上 下
15 / 19

11 フィリップに対する好意に気づいたロザンヌ 

しおりを挟む
 ロザンヌの学園生活は一変して楽しいものになっていった。コリーヌたちがいなくなったことで、みんながロザンヌに積極的に話しかけてくれるようになったのだ。

 特に仲良くなったのはマルガレータ・シャノアーヌ侯爵令嬢とジョアナ・キングズリー伯爵令嬢だった。彼女たちはコリーヌに嫌がらせをされていたロザンヌに、何度も声をかけようとしたらしい。でも、きっかけがつかめず、庇ってあげることもできなかったと後悔していた。

 ランチ時のカフェテリアでの食事が一層楽しくなった。以前は、同じテーブルにつくのはフィリップだけだったのだが、今ではマルガレータとジョアナが加わり、さらにもう二人男子生徒が加わった。6人の仲良しグループができあがったのである。

 やっと平和で穏やかな生活になると思った矢先、ロザンヌの虐めのきっかけを作ったローマンが帰国した。彼はネーブ王国の外交使節団の一員として、ガスフィールド国に行っていたのだ。迷惑なことに、帰国したローマンが最初にしたことは、ロザンヌにつきまとうことだった。ちなみに、ローマンには婚約者のエメリ・コープランド侯爵令嬢がいる。

「ロザンヌ嬢。私がいなくて寂しかったね。さぁ、今日から一緒に登下校しようよ。君は私の理想なんだ」
 いきなり、ローマンが資料室前の廊下に姿を現した。ロザンヌはアメリーから資料室に教材をおいてくるようにお願いされ、これからカフェテリアに向かうところだった。

「結構です。ローマン殿下には婚約者がいましたよね? 誤解される状況をつくることは良くありません」
「安心して。ネーブ王国の王族は第三夫人まで娶ることができる」

(なにも安心できないわ。そもそも、第三夫人までって、三人で一人の男性を共有するの? 嫌なんだけれど) 

 ロザンヌは他の女性とひとりの男性を共有する気はない。父親のランドール・モローもニクス・ワイアット男爵も第二夫人や愛妾などはいなかった。二人とも妻一筋で、お互いを想い合い、愛し合っていた。そのような家庭環境に育ったロザンヌにとって、ローマンの言葉は嫌悪感しかわかない。

「失礼します。カフェテリアでフィリップ皇太子殿下たちと待ち合わせをしているのですわ」
「ちょっと待って。フィリップ皇太子だって、婚約者がいるはずだよ。もし、いなくても、帝国はハーレムのある国だ。第三夫人どころか、いくらでも妃がもてる。あまり、親しくならない方が良いんじゃないかな?」
「え? ハーレム?」

 ロザンヌは待ち合わせのカフェテリアに向かう前に図書館に駆け込んだ。ラーゲルグレーン帝国の本を探し、ハーレムについて調べようとしたのだ。

 本によれば、ラーゲルグレーン帝国は初代の皇帝の時からハーレムがあったようで、今もその風習が続いていると書いてある。

(気軽に声をかけてくださるから、つい身近な存在だと勘違いしてしまったけれど、遠い存在だわね)

 言葉にできない喪失感がこみ上げる。ロザンヌはフィリップとは友達の関係だと、自分に言い聞かせる。だから、彼がこの先、何人妃を持とうとも、自分には関係ないのだ。そう思っても、なぜかもやもやが晴れず、気持ちは落ち込むばかり。

(私、どうしちゃったのかしら?)

 とりあえず、カフェテリアに向かう。いつものようにフィリップたちが座るテーブルに急いだけれど、気分は落ち込んだままだ。以前は、さわやかな笑顔を浮かべるフィリップの顔を見ると嬉しかった。だが、今は胸が苦しくて正視できない。

「ロザンヌ様、女子三人でAランチ、Bランチ、Cランチと違う物を頼みましょうよ。それで、少しずつ分け合って食べるのですわ。いろいろな味が楽しめて三倍お得だと思いませんか?」

 マルガレータがにこにこと微笑む。

「賛成! ロザンヌ様、そうしましょうよ。デザートも三種類頼んでシェアしましょう。取り皿になる小皿をたくさん持ってこないと。うふふ、とても豪華なランチになりますわね」

「えぇ、本当に良い考えだわ」

 ロザンヌはそう言いながらも、まったく食が進まなかった。

「ロザンヌ嬢、どうしたんだい? どこか具合でも悪いのかな?」

「えぇ、アメリー先生に言って、今日はこれで早退させていただきますわ」

「私が家まで送っていくよ」

「結構です! フィリップ殿下にそのようなご迷惑をかけるわけにはまいりません」

 強い口調で断られたフィリップは驚きの表情で固まっていた。

「ロザンヌ様。私たちからアメリー先生には伝えておきますわ。お大事になさってね」

 マルガレータたちに言われて、コクンとうなづく。逃げるように馬車に飛び乗りワイアット男爵家に戻ると、トワイラが慌ててロザンヌに駆け寄った。

「まだ学園から帰る時間ではないでしょう? なにかあったのですか? また、誰かに嫌がらせをされたのですか? まぁ、顔が真っ青ですよ。お医者様を呼びますから、お部屋で寝ていましょうね」

「お医者様は呼ばなくて良いです。病気ではありませんもの。なんでもないんです。私・・・・・・好きだと気づいた途端、失恋してしまっただけなの」

「いったい、どういうことなの?」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者と兄、そして親友だと思っていた令嬢に嫌われていたようですが、運命の人に溺愛されて幸せです

珠宮さくら
恋愛
侯爵家の次女として生まれたエリシュカ・ベンディーク。彼女は見目麗しい家族に囲まれて育ったが、その中で彼女らしさを損なうことなく、実に真っ直ぐに育っていた。 だが、それが気に入らない者も中にはいたようだ。一番身近なところに彼女のことを嫌う者がいたことに彼女だけが、長らく気づいていなかった。 嫌うというのには色々と酷すぎる部分が多々あったが、エリシュカはそれでも彼女らしさを損なうことなく、運命の人と出会うことになり、幸せになっていく。 彼だけでなくて、色んな人たちに溺愛されているのだが、その全てに気づくことは彼女には難しそうだ。

〖完結〗不幸な令嬢と中身が入れかわった私は、イキナリ婚約破棄されました。あなたになんか興味ありませんよ?

藍川みいな
恋愛
「エルザ・ロバートソン、お前との婚約は破棄する!」 誰だか分からない人に婚約を破棄されたエルザとは私のこと。私は今朝、エルザ・ロバートソンになったばかりです。事故で死んだ私が、別の世界の私と中身が入れかわった! 妹に婚約者を奪われ自害したエルザと入れかわった私は、エルザを苦しめてきた両親と妹、そして婚約者を後悔させてやる事にした。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 本編15話+番外編1話で完結になります。

【完結】婚約破棄された公爵令嬢、やることもないので趣味に没頭した結果

バレシエ
恋愛
サンカレア公爵令嬢オリビア・サンカレアは、恋愛小説が好きなごく普通の公爵令嬢である。 そんな彼女は学院の卒業パーティーを友人のリリアナと楽しんでいた。 そこに遅れて登場したのが彼女の婚約者で、王国の第一王子レオンハルト・フォン・グランベルである。 彼のそばにはあろうことか、婚約者のオリビアを差し置いて、王子とイチャイチャする少女がいるではないか! 「今日こそはガツンといってやりますわ!」と、心強いお供を引き連れ王子を詰めるオリビア。 やりこまれてしまいそうになりながらも、優秀な援護射撃を受け、王子をたしなめることに成功したかと思ったのもつかの間、王子は起死回生の一手を打つ! 「オリビア、お前との婚約は今日限りだ! 今、この時をもって婚約を破棄させてもらう!」 「なぁッ!! なんですってぇー!!!」 あまりの出来事に昏倒するオリビア! この事件は王国に大きな波紋を起こすことになるが、徐々に日常が回復するにつれて、オリビアは手持ち無沙汰を感じるようになる。 学園も卒業し、王妃教育も無くなってしまって、やることがなくなってしまったのだ。 そこで唯一の趣味である恋愛小説を読んで時間を潰そうとするが、なにか物足りない。 そして、ふと思いついてしまうのである。 「そうだ! わたくしも小説を書いてみようかしら!」 ここに謎の恋愛小説家オリビア~ンが爆誕した。 彼女の作品は王国全土で人気を博し、次第にオリビアを捨てた王子たちを苦しめていくのであった。  

逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ

朝霞 花純@電子書籍化決定
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。 理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。 逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。 エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。

【完結】私は側妃ですか? だったら婚約破棄します

hikari
恋愛
レガローグ王国の王太子、アンドリューに突如として「側妃にする」と言われたキャサリン。一緒にいたのはアトキンス男爵令嬢のイザベラだった。 キャサリンは婚約破棄を告げ、護衛のエドワードと侍女のエスターと共に実家へと帰る。そして、魔法使いに弟子入りする。 その後、モナール帝国がレガローグに侵攻する話が上がる。実はエドワードはモナール帝国のスパイだった。後に、エドワードはモナール帝国の第一皇子ヴァレンティンを紹介する。 ※ざまあの回には★がついています。

婚約破棄されたお嬢様は、魔王の側妃に選ばれて最強に!?

 (笑)
恋愛
侯爵家の令嬢アメリアは、婚約者である王太子から突然婚約破棄を告げられ、人生のすべてを失ったように感じていた。失意の中、彼女は偶然にも魔王アストールと出会う。彼の助けにより、アメリアは新たな道を見つけ、彼の側妃として魔界での新しい生活を始めることになる。 しかし、魔界の中で待ち受けるのは、彼女が予想だにしなかった試練と、アストールが抱える深い秘密。次第に明かされていく真実に直面しながら、アメリアは自分自身の力を覚醒させ、魔界と人間界の運命を左右する重大な決断を迫られることに――。 これは、裏切られた少女が新たな力を手にし、自らの道を切り開く壮大な物語。

婚約者に心変わりされた私は、悪女が巣食う学園から姿を消す事にします──。

Nao*
恋愛
ある役目を終え、学園に戻ったシルビア。 すると友人から、自分が居ない間に婚約者のライオスが別の女に心変わりしたと教えられる。 その相手は元平民のナナリーで、可愛く可憐な彼女はライオスだけでなく友人の婚約者や他の男達をも虜にして居るらしい。 事情を知ったシルビアはライオスに会いに行くが、やがて婚約破棄を言い渡される。 しかしその後、ナナリーのある驚きの行動を目にして──? (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります)

(完結)私の婚約者はあなたではありません(全5話)

青空一夏
恋愛
私はアウローラ侯爵家のプリシラ。アウローラ侯爵家の長女だ。王立貴族学園の3年生で楽しい学園生活を送っていたわ。 けれど、ついこの間からサパテロ伯爵家の長男ゴルカ様に付きまとわれるようになり、意味がわからないことばかりおっしゃるの。だから、私は・・・・・・ 5話完結。 ※こちらは貴族社会の西洋風の世界ですが史実には基づいておりません。この世界では爵位は女性でも継げます。基本的には長子が爵位を継ぎますが、絶対的ではありません。 ※現代的な表現、器機、調味料、料理など出てくる場合あります。

処理中です...