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3 約束どおりにたっぷりね
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「今日は憧れのボスに会えるからとても嬉しい日だわ・・・・・・」
あたしは独り言を言いながら、スタイリッシュな黒い建物の最上階にある事務所の化粧室で、丁寧に赤いルージュを塗っていた。
ーーなるべく色っぽくみえるようにしなきゃ!
「あの男、結構使えそうです。まだいっていないですから」
「勤務してから5日目ということは、思いのほかタフだったのね? 今日はボスが新しいシェフの腕を確かめにこちらにいらっしゃる日だからね。くれぐれも粗相のないようにしないとね」
店の用心棒に念を押すように話しかけた。
昼頃やって来た惚れ惚れするような美青年がボスだ。背が高くすらりとしている姿は優美すぎて中性的。金髪の短髪と翠の瞳はその女性のような美しい顔に高貴な印象を与える。男性の服を着ているから男だと私は信じているが、ボスを女だと思っている者もいた。
昼ごろ来店したボスに、
「こいつが新しいシェフですわ! 自分のお店がほしいという相談をうけたので試しに任せてみました・・・・・・」と、満面の笑みで言った。
ボスはその男の顔を凝視していたが、やがて私のところに真っ直ぐ来て顎に手をかけた。いわゆる顎クイってやつよぉーー。
――うわぁーー!! あたし、見初められちゃったかもぉーー。
歓喜の声を上げそうになって喉をならしたら、頬に鋭い痛みが走った。
「つっ・・・・・・ボス! なにをなさるのですか?」
いきなりの平手打ちに、あたしはその制裁の意味がわからない。
「私からの愛だ。しっかりと働かせ利益をださせろ。いつもの倍の利益をださせるように頑張らせることだ」
「はい、かしこまりました。そうしましたらこの店のオーナーにしてくださるのですよね?」
「そうだな。フランチャイズという形だ。総利益の49パーセントをロイヤリティーとして収めることにはなるが店のオーナーはお前だ」
「ありがとうございます! 精一杯、がんばります」
「そうだな。君なら大丈夫だよ。私が特別にいろいろ指導するからね」
――やっぱり見初められたかも。すっごい嬉しいーー! だったら、あたしって玉の輿じゃない?
でも、ボスはチャーリーの料理を少しも食べずに「チャーリ! お前はせいぜい頑張ると良い。たっぷりとお金を私にもたらしてくれ」と言ってあっという間に帰ってしまった。
「こんなところは嫌だよ。殺されそうで怖いよ。ここに来る客はみんなおかしい」
チャーリが泣きべそをかいて私に懇願した。
「そうよ! ここがおかしいのは当たり前だわ! あのね、この先に精神病院があるの。そこの患者さん達がここの常連さんで、自分達が殺し屋だって信じているのよ。だけど持っているナイフはおもちゃだし実際はそれほど切れないのよ。銃は水鉄砲で爆弾はただの爆竹だから安心してちょうだい」
「へ? 精神病院? それなら仕方がないのかな。あの武器というか兵器はみんなオモチャなんだね? それなら安心したよ。お客様が殺し屋のように話を合わせていればいいんだね?」
「そうよ、その通り! 望むものを作ってあげれば、驚くほどお金を払ってくれる上等のお客様よ」
チャーリーは納得したかのようにうなづいていた。私はそんな話をしながらもあの憧れのボスの顔を思い浮かべていた。
――この目の前のアホづらの男より幾千倍も美しく引き締まった美貌だったわ。だけどあの男は愛だと言って私を叩いた。叩く癖があるのかな? お尻くらいなら叩かれてもいいけれど頬はやめて欲しいわね。今度ボスに会ったら誘ってみよう。ふふふ。
私はチャーリーを見つめながらも、頭の中ではボスを思い浮かべて微笑んだ。私に微笑まれたチャーリーは嬉しそうに私に微笑み返したのだった。だから、私はチャーリの頬を思いっきり叩いてやった。
「な、なんで僕の頬を叩くのさ?」
情けない声を出したチャーリーに、私はすかさずこう言った。
「私の愛よ」
恋をする女は、恋した男の真似をしたくなる生き物なのね。あぁ、なぜか胸がキュンとした。あぁ、快感!
ꕤ୭*謎の人物視点
その美しすぎる男は、イライラとため息をつきながら馬車に飛び乗った。雑貨店の前で馬車を降りて店内に足早にはいっていくとそこから二度とでてくることはなかった。彼は店の中のものには見向きもせずにさっさと裏口から出って行ったからだ。
その裏口にも馬車が用意されすぐに飛び乗る。さらには床屋の前に馬車を止め床屋の奥に消え今度はその店の化粧室の窓から外に出た。狭い路地を10分ほど背後に気を配りながら歩き、ふいっと横道に消えていく。そこでも待ち構えていた馬車がいるという具合でおよそ5件の店をハシゴして、必ず思いも寄らぬ場所から出てきては急いで別の馬車に乗りかえるのだった。その間、護衛を務める人間の中には、あのレストランで林檎たっぷりのポテサラ男も混じっていた。
やっとその男の住まいと思われる屋敷に着いたようで、ほっとした面持ちのその男は大きな門構えの壮麗な屋敷に消えていくのだった。
「おかえり! ミア」
「ただ今戻りましたわ。お父様、お母様! 今日はあんまりむかついてついあの女を叩いてしまいましたわ! 傭兵専用のレストラン青空店の新しいコックが誰だったと思いますか? 私の元夫ですよ。あり得ますか? 」
「その女にフランチャイズ加盟店の許可をだしてはダメだわ! 本来コックを騙して連れてきてはいけませんからね」
「全くだ。しかし灯台もと暗しとはこのことか。まさかチャーリーのハニーが青空支店店長候補生だったとは!」
「フランチャイズ許可は出しますわ。だって、ロイヤリティーを通常の店より多くとりますからね。徐々にあげていくのです。だって、旦那様はたっぷり慰謝料を払ってくださるって言いましたものね!」
あたしは独り言を言いながら、スタイリッシュな黒い建物の最上階にある事務所の化粧室で、丁寧に赤いルージュを塗っていた。
ーーなるべく色っぽくみえるようにしなきゃ!
「あの男、結構使えそうです。まだいっていないですから」
「勤務してから5日目ということは、思いのほかタフだったのね? 今日はボスが新しいシェフの腕を確かめにこちらにいらっしゃる日だからね。くれぐれも粗相のないようにしないとね」
店の用心棒に念を押すように話しかけた。
昼頃やって来た惚れ惚れするような美青年がボスだ。背が高くすらりとしている姿は優美すぎて中性的。金髪の短髪と翠の瞳はその女性のような美しい顔に高貴な印象を与える。男性の服を着ているから男だと私は信じているが、ボスを女だと思っている者もいた。
昼ごろ来店したボスに、
「こいつが新しいシェフですわ! 自分のお店がほしいという相談をうけたので試しに任せてみました・・・・・・」と、満面の笑みで言った。
ボスはその男の顔を凝視していたが、やがて私のところに真っ直ぐ来て顎に手をかけた。いわゆる顎クイってやつよぉーー。
――うわぁーー!! あたし、見初められちゃったかもぉーー。
歓喜の声を上げそうになって喉をならしたら、頬に鋭い痛みが走った。
「つっ・・・・・・ボス! なにをなさるのですか?」
いきなりの平手打ちに、あたしはその制裁の意味がわからない。
「私からの愛だ。しっかりと働かせ利益をださせろ。いつもの倍の利益をださせるように頑張らせることだ」
「はい、かしこまりました。そうしましたらこの店のオーナーにしてくださるのですよね?」
「そうだな。フランチャイズという形だ。総利益の49パーセントをロイヤリティーとして収めることにはなるが店のオーナーはお前だ」
「ありがとうございます! 精一杯、がんばります」
「そうだな。君なら大丈夫だよ。私が特別にいろいろ指導するからね」
――やっぱり見初められたかも。すっごい嬉しいーー! だったら、あたしって玉の輿じゃない?
でも、ボスはチャーリーの料理を少しも食べずに「チャーリ! お前はせいぜい頑張ると良い。たっぷりとお金を私にもたらしてくれ」と言ってあっという間に帰ってしまった。
「こんなところは嫌だよ。殺されそうで怖いよ。ここに来る客はみんなおかしい」
チャーリが泣きべそをかいて私に懇願した。
「そうよ! ここがおかしいのは当たり前だわ! あのね、この先に精神病院があるの。そこの患者さん達がここの常連さんで、自分達が殺し屋だって信じているのよ。だけど持っているナイフはおもちゃだし実際はそれほど切れないのよ。銃は水鉄砲で爆弾はただの爆竹だから安心してちょうだい」
「へ? 精神病院? それなら仕方がないのかな。あの武器というか兵器はみんなオモチャなんだね? それなら安心したよ。お客様が殺し屋のように話を合わせていればいいんだね?」
「そうよ、その通り! 望むものを作ってあげれば、驚くほどお金を払ってくれる上等のお客様よ」
チャーリーは納得したかのようにうなづいていた。私はそんな話をしながらもあの憧れのボスの顔を思い浮かべていた。
――この目の前のアホづらの男より幾千倍も美しく引き締まった美貌だったわ。だけどあの男は愛だと言って私を叩いた。叩く癖があるのかな? お尻くらいなら叩かれてもいいけれど頬はやめて欲しいわね。今度ボスに会ったら誘ってみよう。ふふふ。
私はチャーリーを見つめながらも、頭の中ではボスを思い浮かべて微笑んだ。私に微笑まれたチャーリーは嬉しそうに私に微笑み返したのだった。だから、私はチャーリの頬を思いっきり叩いてやった。
「な、なんで僕の頬を叩くのさ?」
情けない声を出したチャーリーに、私はすかさずこう言った。
「私の愛よ」
恋をする女は、恋した男の真似をしたくなる生き物なのね。あぁ、なぜか胸がキュンとした。あぁ、快感!
ꕤ୭*謎の人物視点
その美しすぎる男は、イライラとため息をつきながら馬車に飛び乗った。雑貨店の前で馬車を降りて店内に足早にはいっていくとそこから二度とでてくることはなかった。彼は店の中のものには見向きもせずにさっさと裏口から出って行ったからだ。
その裏口にも馬車が用意されすぐに飛び乗る。さらには床屋の前に馬車を止め床屋の奥に消え今度はその店の化粧室の窓から外に出た。狭い路地を10分ほど背後に気を配りながら歩き、ふいっと横道に消えていく。そこでも待ち構えていた馬車がいるという具合でおよそ5件の店をハシゴして、必ず思いも寄らぬ場所から出てきては急いで別の馬車に乗りかえるのだった。その間、護衛を務める人間の中には、あのレストランで林檎たっぷりのポテサラ男も混じっていた。
やっとその男の住まいと思われる屋敷に着いたようで、ほっとした面持ちのその男は大きな門構えの壮麗な屋敷に消えていくのだった。
「おかえり! ミア」
「ただ今戻りましたわ。お父様、お母様! 今日はあんまりむかついてついあの女を叩いてしまいましたわ! 傭兵専用のレストラン青空店の新しいコックが誰だったと思いますか? 私の元夫ですよ。あり得ますか? 」
「その女にフランチャイズ加盟店の許可をだしてはダメだわ! 本来コックを騙して連れてきてはいけませんからね」
「全くだ。しかし灯台もと暗しとはこのことか。まさかチャーリーのハニーが青空支店店長候補生だったとは!」
「フランチャイズ許可は出しますわ。だって、ロイヤリティーを通常の店より多くとりますからね。徐々にあげていくのです。だって、旦那様はたっぷり慰謝料を払ってくださるって言いましたものね!」
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それでは失礼致します。
(๓´˘`๓)こんばんは♪
見ました
なるほど
参考になります
ありがとうございます!!
∧🎀∧
( ≧ω≦)〃
γ⌒;´-ヽ〟
(∪( )
∪∪V🎀V ペコリ
諸事情により
しばらく執筆活動空きますが
また
落ち着きましたら
再開しますので
宜しくお願いします
((。・ω・)。_ _))ペコリ
、____
`\::::::|
∥::::| こんばんは!
ガ∥:∧_∧
チ ∥( ・ω・ )
ャ |o つ
\∥しーJ
゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙゙
すみません
お返事遅れました
ごめん(╯•ω•╰) I'm sorry...
うん
そういうことですーー
感想ありがとうございます
*🌼.。.*゚🌹*.。.🌼*゚
«٩((๑•̀᎑<๑)۶»こんばんはぁ⌒🌟.°♪
>・・・・・・裏打ちされた自信と傲慢さ
根拠のない自信は無敵なのです!(◌ू•́ω•̀)
>今が本来の性格
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決めぜりふを持つ方はかっこいい(漫画の絵が素敵)
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感想アリガト♪(p´・∀・)乂(・∀・`q)ゴザイマス♪🌹🌺🌻🌼🌷