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9 オリビアを裏切るハミルトン(ハミルトン視点) 

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 私はクロエからの手紙を握りしめて彼女の姿を思い浮かべていた。亜麻色の髪は陽をうけてきらめいていたし蜂蜜色の瞳も愛らしかった。それに、彼女の吐息は甘い香りがした。思いだせばだすほど、男なら絶対クロエを諦めることなどできはしない。

(私とオリビアは白い結婚だから、裏切ったことにはならないんじゃないだろうか。もともと、政略結婚だしオリビアとのあいだに愛はない。いつでも心はクロエの元にあるんだ)

 もともと、私は美しい女性にしか興味がもてない。流行病で両親は亡くなったが、母上も美しい女性だったし、隣国であるユハットに嫁いだ姉上も美しかった。だから、女性は美しくて当然と思っていた。もっと言えば、美しくない女性には価値がないと思っていたのだ。

(だって、そうだろう? 誰が、美しくない花を部屋に飾る? 美しく綺麗な花だからこそ、部屋に飾って愛でる価値があるのさ)

 そう考えるとオリビアに価値はない。なぜなら、彼女は少しも美しくないからだ。しかし、朗らかで穏やかな空気をまとっている彼女が、好ましいと思うことあった。

 オリビアが来てから、パリノ公爵家の庭園には季節ごとの花が植えられ、洒落た四阿がいくつか造られた。補修の必要があった古めかしい噴水は、今や大理石で造り変えられ一層華やかに水しぶきをあげている。

 屋敷じゅうの部屋は適切に改装され、日の当たらない部屋には天窓がつけられた。そこかしこに、かぐわしい香りを放つ薔薇が飾られて、ソファもクッションも上品なパステルカラーで統一された。屋敷じゅうが寛げて温かい雰囲気に満ちている。

 お金の管理も難なくこなし、社交界でもパリノ公爵家は良い評判を得ていた。これは、全てオリビアのおかげだった。オリビアは妻にしておくには最適な女性だと評価はしている。だが、オリビアを愛することはできない。私の心に住みついている天使を追い出すことなど到底できないのだ。



クロエ。私は、いつも貴女だけを想っている。
可愛らしい貴女がいつ来てもいいように、毎日、空が薔薇色に染まる頃に必ずその場所に行くよ。



 そのような文面の手紙を、愛を込めて私の天使にしたためた。その手紙をランドン家に届けるようにと、フットマンにこっそりと渡す。
 
「オリビア、ハーブティーをいれてくれないか?」

 他の女性と会いに行こうとしているくせに、私はオリビアにお茶を淹れてもらいに執務室からサロンに移動した。ぱっと顔を輝かせて微笑んだオリビアを見て、私の胸の奥がチクリと痛んだのだった。

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