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15 プライドがずたずたになったオリビア

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 ※イラストエッセイの1話と2話にオリビアのイメージイラストあります。3話にはエマのイラストあります。いずれもAIイラストです。抵抗のない方はご覧くださいませ。

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 軽くその男性が会釈するので私もそれにならった。

「失礼ですが、ハミルトンの奥方ですか?」

 その男性が私を眩しそうに見つめて尋ねた。仕立てのいい服は華美すぎず上品だった。艶気を含んだ低い声もその姿に合っている。

「いいえ。奥方だったことは一度もありませんわ」

 私はその男性からすぐに視線をはずすと馬車に向かった。

「お嬢様、あの男性はちょっと素敵でしたわね?」

 ラナがうっとりとした表情を浮かべていたが、右手でもてあそんでいるのはスローイングナイフだった。

「ただ者ではなさそうだったな」

 ゾーイは考え込むように呟きながらも、実は本に夢中だった。

「ねぇ、ゾーイ。その本、絶対に恋愛小説よね? だって、さっきからにやにやしながら楽しそうですもの。私にも見せてよ」
 
 本に手を伸ばした私は、慌ててその手を引っ込めた。本の題名が問題外だったのよ。だって、それは『拷問の歴史と毒の調合方法』だったから。

 私は、ため息をついて、隣に座っているエマの肩に寄りかかった。

「エマ、ハミルトン様にはもう二度と会いたくないわ」

「屑の言った言葉などお嬢様は覚えている必要はありませんよ。このエマがお嬢様の辛いことは代わりに覚えておいてさしあげます」

 エマの綺麗な長い指が私の金髪を撫でてくれた。エマは昔から私の姉のような存在だ。馬車のなかで、私は幼い頃のようにエマにもたれて外の景色を眺めた。天気のいい日で空は雲一つなく冴え渡っている。

(そうね。ハミルトン様の言ったことなどどうでもいい。心が傷つくのは相手が放った言葉によるのではないかもしれない。自分がその言葉に囚われた瞬間に、自分で勝手に傷つくのよ)


☆彡 ★彡


 ひたすら青かった空が、濃い群青色に変わり茜色と混ざる。ちょうどベンジャミン家に到着した私は、庭園にゆっくりと降り立つ。薔薇の庭園を抜けた四阿に、久しぶりに会うお母様の姿をみつけ、私は笑みが深くなる。

「お母様」

 私はお母様に、そっと抱きついた。

「オリビア、あなたをパリノ公爵家に嫁がせたのは間違いだったわね。今日はなにも聞かないわ。かわいそうに」

 優しいお母様の声を聞いた途端、安堵と甘えからだと思う。私の瞳からポロリと大粒の涙が流れた。それだけ、私のプライドはズタズタに切り裂かれていたのよ。



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※スローイングナイフ:投げナイフのこと。

※侍女の紹介です。エマはリーダー格の侍女で、キリッとした容姿の美人さんです。ラナは、綿菓子のようなほわっとしたかわいい容姿で発言もほわんとしていますが、投げナイフの達人で語尾を伸ばす癖がありますよ。ゾーイは眼鏡をかけたインテリっぽい容姿で、性格もちょっときつめで、ため口です。
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