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10 (アンバー視点)※
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(アンバー視点)
トーマスは顔が焼けただれ、手下は全て捕まった。
取り調べ室でたくさんの質問をされたがひとつも答える気はない。どうせなにを話しても死刑になるのは変わらないから。
「ずいぶん手こずらせているらしいな? それほど強情だと拷問されるぞ? 痛いのは嫌だろう?」
あたしを捕まえた男が数日ぶりに顔をだす。看守から聞いた話しによるとこいつの名前はベンジャミン。国王陛下の甥というお偉い奴らしい!
「ふん! そんなものが怖くて戦場稼ぎの女ボスが務まるかい!」
「そうか・・・・・・だが、子供のジャックは気になるよな?」
「どういう意味だよ? 子供には罪はないだろう?」
「いいや、罪人の子供は死刑にはならないが奴隷落ちさ」
「そんな・・・・・・そんなの初めて聞いたよ。奴隷なんて・・・・・・あんたは奴隷がどんな仕打ちをうけるか知っているよね? あんな幼児を奴隷にできるのかい? 全てを白状するし、あたしは死刑で構わない。でもジャックだけは・・・・・・お願い」
「なぁ、アンバー。お前だって息子のジャックが可愛いよな。だからそうやって必死に息子を助けてもらおうとする。だがな、お前が迷わず硫酸をかけた男にも母親がいるんだぞ。ロマーノ・デルーカ男爵夫人にとってはロマーノは大事な息子だったんだ」
「は? ローリーの替え玉の男は平民のはずさ。だって金目のものはなにひとつつけていなかった!」
「あぁ、お前の手下の一人がボスに見つかる前に指輪やペンダントを奪ったと白状したよ。お前は平民と思ったロマーノに硫酸をかけたが、彼は貴族だ」
「だって、あの男はもうすぐ死にそうだったんだ!」
「想像してほしい。死にそうなジャックに、硫酸をかける人間をお前は許せるか?」
「ひっ!! 悪魔め! あたしの息子はまだ幼児だぞ。硫酸をかけるなんて人でなしだ!!」
「母親にとって息子は何歳であろうと息子だよ。私はデルーカ男爵夫人に、死にかけた息子が硫酸をかけられて亡くなったなんて、酷い話しすぎて報告するのも気が滅入る」
自分がカモにしてきた死人や重体の人間が、もしジャックだったらどうだろう? あたしみたいな女は殺してやりたいって絶対思うよ・・・・・・あたしのしてきたことは最低のクソだ。
(このままジャックが奴隷になったら全ては私の責任だ。どうしたらいい?)
あたしは初めて神に祈りを捧げたんだ。きっと神様は「何を今更と!」と、あたしを嘲笑うに違いない。バカだったんだ・・・・・・
翌日の取り調べでは、洗いざらい自分のしたことをベンジャミンに話し、自分を一刻も早く死刑にしてほしいと頭を下げた。裁判ではただ自分の罪を認め、罪状は一切否定しなかった。
こうすることによって、息子が少しでも救われることを望んだ。同じ奴隷になるにしても、まともな主人の屋敷に行くことができたらいいと願う。
「戦場稼ぎのアンバーを極刑とする!」
この国での戦場稼ぎの罪は死刑、貴族に危害を加えた罪が加われば手法は、八つ裂きの刑と相場は決まっている。だから覚悟はできていた。これが私のしてきた悪行の結果だから。
刑の前日、ベンジャミンに連れられ牢から移された部屋は、狭いけれど清潔でベッドもテーブルもあった。そこにはジャックがいて温かい食事も用意される。
「お前の生い立ちには同情できる部分がある。裁判での態度も良かった。だからご褒美さ。私にできるのはこんなことぐらいだ。刑を軽くすることはできないが、最期の夜だけは子供といさせてやろう」
有り難くて涙がでた。愛おしい存在を抱き上げて頬を寄せる。トーマスと一緒になって、まともな生活をしていれば良かった。なんで金にあれほど執着したのだろう・・・・・・
「ジャックは特別に奴隷を免れたよ。修道院で修道士達に育てられるだろう」
翌日の刑の執行日、ベンジャミンは私にそう言った。修道士達に育てられるのなら奴隷になるよりずっと安心だ。ジャックは規則正しい生活のなか、神に祈る日々を送るのだろう。
「ありがとう。ありがとう・・・・・・ございます」
手足に太い縄がかけられ、その縄の先は馬と牛に繋がれる・・・・・・激痛のなか、四肢が引き千切られ・・・・・・おびただしい血の海のなか、息絶えていくあたし。呼吸が止まる瞬間に一羽の鳥が飛び立った。
もしこんなあたしでも、生まれ変わることがあったのなら鳥になりたい・・・・・・そう思った。
*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*
次回ローリー・マカロンの末路です。日曜に完結予定です。
トーマスは顔が焼けただれ、手下は全て捕まった。
取り調べ室でたくさんの質問をされたがひとつも答える気はない。どうせなにを話しても死刑になるのは変わらないから。
「ずいぶん手こずらせているらしいな? それほど強情だと拷問されるぞ? 痛いのは嫌だろう?」
あたしを捕まえた男が数日ぶりに顔をだす。看守から聞いた話しによるとこいつの名前はベンジャミン。国王陛下の甥というお偉い奴らしい!
「ふん! そんなものが怖くて戦場稼ぎの女ボスが務まるかい!」
「そうか・・・・・・だが、子供のジャックは気になるよな?」
「どういう意味だよ? 子供には罪はないだろう?」
「いいや、罪人の子供は死刑にはならないが奴隷落ちさ」
「そんな・・・・・・そんなの初めて聞いたよ。奴隷なんて・・・・・・あんたは奴隷がどんな仕打ちをうけるか知っているよね? あんな幼児を奴隷にできるのかい? 全てを白状するし、あたしは死刑で構わない。でもジャックだけは・・・・・・お願い」
「なぁ、アンバー。お前だって息子のジャックが可愛いよな。だからそうやって必死に息子を助けてもらおうとする。だがな、お前が迷わず硫酸をかけた男にも母親がいるんだぞ。ロマーノ・デルーカ男爵夫人にとってはロマーノは大事な息子だったんだ」
「は? ローリーの替え玉の男は平民のはずさ。だって金目のものはなにひとつつけていなかった!」
「あぁ、お前の手下の一人がボスに見つかる前に指輪やペンダントを奪ったと白状したよ。お前は平民と思ったロマーノに硫酸をかけたが、彼は貴族だ」
「だって、あの男はもうすぐ死にそうだったんだ!」
「想像してほしい。死にそうなジャックに、硫酸をかける人間をお前は許せるか?」
「ひっ!! 悪魔め! あたしの息子はまだ幼児だぞ。硫酸をかけるなんて人でなしだ!!」
「母親にとって息子は何歳であろうと息子だよ。私はデルーカ男爵夫人に、死にかけた息子が硫酸をかけられて亡くなったなんて、酷い話しすぎて報告するのも気が滅入る」
自分がカモにしてきた死人や重体の人間が、もしジャックだったらどうだろう? あたしみたいな女は殺してやりたいって絶対思うよ・・・・・・あたしのしてきたことは最低のクソだ。
(このままジャックが奴隷になったら全ては私の責任だ。どうしたらいい?)
あたしは初めて神に祈りを捧げたんだ。きっと神様は「何を今更と!」と、あたしを嘲笑うに違いない。バカだったんだ・・・・・・
翌日の取り調べでは、洗いざらい自分のしたことをベンジャミンに話し、自分を一刻も早く死刑にしてほしいと頭を下げた。裁判ではただ自分の罪を認め、罪状は一切否定しなかった。
こうすることによって、息子が少しでも救われることを望んだ。同じ奴隷になるにしても、まともな主人の屋敷に行くことができたらいいと願う。
「戦場稼ぎのアンバーを極刑とする!」
この国での戦場稼ぎの罪は死刑、貴族に危害を加えた罪が加われば手法は、八つ裂きの刑と相場は決まっている。だから覚悟はできていた。これが私のしてきた悪行の結果だから。
刑の前日、ベンジャミンに連れられ牢から移された部屋は、狭いけれど清潔でベッドもテーブルもあった。そこにはジャックがいて温かい食事も用意される。
「お前の生い立ちには同情できる部分がある。裁判での態度も良かった。だからご褒美さ。私にできるのはこんなことぐらいだ。刑を軽くすることはできないが、最期の夜だけは子供といさせてやろう」
有り難くて涙がでた。愛おしい存在を抱き上げて頬を寄せる。トーマスと一緒になって、まともな生活をしていれば良かった。なんで金にあれほど執着したのだろう・・・・・・
「ジャックは特別に奴隷を免れたよ。修道院で修道士達に育てられるだろう」
翌日の刑の執行日、ベンジャミンは私にそう言った。修道士達に育てられるのなら奴隷になるよりずっと安心だ。ジャックは規則正しい生活のなか、神に祈る日々を送るのだろう。
「ありがとう。ありがとう・・・・・・ございます」
手足に太い縄がかけられ、その縄の先は馬と牛に繋がれる・・・・・・激痛のなか、四肢が引き千切られ・・・・・・おびただしい血の海のなか、息絶えていくあたし。呼吸が止まる瞬間に一羽の鳥が飛び立った。
もしこんなあたしでも、生まれ変わることがあったのなら鳥になりたい・・・・・・そう思った。
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次回ローリー・マカロンの末路です。日曜に完結予定です。
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