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19 中学生の紬ちゃん
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私が写生大会で描いた絵が、全国コンクールの小学生の部で最優秀賞をもらった初めての日から、もう5回目の表彰式だ。
礼子さんから毎日、絵の指導を少しづつ受けて自分でも礼子さんの絵をじっと見て研究していた。最近は絵を描き始めると私の時間が一瞬にして止まる。音も遮断されたように、みんな遠い世界のことのようになる。目の前のキャンバスと自分しかいないような気がする。ずっと集中して物事ができるようになってきている自分を感じていた。
朝礼で校長先生から手渡される表彰状にも慣れてきて、周りの皆も絵といえば、佐々木紬という雰囲気ができあがっていく。焼き物教室では電動ろくろ回しが上手に使いこなせるようになって、均等な形の茶碗が容易に作れるようになっていた。
「やっぱり才能あるよねぇ。まずは基本を押さえて一通りできるようになったら、独自の個性的なものをつくるようにしようね」
近藤先生の言葉にうなづいて、先生が焼いた器をたくさん見せてもらって説明してもらう。私の世界はこんなにも楽しいことで充実しているのが嬉しかった。
中学生になってすぐ、お母さんと結月が訪ねてきた。
「紬ちゃん! すごいわねぇーー。さすが私の娘だわぁ。貴女、ずっと絵のコンクールで最優秀賞や金賞をとっているんですって? 賞をとりまくっているって結月から聞いたのよ? すっかりしっかりしてきたのねぇ?やっぱり、牧場の自然が良かったのよね? お母さんは、こうなることを見越していたのよ? ねぇ、そろそろ戻って来ない?」
勝手なことを言って礼子さんと私を困らせていた。なんで、そんな勝手なことを言えるのだろう。
「戻らないし、貴女はもう私のお母さんじゃないです」
私はそれだけ言うともう相手にはしなかった。
なぜ、捨てた私にそんなことを言えるのだろう。私はもう前の家になんか戻りたくないよ。
「礼子さん。私、ずっと礼子さんと暮すんだ。あのね、大きくなってもずっとそばにいるよ」
「うふふ。ありがとう。でも、紬ちゃんもいずれ結婚するから・・・・・・」
「結婚しても礼子さんと暮すよ!」
そんなことを言う私は中学生2年生になっていた。背も大分伸びてカフェタンポポのお手伝いも、牧場のお手伝いもしっかりできるようになっていた。
柊君と莉子ちゃん、咲良ちゃんも同じ中学校だよ。芽依ちゃんも同じだけれど、挨拶しかしない。ケンカもしないけれど仲良しでもない関係。皆と仲良くしましょうって大人は言うけれど、それは無理なことなんだ。だって、大人と同じように私達にも子供の事情があるもん。
私と柊君、莉子ちゃんと暖君は段々とお互いを意識しながら中学生活を満喫している。っていうとかっこいいけれど・・・・・・私は今『バレーボール問題』を抱えていたのだった。
「はい、はい、パスしてぇーー!」
「ボール、そっちにいったよぉーーそぉれぇーー!」
「あぁーー。もぉ紬ちゃん!」
「ご、ごめんなさい」
体育の時間、もう本当にボールが飛んでくると泣きたくなる。あのボールを試しに受けてみたら腕が内出血だらけになった。それだけで、もう気絶しそうになる。
「痛くてたまらないし、私の腕はボールなんかを受けたりする為にあるんじゃないもん!」
家に帰ってお祖母ちゃんにそう言ったら、
「あれあれ、やっぱり紬ちゃんは礼子の子供だねぇ」と、言った。
「ボールを使って集団でする競技は苦手だわぁ」
礼子さんは首を振りながら認めた。
「私の腕は・・・・・サーブしただけで、痣ができて内出血がひどいんだよ・・・・・・あんなボールやだよ」
私はため息をついて、うなだれたのだった。
ꕤ୭*
体育のバレーボールの授業でいつものようにしかめっ面をする私。
「内出血は最初は誰でもなるんだよ? そのうち慣れるよ」
莉子ちゃんは呆れたけれど柊君はきっぱりといった。
「バレーボールなんて紬ちゃんはしなくていいよ。だって、紬ちゃんは絵筆を持つ為に生まれてきたんだから」
「え?」
私を甘やかそうとする柊君に嬉しいけれど、ちょっと引いた。
「僕、父に頼んで紬ちゃんの身体が特別弱いって診断書を作ってもらうよ。そしたら、もう体育の時間は見学できるでしょう? 大事な腕なのにボールなんてサーブしなくていいよ」
真顔で言う柊君に思わず笑った。
柊君に嘘なんてつかせられないよ・・・・・・心がほわんと温かくなって、思いっきりボールを受けたんだ。内出血はできたけれどボールで死んだ人はいないって思うから頑張った。それ以来、下手だけどボールは怖くなくなった。
「ぷっ。紬ちゃんって、大好きな人の為なら頑張り屋さんだね。礼子さんと柊君とか・・・・・・莉子もそのなかに入ってる?」
「うん、もちろんはいってるよ」
「そっか。ならいいよ。ほら、この湿布、家からもってきてあげたよ。貼っておきなよ。将来の大画伯さんの腕が心配だよ」
莉子ちゃんは、朗らかに笑った。
この二人がいてくれて、ほんとに良かったなって思うのはこれで何度目だろう・・・・・・
礼子さんから毎日、絵の指導を少しづつ受けて自分でも礼子さんの絵をじっと見て研究していた。最近は絵を描き始めると私の時間が一瞬にして止まる。音も遮断されたように、みんな遠い世界のことのようになる。目の前のキャンバスと自分しかいないような気がする。ずっと集中して物事ができるようになってきている自分を感じていた。
朝礼で校長先生から手渡される表彰状にも慣れてきて、周りの皆も絵といえば、佐々木紬という雰囲気ができあがっていく。焼き物教室では電動ろくろ回しが上手に使いこなせるようになって、均等な形の茶碗が容易に作れるようになっていた。
「やっぱり才能あるよねぇ。まずは基本を押さえて一通りできるようになったら、独自の個性的なものをつくるようにしようね」
近藤先生の言葉にうなづいて、先生が焼いた器をたくさん見せてもらって説明してもらう。私の世界はこんなにも楽しいことで充実しているのが嬉しかった。
中学生になってすぐ、お母さんと結月が訪ねてきた。
「紬ちゃん! すごいわねぇーー。さすが私の娘だわぁ。貴女、ずっと絵のコンクールで最優秀賞や金賞をとっているんですって? 賞をとりまくっているって結月から聞いたのよ? すっかりしっかりしてきたのねぇ?やっぱり、牧場の自然が良かったのよね? お母さんは、こうなることを見越していたのよ? ねぇ、そろそろ戻って来ない?」
勝手なことを言って礼子さんと私を困らせていた。なんで、そんな勝手なことを言えるのだろう。
「戻らないし、貴女はもう私のお母さんじゃないです」
私はそれだけ言うともう相手にはしなかった。
なぜ、捨てた私にそんなことを言えるのだろう。私はもう前の家になんか戻りたくないよ。
「礼子さん。私、ずっと礼子さんと暮すんだ。あのね、大きくなってもずっとそばにいるよ」
「うふふ。ありがとう。でも、紬ちゃんもいずれ結婚するから・・・・・・」
「結婚しても礼子さんと暮すよ!」
そんなことを言う私は中学生2年生になっていた。背も大分伸びてカフェタンポポのお手伝いも、牧場のお手伝いもしっかりできるようになっていた。
柊君と莉子ちゃん、咲良ちゃんも同じ中学校だよ。芽依ちゃんも同じだけれど、挨拶しかしない。ケンカもしないけれど仲良しでもない関係。皆と仲良くしましょうって大人は言うけれど、それは無理なことなんだ。だって、大人と同じように私達にも子供の事情があるもん。
私と柊君、莉子ちゃんと暖君は段々とお互いを意識しながら中学生活を満喫している。っていうとかっこいいけれど・・・・・・私は今『バレーボール問題』を抱えていたのだった。
「はい、はい、パスしてぇーー!」
「ボール、そっちにいったよぉーーそぉれぇーー!」
「あぁーー。もぉ紬ちゃん!」
「ご、ごめんなさい」
体育の時間、もう本当にボールが飛んでくると泣きたくなる。あのボールを試しに受けてみたら腕が内出血だらけになった。それだけで、もう気絶しそうになる。
「痛くてたまらないし、私の腕はボールなんかを受けたりする為にあるんじゃないもん!」
家に帰ってお祖母ちゃんにそう言ったら、
「あれあれ、やっぱり紬ちゃんは礼子の子供だねぇ」と、言った。
「ボールを使って集団でする競技は苦手だわぁ」
礼子さんは首を振りながら認めた。
「私の腕は・・・・・サーブしただけで、痣ができて内出血がひどいんだよ・・・・・・あんなボールやだよ」
私はため息をついて、うなだれたのだった。
ꕤ୭*
体育のバレーボールの授業でいつものようにしかめっ面をする私。
「内出血は最初は誰でもなるんだよ? そのうち慣れるよ」
莉子ちゃんは呆れたけれど柊君はきっぱりといった。
「バレーボールなんて紬ちゃんはしなくていいよ。だって、紬ちゃんは絵筆を持つ為に生まれてきたんだから」
「え?」
私を甘やかそうとする柊君に嬉しいけれど、ちょっと引いた。
「僕、父に頼んで紬ちゃんの身体が特別弱いって診断書を作ってもらうよ。そしたら、もう体育の時間は見学できるでしょう? 大事な腕なのにボールなんてサーブしなくていいよ」
真顔で言う柊君に思わず笑った。
柊君に嘘なんてつかせられないよ・・・・・・心がほわんと温かくなって、思いっきりボールを受けたんだ。内出血はできたけれどボールで死んだ人はいないって思うから頑張った。それ以来、下手だけどボールは怖くなくなった。
「ぷっ。紬ちゃんって、大好きな人の為なら頑張り屋さんだね。礼子さんと柊君とか・・・・・・莉子もそのなかに入ってる?」
「うん、もちろんはいってるよ」
「そっか。ならいいよ。ほら、この湿布、家からもってきてあげたよ。貼っておきなよ。将来の大画伯さんの腕が心配だよ」
莉子ちゃんは、朗らかに笑った。
この二人がいてくれて、ほんとに良かったなって思うのはこれで何度目だろう・・・・・・
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