15 / 37
15 プライドがずたずたになったオリビア
しおりを挟む
※イラストエッセイの1話と2話にオリビアのイメージイラストあります。3話にはエマのイラストあります。いずれもAIイラストです。抵抗のない方はご覧くださいませ。
୨୧⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒୨୧
軽くその男性が会釈するので私もそれにならった。
「失礼ですが、ハミルトンの奥方ですか?」
その男性が私を眩しそうに見つめて尋ねた。仕立てのいい服は華美すぎず上品だった。艶気を含んだ低い声もその姿に合っている。
「いいえ。奥方だったことは一度もありませんわ」
私はその男性からすぐに視線をはずすと馬車に向かった。
「お嬢様、あの男性はちょっと素敵でしたわね?」
ラナがうっとりとした表情を浮かべていたが、右手でもてあそんでいるのはスローイングナイフだった。
「ただ者ではなさそうだったな」
ゾーイは考え込むように呟きながらも、実は本に夢中だった。
「ねぇ、ゾーイ。その本、絶対に恋愛小説よね? だって、さっきからにやにやしながら楽しそうですもの。私にも見せてよ」
本に手を伸ばした私は、慌ててその手を引っ込めた。本の題名が問題外だったのよ。だって、それは『拷問の歴史と毒の調合方法』だったから。
私は、ため息をついて、隣に座っているエマの肩に寄りかかった。
「エマ、ハミルトン様にはもう二度と会いたくないわ」
「屑の言った言葉などお嬢様は覚えている必要はありませんよ。このエマがお嬢様の辛いことは代わりに覚えておいてさしあげます」
エマの綺麗な長い指が私の金髪を撫でてくれた。エマは昔から私の姉のような存在だ。馬車のなかで、私は幼い頃のようにエマにもたれて外の景色を眺めた。天気のいい日で空は雲一つなく冴え渡っている。
(そうね。ハミルトン様の言ったことなどどうでもいい。心が傷つくのは相手が放った言葉によるのではないかもしれない。自分がその言葉に囚われた瞬間に、自分で勝手に傷つくのよ)
☆彡 ★彡
ひたすら青かった空が、濃い群青色に変わり茜色と混ざる。ちょうどベンジャミン家に到着した私は、庭園にゆっくりと降り立つ。薔薇の庭園を抜けた四阿に、久しぶりに会うお母様の姿をみつけ、私は笑みが深くなる。
「お母様」
私はお母様に、そっと抱きついた。
「オリビア、あなたをパリノ公爵家に嫁がせたのは間違いだったわね。今日はなにも聞かないわ。かわいそうに」
優しいお母様の声を聞いた途端、安堵と甘えからだと思う。私の瞳からポロリと大粒の涙が流れた。それだけ、私のプライドはズタズタに切り裂かれていたのよ。
୨୧⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒୨୧
※スローイングナイフ:投げナイフのこと。
※侍女の紹介です。エマはリーダー格の侍女で、キリッとした容姿の美人さんです。ラナは、綿菓子のようなほわっとしたかわいい容姿で発言もほわんとしていますが、投げナイフの達人で語尾を伸ばす癖がありますよ。ゾーイは眼鏡をかけたインテリっぽい容姿で、性格もちょっときつめで、ため口です。
୨୧⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒୨୧
軽くその男性が会釈するので私もそれにならった。
「失礼ですが、ハミルトンの奥方ですか?」
その男性が私を眩しそうに見つめて尋ねた。仕立てのいい服は華美すぎず上品だった。艶気を含んだ低い声もその姿に合っている。
「いいえ。奥方だったことは一度もありませんわ」
私はその男性からすぐに視線をはずすと馬車に向かった。
「お嬢様、あの男性はちょっと素敵でしたわね?」
ラナがうっとりとした表情を浮かべていたが、右手でもてあそんでいるのはスローイングナイフだった。
「ただ者ではなさそうだったな」
ゾーイは考え込むように呟きながらも、実は本に夢中だった。
「ねぇ、ゾーイ。その本、絶対に恋愛小説よね? だって、さっきからにやにやしながら楽しそうですもの。私にも見せてよ」
本に手を伸ばした私は、慌ててその手を引っ込めた。本の題名が問題外だったのよ。だって、それは『拷問の歴史と毒の調合方法』だったから。
私は、ため息をついて、隣に座っているエマの肩に寄りかかった。
「エマ、ハミルトン様にはもう二度と会いたくないわ」
「屑の言った言葉などお嬢様は覚えている必要はありませんよ。このエマがお嬢様の辛いことは代わりに覚えておいてさしあげます」
エマの綺麗な長い指が私の金髪を撫でてくれた。エマは昔から私の姉のような存在だ。馬車のなかで、私は幼い頃のようにエマにもたれて外の景色を眺めた。天気のいい日で空は雲一つなく冴え渡っている。
(そうね。ハミルトン様の言ったことなどどうでもいい。心が傷つくのは相手が放った言葉によるのではないかもしれない。自分がその言葉に囚われた瞬間に、自分で勝手に傷つくのよ)
☆彡 ★彡
ひたすら青かった空が、濃い群青色に変わり茜色と混ざる。ちょうどベンジャミン家に到着した私は、庭園にゆっくりと降り立つ。薔薇の庭園を抜けた四阿に、久しぶりに会うお母様の姿をみつけ、私は笑みが深くなる。
「お母様」
私はお母様に、そっと抱きついた。
「オリビア、あなたをパリノ公爵家に嫁がせたのは間違いだったわね。今日はなにも聞かないわ。かわいそうに」
優しいお母様の声を聞いた途端、安堵と甘えからだと思う。私の瞳からポロリと大粒の涙が流れた。それだけ、私のプライドはズタズタに切り裂かれていたのよ。
୨୧⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒୨୧
※スローイングナイフ:投げナイフのこと。
※侍女の紹介です。エマはリーダー格の侍女で、キリッとした容姿の美人さんです。ラナは、綿菓子のようなほわっとしたかわいい容姿で発言もほわんとしていますが、投げナイフの達人で語尾を伸ばす癖がありますよ。ゾーイは眼鏡をかけたインテリっぽい容姿で、性格もちょっときつめで、ため口です。
112
お気に入りに追加
1,650
あなたにおすすめの小説
殿下、側妃とお幸せに! 正妃をやめたら溺愛されました
まるねこ
恋愛
旧題:お飾り妃になってしまいました
第15回アルファポリス恋愛大賞で奨励賞を頂きました⭐︎読者の皆様お読み頂きありがとうございます!
結婚式1月前に突然告白される。相手は男爵令嬢ですか、婚約破棄ですね。分かりました。えっ?違うの?嫌です。お飾り妃なんてなりたくありません。
王太子妃は離婚したい
凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。
だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。
※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。
綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。
これまで応援いただき、本当にありがとうございました。
レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。
https://www.regina-books.com/extra/login
婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?
すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。
人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。
これでは領民が冬を越せない!!
善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。
『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』
と……。
そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。
「股ゆる令嬢」の幸せな白い結婚
ウサギテイマーTK
恋愛
公爵令嬢のフェミニム・インテラは、保持する特異能力のために、第一王子のアージノスと婚約していた。だが王子はフェミニムの行動を誤解し、別の少女と付き合うようになり、最終的にフェミニムとの婚約を破棄する。そしてフェミニムを、子どもを作ることが出来ない男性の元へと嫁がせるのである。それが王子とその周囲の者たちの、破滅への序章となることも知らずに。
※タイトルは下品ですが、R15範囲だと思います。完結保証。
【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。
112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。
エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。
庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──
夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。
辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。
無理やり『陰険侯爵』に嫁がされた私は、侯爵家で幸せな日々を送っています
朝露ココア
恋愛
「私は妹の幸福を願っているの。あなたには侯爵夫人になって幸せに生きてほしい。侯爵様の婚姻相手には、すごくお似合いだと思うわ」
わがままな姉のドリカに命じられ、侯爵家に嫁がされることになったディアナ。
派手で綺麗な姉とは異なり、ディアナは園芸と読書が趣味の陰気な子爵令嬢。
そんな彼女は傲慢な母と姉に逆らえず言いなりになっていた。
縁談の相手は『陰険侯爵』とも言われる悪評高い侯爵。
ディアナの意思はまったく尊重されずに嫁がされた侯爵家。
最初は挙動不審で自信のない『陰険侯爵』も、ディアナと接するうちに変化が現れて……次第に成長していく。
「ディアナ。君は俺が守る」
内気な夫婦が支え合い、そして心を育む物語。
私、侯爵令嬢ですが、家族から疎まれ、皇太子妃になる予定が、国難を救うとかの理由で、野蛮な他国に嫁ぐことになりました。でも、結果オーライです
もぐすけ
恋愛
カトリーヌは王国有数の貴族であるアードレー侯爵家の長女で、十七歳で学園を卒業したあと、皇太子妃になる予定だった。
ところが、幼少時にアードレー家の跡継ぎだった兄を自分のせいで事故死させてしまってから、運命が暗転する。両親から疎まれ、妹と使用人から虐められる日々を過ごすことになったのだ。
十二歳で全寮制の学園に入ってからは勉学に集中できる生活を過ごせるようになるが、カトリーヌは兄を事故死させた自分を許すことが出来ず、時間を惜しんで自己研磨を続ける。王妃になって世のため人のために尽くすことが、兄への一番の償いと信じていたためだった。
しかし、妹のシャルロットと王国の皇太子の策略で、カトリーヌは王国の皇太子妃ではなく、戦争好きの野蛮人の国の皇太子妃として嫁がされてしまう。
だが、野蛮だと思われていた国は、実は合理性を追求して日進月歩する文明国で、そこの皇太子のヒューイは、頭脳明晰で行動力がある超美形の男子だった。
カトリーヌはヒューイと出会い、兄の呪縛から少しずつ解き放され、遂にはヒューイを深く愛するようになる。
一方、妹のシャルロットは王国の王妃になるが、思い描いていた生活とは異なり、王国もアードレー家も力を失って行く……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる