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3 プレゼントされたワンピース(ほのかな無自覚の恋心?)
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「お帰りなさい。学園は楽しかったですか? きっと、良い友人ができたでしょうね。ロザンヌは綺麗で可愛いし賢いでしょう? きっと、人気者になれるわね」
にこにこと出迎えてくれたトワイラにロザンヌは心配させたくなくて、コリーヌたちのことは言えなかった。居間にはロザンヌの好きなバタークッキーと紅茶が用意されていた。
「初日なのに、いきなり試験がありました。アメリー先生は成績の悪い子を最前列に座らせたのですわ。お勉強のできる子は一番後ろの席です」
「あら、画期的ね。でも、とても理にかなった方法だと思いますよ。それで、もちろんロザンヌは一番後ろだったのでしょう?」
「はい。フィリップ皇太子殿下と同じで満点でした」
「まぁ、素敵! さすがはロザンヌだわ。私は鼻が高いわ」
「トワイラお母様に喜んでいただけて、私も嬉しいです。今日は初日で少し疲れました。お部屋に戻ってもよろしいですか?」
「もちろんよ。ディナーの時間までゆっくりしてちょうだい」
ロザンヌはクラスメイトの話になるのを避けたかったので、早く自室に戻りたかったのだ。嘘はつきたくないし、事実を言うのもためらわれた。
(トワイラお母様を心配させてはだめよ。人気者になれると信じていらっしゃるのですもの。私が女生徒たちから嫌われたことを知ったら、きっと悲しむわ・・・・・・そうだ、お母様にワンピースを作っていただこう。簡素なワンピースを着ていけば、コリーヌ様たちにあれこれ言われなくなるかもしれない)
ロザンヌはモロー家に手紙を書いた。内容は学園に着ていくワンピースが欲しいというものだった。コリーヌたちのことは書かなかった。
☆彡 ★彡
こちらはモロー家の大邸宅である。モロー商会の会長ミッシェル・モローは愛娘の便りを、今か今かと待っていた。
学園で良い友人ができたかどうかは、一番の関心事だった。ミッシェル自身も大商人のひとり娘に生まれ、学園に通った時代がある。貴族ではなかったので王立貴族学園ではないのだが、学園生活の楽しさは気の合う友人に恵まれたがどうかで八割がた決まると思っていた。
「奥様。お嬢様からお手紙が届いておりますよ」
「まぁ、嬉しい! 早速、読んで聞かせてちょうだい」
「かしこまりました。・・・・・・お母様、上等でない生地で『質素な服』を作って送ってくださいませ。学園に着ていきたいのです。私は楽しく生活しております。学園の先生はとても良い方です。同級生のフィリップ皇太子には、よくお声をかけていただいています・・・・・・以上です」
手紙を持ってきた侍女は、封を開け、綺麗な文字で書かれた手紙を読んだ。
「え? それだけなのですか? 上等でない生地で『質素な服』? 学園に着ていくって・・・・・・いったい、どういうことなのかしら? あの子のことだから、きっと心配をさせまいとして、肝心なことを書いて寄こさないのだと思います。王都に行って確かめなくては」
☆彡 ★彡
王立貴族学園では、ロザンヌに話しかけてくる同じクラスの女生徒はいない。その代わり、フィリップ皇太子と一緒にいることが増えた。図書館で本を読んでいると、同じような本を近くの席で広げているフィリップ皇太子に出くわす。ロザンヌもフィリップ皇太子も、古代の詩や文学作品、伝説の物語などが好きだった。
「古代の文学作品や詩は、愛、勇気、運命、善悪といった普遍的なテーマを探求している。ただの物語や詩ではなく、歴史や文化、そして人間の心の深層を映し出す鏡だと思うんだ。共感するべきものが多い」
「私もそう思います。古代の人も私と同じで、些細なことで泣いたり喜んだりしたのだな、と思えば感慨深いです。どんな時代にも悩みはあるのですね」
「コリーヌ・サトボネラ伯爵令嬢たちのことで悩んでいるのかい?」
「いいえ。トワイラお母様に話すことがないことで悩んでいますの。コリーヌ様たちのことは、それほど気にはなりません。けれど、毎日学園から帰ると、親しい友人はできたかどうか聞かれますので、嘘を言うわけにもまいりませんし、心配はかけたくないですし・・・・・・」
「あぁ、なるほど。それは難しい問題だな。私と友人になったと報告したらどうかな? 実際、私たちはとても気が合う」
「友人ですか? よくお声をかけていただくことはお話ししましたが」
「そう、友人。ロザンヌ嬢は男女の間でも友情が成り立つと信じるほうかな? 私は信じる。男女間でも色恋とは別な感情はあるはずさ」
「ですわね。きっと、フィリップ皇太子殿下となら友情が築けそうです」
「えっ? そうか・・・・・・それは・・・・・・良かった」
フィリップは自分で友情を口にだしておいて、あっさり肯定されたことに、なぜかがっかりした思いを感じていた。まだ、彼は自分の感情に気づいていなかったのである。
「実はロザンヌ嬢にプレゼントがあるんだ。帝国の生地で作ったゆったりとしたワンピースだ。これなら涼しいし、襟と裾にレースがあるだけだから、『質素な服』に見えるよ」
カバンの中から取りだした包みを、フィリップはロザンヌの前で広げた。
「あぁ、コリーヌ様のおっしゃっていた『質素な服』ですね? 確かに簡易な服ですが、質素というより可憐で可愛いです。でも、いただけません。このような物を受け取る理由がありません」
「友情の証だよ。同じく古代の詩や文学作品、伝説の物語を愛する仲間としてのプレゼントだよ。堅苦しく考えないで」
ロザンヌには、フィリップのサラサラの銀髪にすみれ色の瞳がキラキラと輝いて見えた。実際、フィリップは凜々しい顔だちで、背も高く鍛えられた体格をしている美丈夫だ。
(友情の証なら受け取っても問題ないわよね)
ロザンヌはありがたくもらうことにしたのだが、嬉しい気持ちのなかに、ほんの少しがっかりした思いが混じる。その感情が何なのか、ロザンヌ自身も気がついてはいなかったのである。
にこにこと出迎えてくれたトワイラにロザンヌは心配させたくなくて、コリーヌたちのことは言えなかった。居間にはロザンヌの好きなバタークッキーと紅茶が用意されていた。
「初日なのに、いきなり試験がありました。アメリー先生は成績の悪い子を最前列に座らせたのですわ。お勉強のできる子は一番後ろの席です」
「あら、画期的ね。でも、とても理にかなった方法だと思いますよ。それで、もちろんロザンヌは一番後ろだったのでしょう?」
「はい。フィリップ皇太子殿下と同じで満点でした」
「まぁ、素敵! さすがはロザンヌだわ。私は鼻が高いわ」
「トワイラお母様に喜んでいただけて、私も嬉しいです。今日は初日で少し疲れました。お部屋に戻ってもよろしいですか?」
「もちろんよ。ディナーの時間までゆっくりしてちょうだい」
ロザンヌはクラスメイトの話になるのを避けたかったので、早く自室に戻りたかったのだ。嘘はつきたくないし、事実を言うのもためらわれた。
(トワイラお母様を心配させてはだめよ。人気者になれると信じていらっしゃるのですもの。私が女生徒たちから嫌われたことを知ったら、きっと悲しむわ・・・・・・そうだ、お母様にワンピースを作っていただこう。簡素なワンピースを着ていけば、コリーヌ様たちにあれこれ言われなくなるかもしれない)
ロザンヌはモロー家に手紙を書いた。内容は学園に着ていくワンピースが欲しいというものだった。コリーヌたちのことは書かなかった。
☆彡 ★彡
こちらはモロー家の大邸宅である。モロー商会の会長ミッシェル・モローは愛娘の便りを、今か今かと待っていた。
学園で良い友人ができたかどうかは、一番の関心事だった。ミッシェル自身も大商人のひとり娘に生まれ、学園に通った時代がある。貴族ではなかったので王立貴族学園ではないのだが、学園生活の楽しさは気の合う友人に恵まれたがどうかで八割がた決まると思っていた。
「奥様。お嬢様からお手紙が届いておりますよ」
「まぁ、嬉しい! 早速、読んで聞かせてちょうだい」
「かしこまりました。・・・・・・お母様、上等でない生地で『質素な服』を作って送ってくださいませ。学園に着ていきたいのです。私は楽しく生活しております。学園の先生はとても良い方です。同級生のフィリップ皇太子には、よくお声をかけていただいています・・・・・・以上です」
手紙を持ってきた侍女は、封を開け、綺麗な文字で書かれた手紙を読んだ。
「え? それだけなのですか? 上等でない生地で『質素な服』? 学園に着ていくって・・・・・・いったい、どういうことなのかしら? あの子のことだから、きっと心配をさせまいとして、肝心なことを書いて寄こさないのだと思います。王都に行って確かめなくては」
☆彡 ★彡
王立貴族学園では、ロザンヌに話しかけてくる同じクラスの女生徒はいない。その代わり、フィリップ皇太子と一緒にいることが増えた。図書館で本を読んでいると、同じような本を近くの席で広げているフィリップ皇太子に出くわす。ロザンヌもフィリップ皇太子も、古代の詩や文学作品、伝説の物語などが好きだった。
「古代の文学作品や詩は、愛、勇気、運命、善悪といった普遍的なテーマを探求している。ただの物語や詩ではなく、歴史や文化、そして人間の心の深層を映し出す鏡だと思うんだ。共感するべきものが多い」
「私もそう思います。古代の人も私と同じで、些細なことで泣いたり喜んだりしたのだな、と思えば感慨深いです。どんな時代にも悩みはあるのですね」
「コリーヌ・サトボネラ伯爵令嬢たちのことで悩んでいるのかい?」
「いいえ。トワイラお母様に話すことがないことで悩んでいますの。コリーヌ様たちのことは、それほど気にはなりません。けれど、毎日学園から帰ると、親しい友人はできたかどうか聞かれますので、嘘を言うわけにもまいりませんし、心配はかけたくないですし・・・・・・」
「あぁ、なるほど。それは難しい問題だな。私と友人になったと報告したらどうかな? 実際、私たちはとても気が合う」
「友人ですか? よくお声をかけていただくことはお話ししましたが」
「そう、友人。ロザンヌ嬢は男女の間でも友情が成り立つと信じるほうかな? 私は信じる。男女間でも色恋とは別な感情はあるはずさ」
「ですわね。きっと、フィリップ皇太子殿下となら友情が築けそうです」
「えっ? そうか・・・・・・それは・・・・・・良かった」
フィリップは自分で友情を口にだしておいて、あっさり肯定されたことに、なぜかがっかりした思いを感じていた。まだ、彼は自分の感情に気づいていなかったのである。
「実はロザンヌ嬢にプレゼントがあるんだ。帝国の生地で作ったゆったりとしたワンピースだ。これなら涼しいし、襟と裾にレースがあるだけだから、『質素な服』に見えるよ」
カバンの中から取りだした包みを、フィリップはロザンヌの前で広げた。
「あぁ、コリーヌ様のおっしゃっていた『質素な服』ですね? 確かに簡易な服ですが、質素というより可憐で可愛いです。でも、いただけません。このような物を受け取る理由がありません」
「友情の証だよ。同じく古代の詩や文学作品、伝説の物語を愛する仲間としてのプレゼントだよ。堅苦しく考えないで」
ロザンヌには、フィリップのサラサラの銀髪にすみれ色の瞳がキラキラと輝いて見えた。実際、フィリップは凜々しい顔だちで、背も高く鍛えられた体格をしている美丈夫だ。
(友情の証なら受け取っても問題ないわよね)
ロザンヌはありがたくもらうことにしたのだが、嬉しい気持ちのなかに、ほんの少しがっかりした思いが混じる。その感情が何なのか、ロザンヌ自身も気がついてはいなかったのである。
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