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5 モロー商会の力

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「なんと傲慢で無礼な子たちなの! このまま、なにも手を打たない私ではありませんよ。モロー商会を敵に回すとどうなるか、思い知らせてさしあげましょう。それにしても、トワイラ様には言いにくかったとはいえ、なぜ、私にも言えなかったの? 手紙にいくらでも書けたでしょうに」

「お母様に迷惑がかからないようにです。だって、商人の立場で貴族の方々に抗議をしたらまずいでしょう? モロー商会が困ることにはしたくないです。それに、心配させたくなかったし・・・・・・」

「ロザンヌにはモロー商会の影響力を、わざと詳しく話していなかったのですよ。高慢な女性に育ってほしくなかったからです。安心しなさい。貴族が泣いて謝ってくるほどの力がモロー家にはあります」

 モロー商会は、貴族たちからは尊敬を込めて「経済の大守護者」と呼ばれる、国随一の大商会である。国際的な貿易網を有し、特に珍しい資源や高品質の製品を取引している。珍しい資源としては非常に希少な鉱石や特殊な薬草で、これらは通常の取引では入手困難だった。
 また、高品質の製品としては、精巧な工芸品、高級な絨毯や織物、貴族向けの装飾品や宝飾品など。これらは非常に高い品質が保証されており、上流階級に重宝されていた。

 さらに、金融業務も展開しており、貴族や国家に対して融資を行い、これにより経済活動の資金を供給していた。貴族や国家にとっては、商会からの融資が不可欠であり、そのため商会の意向には強く依存している。

 また、モロー商会は投資事業を展開し、貴族や国家の資産運用をサポートする。リスクの高いプロジェクトには保険を提供し、経済的な安定性を提供していたのだ。

 つまり、モロー商会が提供する金融サービスが国家の経済基盤を支えているため、高位貴族や国家機関、国王陛下でさえも、商会の意向を無視できない背景があったのだ。



 
 子供の喧嘩に大人が出て行くのはどうなのだろうか? と、一瞬だけミッシェルは考えた。しかし、これは喧嘩というよりは、甚だしい侮辱であり名誉毀損だと考えた。

(なにより、平民をあまりにもバカにしすぎだわ。男爵令嬢という格下の身分に対する偏見も酷すぎる。ここは、きっちり貴族の方々には反省していただかないとね)

 ミッシェルはこの件に関わった貴族たちを、ひとり残らず懲らしめるつもりだった。これは復讐ではなく、道理を教えるお仕置き、教育のひとつなのだ。これによって、その子供たちの未来がとてつもなく困難なものになっても、ミッシェルに良心の呵責は生まれない。

 また、商会長の立場としてもこの問題は放置しておくことはできなかった。ロザンヌの個人情報は王立図書館や貴族院に常置してある貴族名鑑に掲載されている。そこには、モロー家から養女に迎えられたことや、モロー家の家業まで記されていた。
 さらに、商業ギルド本部や王都の官庁に常置された商業登録簿には、ミッシェルに何かあった場合の次期会長の指定欄として、ロザンヌの名前が記されているのだ。
 つまり、常識のある人間ならば容易に調べられるロザンヌ=モロー商会という図式。ロザンヌが侮辱されたということは、モロー商会が侮辱されたことと同義である。

 モロー商会はその名誉と影響力を誇りにしており、商会の名声は全ての取引先と顧客に対する信頼と尊敬の証である。その後継者が貴族の学園で侮辱され、いやらしい言葉を投げかけられたことは、単なる個人的な問題ではなく、商会全体の尊厳に対する挑戦なのだ。商会はその名誉を守るために必要な措置を講じなければならない。もしこの問題を放置すれば、商会の権威が揺らぎ、取引先や顧客からの信頼を失いかねないからである。このため、ミッシェルは商会長の立場としても、ロザンヌに対する不当な扱いを厳しく糾弾し、報復することを決定したのである。


(まずは、経済的圧力ですわねぇ)

 ミッシェルは一瞬、黒い笑みを浮かべた後、すぐに朗らかで明るい微笑みをロザンヌに向けたのだった。

 
 
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