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市井の学校で盗難騒ぎ

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「お婆様、僕は市井の学校に行きたいです」

 お婆様とマーガレットおばさんは、びっくりしてしばらく固まっていた。

「平民が行く学校だぞ? 耐えられると思うか?」

 ベンジャミン・トマス公爵は、僕を見てクビを傾げた。

「メイソンは優秀です。13歳からは、学者養成学校に進学できますよ。あそこは、優秀であれば、爵位など関係ありません。それまでは、家庭教師で良いでしょう? 3人も家庭教師をつけていれば学校など行かなくても充分です。市井の学校では、お婆様が守ることはできませんよ? 13歳から行く学校で、必要な社会性も身につくし良好な友人関係もできるはずです。わざわざ、自分から苦難に飛び込む必要はありませんよ。」

 お婆様は、僕を心配しておっしゃってくださった。けれど、それではダメな気がした。それに、ジョナサンみたいな子供が他にもいるなら、仲良くなってみたい。僕が、なおも行きたいと主張するとベンジャミン・トマス公爵はおっしゃった。

「思ったより、ずっと気骨のある優秀な若者になりそうだ。頼もしいぞ!」


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「こちらは、メイソン君です。皆で仲良くしてあげましょうね」 

 市井の学校は、校舎も古く、通っている子達も様々だった。お金持ちの子もいれば、そうでない子もいて、服装もいろいろ。でも、それが面白いな、と思う。

「ねぇ、メイソン君って、貴族様の馬車で通学しているよね? なんで?」

 早速、隣の席の子が尋ねてきた。

「あぁ、縁があってお世話になっているんだ」

 適当に答えてやり過ごした。どこから、どこまで話すべきか悩んだし、話し出せば長くなる。

 勉強は家庭教師から教わる方が、よっぽどレベルが高かったから余裕だった。小テストのようなものが毎週あって、廊下に順位を貼り出された。

「「「いきなり、メイソン君がトップかよ? すげーーな!」」」

 そんなざわめきが、くすっぐったい。全然、たいしたことじゃないんだ。家庭教師がいて、好きな本を読んでいただけだもの。新しい知識が身につくのは楽しかったし、それを喜んでくれるお婆様と褒めてくれるマーガレットおばさんがいる。ベンジャミン・トマス公爵は誇らしげに僕を見てくれた。

 だから、どんどん勉強した。そのうち、勉強そのものが趣味のようになって・・・・・・家庭教師の先生はおっしゃった。

「いい連鎖反応です。こうやって、天才は作られるのかもしれない」

と褒めてくれた。僕は、全然、天才なんかじゃない。でも、新しい知識を身につけることは楽しくてやめられなかった。

 

 隣のクラスのジョナサンが友人を3人引き連れて、昼には必ずやって来た。校舎の屋上で5人で食べるお弁当は開放感に溢れていた。僕は、公爵家の使用人の子だと思われたらしい。その3人の子達も貴族の家の使用人の子だったから。僕は全然、気にしない。誰の子であろうと、僕は僕だ!  



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 ある日、僕のクラスで盗難事件が起きた。お金持ちと言われている子が、腕時計を盗まれたと担任に訴えていた。僕は、あまり彼とは話したこともなく、どんな子かも知らなかった。

「あの子は、町一番の有名な時計屋の一人息子だよ。伯父さんはダリア男爵なんだとさ。本人は平民だけれど親戚が貴族だって、いつも威張ってるやつさ」

 隣の席の子は僕に耳打ちした。男爵の親戚で、そんなに威張れるものなんだ?不思議な世界だな・・・・・・と思って他人事のようにしていたら、いきなり僕に火の粉が掛かってきた。


「メイソン君が怪しいと思います。昨日はメイソン君だけ、体育の時間に教室に戻ったでしょう? あれから時計が見当たらないもん! いくら、勉強ができたって、どうせ使用人の子だろ? こんな時計を買ってもらえるわけがない! 羨ましくて盗んだのだろう? 白状しろよ!」

 その子は、僕に人差し指を突きつけたのだった。


 
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