12 / 19
クリントのさらなる悪巧み
しおりを挟む
クリントside
暖炉の炎がぱちぱちと音を立てる中、クリントは書斎の机に広げた帳簿を見つめていた。数字の並びは完璧だ。このレストン伯爵家がいかに豊かであるかを証明している。前レストン伯爵(クリントの弟)は堅実な性格で領地経営も良好だった。プリムローズに言った借金などひとつもなかったのだ。
――弟夫妻をあの世に送り、姪も追い出した。すべてが完璧な計画だった――そう、今日までは。
「こんなにうまくいくとはな……莫大な財産と爵位は私のものだ……」
大きな声で笑い声をあげた。実に爽快な気分だった。
しかし、突然、執事が扉を叩き、不安げな声で告げる。
「旦那様、王宮からの使者がいらしております。重要な書状を届けに参ったとのことです」
クリントの眉間に一筋の皺が寄った。
――王宮から?
嫌な予感が胸をかすめるが、それを表に出すことなく立ち上がり、サロンに向かった。使者は品格のある装いの若い男で、淡々と巻物を差し出した。
「クリント・レストン伯爵、王家主催の裁判へ出席するよう、国王陛下が命じられました。詳しいことは書簡をご確認ください」
その場で封を切るわけにもいかず、使者を無言で送り出すと、クリントは震える手で巻物を開いた。内容を一読すると、全身が冷たくなるような感覚に襲われた。
「貴殿にかけられた罪状についての審議を行う。罪状は以下の通りである――レストン伯爵家の財産の横領と詐欺、前レストン伯爵への侮辱罪である」
裁判の日時と場所が明記され、さらに告発人として姪の名が記されていた。
「プリムローズめ……!」
クリントの口元が引き攣る。かつて弟の死後、伯爵家を守るという名目で跡取りの座を奪い取ったあの時、小娘の姪は何もできないと高を括っていた。金庫の中身を全て奪い取り家財道具まで売り飛ばし、ラリーたちを解雇し罪人に仕立てあげた。完璧な勝利だと思っていたのに――なぜ今になって訴えられる?
「ばかな娘だ。私が横領したという証拠なんてなにひとつないはずさ。ラリーは国外に追いやったし、なにかあれば家族の身に危険が及ぶとも言ってある。圧倒的な私の勝利のはずだ」
クリントは傲慢な高笑いをした。だがその行為も自分の不安を押し隠すには不十分だった。すぐさま、オラールを呼び出す。オラールはクリントが最も信頼を置く従者であり、その忠実さゆえ、主の汚れ仕事を率先して行うことで悪名高い男だった。
「ラリーとその家族を亡き者にしろ。裁判になり行方を突き止められて、証言台に立たれたらまずい。王家も関わっているなら、すぐにラリーの居場所もバレてしまうからな」
「はい、かしこまりました!」
オラールが残忍な笑みを浮かべながら去ると、クリントは改めて書簡を見下ろした。王家主催の裁判――自分が築き上げた防壁が崩れるとは思えない。だが、不安は募る。
「……いや、すべて計算通りだ。証拠がない限り、プリムローズが何を言おうと私の身は安泰だ……プリムローズのような小娘にラリーの行き先などわかるはずもないさ。それに、見つけたとしてもだ。いつものようにオラールがうまく仕事をこなした後だ」
そう自分に言い聞かせるも、その声は震えていた。弟夫妻の最期の言葉を思い出したのだ。実際に手を下したのはオラールだったが、側で見ていた自分に弟は呪いの言葉を吐いた。
「兄上。あなたの罪はいずれあなたに返ってくるでしょう。必ず、したことの報いはうけるのです」
オラールは前レストン伯爵夫人の胸をレストン伯爵の矢で射った後、手の自由を奪いふたりを馬に乗せ疾走させた。当然ふたりは落馬し、その場で致命傷を負い亡くなった。その馬に乗せる前の呪いの言葉であった。
暖炉の炎が再びぱちぱちと音を立てる中、クリントはそんな不吉な言葉を思い返したのだが、鼻で笑った。
――くだらない。死人に口なし、なんだよ。報いを受けるだって? そんなことありえない。絶対にありえないさ。
暖炉の炎がぱちぱちと音を立てる中、クリントは書斎の机に広げた帳簿を見つめていた。数字の並びは完璧だ。このレストン伯爵家がいかに豊かであるかを証明している。前レストン伯爵(クリントの弟)は堅実な性格で領地経営も良好だった。プリムローズに言った借金などひとつもなかったのだ。
――弟夫妻をあの世に送り、姪も追い出した。すべてが完璧な計画だった――そう、今日までは。
「こんなにうまくいくとはな……莫大な財産と爵位は私のものだ……」
大きな声で笑い声をあげた。実に爽快な気分だった。
しかし、突然、執事が扉を叩き、不安げな声で告げる。
「旦那様、王宮からの使者がいらしております。重要な書状を届けに参ったとのことです」
クリントの眉間に一筋の皺が寄った。
――王宮から?
嫌な予感が胸をかすめるが、それを表に出すことなく立ち上がり、サロンに向かった。使者は品格のある装いの若い男で、淡々と巻物を差し出した。
「クリント・レストン伯爵、王家主催の裁判へ出席するよう、国王陛下が命じられました。詳しいことは書簡をご確認ください」
その場で封を切るわけにもいかず、使者を無言で送り出すと、クリントは震える手で巻物を開いた。内容を一読すると、全身が冷たくなるような感覚に襲われた。
「貴殿にかけられた罪状についての審議を行う。罪状は以下の通りである――レストン伯爵家の財産の横領と詐欺、前レストン伯爵への侮辱罪である」
裁判の日時と場所が明記され、さらに告発人として姪の名が記されていた。
「プリムローズめ……!」
クリントの口元が引き攣る。かつて弟の死後、伯爵家を守るという名目で跡取りの座を奪い取ったあの時、小娘の姪は何もできないと高を括っていた。金庫の中身を全て奪い取り家財道具まで売り飛ばし、ラリーたちを解雇し罪人に仕立てあげた。完璧な勝利だと思っていたのに――なぜ今になって訴えられる?
「ばかな娘だ。私が横領したという証拠なんてなにひとつないはずさ。ラリーは国外に追いやったし、なにかあれば家族の身に危険が及ぶとも言ってある。圧倒的な私の勝利のはずだ」
クリントは傲慢な高笑いをした。だがその行為も自分の不安を押し隠すには不十分だった。すぐさま、オラールを呼び出す。オラールはクリントが最も信頼を置く従者であり、その忠実さゆえ、主の汚れ仕事を率先して行うことで悪名高い男だった。
「ラリーとその家族を亡き者にしろ。裁判になり行方を突き止められて、証言台に立たれたらまずい。王家も関わっているなら、すぐにラリーの居場所もバレてしまうからな」
「はい、かしこまりました!」
オラールが残忍な笑みを浮かべながら去ると、クリントは改めて書簡を見下ろした。王家主催の裁判――自分が築き上げた防壁が崩れるとは思えない。だが、不安は募る。
「……いや、すべて計算通りだ。証拠がない限り、プリムローズが何を言おうと私の身は安泰だ……プリムローズのような小娘にラリーの行き先などわかるはずもないさ。それに、見つけたとしてもだ。いつものようにオラールがうまく仕事をこなした後だ」
そう自分に言い聞かせるも、その声は震えていた。弟夫妻の最期の言葉を思い出したのだ。実際に手を下したのはオラールだったが、側で見ていた自分に弟は呪いの言葉を吐いた。
「兄上。あなたの罪はいずれあなたに返ってくるでしょう。必ず、したことの報いはうけるのです」
オラールは前レストン伯爵夫人の胸をレストン伯爵の矢で射った後、手の自由を奪いふたりを馬に乗せ疾走させた。当然ふたりは落馬し、その場で致命傷を負い亡くなった。その馬に乗せる前の呪いの言葉であった。
暖炉の炎が再びぱちぱちと音を立てる中、クリントはそんな不吉な言葉を思い返したのだが、鼻で笑った。
――くだらない。死人に口なし、なんだよ。報いを受けるだって? そんなことありえない。絶対にありえないさ。
339
お気に入りに追加
768
あなたにおすすめの小説
姉の所為で全てを失いそうです。だから、その前に全て終わらせようと思います。もちろん断罪ショーで。
しげむろ ゆうき
恋愛
姉の策略により、なんでも私の所為にされてしまう。そしてみんなからどんどんと信用を失っていくが、唯一、私が得意としてるもので信じてくれなかった人達と姉を断罪する話。
全12話
──いいえ。わたしがあなたとの婚約を破棄したいのは、あなたに愛する人がいるからではありません。
ふまさ
恋愛
伯爵令息のパットは、婚約者であるオーレリアからの突然の別れ話に、困惑していた。
「確かにぼくには、きみの他に愛する人がいる。でもその人は平民で、ぼくはその人と結婚はできない。だから、きみと──こんな言い方は卑怯かもしれないが、きみの家にお金を援助することと引き換えに、きみはそれを受け入れたうえで、ぼくと婚約してくれたんじゃなかったのか?!」
正面に座るオーレリアは、膝のうえに置いたこぶしを強く握った。
「……あなたの言う通りです。元より貴族の結婚など、政略的なものの方が多い。そんな中、没落寸前の我がヴェッター伯爵家に援助してくれたうえ、あなたのような優しいお方が我が家に婿養子としてきてくれるなど、まるで夢のようなお話でした」
「──なら、どうして? ぼくがきみを一番に愛せないから? けれどきみは、それでもいいと言ってくれたよね?」
オーレリアは答えないどころか、顔すらあげてくれない。
けれどその場にいる、両家の親たちは、その理由を理解していた。
──そう。
何もわかっていないのは、パットだけだった。
(完結)その女は誰ですか?ーーあなたの婚約者はこの私ですが・・・・・・
青空一夏
恋愛
私はシーグ侯爵家のイルヤ。ビドは私の婚約者でとても真面目で純粋な人よ。でも、隣国に留学している彼に会いに行った私はそこで思いがけない光景に出くわす。
なんとそこには私を名乗る女がいたの。これってどういうこと?
婚約者の裏切りにざまぁします。コメディ風味。
※この小説は独自の世界観で書いておりますので一切史実には基づきません。
※ゆるふわ設定のご都合主義です。
※元サヤはありません。
(完結)伯爵家嫡男様、あなたの相手はお姉様ではなく私です
青空一夏
恋愛
私はティベリア・ウォーク。ウォーク公爵家の次女で、私にはすごい美貌のお姉様がいる。妖艶な体つきに色っぽくて綺麗な顔立ち。髪は淡いピンクで瞳は鮮やかなグリーン。
目の覚めるようなお姉様の容姿に比べて私の身体は小柄で華奢だ。髪も瞳もありふれたブラウンだし、鼻の頭にはそばかすがたくさん。それでも絵を描くことだけは大好きで、家族は私の絵の才能をとても高く評価してくれていた。
私とお姉様は少しも似ていないけれど仲良しだし、私はお姉様が大好きなの。
ある日、お姉様よりも早く私に婚約者ができた。相手はエルズバー伯爵家を継ぐ予定の嫡男ワイアット様。初めての顔あわせの時のこと。初めは好印象だったワイアット様だけれど、お姉様が途中で同席したらお姉様の顔ばかりをチラチラ見てお姉様にばかり話しかける。まるで私が見えなくなってしまったみたい。
あなたの婚約相手は私なんですけど? 不安になるのを堪えて我慢していたわ。でも、お姉様も曖昧な態度をとり続けて少しもワイアット様を注意してくださらない。
(お姉様は味方だと思っていたのに。もしかしたら敵なの? なぜワイアット様を注意してくれないの? お母様もお父様もどうして笑っているの?)
途中、タグの変更や追加の可能性があります。ファンタジーラブコメディー。
※異世界の物語です。ゆるふわ設定。ご都合主義です。この小説独自の解釈でのファンタジー世界の生き物が出てくる場合があります。他の小説とは異なった性質をもっている場合がありますのでご了承くださいませ。
今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました
四折 柊
恋愛
子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)
【完結】婚約者は自称サバサバ系の幼馴染に随分とご執心らしい
冬月光輝
恋愛
「ジーナとはそんな関係じゃないから、昔から男友達と同じ感覚で付き合ってるんだ」
婚約者で侯爵家の嫡男であるニッグには幼馴染のジーナがいる。
ジーナとニッグは私の前でも仲睦まじく、肩を組んだり、お互いにボディタッチをしたり、していたので私はそれに苦言を呈していた。
しかし、ニッグは彼女とは仲は良いがあくまでも友人で同性の友人と同じ感覚だと譲らない。
「あはは、私とニッグ? ないない、それはないわよ。私もこんな性格だから女として見られてなくて」
ジーナもジーナでニッグとの関係を否定しており、全ては私の邪推だと笑われてしまった。
しかし、ある日のこと見てしまう。
二人がキスをしているところを。
そのとき、私の中で何かが壊れた……。
不実なあなたに感謝を
黒木メイ
恋愛
王太子妃であるベアトリーチェと踊るのは最初のダンスのみ。落ち人のアンナとは望まれるまま何度も踊るのに。王太子であるマルコが誰に好意を寄せているかははたから見れば一目瞭然だ。けれど、マルコが心から愛しているのはベアトリーチェだけだった。そのことに気づいていながらも受け入れられないベアトリーチェ。そんな時、マルコとアンナがとうとう一線を越えたことを知る。――――不実なあなたを恨んだ回数は数知れず。けれど、今では感謝すらしている。愚かなあなたのおかげで『幸せ』を取り戻すことができたのだから。
※異世界転移をしている登場人物がいますが主人公ではないためタグを外しています。
※曖昧設定。
※一旦完結。
※性描写は匂わせ程度。
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載予定。
さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】
私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。
もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。
※マークは残酷シーン有り
※(他サイトでも投稿中)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる