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19 オリビアを困らせてやろう(クロエ視点)

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※イラストエッセイの7、8話にハミルトンを掲載しました。

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 私にハミルトン様は剣を向けようとした。幻惑の術が勝手に解けるなんてあり得ない。解けたうえに私の仕業だと完璧にばれていた。オリビアが実家に帰ったというのも聞きされ、私の計画が失敗に終わったことがわかった。

 気にはなったけれど、今日は天気も良い。話題のカフェにハミルトン様を誘って行くつもりだったので、昨日から楽しみにしていたのよ。だから、我慢できなくて一人でも行くことにした。

 人気のカフェは訪れる者を一瞬でリラックスさせるような、洗練された落ち着きと温かみが漂う内装で彩られていた。まず、入口をくぐると、柔らかな照明がお出迎え。自然光が巧みに取り入れられ、心地よい光が空間を包み込んでいる。

 店内にはナチュラルな木材と暖色系の調和がとれた家具が置かれていた。木のぬくもりが感じられる床やテーブル、椅子は心地よい温かさを与えてくれる。

(この素朴な感じが新鮮だわ。派手な装飾で彩られた贅沢な家具が好きだけど、たまにはこんなのも悪くないわね)

 植物が随所に配置され、空気中に爽やかな香りを広げている。ソファやクッションは柔らかくてゆったりとした座り心地が楽しめた。角には静謐な雰囲気を醸し出す小さな読書スペースがあり、落ち着いた雰囲気の中で本を楽しむこともできた。

 ゆっくりお茶を飲み心を落ち着かせてからランドン公爵家に帰ると、サロンではお父様とお兄様が怒りのオーラをまといながら待ち構えていた。

「今日は王宮で儀式があるはずですわよね? なぜ、ここにいらっしゃるの?」

「王宮には行ったが、すぐに帰ってきたのだ。ところで、領地を管理するのに使うはずのお金がすっかりなくなっている。なぜ、クロエが勝手に使っているんだ?」

 お父様とお兄様にかけた幻惑の術も解けていた。


 私にとって贅沢は欠かせないものよ。この広い世界には素晴らしいものがたくさんあるし、私はそれを楽しむ権利があると信じている。
 お父様はお金のことを心配するけれど、私はただ自分の好みに合ったものを追い求めているだけだわ。このドレスやアクセサリー、それに私の居室に揃えた美しい家具。これらは私の生活に彩りを与えてくれるのよ。贅沢を楽しむことは、私が社交界で輝きを放つために必要不可欠なものだわ。
 世の中には素晴らしいものがいっぱいあるし、私がそれを手に入れることで経済も回り、人々にも幸せが広がるのよ。私の贅沢は単なる我儘ではなく、社会にもプラスの影響を与えている。
 お父様には理解できないかもしれないけれど、私は自分の信念を貫くつもりよ。贅沢を愛する私だからこそ、新しい価値観やトレンドを生み出すことができる。だからこそ、これからも私の欲望に従って生きていくことを選ぶわ。

 私はこのような素晴らしい意見を、お父様たちに説明してあげた。

「お前は勘当だ! めちゃくちゃな理由で大金を使い込みながら、少しも悪いと思っていないし反省の言葉もない。そんな娘はいらん!」

「嘘でしょう? だいたい、なんでお父様たちの魔法が解けているのよ」

「やはり、クロエが私とダニエルに魔法をかけたのか。大魔道士様が王宮にいらっしゃり、解いてくださったのだ。パリノ公爵閣下も同じような魔法をかけられていたと教えてくださった。お前という奴はなんと罪深いことをしたのだ」

(大魔道士様がこの国に来ているの? 捕まればとても重い罪になるわ。逃げなきゃ! でも、どこへ行こう? そうだわ。アンドリューの屋敷に行こう)

 アンドリュー・プレイデン侯爵にも幻惑の術をかけてある。私はアンドリューの領地まで馬を走らせた。乗馬は得意だったし、ベンジャミン男爵家の開発した魔道具も馬の蹄に装着済みよ。オリビアの実家のベンジャミン男爵家では、画期的な魔道具を次々と開発し、販路を広げていた。

(オリビアはずるいわよ。生まれながらにそんな商才を持つ父親に恵まれた。なんの努力もしなかったくせに、大富豪のひとり娘として贅沢三昧が許される。世の中って不公平すぎる!)

「やぁ、僕の可愛いクロエ。いきなり来てびっくりしたけれど、相変わらず天使のように美しいね」

 これよ、この反応が正しいわ。幻惑の術をかけられているアンドリューは、私の言いなりだった。


☆彡 ★彡



 私はプレイデン邸で、一番素敵な部屋に通してもらった。プレイデン家の侍女に手伝ってもらいながら入浴をしたわ。いくら馬が疲れないという魔道具を使っても、私のほうはくたくたで汗もかいていた。

「痛い! ちょっと、なにやってるのよ? 髪もまともに洗えないの?」

 私は使えない侍女を平手打ちした。

(だって、私は疲れているのよ! ほんとうに、いらいらするったらないわ)

 せっかくうまくいくと思っていた計画が失敗して、悔しいし悲しくてたまらない。手に入れ損なったベンジャミン家の富を思うと、ため息が出た。それに、ハミルトン様への未練もある。

 オリビアがパリノ公爵夫人になってからの社交界での評判はすこぶる良かった。パリノ公爵夫人には、もともと私がなるはずがったのに、途中から奪うなんて間違っている。

 私は自分からハミルトン様を捨てたことも忘れて、全てをオリビアのせいだと決めつけた。オリビアのせいにすることで、自分の失敗を忘れることができた。それに、少しだけ楽しいことを思いついて、気分が上向きになっていた。

 アンドリューが用意してくれた綺麗なドレスを着ると、早速、胸のあたりを少しだけ引き下げた。白い豊かな胸の谷間がよく見えるようによ。

「アンドリュー。私ね、オリビア・ベンジャミン男爵令嬢に酷い侮辱を受けたのよ。悲しくて悔しくて、ここしばらく食欲もないし眠れなかったわ」

 アンドリューの胸に飛び込むと、上目遣いに彼の顔を見つめて涙を流した。アンドリューの顔がオリビアへの怒りで歪んでいく様子を、笑いださないように気をつけるので必死だった。



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(※アレクサンダーが王宮に呼ばれた儀式には、ちょうどこの父親と兄も参加していました。言動がおかしかったので、アレクサンダーが魔法を解いたようです。後のお話で、でてくると思います)

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