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2 愛する夫の為に耐えるパトリシア
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「ふふふ。ところで、パトリシアさんは平民出身っておっしゃったけれど、お父様のご職業は?」
スピリット男爵夫人は、いたぶる獲物を逃さないとでもいうように、私を見据えて質問してくる。
「パトリシアの父親は町で薬師をやっていたそうですが、両親も亡くなって叔父夫婦に育てられたのですよ。叔父夫婦はなんと青物屋! 青物屋にお情けで育てられた娘が嫁だなんて恥ずかしいったら・・・・・・」
ジェンナ様は、恥ずかしいというわりには嬉しそうにそうおっしゃった。
「・・・・・・申し訳ありません・・・・・・」
恥ずかしいと言われた私は、とりあえず謝るしかない。
ジェンナ様とスピリット男爵夫人達は楽しそうに語り合い、結局その日は仕事に行くことができなかった。
「ただいま、母上」
「まぁ、お帰りなさい! ショーン。今日はスピリット男爵夫人達が遊びに来てくださってね。あなたをとても気の毒がっていたわ。パトリシアとは釣り合わないってね」
「そんなことはないですよ。私が安心して外で仕事ができるのは彼女のお陰ですからね」
ショーンはいつも感謝の言葉を言ってくれるから、それだけで私はとても嬉しくなる。
「妻が家を守るのは当たり前でしょう? ショーンのような高給の文官と結婚したから、このような立派な屋敷にも住めるのでしょう? 貴族の子息は、アッパーミドルクラスに大人気ですからね。三男でも平民のお金持ちの家付きお嬢様と結婚できたはずなのよ」
ジェンナ様の言葉に、ショーンは笑うだけでなにも言わなかった。
ジェンナ様は、はじめは嫡男夫妻(ギガンテッド現男爵夫妻)と同居していた。嫡男タイリーク様の奥方ミルドレッド様はアルストン伯爵家の三女で、持参金をたっぷり持ってきたことでギガンテッド男爵家を立て直した経緯がある。そう、かつてのギガンテッド男爵家は破産寸前だったのだ。
次に同居したのは次男夫妻でアンドレ様達だ。アンドレ様の奥方、ジェニファー様は大商人の跡取り娘。まさにアッパーミドルクラスに所属する方だ。けれど、まもなくそのジェニファー様とも喧嘩をして、行き着いたのが私達の屋敷だった。
「大事な母上を見捨てられないよ。だって兄上達の奥方はとても意地悪をするんだって。酷いと思う。お願いだから一緒に助けてあげようよ」
ショーンがそう言うから承諾したのに、彼はいつも王宮から帰って来ると、さっさと書斎に籠もってしまう。
「仕事が終わらなくて屋敷に持ち帰ったんだ。夕食まで忙しいから、できたら呼んで。ごめんよ」
「いいのよ。毎日、お疲れ様だね」
私は彼を愛しているから、優しく言葉をかけてあげる。
本当は愚痴を言いたい。ジェンナ様の嫌がらせや、今日仕事に行けなかったことや・・・・・・いろいろなことを聞いて欲しかった。
でも、そんなことをしたら嫌われてしまう。それに仕事で疲れている夫を困らせたくない。
「パトリシアの為に、私達はここにいてあげますよ。だって、私達がいた方が心強いでしょう? あなたは早くに両親を亡くして叔父のところで暮らしたのだから、親というものが恋しいでしょうからねぇ。あら! そのお肉はもうちょっと小さく切ってちょうだいよっ! 年寄りは歯が脆いのだからね。本当に気が利かないったら!」
夕食の支度をキッチンでしていると、ジェンナ様が横に来て手伝うわけでもなく、口だけ動かす。
「おーーい。夕飯はまだかね? ここの屋敷はコックもいないのか!」
ギガンテッド元男爵は、高慢な声音で私を怒鳴りつけた。
୨୧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈୨୧
※青物屋:野菜や果物を売るお店。
※アッパーミドルクラス:平民だがお金持ちの者。上位中産階級。この小説では主に大きな商会を営む大商人を指す。
スピリット男爵夫人は、いたぶる獲物を逃さないとでもいうように、私を見据えて質問してくる。
「パトリシアの父親は町で薬師をやっていたそうですが、両親も亡くなって叔父夫婦に育てられたのですよ。叔父夫婦はなんと青物屋! 青物屋にお情けで育てられた娘が嫁だなんて恥ずかしいったら・・・・・・」
ジェンナ様は、恥ずかしいというわりには嬉しそうにそうおっしゃった。
「・・・・・・申し訳ありません・・・・・・」
恥ずかしいと言われた私は、とりあえず謝るしかない。
ジェンナ様とスピリット男爵夫人達は楽しそうに語り合い、結局その日は仕事に行くことができなかった。
「ただいま、母上」
「まぁ、お帰りなさい! ショーン。今日はスピリット男爵夫人達が遊びに来てくださってね。あなたをとても気の毒がっていたわ。パトリシアとは釣り合わないってね」
「そんなことはないですよ。私が安心して外で仕事ができるのは彼女のお陰ですからね」
ショーンはいつも感謝の言葉を言ってくれるから、それだけで私はとても嬉しくなる。
「妻が家を守るのは当たり前でしょう? ショーンのような高給の文官と結婚したから、このような立派な屋敷にも住めるのでしょう? 貴族の子息は、アッパーミドルクラスに大人気ですからね。三男でも平民のお金持ちの家付きお嬢様と結婚できたはずなのよ」
ジェンナ様の言葉に、ショーンは笑うだけでなにも言わなかった。
ジェンナ様は、はじめは嫡男夫妻(ギガンテッド現男爵夫妻)と同居していた。嫡男タイリーク様の奥方ミルドレッド様はアルストン伯爵家の三女で、持参金をたっぷり持ってきたことでギガンテッド男爵家を立て直した経緯がある。そう、かつてのギガンテッド男爵家は破産寸前だったのだ。
次に同居したのは次男夫妻でアンドレ様達だ。アンドレ様の奥方、ジェニファー様は大商人の跡取り娘。まさにアッパーミドルクラスに所属する方だ。けれど、まもなくそのジェニファー様とも喧嘩をして、行き着いたのが私達の屋敷だった。
「大事な母上を見捨てられないよ。だって兄上達の奥方はとても意地悪をするんだって。酷いと思う。お願いだから一緒に助けてあげようよ」
ショーンがそう言うから承諾したのに、彼はいつも王宮から帰って来ると、さっさと書斎に籠もってしまう。
「仕事が終わらなくて屋敷に持ち帰ったんだ。夕食まで忙しいから、できたら呼んで。ごめんよ」
「いいのよ。毎日、お疲れ様だね」
私は彼を愛しているから、優しく言葉をかけてあげる。
本当は愚痴を言いたい。ジェンナ様の嫌がらせや、今日仕事に行けなかったことや・・・・・・いろいろなことを聞いて欲しかった。
でも、そんなことをしたら嫌われてしまう。それに仕事で疲れている夫を困らせたくない。
「パトリシアの為に、私達はここにいてあげますよ。だって、私達がいた方が心強いでしょう? あなたは早くに両親を亡くして叔父のところで暮らしたのだから、親というものが恋しいでしょうからねぇ。あら! そのお肉はもうちょっと小さく切ってちょうだいよっ! 年寄りは歯が脆いのだからね。本当に気が利かないったら!」
夕食の支度をキッチンでしていると、ジェンナ様が横に来て手伝うわけでもなく、口だけ動かす。
「おーーい。夕飯はまだかね? ここの屋敷はコックもいないのか!」
ギガンテッド元男爵は、高慢な声音で私を怒鳴りつけた。
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※青物屋:野菜や果物を売るお店。
※アッパーミドルクラス:平民だがお金持ちの者。上位中産階級。この小説では主に大きな商会を営む大商人を指す。
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