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14 ギガンテッド元男爵のその後

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(ギガンテッド元男爵視点)


 次男のアンドルーの嫁は、大金持ち大商人の娘だ。屋敷を訪ねるとアンドレは迷惑そうな顔をした。その妻ジェニファーに至っては「なんの用ですか?」とけんか腰だ。

「あぁ、なんというか・・・・・・私もすっかり歳をとってなぁ。孫の顔が見たくて・・・・・・ここに住まわせてもらえないかな?」

「冗談じゃぁありませんよ。お父様はいつもやってもらって当然という横柄な方だったでしょう? 私は平民ですから男爵だったお父様からすれば、取るに足りない存在かもしれませんけれど、いつもコケにされて一緒に住んであげる義理なんてありませんよ。子どもは嫌いだったでしょう?」

「いや。子どもが嫌いだったのは昔のことで、今はそのようなことはない」

「だったら、一番下の子が今風邪を引いています。メイドも風邪を引いてしまったから、ちょうど人を雇うところでした。お薬を飲ませ、お着替えをさせ、食事をさせたり等、そのようなことをする気があるのならどうぞ?  」

(この私が子守をすることになるとは・・・・・・しかし、これも自業自得か)


 アンドレの末息子フィデールは、やせっぽちで、か弱い。苦しそうに咳をするのは見ていられない。私にまで風邪が移りそうで嫌だな、と顔をしかめる。

 しかしこのフィデールは素直で薬は嫌がらずに飲むし、礼儀正しく本が好きでなかなか賢い。

「フィデールの年齢で、難しい本が読めるのはすごいな。この子は天才かもしれん」
 思わず独りごちると、ジェニファーが嬉しそうに同意してくる。

「お義父様もそう思いますか? あの子は兄達に比べて身体は小さくひ弱なのですが、頭はとても良くて自慢の末息子ですわ」

「今は身体が小さくとも、成長期になればきっと背も伸びるさ。ひ弱なのは、風邪が治ったら少し鍛えれば良い。私が毎朝、一緒に走ってあげよう。それだけでもだいぶ違うよ」
 何の気なしにそう言った。

 フィデールの風邪が治り、私は毎朝孫と走る。会話ができるくらいの速度でゆったりと走るのだ。そのなかでフィデールは自分の夢や読んだ本の感想などを私に話す。

 私はそれに対して、大いに真面目に相づちを打つ。そのうち、両親に言えない秘密やいたずらなども打ち明けだして・・・・・・私はいつのまにか『じぃじ』と呼ばれるようになった。そうなると他の孫達も寄ってきて、孫達との友情みたいなものが芽生える。






「今日はお母様の誕生日だからね。庭のお花を摘んで綺麗な花束にして、僕たち皆で贈るんだよ。お父様はお母様の為に料理を作るって。じぃじもなにかして?」

「そうか。それならじぃじは、魚を釣ってこよう。これでも昔は魚釣り名人と呼ばれたものさ」

「わぁーー! 僕たちもやりたぁーーい」

「そうだな。お前達に釣りを教えてやろう。皆で釣りをすればきっと楽しいぞ」

 私は近くの川まで孫達を引きつれて釣りに行く。

「まぁ、お義父様。いっぱい釣れるといいですね?」
 ジェニファーはニコニコで、かつてあった嫁舅の確執は消えていた。

「あぁ、任しておきなさい。ジェニファーさんのお誕生日祝いに相応しい大きな魚を釣ってこよう」

「まぁ、楽しみですわ。行ってらっしゃい」
 







 贅沢な暮らしや老いらくの恋、男爵だったプライドは捨てた。でも、代わりに得たものはかけがえのない孫達の信頼だ。
 
 孫達と釣り糸を下げ川べりに座る。読み捨てられた新聞が風にあおられこちらに飛んでくる。それを手に取り見たものは、パトリシアが王弟嫡男の妻になったという記事だった。

 たいした出世だと思うが、今の私には関係がない。羨む気持ちも悔しい気持ちもなく、ただあの頃は迷惑をかけたな、と思うだけだ。

 幸せになってくれよ、パトリシア! 

 私も”じぃじ”と孫から慕われ、ほどほどに幸せだ。

「じぃじ! 見て! じぃじの言うとおりにしたら、こぉーーんな大きい魚が釣れたよ。じぃじって凄いな。僕、じぃじみたいになりたい!」
 フィデールがキラキラの眼差しで、こんな不甲斐ない私を見る。

 ほどほど、じゃないな。これって、最高に幸せだよ。孫に恥じない生き方をせんとな、私は今から襟を正して生きようと決意する。人生はまだまだこれからさ。





୨୧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈୨୧

次回、最終回です。パトリシアの幸せ! です。
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