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2 (マカロン侯爵夫人視点)
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(マカロン侯爵夫人視点)
私のローリーは自慢の息子だ。顔は私に似て美しいし、頭は亡き夫に似てとても優秀なのよ。だから公爵家の令嬢や王女殿下でさえ嫁に迎えることができるはずだと思った。
なのにローリーが選んだのは、頭でっかちのチェリル伯爵家の三女。ジョージアの貴族学園での成績が素晴らしかったのは、社交界でもよく知られている。才女の誉れ高いジョージア。
でもそれがなんになるというの? このビクトリア王国の女性に求められるのはそんなことじゃない。慎ましやかで男性を立てる。嫁ぎ先では姑に仕え、夫に傅き家名に恥じない子供を産むことが嫁の務めなのよ。
生意気なインテリなんてマカロン侯爵家には要らない。
だから、ローリーが出征した時は正直嬉しかった。ジョージアにローリーを諦めさせるチャンスだ。毎日のように悲しいふりをしてマカロン侯爵家に呼びつけては面倒くさい姑を演じる。
年寄りの昔話を毎日、何時間も聞かされたら、私が若い頃だったら三日で逃げ出していたはず。でも、ジョージアはへこたれない。そんなにローリーが好きなの? 忌々しいったらありゃしない!
ところがある日、ローリが戦死したという知らせがきて、私の身体からは一気に力が抜けた。一人息子のローリー。夫はすでに何年も前に他界している。
マカロン侯爵家はどうなるの? 遠縁から養子を迎える? いいえ、ダメだわ。夫が存命であればそれもできるが、マカロン侯爵家の血筋でない(他家から嫁いで来た)私が養子を迎えることはできない。
となれば、私はこの住み慣れた屋敷を追い出され、マカロン侯爵家はその一族で一番血を濃く引いた者に引き継がれる。
そう思ったら食欲もなくなり、この先の心配で夜も眠れない。病は気から、とは嘘ではないようだ。私は立つこともできなくなり、自分の排泄にも困る始末。
メイドが私のお尻を拭こうとするが、卑しい身分の者がこの身に触れるなんてぞっとした。私は侯爵夫人なのよ! マカロン侯爵家といえば侯爵家の中でも、一番家格が上の公爵家に並ぶほどの家柄なのだから!
こんな恥ずかしいみっともない姿をメイドに晒すなんて冗談じゃない! そうだ、ジョージアにやらせればいいわ。あの子に対してのいい嫌がらせにもなるし、私も助かるから一石二鳥だ。
私は毎日ジョージアを呼びつけては、排泄物を取り替える下のお世話をさせた。嫌われてもいい女が相手だと、思いっきり汚せるから小気味がいい。
大人用オムツをわざとずらすのも楽しかった。ベッドパッドにまで汚物がついて、ジョージアはさすがに青ざめたけれど、文句も言わず素手で汚物をかたづけていた。忍耐強いし丁寧な仕事ぶりには驚かされて、なおさらイライラをぶつけた。
この子は頭も優秀で気持ちもこんなに優しい。それは美徳として褒めるべきところなのに、絶対に認めたくはなかった。容姿も不細工どころかクールビューティ。文句のつけようがないところも憎らしい!
ジョージアの前にいると、マカロン侯爵夫人であるにも拘わらず自分がとても矮小な存在に思えてむかついた。この感情がなにかはわからない。ただひとつ言えることは、私はジョージアが大嫌いだということよ。
ある日、奇跡のようなことが起きた。なんと私の可愛いローリーが妻子を連れて帰ってきたのだ。嬉しくてベッドの脇に立てかけてあった杖を使うと、思いのほかちゃんと歩けた。急いで息子のほうに行き、辛気くさい顔をしているジョージアを脇へ押しやる。
青ざめた顔をしているジョージア。いい気味だ! それにしても、気が利かないったらないわね!
「ねぇ、ジョージア! あなたの役目は終わったわ。さぁ、自分の屋敷に戻ってちょうだい。これから親子水入らずで過ごすのですからね」
私は鈍感なジョージアにそう言った。
私のローリーは自慢の息子だ。顔は私に似て美しいし、頭は亡き夫に似てとても優秀なのよ。だから公爵家の令嬢や王女殿下でさえ嫁に迎えることができるはずだと思った。
なのにローリーが選んだのは、頭でっかちのチェリル伯爵家の三女。ジョージアの貴族学園での成績が素晴らしかったのは、社交界でもよく知られている。才女の誉れ高いジョージア。
でもそれがなんになるというの? このビクトリア王国の女性に求められるのはそんなことじゃない。慎ましやかで男性を立てる。嫁ぎ先では姑に仕え、夫に傅き家名に恥じない子供を産むことが嫁の務めなのよ。
生意気なインテリなんてマカロン侯爵家には要らない。
だから、ローリーが出征した時は正直嬉しかった。ジョージアにローリーを諦めさせるチャンスだ。毎日のように悲しいふりをしてマカロン侯爵家に呼びつけては面倒くさい姑を演じる。
年寄りの昔話を毎日、何時間も聞かされたら、私が若い頃だったら三日で逃げ出していたはず。でも、ジョージアはへこたれない。そんなにローリーが好きなの? 忌々しいったらありゃしない!
ところがある日、ローリが戦死したという知らせがきて、私の身体からは一気に力が抜けた。一人息子のローリー。夫はすでに何年も前に他界している。
マカロン侯爵家はどうなるの? 遠縁から養子を迎える? いいえ、ダメだわ。夫が存命であればそれもできるが、マカロン侯爵家の血筋でない(他家から嫁いで来た)私が養子を迎えることはできない。
となれば、私はこの住み慣れた屋敷を追い出され、マカロン侯爵家はその一族で一番血を濃く引いた者に引き継がれる。
そう思ったら食欲もなくなり、この先の心配で夜も眠れない。病は気から、とは嘘ではないようだ。私は立つこともできなくなり、自分の排泄にも困る始末。
メイドが私のお尻を拭こうとするが、卑しい身分の者がこの身に触れるなんてぞっとした。私は侯爵夫人なのよ! マカロン侯爵家といえば侯爵家の中でも、一番家格が上の公爵家に並ぶほどの家柄なのだから!
こんな恥ずかしいみっともない姿をメイドに晒すなんて冗談じゃない! そうだ、ジョージアにやらせればいいわ。あの子に対してのいい嫌がらせにもなるし、私も助かるから一石二鳥だ。
私は毎日ジョージアを呼びつけては、排泄物を取り替える下のお世話をさせた。嫌われてもいい女が相手だと、思いっきり汚せるから小気味がいい。
大人用オムツをわざとずらすのも楽しかった。ベッドパッドにまで汚物がついて、ジョージアはさすがに青ざめたけれど、文句も言わず素手で汚物をかたづけていた。忍耐強いし丁寧な仕事ぶりには驚かされて、なおさらイライラをぶつけた。
この子は頭も優秀で気持ちもこんなに優しい。それは美徳として褒めるべきところなのに、絶対に認めたくはなかった。容姿も不細工どころかクールビューティ。文句のつけようがないところも憎らしい!
ジョージアの前にいると、マカロン侯爵夫人であるにも拘わらず自分がとても矮小な存在に思えてむかついた。この感情がなにかはわからない。ただひとつ言えることは、私はジョージアが大嫌いだということよ。
ある日、奇跡のようなことが起きた。なんと私の可愛いローリーが妻子を連れて帰ってきたのだ。嬉しくてベッドの脇に立てかけてあった杖を使うと、思いのほかちゃんと歩けた。急いで息子のほうに行き、辛気くさい顔をしているジョージアを脇へ押しやる。
青ざめた顔をしているジョージア。いい気味だ! それにしても、気が利かないったらないわね!
「ねぇ、ジョージア! あなたの役目は終わったわ。さぁ、自分の屋敷に戻ってちょうだい。これから親子水入らずで過ごすのですからね」
私は鈍感なジョージアにそう言った。
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