ししか食べなかったし、大丈夫でしょうか? 医者には診せましたか?」
「フィリップ皇太子のような尊いお方に気にかけていただき、誠に光栄では存じますが、これ以降ロザンヌの心配は不要でございます。ロザンヌは寝ておりますので会うことはできませんわ。お引き取りくださいませ」
「午後からの授業内容を書いたノートを持ってきました。ロザンヌ嬢に渡してくださいませんか?」
「結構です! ロザンヌはモロー家にいた頃より、優秀な家庭教師が何人もおりました。高度な教育をうけており、王立貴族学園の3年間の勉強内容など、とっくに済んでおりますの。ですから、ノートなどお借りしなくとも、授業で遅れをとることはございません。どうぞ、お引き取りくださいませ」
(明らかに敵意をもたれているぞ。ワイアット男爵夫人の気に障ることを、なにかしでかしてしまったのだろうか? いや、まったく身に覚えはない)
フィリップは釈然としないまま、帰路につく。それからというもの、ロザンヌからことごとく避けられ、すっかり身体に力が入らない。声をかけても愛想笑いをしながら、話を短く切り上げて離れようとするのだ。ランチの時も、フィリップとだけ目を合わせようとしない。喪失感がこみ上げた。
(もう一度、私に微笑みかけてほしい。並んで本を読んだり、一緒に・・・・・・待てよ。ずっと私はロザンヌ嬢のことばかり考えている。これって・・・・・・恋? 恋なのか)
やっと、フィリップも自分の気持ちに気がついた。数日間、悩んでいたが当たって砕けろ。ロザンヌに自分の気持ちを伝えようとしたのだ。
「私のことが嫌いになったのかな? いったい、なにが気に障ったのだろう?」
「私とフィリップ皇太子では、住む世界が違うということに気づいただけです。ですから、これ以上は親しくしない方が良いのですわ」
「住む世界が違う? 意味がわからない。ロザンヌ嬢は私が嫌いなのかい?」
「嫌いではありません。むしろ、好きでした。でも、もう終わった話なのですわ」
「実は、私もロザンヌ嬢を好きだということに気がついたんだ。なぜ、相思相愛なのに終わらせる?」
「好きだからこそ、傷つきたくない気持ち。フィリップ皇太子にはわからないのですわ。では、失礼」
ますます、フィリップには訳がわからない。いったい、どうすれば良いのだろうかと気を揉んでいたところ、一つの打開策を思いついた。
(ロザンヌ嬢の実母に相談してみよう。きっと、誤解を解いてみせる)
一方、ローマンは国王に婚約者の変更を申し出ていた。
「父上、私はワイアット男爵令嬢を妻に迎えたいです」
「すでにローマンにはエメリ・コープランド侯爵令嬢がいるであろう?」
「ですから、第二夫人にワイアット男爵令嬢を迎えるのです。だって、王族は第三夫人まで持てましたよね?」
「ワイアット男爵令嬢は無理だな。モロー商会の会長が愛娘を第二夫人の地位につかせるはずがないからな。ワイアット男爵家を甘く見るな! 背後には強大なモロー商会がついているのだぞ」
「だったら、第一夫人にします。エメリ嬢とは婚約破棄し、ロザンヌ嬢と結婚してから、第二、第三夫人を考えますよ」
「これ以上くだらないことを言うと、王位継承権を剥奪するぞ! エメリ嬢は第一夫人として迎えるのだ。第二、第三夫人は、第一夫人が子供を産めなかった時に迎えなさい。いずれも第一夫人の承諾がいることを忘れるな。ワイアット男爵令嬢だけはだめだ」
しかし、ローマンはもっと簡単に考えていた。
(結局、ワイアット男爵令嬢が私を好きになってくれたら問題は解決さ。モロー商会の会長だって、愛娘を好きな男のもとに嫁がせるのを反対するはずがない。それに、モロー商会が凄いとはいっても、所詮平民じゃないか)
そう結論づけたローマンはロザンヌの周りをことごとくうろつき、エメリの知るところとなった。しかし、エメリは怒るどころか喜んでいた。
(やっと、物語が始まるわね。さぁ、ロザンヌ・ワイアット男爵令嬢! ローマン殿下を受け入れて、私に罪を着せなさい。それでこそ、私は・・・・・・うふふふ)
「お相手の方だけ聞かせてちょうだい。いったい、失恋した相手はどなたなのかしら?」
「・・・・・・フィリップ皇太子殿下です。住む世界が違いすぎますから、当然なのですわ」
ここで、トワイラは盛大な勘違いをしてしまう。ロザンヌが告白して振られたと思ったのだ。
(いくら、ラーゲルグレーン国の皇太子でも、これはあんまりだわ。あのようなワンピースをプレゼントしておいて好意を持っているかのように振る舞っておきながら、可愛いロザンヌを振るなんて。だったら、初めから優しくしてくれなくて良いのに)
トワイラはプンプンと怒っていた。大事な娘をもてあそばれた気がしたのだ。
「奥様、フィリップ皇太子殿下がいらっしゃいました」
ロザンヌが帰ってきてから二刻ほど経った後、侍女がトワイラに報告にきた。
(ロザンヌを振っておきながら、よくもここに来られたものだわ)
「サロンにお通しして」
トワイラはキッパリとフィリップに言ってやろう、と決心したのだった。
フィリップはロザンヌが心配で午後の授業に身が入らない。ワイアット男爵家まで送っていきたかったのに、激しく拒絶されたことにも傷ついていた。授業が終わると、早速ワイアット男爵邸に向かった。
ワイアット男爵邸のサロンに通されたフィリップは、ワイアット男爵夫人の冷たい視線にたじろぐ。
「本日はどのような御用向きで、こちらにいらっしゃったのでしょうか?」
「ロザンヌ嬢が早退したので、心配になり様子を見にきました。ランチもほんの少ししか食べなかったし、大丈夫でしょうか? 医者には診せましたか?」
「フィリップ皇太子のような尊いお方に気にかけていただき、誠に光栄では存じますが、これ以降ロザンヌの心配は不要でございます。ロザンヌは寝ておりますので会うことはできませんわ。お引き取りくださいませ」
「午後からの授業内容を書いたノートを持ってきました。ロザンヌ嬢に渡してくださいませんか?」
「結構です! ロザンヌはモロー家にいた頃より、優秀な家庭教師が何人もおりました。高度な教育をうけており、王立貴族学園の3年間の勉強内容など、とっくに済んでおりますの。ですから、ノートなどお借りしなくとも、授業で遅れをとることはございません。どうぞ、お引き取りくださいませ」
(明らかに敵意をもたれているぞ。ワイアット男爵夫人の気に障ることを、なにかしでかしてしまったのだろうか? いや、まったく身に覚えはない)
フィリップは釈然としないまま、帰路につく。それからというもの、ロザンヌからことごとく避けられ、すっかり身体に力が入らない。声をかけても愛想笑いをしながら、話を短く切り上げて離れようとするのだ。ランチの時も、フィリップとだけ目を合わせようとしない。喪失感がこみ上げた。
(もう一度、私に微笑みかけてほしい。並んで本を読んだり、一緒に・・・・・・待てよ。ずっと私はロザンヌ嬢のことばかり考えている。これって・・・・・・恋? 恋なのか)
やっと、フィリップも自分の気持ちに気がついた。数日間、悩んでいたが当たって砕けろ。ロザンヌに自分の気持ちを伝えようとしたのだ。
「私のことが嫌いになったのかな? いったい、なにが気に障ったのだろう?」
「私とフィリップ皇太子では、住む世界が違うということに気づいただけです。ですから、これ以上は親しくしない方が良いのですわ」
「住む世界が違う? 意味がわからない。ロザンヌ嬢は私が嫌いなのかい?」
「嫌いではありません。むしろ、好きでした。でも、もう終わった話なのですわ」
「実は、私もロザンヌ嬢を好きだということに気がついたんだ。なぜ、相思相愛なのに終わらせる?」
「好きだからこそ、傷つきたくない気持ち。フィリップ皇太子にはわからないのですわ。では、失礼」
ますます、フィリップには訳がわからない。いったい、どうすれば良いのだろうかと気を揉んでいたところ、一つの打開策を思いついた。
(ロザンヌ嬢の実母に相談してみよう。きっと、誤解を解いてみせる)
一方、ローマンは国王に婚約者の変更を申し出ていた。
「父上、私はワイアット男爵令嬢を妻に迎えたいです」
「すでにローマンにはエメリ・コープランド侯爵令嬢がいるであろう?」
「ですから、第二夫人にワイアット男爵令嬢を迎えるのです。だって、王族は第三夫人まで持てましたよね?」
「ワイアット男爵令嬢は無理だな。モロー商会の会長が愛娘を第二夫人の地位につかせるはずがないからな。ワイアット男爵家を甘く見るな! 背後には強大なモロー商会がついているのだぞ」
「だったら、第一夫人にします。エメリ嬢とは婚約破棄し、ロザンヌ嬢と結婚してから、第二、第三夫人を考えますよ」
「これ以上くだらないことを言うと、王位継承権を剥奪するぞ! エメリ嬢は第一夫人として迎えるのだ。第二、第三夫人は、第一夫人が子供を産めなかった時に迎えなさい。いずれも第一夫人の承諾がいることを忘れるな。ワイアット男爵令嬢だけはだめだ」
しかし、ローマンはもっと簡単に考えていた。
(結局、ワイアット男爵令嬢が私を好きになってくれたら問題は解決さ。モロー商会の会長だって、愛娘を好きな男のもとに嫁がせるのを反対するはずがない。それに、モロー商会が凄いとはいっても、所詮平民じゃないか)
そう結論づけたローマンはロザンヌの周りをことごとくうろつき、エメリの知るところとなった。しかし、エメリは怒るどころか喜んでいた。
(やっと、物語が始まるわね。さぁ、ロザンヌ・ワイアット男爵令嬢! ローマン殿下を受け入れて、私に罪を着せなさい。それでこそ、私は・・・・・・うふふふ)
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