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11 フィリップに対する好意に気づいたロザンヌ
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ロザンヌの学園生活は一変して楽しいものになっていった。コリーヌたちがいなくなったことで、みんながロザンヌに積極的に話しかけてくれるようになったのだ。
特に仲良くなったのはマルガレータ・シャノアーヌ侯爵令嬢とジョアナ・キングズリー伯爵令嬢だった。彼女たちはコリーヌに嫌がらせをされていたロザンヌに、何度も声をかけようとしたらしい。でも、きっかけがつかめず、庇ってあげることもできなかったと後悔していた。
ランチ時のカフェテリアでの食事が一層楽しくなった。以前は、同じテーブルにつくのはフィリップだけだったのだが、今ではマルガレータとジョアナが加わり、さらにもう二人男子生徒が加わった。6人の仲良しグループができあがったのである。
やっと平和で穏やかな生活になると思った矢先、ロザンヌの虐めのきっかけを作ったローマンが帰国した。彼はネーブ王国の外交使節団の一員として、ガスフィールド国に行っていたのだ。迷惑なことに、帰国したローマンが最初にしたことは、ロザンヌにつきまとうことだった。ちなみに、ローマンには婚約者のエメリ・コープランド侯爵令嬢がいる。
「ロザンヌ嬢。私がいなくて寂しかったね。さぁ、今日から一緒に登下校しようよ。君は私の理想なんだ」
いきなり、ローマンが資料室前の廊下に姿を現した。ロザンヌはアメリーから資料室に教材をおいてくるようにお願いされ、これからカフェテリアに向かうところだった。
「結構です。ローマン殿下には婚約者がいましたよね? 誤解される状況をつくることは良くありません」
「安心して。ネーブ王国の王族は第三夫人まで娶ることができる」
(なにも安心できないわ。そもそも、第三夫人までって、三人で一人の男性を共有するの? 嫌なんだけれど)
ロザンヌは他の女性とひとりの男性を共有する気はない。父親のランドール・モローもニクス・ワイアット男爵も第二夫人や愛妾などはいなかった。二人とも妻一筋で、お互いを想い合い、愛し合っていた。そのような家庭環境に育ったロザンヌにとって、ローマンの言葉は嫌悪感しかわかない。
「失礼します。カフェテリアでフィリップ皇太子殿下たちと待ち合わせをしているのですわ」
「ちょっと待って。フィリップ皇太子だって、婚約者がいるはずだよ。もし、いなくても、帝国はハーレムのある国だ。第三夫人どころか、いくらでも妃がもてる。あまり、親しくならない方が良いんじゃないかな?」
「え? ハーレム?」
ロザンヌは待ち合わせのカフェテリアに向かう前に図書館に駆け込んだ。ラーゲルグレーン帝国の本を探し、ハーレムについて調べようとしたのだ。
本によれば、ラーゲルグレーン帝国は初代の皇帝の時からハーレムがあったようで、今もその風習が続いていると書いてある。
(気軽に声をかけてくださるから、つい身近な存在だと勘違いしてしまったけれど、遠い存在だわね)
言葉にできない喪失感がこみ上げる。ロザンヌはフィリップとは友達の関係だと、自分に言い聞かせる。だから、彼がこの先、何人妃を持とうとも、自分には関係ないのだ。そう思っても、なぜかもやもやが晴れず、気持ちは落ち込むばかり。
(私、どうしちゃったのかしら?)
とりあえず、カフェテリアに向かう。いつものようにフィリップたちが座るテーブルに急いだけれど、気分は落ち込んだままだ。以前は、さわやかな笑顔を浮かべるフィリップの顔を見ると嬉しかった。だが、今は胸が苦しくて正視できない。
「ロザンヌ様、女子三人でAランチ、Bランチ、Cランチと違う物を頼みましょうよ。それで、少しずつ分け合って食べるのですわ。いろいろな味が楽しめて三倍お得だと思いませんか?」
マルガレータがにこにこと微笑む。
「賛成! ロザンヌ様、そうしましょうよ。デザートも三種類頼んでシェアしましょう。取り皿になる小皿をたくさん持ってこないと。うふふ、とても豪華なランチになりますわね」
「えぇ、本当に良い考えだわ」
ロザンヌはそう言いながらも、まったく食が進まなかった。
「ロザンヌ嬢、どうしたんだい? どこか具合でも悪いのかな?」
「えぇ、アメリー先生に言って、今日はこれで早退させていただきますわ」
「私が家まで送っていくよ」
「結構です! フィリップ殿下にそのようなご迷惑をかけるわけにはまいりません」
強い口調で断られたフィリップは驚きの表情で固まっていた。
「ロザンヌ様。私たちからアメリー先生には伝えておきますわ。お大事になさってね」
マルガレータたちに言われて、コクンとうなづく。逃げるように馬車に飛び乗りワイアット男爵家に戻ると、トワイラが慌ててロザンヌに駆け寄った。
「まだ学園から帰る時間ではないでしょう? なにかあったのですか? また、誰かに嫌がらせをされたのですか? まぁ、顔が真っ青ですよ。お医者様を呼びますから、お部屋で寝ていましょうね」
「お医者様は呼ばなくて良いです。病気ではありませんもの。なんでもないんです。私・・・・・・好きだと気づいた途端、失恋してしまっただけなの」
「いったい、どういうことなの?」
特に仲良くなったのはマルガレータ・シャノアーヌ侯爵令嬢とジョアナ・キングズリー伯爵令嬢だった。彼女たちはコリーヌに嫌がらせをされていたロザンヌに、何度も声をかけようとしたらしい。でも、きっかけがつかめず、庇ってあげることもできなかったと後悔していた。
ランチ時のカフェテリアでの食事が一層楽しくなった。以前は、同じテーブルにつくのはフィリップだけだったのだが、今ではマルガレータとジョアナが加わり、さらにもう二人男子生徒が加わった。6人の仲良しグループができあがったのである。
やっと平和で穏やかな生活になると思った矢先、ロザンヌの虐めのきっかけを作ったローマンが帰国した。彼はネーブ王国の外交使節団の一員として、ガスフィールド国に行っていたのだ。迷惑なことに、帰国したローマンが最初にしたことは、ロザンヌにつきまとうことだった。ちなみに、ローマンには婚約者のエメリ・コープランド侯爵令嬢がいる。
「ロザンヌ嬢。私がいなくて寂しかったね。さぁ、今日から一緒に登下校しようよ。君は私の理想なんだ」
いきなり、ローマンが資料室前の廊下に姿を現した。ロザンヌはアメリーから資料室に教材をおいてくるようにお願いされ、これからカフェテリアに向かうところだった。
「結構です。ローマン殿下には婚約者がいましたよね? 誤解される状況をつくることは良くありません」
「安心して。ネーブ王国の王族は第三夫人まで娶ることができる」
(なにも安心できないわ。そもそも、第三夫人までって、三人で一人の男性を共有するの? 嫌なんだけれど)
ロザンヌは他の女性とひとりの男性を共有する気はない。父親のランドール・モローもニクス・ワイアット男爵も第二夫人や愛妾などはいなかった。二人とも妻一筋で、お互いを想い合い、愛し合っていた。そのような家庭環境に育ったロザンヌにとって、ローマンの言葉は嫌悪感しかわかない。
「失礼します。カフェテリアでフィリップ皇太子殿下たちと待ち合わせをしているのですわ」
「ちょっと待って。フィリップ皇太子だって、婚約者がいるはずだよ。もし、いなくても、帝国はハーレムのある国だ。第三夫人どころか、いくらでも妃がもてる。あまり、親しくならない方が良いんじゃないかな?」
「え? ハーレム?」
ロザンヌは待ち合わせのカフェテリアに向かう前に図書館に駆け込んだ。ラーゲルグレーン帝国の本を探し、ハーレムについて調べようとしたのだ。
本によれば、ラーゲルグレーン帝国は初代の皇帝の時からハーレムがあったようで、今もその風習が続いていると書いてある。
(気軽に声をかけてくださるから、つい身近な存在だと勘違いしてしまったけれど、遠い存在だわね)
言葉にできない喪失感がこみ上げる。ロザンヌはフィリップとは友達の関係だと、自分に言い聞かせる。だから、彼がこの先、何人妃を持とうとも、自分には関係ないのだ。そう思っても、なぜかもやもやが晴れず、気持ちは落ち込むばかり。
(私、どうしちゃったのかしら?)
とりあえず、カフェテリアに向かう。いつものようにフィリップたちが座るテーブルに急いだけれど、気分は落ち込んだままだ。以前は、さわやかな笑顔を浮かべるフィリップの顔を見ると嬉しかった。だが、今は胸が苦しくて正視できない。
「ロザンヌ様、女子三人でAランチ、Bランチ、Cランチと違う物を頼みましょうよ。それで、少しずつ分け合って食べるのですわ。いろいろな味が楽しめて三倍お得だと思いませんか?」
マルガレータがにこにこと微笑む。
「賛成! ロザンヌ様、そうしましょうよ。デザートも三種類頼んでシェアしましょう。取り皿になる小皿をたくさん持ってこないと。うふふ、とても豪華なランチになりますわね」
「えぇ、本当に良い考えだわ」
ロザンヌはそう言いながらも、まったく食が進まなかった。
「ロザンヌ嬢、どうしたんだい? どこか具合でも悪いのかな?」
「えぇ、アメリー先生に言って、今日はこれで早退させていただきますわ」
「私が家まで送っていくよ」
「結構です! フィリップ殿下にそのようなご迷惑をかけるわけにはまいりません」
強い口調で断られたフィリップは驚きの表情で固まっていた。
「ロザンヌ様。私たちからアメリー先生には伝えておきますわ。お大事になさってね」
マルガレータたちに言われて、コクンとうなづく。逃げるように馬車に飛び乗りワイアット男爵家に戻ると、トワイラが慌ててロザンヌに駆け寄った。
「まだ学園から帰る時間ではないでしょう? なにかあったのですか? また、誰かに嫌がらせをされたのですか? まぁ、顔が真っ青ですよ。お医者様を呼びますから、お部屋で寝ていましょうね」
「お医者様は呼ばなくて良いです。病気ではありませんもの。なんでもないんです。私・・・・・・好きだと気づいた途端、失恋してしまっただけなの」
「いったい、どういうことなの?」
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