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※最終話のつもりだったのですが、長い文章になったので3話に分けます。申し訳ありません。それと、クレマンスは実は生きていたという展開です💦

※クレマンス更生編


。:+* ゚ ゜゚ *+:。:+* ゚ ゜゚ *+:。:+* ゚ ゜゚ *+:。



(クレマンス視点)

 ここは天国? 足が痛くて堪らないし身体がだるくて死にそうだ。

「クレマンス、大丈夫か? 全く聖獣を追い回すなんて愚かなことをするからこうなる。幸い命は取り留めたから良かったものの、片足はなくなってしまったぞ」
 父上が説教じみた声でそう告げた。

「えぇ? 僕の身体・・・・・・足も手も小さいよ。それにあのチビはどこに行った? 大きくなって恨みを晴らしに来たあの子聖獣はどこだ?」

「子聖獣と親聖獣はもうとっくに逃げているし、クレマンスが子聖獣を追いかけ回すところをわたしは見ていた。聖獣は尊い存在で、石を投げるなどもっての外だぞ。お前が悪い!」

「兄上はどこです? 兄上が助けてくれるはずだった」

「何を言っている。ジュルダンは先日隣国に留学したばかりではないか。6年は帰ってこないぞ」

「留学? そんなの聞いていないよ」
 足に包帯を巻かれ治療はされているが痛みは治まらない。大魔女のせいで時が遡り過去に戻ったんだ。あるべき状態に・・・・・・





 片足をなくした僕は以前の兄のようには振る舞えなかった。かつての兄は片足をなくしたことを恨みもせず、できることを黙々と頑張っていた。勉学に励み片足がなくても卑屈にならず、僕を責めることも無かったのだ。

 しかし、いざ自分が片足のない人間になってみると、とても兄のようにはなれなかった。自分に自信がなくなり卑屈になって、勉強だってなおさらしたくない。

(足がないんだぞ。これからの僕の人生は真っ暗だよ)

 唯一の救いは手があることだ。絵でも描くかな、ふとそう思い絵筆をとった。

 それからは、絵画を見ることと描くことだけが心の救いになっていく。片足がないことで、両親も絵ばかり描く僕を注意しなかった。

「お前がそれほど絵が好きなら、絵の師匠をつけてやろう。次男のお前は爵位を継げず、その足では騎士団にも入団できない。頭も・・・・・・勉強が苦手なクレマンスだから、文官にはなれぬだろうな。だったら好きな絵の道を極めなさい」

「はい、ありがとうございます」

 父上の話はもっともで、反論の余地はない。素直にお礼が言えた。





 それからは絵を描くことに没頭した。兄上が留学先から戻って来る頃には、ほんの少しだけ有名な画家になっていた。

 以前は亡くなっていた両親もなぜか健在で、兄上に爵位を譲った後も離れで暮らしていた。一方、僕はドビュッシー伯爵領地内の田舎にアトリエを父から与えられそこで暮らす。ほんの少しの使用人を雇い、絵で生計を立てていたが暮らしは楽だった。必要以上の贅沢はしないし、絵さえ描ければそれで良かったからだ。

 以前は兄の仕事を手伝うふりをして高給を得ていたが、今は自分の腕でお金を稼ぐ充実感がある。人に頼らず自分の力で生きていくことはすがすがしい。

(本来あるべき正しい状態とは、まさにこのことかもしれない)





 ある日、かつての妻アロイーズに会いたくなって杖をつき病院に向かった。キラキラした笑顔で働いているアロイーズを見つけ思わず見惚れた。

(ちっとも冴えない女ではない。むしろ綺麗だ)

 かつての僕の瞳は曇っていたのだ。くだらない娼婦とばかり遊んでいた僕には、厚化粧の女しか美人に見えなかったのかもしれない。

 片足の傷は天候の加減で痛む時もあって、痛み止めをもらうのに定期的にその病院に通うことにした。その度に見かけるアロイーズにすっかり恋をして・・・・・・でもこんな片足の僕は声をかける資格もないし、彼女には相応しくない。

(アロイーズに相応しいのは・・・・・・兄上だな)

 


「兄上はそろそろ身を固めた方がいいよ。とても勤勉で兄上にお似合いの子がいるんだ。連れて来るからうまく引き合わせてよ」
 僕はドビュッシー伯爵家に出向き、侍女長マチルダと母上に相談する。社交界の令嬢達に興味を示さない兄上に気を揉んでいた母上は大賛成だった。


「ラッパラン男爵家のアロイーズ様なら堅実だし真面目な方よね。確か大きな病院に勤務している令嬢よね。貴族らしくないけれど、ジュルダンはきっと気に入るでしょう」
と母上。

「まぁ、いいですね。その話乗りましょう」
以前は僕と犬猿の仲だったマチルダとは良好な関係を築いている。




 やがて、母上とマチルダの奮闘のお陰で、兄上とアロイーズは恋に落ち結婚した。僕はかつての妻に心から祝福をおくる。こうして間違いがひとつづつ修正されていくのは気持ちがいい。

(大魔女様に感謝だな)

 翌日、絵で稼いだ金で買った宝石を持って、あの火山の麓に大魔女に会いに行った。

「おやおや、また来たのかい? そうそう何度も時戻しの魔法は使えないよ。お前さんもあるべき状態になって、それなりに幸せだろう? 他になにを望むのだい?」

「お礼を言いたかったのさ。僕は今の状態にとても満足しているよ。ありがとう。今日のお願いは聖獣に謝りたいんだ。以前怪我をさせたことを申し訳なく思っているから、あの子聖獣に会わせてくれないかな?」

「ほぉーー。ずいぶんまともな人間になったもんさね。いいだろう。そんな願いなら宝石はいらないよ。ほら、もう目の前に聖獣がいる。誠心誠意謝るんだね」
以前と同じで紫煙とともに消えた大魔女。

 大魔女のいた場所には聖獣がいて牙をむいている。

「ごめんよ、痛かったよね。昔のことを反省しているんだ。あの時は本当に申し訳なかった」

 するとさっきまで歯をむき出していた聖獣がトコトコとやって来て、僕の顔をペロリと舐めた。それからは僕のアトリエに頻繁に遊びに来ては寛いで帰って行く。

「ねぇ、君の姿を絵に描いてもいいかな? 見事な毛並みだからつい描きたくなるよね。目もとっても澄んでいるしね。君はとても綺麗だよね」

 聖獣は嬉しそうに僕にすり寄ってくる。巨大な聖獣はもふもふの純白の毛並みで、顔は猫に似ている。聖獣は僕の生涯の友達になった。

 両親とも兄上夫妻とも僕は仲良しだし、週末は必ず食事に誘われる。そんな時は聖獣に乗って遊ぶに行くよ。


 大魔女が言った本来あるべき状態ってこういうことなのか。本来あるべき正しい状態はとても居心地が良い。


 僕はこの人生で娼館に行くことはただの一度もなかった。






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※クレマンス編は終わりです。次はジュルダン視点とアロイーズ視点で完結予定です。


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