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7 コリーヌの末路

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 ワイアット男爵家のタウンハウスは都市の中心部に位置し、主要な街道に面している。周囲には高級なショップや官庁が立ち並ぶエリアにあり、立地条件は極めて良好だ。通常のタウンハウスは隣家と壁を共有しているのに、この建物は独立していた。

 5階建てで、装飾が施された石造りのファサードが特徴。屋外には美しい庭園が広がっており、手入れの行き届いた花壇や噴水、静かな休憩エリアまである。庭園はプライバシーを保つために高い壁に囲まれていた。

(ここは本当にタウンハウスなのかしら? 普通は隣接する家と共通の壁を持つ構造だし、王都に庭園がある屋敷は初めて見たわ。都市部や町中でこれだけの敷地を確保するには・・・・・・相当なお金が必要だわ)

 ワイアット男爵家が予想以上のお金持ちだとわかり、コリーヌはにんまりした。サロンに案内されると、その壮麗さに、さらに驚くことになる。
 高い天井と豪華なシャンデリアがあり、大理石の床が敷かれている。壁には高級な壁紙と精緻な彫刻。調度品はどれも上品で、いかにも高そうにみえた。これだけ見ても、サトボネラ伯爵家のマナーハウスより、遙かにお金がかかっていることがうかがえる。シャンデリアの輝きがまるで違うし、大理石も特注品の希少な色合いを持つものだったからだ。
 サトボネラ伯爵と夫人も、王都でこれだけのタウンハウスを構えるワイアット男爵家の財力に、顔を引きつらせていた。

「コリーヌ様。どのようなご用件でしょうか?」

 優雅な足取りで入ってきたのはロザンヌで、豪華なドレス姿ではなく、シンプルで実用的なワンピース姿だった。それは、ミシェルが急遽仕立てさせた特注品のひとつだった。その後にミッシェル、ランドール、トワイラ、ワイアット男爵が続く。

「いままでのことは、ごめんなさい。まさか、ロザンヌ様が大金持ちのお嬢様だなんて思わないじゃない? 教えてくれたら、あんな失礼なことは言わなかったわ。もう二度と虐めないから、許してもらえないかしら? これからは仲良くしていただけると嬉しいわ」

「お金持ちのお嬢様だから虐めるのをやめる、とおっしゃるのですね? どういうわけか、私は謝罪されているように感じません。少しも悪かったと思っていないのではありませんか? それより、コリーヌ様に感謝していることがありますのよ。『男爵令嬢のくせに目立つから・・・・・・私たちより豪華なドレスを着ないでよ。もっと、質素な服にしなさい』とおっしゃったでしょう? だから、私はワンピースを着ることにしましたの。学園に通うには、とても楽ですわ。実用的で、すぐに乾きますのよ」

「あぁ、ロゼンヌに『質素な服』を勧めたのは、サトボネラ伯爵令嬢だったのですね? なんて親切なのでしょう」

 ミッシェルは鋭い視線で、コリーヌを見つめた。

「申し訳ありません。コリーヌは思い違いをしたようです。モロー商会の令嬢だとわかっていれば、決してそのようなことはしませんでした。どうか、取引停止にはしないでください。子供の喧嘩に親がでてくるなんて、おかしな話でしょう? 平民から養女に迎えたと聞けば、誰でも誤解します」

「そうですとも。ロザンヌ様も、モロー商会のひとり娘だと言えば良かったのですわ。敢えて出自を隠すからこんなことになったのです。大富豪で大商人の娘だと言ってくだされば、コリーヌも失礼なことをしなかったのです」

「はっ! なんという言い草でしょう。お話を聞いて、やはり取引停止は正しい決断だったと思います。到底、謝罪にいらしたようには聞こえませんからね。コリーヌ様の性格の悪さは、親譲りということがわかっただけです。お帰りくださいませ」

「会長! そんなことをおっしゃらないで。どうか、お願いします」
「どうしてですか? こうして、娘も連れて謝罪しに参りましたのに。会長には血も涙もないのですかぁ~~」

 サトボネラ伯爵夫妻は愕然として、その場に崩れ落ちたのだった。



 サトボネラ伯爵家は経済基盤が崩れ、実質的な破産状態に追い込まれた。コリーヌは学園を辞め、平民に混じって働くことを余儀なくされる。頼みにしていたメルヴァ・ウォールデン侯爵夫人には、「もう伯母と思わないでちょうだい。あのモロー商会に喧嘩を売るなんて・・・・・・恐ろしい」と言われ、二度と会ってはくれなかった。

「なんでよ? ちゃんと謝ったのに・・・・・・ロザンヌは酷いわ。初めから言ってくれれば良かったじゃない。貧乏なふりをして、私を騙したのだわ。酷いわよぉ~~」

 コリーヌはさめざめと泣いたのだが、ロザンヌは決して貧乏なふりはしていない。どこまでも、反省できないコリーヌなのだった。

 
 しかし、ミッシェルからのお仕置きは、このままでは終わらなかった。ロザンヌのクラスに在籍する貴族に証言をさせ、ロザンヌへの侮辱に対する法的な訴訟を起こしたのだ。
 ただでさえ破産状態なのに高額な賠償金まで課せられたサトボネラ伯爵家は、住んでいた屋敷さえも売却することになり、全ての資産が消滅し莫大な負債を抱えた。一家はバラバラに散り、コリーヌの消息はわからない。

 町外れの娼館で見たという者もいれば、浮浪者のような格好で公園のベンチで寝ていたという者もあったが、それを心配する者すらいなかったのである。

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