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実家に帰るマディソン
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ストロベン伯爵家からバーレー侯爵家に帰宅するとリリィ様がジョシュア様の寝室から出てくるところだった。
「あらぁー帰ってきたのね?もっとゆっくりで良かったのに‥‥」
リリィ様が胸元をはだけているのを見た途端、私は絶望で周りの景色が大きな音を立てて崩れていくのを感じた。
「ジョシュアは出かけたわ。もうすぐ帰ってくるわよ。私は、ほら、わかるでしょ?やっぱり、愛し合うって体力がいるじゃない?」
「体力‥‥?」
「嫌だわぁーー。つまり、足が立たないってことよ?腰がガクガクって言えばおわかり?」
「‥‥」
私は実はまだ男性経験なんてない。
だから、予想はつくけど、そんなことを夫の元婚約者から言われたら、悔しさと怒りと情けなさで、なにも言い返せなかった。
唇を血がでるほどかみしめて、目には涙が溢れてきた。
バーレー侯爵家の薔薇の庭園で、実家にいた子供の頃のようにすみっこにうずくまった。
この世からいなくなりたかった。
いくら美しいと人から言われようと一番好きな人がそう思ってくれないなら意味はない‥‥
薔薇のかぐわしい香りが鼻孔をくすぐる。
その優しい香りで癒やされて私は少しづつ冷静になっていく気がしたの。
私は大丈夫だわ、夫に好かれていなければ、そんな夫は捨てればいい!
私にだって、幸せになる権利はあるのだから‥‥
そうよ、大好きな人といるより、大好きだと思ってくれる男性といた方が女は絶対、幸せになれる。
☆
夕方になっても、そこにいた私は外出から戻ってきた夫が帰ってくるのをぼんやりと見ていた。
「どうした?なぜ、そんなところにうずくまっている?」
「さぁ、どうしてでしょうね?」
私は多分、目も鼻もまっ赤なはずだわ。
でも、もう、そんなことはどうでもいいのよ‥‥
この男の目にはリリィ様しか映っていないのでしょう?
この人は私の運命の人じゃぁなかった、それだけだわ‥‥
「私はあの幼い頃の貴方の優しい言葉を忘れたことは一度もありませんでした。
貴方の妻になれるとお母様から聞いて、どんなに嬉しかったか‥‥
でも、さきほどのリリィ様の様子を見たら百年の恋も冷めましたわ。
やっと、冷静になりました。さようなら」
私は、しっかりした口調できっぱりと言い切ってしまうと、少しすっきりしたの。
すくっと、立ちあがって、実家のプラム家に帰ろうとするとジョシュア様から腕をつかまれた。
「どこへ行く?」
「あぁ、帰るのですわ!」
私はスタスタと足早に馬車まで歩くと御者に告げた。
「プラム伯爵家に急いで向かいなさい」
☆
プラム伯爵家では夕食をお母様とお父様が召し上がっていらっしゃった。
「私、ジョシュア様とは離婚します」
いきなり、宣言して、お母様の隣に座って、お母様のブドウパンを一口かじった。
「これ!なんです?レディらしくない!」
「今日だけはレディじゃなくてもいいでしょう?離婚したら今度こそは私を溺愛してくれる男性と結婚したいわ。大お父様とお母様のように仲のいい夫婦になりたいの。」
私はバーレー侯爵家の寝室からでてきたリリィ様の話をしたわ。
「はぁーーかわいそうに!!好きな方から、そんな仕打ちを受けるなんて‥‥舞踏会でも一回もエスコートもしてくれないなんて、聞いたことがないわ!
元婚約者と別れるつもりがないなら、そう言ってくださればマディソンを嫁がせたりしなかったのに‥‥というか、そんないいかげんな男性とは思わなかったわ」
お母様はメイドに私のぶんの料理を用意させると、紅茶を自らついでくださった。
「ミルクをたっぷり入れてあげるわ。お砂糖も。ほら、パンをもうひとつ召し上がりなさいな。今夜はマディソンの好きなビーフシチューで良かったわ。温かいうちに召し上がれ」
私はお母様の横で頷いてビーフシチューを一口、食べた。
涙で霞むビーフシチューは大好きな味で、実家に帰ってきた実感があった。
「マディソン。もうバーレー侯爵家には戻らなくていいぞ!荷物はメイドたちに取りに行かせよう。全く、こんな扱いを受けるとは!高位貴族に愛人がいるのは珍しくもないが妻のお前が同居している屋敷に連れ込んで情事に及ぶとは我が伯爵家を冒涜している!!」
お父様はカンカンに怒っていた。
プラム伯爵家は筆頭伯爵家ともいえる家柄で繁栄を極めた領地を治め、一部の者しか知らない秘密もあった。侯爵家といえど侮っていい家柄ではけっしてなかったのである。
「あらぁー帰ってきたのね?もっとゆっくりで良かったのに‥‥」
リリィ様が胸元をはだけているのを見た途端、私は絶望で周りの景色が大きな音を立てて崩れていくのを感じた。
「ジョシュアは出かけたわ。もうすぐ帰ってくるわよ。私は、ほら、わかるでしょ?やっぱり、愛し合うって体力がいるじゃない?」
「体力‥‥?」
「嫌だわぁーー。つまり、足が立たないってことよ?腰がガクガクって言えばおわかり?」
「‥‥」
私は実はまだ男性経験なんてない。
だから、予想はつくけど、そんなことを夫の元婚約者から言われたら、悔しさと怒りと情けなさで、なにも言い返せなかった。
唇を血がでるほどかみしめて、目には涙が溢れてきた。
バーレー侯爵家の薔薇の庭園で、実家にいた子供の頃のようにすみっこにうずくまった。
この世からいなくなりたかった。
いくら美しいと人から言われようと一番好きな人がそう思ってくれないなら意味はない‥‥
薔薇のかぐわしい香りが鼻孔をくすぐる。
その優しい香りで癒やされて私は少しづつ冷静になっていく気がしたの。
私は大丈夫だわ、夫に好かれていなければ、そんな夫は捨てればいい!
私にだって、幸せになる権利はあるのだから‥‥
そうよ、大好きな人といるより、大好きだと思ってくれる男性といた方が女は絶対、幸せになれる。
☆
夕方になっても、そこにいた私は外出から戻ってきた夫が帰ってくるのをぼんやりと見ていた。
「どうした?なぜ、そんなところにうずくまっている?」
「さぁ、どうしてでしょうね?」
私は多分、目も鼻もまっ赤なはずだわ。
でも、もう、そんなことはどうでもいいのよ‥‥
この男の目にはリリィ様しか映っていないのでしょう?
この人は私の運命の人じゃぁなかった、それだけだわ‥‥
「私はあの幼い頃の貴方の優しい言葉を忘れたことは一度もありませんでした。
貴方の妻になれるとお母様から聞いて、どんなに嬉しかったか‥‥
でも、さきほどのリリィ様の様子を見たら百年の恋も冷めましたわ。
やっと、冷静になりました。さようなら」
私は、しっかりした口調できっぱりと言い切ってしまうと、少しすっきりしたの。
すくっと、立ちあがって、実家のプラム家に帰ろうとするとジョシュア様から腕をつかまれた。
「どこへ行く?」
「あぁ、帰るのですわ!」
私はスタスタと足早に馬車まで歩くと御者に告げた。
「プラム伯爵家に急いで向かいなさい」
☆
プラム伯爵家では夕食をお母様とお父様が召し上がっていらっしゃった。
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いきなり、宣言して、お母様の隣に座って、お母様のブドウパンを一口かじった。
「これ!なんです?レディらしくない!」
「今日だけはレディじゃなくてもいいでしょう?離婚したら今度こそは私を溺愛してくれる男性と結婚したいわ。大お父様とお母様のように仲のいい夫婦になりたいの。」
私はバーレー侯爵家の寝室からでてきたリリィ様の話をしたわ。
「はぁーーかわいそうに!!好きな方から、そんな仕打ちを受けるなんて‥‥舞踏会でも一回もエスコートもしてくれないなんて、聞いたことがないわ!
元婚約者と別れるつもりがないなら、そう言ってくださればマディソンを嫁がせたりしなかったのに‥‥というか、そんないいかげんな男性とは思わなかったわ」
お母様はメイドに私のぶんの料理を用意させると、紅茶を自らついでくださった。
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涙で霞むビーフシチューは大好きな味で、実家に帰ってきた実感があった。
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お父様はカンカンに怒っていた。
プラム伯爵家は筆頭伯爵家ともいえる家柄で繁栄を極めた領地を治め、一部の者しか知らない秘密もあった。侯爵家といえど侮っていい家柄ではけっしてなかったのである。
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