(完結)男爵令嬢って辛いのですわね? 

青空一夏

文字の大きさ
上 下
7 / 19

6 サトボネラ伯爵やってくる

しおりを挟む
 こちらはサトボネラ伯爵家のマナーハウスである。サトボネラ伯爵はコリーヌの父親だ。コリーヌはロザンヌに嫌がらせを仕掛けた主犯格であり、『身の程知らず』『学園は貴族の子息をたぶらかしに通うところではない』『あなたなんか本気で相手にされるわけないわ。遊ばれるだけの立場だと、ちゃんと自覚なさいませ』などの暴言を吐いた令嬢でもある。

「なんてことだ・・・・・・モロー商会から取引停止の通知がきている。急いでモロー商会に手紙を・・・・・・いや、直接モロー商会に出向き、理由を聞かなくては・・・・・・いったい、なぜ、急にこのようなことを言いだしてきたのだろう?」

 マナーハウスにいたサトボネラ伯爵は娘のコリーヌが何をしでかしたのか、まだなにも知らなかった。急いで王都にいるサトボネラ伯爵夫人にも知らせる。サトボネラ伯爵夫人はコリーヌから、目障りな男爵令嬢がおり毎日しているとは聞いていたが、まさかモロー商会の愛娘とは気づかない。

 モロー商会の本店はワイアット男爵領にあり、会長はその本店か、向かいの敷地に構えた大邸宅にいることが多い。サトボネラ伯爵夫妻は本店まで出向き説明を求めたが、窓口の従業員に冷たくあしらわれた。

「サトボネラ伯爵家に対する融資は全額回収させていただきます。もちろん、新たな融資も行わないません。これは会長の決定です。理由ですか? そこまでは、私どもではわかりかねます」

「会長に会わせてください。どこの貴族だってモロー商会から融資を受けている。うちは大口の保険にも入っているのに。モロー商会のサポートがなければ、サトボネラ伯爵家の事業はお手上げです」

「会長がお会いになるかは保証しませんが、ワイアット男爵家のタウンハウスに滞在しています」

「ワイアット男爵家のタウンハウス? あぁ、そう言えば、会長の夫君の副会長は、ワイアット男爵の実弟でしたね。しかし、会長がそこにいらっしゃるとは珍しい。いつもは本店に出勤されているか、ご自宅にいらっしゃるでしょう? なんだって、そんなところに・・・・・・」

「ロザンヌお嬢様に会うためです。優秀なロザンヌお嬢様はモロー商会の後継者ですが、ワイアット男爵家の養女にもなりましたので」

「・・・・・・旦那様、大変ですわ。コリーヌは男爵令嬢にしていたと聞いたことがあります。もしや・・・・・・」

「どういうことだ? 注意? 意味がわからない・・・・・・」

 サトボネラ伯爵夫妻は大汗をかきながら、ワイアット男爵領から王都にまた移動した。普通であれば三日かかるところを、休む間もなく馬車を乗り継いだので、わずか一日で到着した。ずっと馬車に揺られていたせいで、肩も腰もお尻も痛い。滝のような汗で衣服はびちょびちょ、髪を振り乱している姿は、貴族というより浮浪者に近かった。


☆彡 ★彡


 やっとの思いで、王都のタウンハウスに着いたサトボネラ伯爵は、早速コリーヌに問いただす。

「コリーヌ。していた男爵令嬢とは、いったい誰なのか言いなさい」

「私がしていたのは、ロザンヌ・ワイアット男爵令嬢ですが、それがどうしたというのですか?」

「なんてことだ・・・・・・なにを言ったのだね?」

「ローマン殿下と肩を並べて親しげに講堂に入ってきたので、高位貴族の息子を狙うために学園に来たのかと思い、『ここは学問を学びに来るところです』と、しただけです。だいたい、男爵令嬢がローマン殿下に話しかけるなんて身のほど知らずでしょう?」

「男爵家とはいってもワイアット男爵家は別格だ。モロー商会との結びつきが強く、商会の貿易ネットワークを利用して製品の製造や販売を行う大金持ちだぞ。そのモロー商会が提供する金融サービスは、国家の経済基盤を支えている。つまりだ、国王陛下といえども、モロー商会には気を遣い、顔色を伺うほどなのだ。そのモロー商会の会長がロザンヌ嬢の実母だ。ロザンヌ嬢はモロー商会の跡継ぎ娘なのだぞ」

「ということは、モロー家はワイアット男爵家よりも、さらに大金持ちなのね? そして、そのふたつの家を継ぐのがロザンヌ様ってことかしら? すごい! ロザンヌ様が、初めからそうと言ってくれれば、なんかしませんでした。ロザンヌ様が普通の平民から養女に迎えられた男爵令嬢というありふれた立場を装っていたため、私はその真実に気づかず騙されてしまったのです。私こそが被害者ですわ」

「とにかく、コリーヌも一緒にワイアット男爵家のタウンハウスに行くぞ。誠心誠意、謝れば許してもらえるかもしれん」

「謝るのは嫌です。私はなにも悪いことはしていません」

「このままだと、コリーヌのドレスも宝石も処分することになる。学園には通えないし、屋敷も別荘も手放すことになり、狭い部屋に家族全員で過ごすことになるんだぞ! わかっているのか? コリーヌは決して怒らせてはいけない方を怒らせた」

「だって、私の伯母様はメルヴァ・ウォールデン侯爵夫人ですわ。王妃殿下の妹でしょう? サトボネラ伯爵家のほうが、ずっと家柄が良いでしょう?」

「王妃殿下でさえ、浪費癖が祟って、モロー商会から多額の融資を受けているのだ。ウォールデン侯爵家も例外ではないだろう。貴族であれば、なにかしらモロー商会とは取引しているのだ。爵位だけでは通用しない世界があるのだよ」

「・・・・・・そんなすごいところの令嬢だなんて知らなかったです。平民から男爵家の養女になったなら、普通は貧しい家の子だったと思うでしょう?」

「貧しい家の子だと? ロザンヌ嬢はコリーヌの1,000倍以上もお金持ちだ」

「そんなに? だったら、謝って親友になります」

「それがいい。モロー商会の後継者と仲良くなれるのは、光栄なことなのだぞ」

 
☆彡 ★彡


 こちらは王都のワイアット男爵邸である。ロザンヌは実の両親とワイアット男爵夫妻に囲まれ、楽しい時間を過ごしていた。ロザンヌに対する嫌がらせ事件を知ったミッシェルは、夫のランドールを呼び寄せ、ランドールはワイアット男爵を連れて王都にやってきたのだ。ランドールとワイアット男爵も猛烈に怒っていたが、ロザンヌの前では穏やかに微笑んでいた。

「旦那様、サトボネラ伯爵が夫人と令嬢を連れてお越しでございます。モロー商会の会長とお話がしたいそうです」

 侍女の報告に、ワイアット男爵は声を荒げた。

「ここまで来るとは、なんと図々しい。ミッシェル会長、会ってやりますか?」

「娘まで連れてきたのでしょう? 私たちみんなで、どのようなお話しが聞けるのか確かめてみましょう」

 そんなわけで、ワイアット男爵はサトボネラ伯爵たちを、来客用サロンに案内させたのだった。



୨୧⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒୨୧

次回、コリーヌの末路です。
更新は一日二回。朝8:00と夜20:00ですよーー(^^)
ざまぁは二段階。
一段階目(7話)は普通、二段階目(7-2話)はちょっぴりお下品💦
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

一年後に離婚すると言われてから三年が経ちましたが、まだその気配はありません。

木山楽斗
恋愛
「君とは一年後に離婚するつもりだ」 結婚して早々、私は夫であるマグナスからそんなことを告げられた。 彼曰く、これは親に言われて仕方なくした結婚であり、義理を果たした後は自由な独り身に戻りたいらしい。 身勝手な要求ではあったが、その気持ちが理解できない訳ではなかった。私もまた、親に言われて結婚したからだ。 こうして私は、一年間の期限付きで夫婦生活を送ることになった。 マグナスは紳士的な人物であり、最初に言ってきた要求以外は良き夫であった。故に私は、それなりに楽しい生活を送ることができた。 「もう少し様子を見たいと思っている。流石に一年では両親も納得しそうにない」 一年が経った後、マグナスはそんなことを言ってきた。 それに関しては、私も納得した。彼の言う通り、流石に離婚までが早すぎると思ったからだ。 それから一年後も、マグナスは離婚の話をしなかった。まだ様子を見たいということなのだろう。 夫がいつ離婚を切り出してくるのか、そんなことを思いながら私は日々を過ごしている。今の所、その気配はまったくないのだが。

(完)なにも死ぬことないでしょう?

青空一夏
恋愛
ジュリエットはイリスィオス・ケビン公爵に一目惚れされて子爵家から嫁いできた美しい娘。イリスィオスは初めこそ優しかったものの、二人の愛人を離れに住まわせるようになった。 悩むジュリエットは悲しみのあまり湖に身を投げて死のうとしたが死にきれず昏睡状態になる。前世を昏睡状態で思い出したジュリエットは自分が日本という国で生きていたことを思い出す。還暦手前まで生きた記憶が不意に蘇ったのだ。 若い頃はいろいろな趣味を持ち、男性からもモテた彼女の名は真理。結婚もし子供も産み、いろいろな経験もしてきた真理は知っている。 『亭主、元気で留守がいい』ということを。 だったらこの状況って超ラッキーだわ♪ イケてるおばさん真理(外見は20代前半のジュリエット)がくりひろげるはちゃめちゃコメディー。 ゆるふわ設定ご都合主義。気分転換にどうぞ。初めはシリアス?ですが、途中からコメディーになります。中世ヨーロッパ風ですが和のテイストも混じり合う異世界。 昭和の懐かしい世界が広がります。懐かしい言葉あり。解説付き。

婚約を解消してくれないと、毒を飲んで死ぬ? どうぞご自由に

柚木ゆず
恋愛
 ※7月25日、本編完結いたしました。後日、補完編と番外編の投稿を予定しております。  伯爵令嬢ソフィアの幼馴染である、ソフィアの婚約者イーサンと伯爵令嬢アヴリーヌ。二人はソフィアに内緒で恋仲となっており、最愛の人と結婚できるように今の関係を解消したいと考えていました。  ですがこの婚約は少々特殊な意味を持つものとなっており、解消するにはソフィアの協力が必要不可欠。ソフィアが関係の解消を快諾し、幼馴染三人で両家の当主に訴えなければ実現できないものでした。  そしてそんなソフィアは『家の都合』を優先するため、素直に力を貸してくれはしないと考えていました。  そこで二人は毒を用意し、一緒になれないなら飲んで死ぬとソフィアに宣言。大切な幼馴染が死ぬのは嫌だから、必ず言うことを聞く――。と二人はほくそ笑んでいましたが、そんなイーサンとアヴリーヌに返ってきたのは予想外の言葉でした。 「そう。どうぞご自由に」

「優秀な妹の相手は疲れるので平凡な姉で妥協したい」なんて言われて、受け入れると思っているんですか?

木山楽斗
恋愛
子爵令嬢であるラルーナは、平凡な令嬢であった。 ただ彼女には一つだけ普通ではない点がある。それは優秀な妹の存在だ。 魔法学園においても入学以来首位を独占している妹は、多くの貴族令息から注目されており、学園内で何度も求婚されていた。 そんな妹が求婚を受け入れたという噂を聞いて、ラルーナは驚いた。 ずっと求婚され続けても断っていた妹を射止めたのか誰なのか、彼女は気になった。そこでラルーナは、自分にも無関係ではないため、その婚約者の元を訪ねてみることにした。 妹の婚約者だと噂される人物と顔を合わせたラルーナは、ひどく不快な気持ちになった。 侯爵家の令息であるその男は、嫌味な人であったからだ。そんな人を婚約者に選ぶなんて信じられない。ラルーナはそう思っていた。 しかし彼女は、すぐに知ることとなった。自分の周りで、不可解なことが起きているということを。

私の婚約者とキスする妹を見た時、婚約破棄されるのだと分かっていました

あねもね
恋愛
妹は私と違って美貌の持ち主で、親の愛情をふんだんに受けて育った結果、傲慢になりました。 自分には手に入らないものは何もないくせに、私のものを欲しがり、果てには私の婚約者まで奪いました。 その時分かりました。婚約破棄されるのだと……。

【完結】余命三年ですが、怖いと評判の宰相様と契約結婚します

佐倉えび
恋愛
断罪→偽装結婚(離婚)→契約結婚 不遇の人生を繰り返してきた令嬢の物語。 私はきっとまた、二十歳を越えられないーー  一周目、王立学園にて、第二王子ヴィヴィアン殿下の婚約者である公爵令嬢マイナに罪を被せたという、身に覚えのない罪で断罪され、修道院へ。  二周目、学園卒業後、夜会で助けてくれた公爵令息レイと結婚するも「あなたを愛することはない」と初夜を拒否された偽装結婚だった。後に離婚。  三周目、学園への入学は回避。しかし評判の悪い王太子の妾にされる。その後、下賜されることになったが、手渡された契約書を見て、契約結婚だと理解する。そうして、怖いと評判の宰相との結婚生活が始まったのだが――? *ムーンライトノベルズにも掲載

婚約者を奪われた私が悪者扱いされたので、これから何が起きても知りません

天宮有
恋愛
子爵令嬢の私カルラは、妹のミーファに婚約者ザノークを奪われてしまう。 ミーファは全てカルラが悪いと言い出し、束縛侯爵で有名なリックと婚約させたいようだ。 屋敷を追い出されそうになって、私がいなければ領地が大変なことになると説明する。 家族は信じようとしないから――これから何が起きても、私は知りません。

冤罪を受けたため、隣国へ亡命します

しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」 呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。 「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」 突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。 友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。 冤罪を晴らすため、奮闘していく。 同名主人公にて様々な話を書いています。 立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。 サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。 変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。 ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます! 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

処理中です...