(完結)「君を愛することはない」と言われました。夫に失恋した私は・・・・・・

青空一夏

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「地味で堅実な女性ですか? 私だけが地味なわけでも堅実なわけでもないはずです。なぜ私なのですか?」

「いいや、君にしかできないことがある。ほら君の特技だよ。兄上の片足がないのは知っているだろう? それは兄上が幼い頃に僕を庇ったからなのだ。だから妻の君が僕の代わりに兄に尽くしてくれ。いつもの仕事だと思ってやってくれればいいんだよ」

(やっぱり、私はそんな理由でしか価値がないのね)

「酷い話ですね。私を騙したのですね」

「騙してはいないよ。麗しい僕の妻という地位は安泰だよ。浮気はするけど離婚はしない。条件としてはけっして悪くないと思うけど。じゃ、そういうことで」
 クレマンス様はにっこり笑って、夫婦の寝室から自室に戻っていく。私も自室に戻り、その日以降夫婦の寝室が利用されることはなかった。病院にはすでにクレマンス様から退職願いが出されていた。





「アロイーズ様、侍女長のマチルダと申します。ドビュッシー伯爵がアロイーズ様にお話しがあるそうですよ。どうぞこちらに」
 翌日、とても丁寧で好意的な態度のマチルダさんが、本邸から私を迎えに来てくれた。

「結婚式でもお会いしましたが、改めてご挨拶したくて来ていただきました。ようこそドビュッシー伯爵家へ。よくあのクレマンスに嫁いでくれましたね? あいつは昔からいい加減で困っていたのですよ。ただ、実の弟なので憎みきれない部分があって、良い方向に導いてくれる伴侶を選んでくれればいいなと思っていました。アロイーズ嬢のような方なら大歓迎です。どうか弟をよろしくお願いします」
 弟を大事に思う兄の気持ちがそこには溢れていた。

(本当のことは言えそうもないわ。だって、この方のお気持ちを傷つけてしまうもの)

 ジュルダン様はクレマンス様より数倍美しい方だった。クレマンス様は金髪と青い瞳なのに、こちらは銀髪にアメジストの瞳。それだけでも美しいのに、顔立ちも遙かに上品で瞳には知性の煌めきがある。

「こちらこそよろしくお願いします。クレマンス様から、ジュルダン様のお世話をするようにと言われておりまして、なにから始めればよろしいでしょうか?」

「それはお気持ちだけ受け取っておきましょう。弟の嫁に自分の世話などさせられないですよ」
 
 そうおっしゃるジュルダン様は車椅子ではなく普通の椅子に座っていて、なくなっているはずの足も両足揃っていた。

「あのぉーー、クレマンス様からは片足がないとお聞きしたのですが・・・・・・」

「あぁ、これは義足ですよ。わたしの領地には腕の良い職人がいて助かっています。特別にわたしの為に作ってくれたのですよ。杖をつけばゆっくりとですが歩くこともできます。自分の世話は自分でしますので大丈夫」

「ですが、病院を辞めた私にはするべきことが見つかりません。ここで雇っていただけませんか?」

「え? 病院を辞めなくても良かったのに。弟と結婚しても、続けたかったらしてもらって良かったのですよ。なぜ辞めたのですか?」
 クレマンス様が勝手に辞表を出した、とは言いづらい。

「えっと。なんていうか・・・・・・人間関係がうまくいかなくてという感じでしょうか」

「ふむ。人間関係ね。まぁ、世の中にはいろいろな人がいますからね。ですが、アロイーズ嬢の病院での評判を聞いたのですがね。とても良かったしトラブルはなかったようでしたよ。失礼、弟の結婚相手なので慎重に判断したくて少し調べさせてもらいました」

「えぇ、トラブルはありませんでした。ですが、辞めてしまったものですから・・・・・・侍女としてでもいいので働かせてくださいませんか?」

「? あっははは。アロイーズ様は不思議な令嬢ですね。嫁いで来て働かせて欲しいだなんて。クレマンスには充分なお金を毎月渡していたし、アロイーズ嬢を迎えたこの月からは倍近くの金額にしましたよ。ですからアロイーズ嬢はこれを機に、優雅に暮らしていればいいのでは?」

「優雅に・・・・・・無理です。私、貧乏性なので。忙しく働いているのが大好きですもの」

「ふむ。だったらこの屋敷で好きなように働いても良いですよ」

 私はここでなんとか生き甲斐のようなものを見いだせると思っていた。ジュルダン様のいる本邸は太陽のように暖かで明るい。ここでは生き甲斐を見つけられそうだ。





 けれど、離れに帰るとクレマンス様がいて、堂々と夜中に娼婦を招きいれるのだった。

「娼婦と寝るのは浮気じゃないからね。もちろん離婚はしないから安心していいよ」

 狡猾な笑みを浮かべたクレマンス様に、私は耐えるしかないのかしら? 
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