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3 (ローリー視点)
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(ローリー視点)
僕の婚約者はジョージア・チェリル伯爵令嬢。とても賢いことで有名な女性で星が好き。天文学を学びたい、とキラキラした眼差しで友人に語っていたところを見て興味が湧いた。容姿もとても美しい。僕の妻にぴったりだと思う。
僕は聡明な女性を意のままに動かすのが好きだ。彼女は何度も僕に星の話をしたが、その度に僕はわざと悲しい顔をしてみせる。彼女がその気になれば、きっと留学もできる。その夢を叶えることが不可能ではないことは容易に想像できる。
それでも、そんなことを許すつもりはない。キラキラの夢を捨てさせて僕という檻の中で一生暮らさせる。きっとすごく楽しい。
彼女の自尊心をひとつひとつ壊していき、僕の顔色をうかがいながら怯えて暮らすような女性に作り替えたい。
考えるだけで、わくわくするよ。
戦争が始まり比較的安全と言われる地域に送られたが、ここは非衛生的で病人や怪我人が毎日運び込まれる。最前線で戦い傷を負った者達は、皆誰もが死にそうな大怪我だった。
手足を失った者達、病気になった者達、皆適切な治療も受けられないまま死んでいく。薬も看護する人手も足りない。そいつらのうめき声を聞いているだけでノイローゼになりそうだった。
「ねぇ、あたしと逃げない?」
そう誘ってきたのは兵士の手当をしていた女、アンバーだ。
この仕事をずっとしてきたというアンバーは、小柄でふっくらとした頬にえくぼができる可愛い女性だった。
「かわいそうに。あなたは本当は甘えたいのよ。母親に支配されてきた男性って、その反動で女性を支配したがるけれど本当は違う。甘やかされて癒やされたいのよね? そうでしょう? さぁ、あたしの胸でお泣きなさい」
こんなことは初めてだった。思えば母上から常に言われてきた「マカロン侯爵家に相応しい人間になれ」という呪縛。僕を幼いころから縛り付けてきたあの母上の言葉が、本当はたまらなく嫌だった。・・・・・だから僕は母上より有能で聡明な女性を閉じ込めて、意のままにし自己満足したかったんだと悟る。
本当に憎いのは母上だ。そして僕を一番に理解してくれるのは、この目の前のアンバー。あぁ、アンバー。君さえいてくれたら僕はなにもいらないよ。僕はアンバーの指示通りに、自分と同じ髪色の死にそうな平民の男に僕の服を着せる。マカロン侯爵家の紋章が刺繍されている服だ。顔は・・・・・・アンバーが硫酸を振りかけて判別できないようにした。
「アンバー、それって・・・・・・」
「あぁ、だって顔が違うとまずいじゃない。大丈夫よ。この人、もう死んでる」
「いや・・・・・・まだ死んでないよ・・・・・・」
大怪我で死にそうだけれど、正確にはまだ死んでいない。でもアンバーはそんなことは気にしない。
「だって、この人は平民じゃない? あなたはマカロン侯爵家の跡継ぎなんでしょう? だったら最期にこんな重大な任務を与えられて喜んでいるわよ」
(確かに、アンバーの言う通りだ。マカロン侯爵家嫡男の役に立てることを光栄に思うべきだ !)
そうして僕はアンバーと、貧しい農村でひっそりと暮らす。この戦争が終わるまでの辛抱だ。お金はなくても安全で幸せな夢のような時間だった。アンバーとの愛の時間はあっという間に過ぎた。子供も一人生まれ、ジャックと名付けた。
戦争が終わりマカロン侯爵家にアンバーを連れて戻る途中で、初めて婚約者がいたことを思い出す。そういえば、ジョージアがいたな。
でも、もう待っちゃいないさ。戦死の通知は届いていたはず、すでに他の男と結婚しているさ・・・・・・と、思ったら・・・・・・なんとマカロン侯爵家にいて、こちらに駆けつけて来るじゃないか!
なんで今まで待っていたんだよ? 気持ち悪いな。粘着系かよ? 少しだけぞっとした。だから僕はジョージアの問いに記憶喪失を盛り込んだ。
「お帰りなさいませ。ところでその女性と幼児は、どなたでしょうか?」
「あぁ、ただいま。これは僕の妻子だよ。それで君は誰かな? 服装を見るかぎりは使用人ではなさそうだ」
僕の婚約者はジョージア・チェリル伯爵令嬢。とても賢いことで有名な女性で星が好き。天文学を学びたい、とキラキラした眼差しで友人に語っていたところを見て興味が湧いた。容姿もとても美しい。僕の妻にぴったりだと思う。
僕は聡明な女性を意のままに動かすのが好きだ。彼女は何度も僕に星の話をしたが、その度に僕はわざと悲しい顔をしてみせる。彼女がその気になれば、きっと留学もできる。その夢を叶えることが不可能ではないことは容易に想像できる。
それでも、そんなことを許すつもりはない。キラキラの夢を捨てさせて僕という檻の中で一生暮らさせる。きっとすごく楽しい。
彼女の自尊心をひとつひとつ壊していき、僕の顔色をうかがいながら怯えて暮らすような女性に作り替えたい。
考えるだけで、わくわくするよ。
戦争が始まり比較的安全と言われる地域に送られたが、ここは非衛生的で病人や怪我人が毎日運び込まれる。最前線で戦い傷を負った者達は、皆誰もが死にそうな大怪我だった。
手足を失った者達、病気になった者達、皆適切な治療も受けられないまま死んでいく。薬も看護する人手も足りない。そいつらのうめき声を聞いているだけでノイローゼになりそうだった。
「ねぇ、あたしと逃げない?」
そう誘ってきたのは兵士の手当をしていた女、アンバーだ。
この仕事をずっとしてきたというアンバーは、小柄でふっくらとした頬にえくぼができる可愛い女性だった。
「かわいそうに。あなたは本当は甘えたいのよ。母親に支配されてきた男性って、その反動で女性を支配したがるけれど本当は違う。甘やかされて癒やされたいのよね? そうでしょう? さぁ、あたしの胸でお泣きなさい」
こんなことは初めてだった。思えば母上から常に言われてきた「マカロン侯爵家に相応しい人間になれ」という呪縛。僕を幼いころから縛り付けてきたあの母上の言葉が、本当はたまらなく嫌だった。・・・・・だから僕は母上より有能で聡明な女性を閉じ込めて、意のままにし自己満足したかったんだと悟る。
本当に憎いのは母上だ。そして僕を一番に理解してくれるのは、この目の前のアンバー。あぁ、アンバー。君さえいてくれたら僕はなにもいらないよ。僕はアンバーの指示通りに、自分と同じ髪色の死にそうな平民の男に僕の服を着せる。マカロン侯爵家の紋章が刺繍されている服だ。顔は・・・・・・アンバーが硫酸を振りかけて判別できないようにした。
「アンバー、それって・・・・・・」
「あぁ、だって顔が違うとまずいじゃない。大丈夫よ。この人、もう死んでる」
「いや・・・・・・まだ死んでないよ・・・・・・」
大怪我で死にそうだけれど、正確にはまだ死んでいない。でもアンバーはそんなことは気にしない。
「だって、この人は平民じゃない? あなたはマカロン侯爵家の跡継ぎなんでしょう? だったら最期にこんな重大な任務を与えられて喜んでいるわよ」
(確かに、アンバーの言う通りだ。マカロン侯爵家嫡男の役に立てることを光栄に思うべきだ !)
そうして僕はアンバーと、貧しい農村でひっそりと暮らす。この戦争が終わるまでの辛抱だ。お金はなくても安全で幸せな夢のような時間だった。アンバーとの愛の時間はあっという間に過ぎた。子供も一人生まれ、ジャックと名付けた。
戦争が終わりマカロン侯爵家にアンバーを連れて戻る途中で、初めて婚約者がいたことを思い出す。そういえば、ジョージアがいたな。
でも、もう待っちゃいないさ。戦死の通知は届いていたはず、すでに他の男と結婚しているさ・・・・・・と、思ったら・・・・・・なんとマカロン侯爵家にいて、こちらに駆けつけて来るじゃないか!
なんで今まで待っていたんだよ? 気持ち悪いな。粘着系かよ? 少しだけぞっとした。だから僕はジョージアの問いに記憶喪失を盛り込んだ。
「お帰りなさいませ。ところでその女性と幼児は、どなたでしょうか?」
「あぁ、ただいま。これは僕の妻子だよ。それで君は誰かな? 服装を見るかぎりは使用人ではなさそうだ」
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