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14 『恋人その3様』はインテリ令嬢

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「カイド様、体調が良くないのですか? 顔色が良くないですね。いつも、温野菜をお残しになるからですわ。毎日ブロッコリーとニンジンを召し上がってください、と申し上げているでしょう? 私のですから、元気でいていただかなければ困ります。今、お料理をとってきて差し上げますわ」

 なぜか顔色の優れないカイド様に、私は思わず心配してしまいます。カイド様が病気になり、もしものことがあったら、妹達の学費が滞ってしまいますわ。大変、大変!

 この夜会は立食パーティ形式なので、早速ブロッコリーとニンジンなどの温野菜と、カイド様のお好きなお肉と魚介類を小皿に綺麗に盛り、カイド様のもとに急ぎます。

「ほぉーー。カイド様は素晴らしい心根の奥方をお迎えになったのだなぁーー」

「いや、いや。このような女傑が、次期ザヘリー公爵夫人とは羨ましいことだ。恋人が何人いようと、びくともしない。それどころか、そんな夫の体調まで気遣うとは!」

 なぜか周りにいらした高位貴族のご当主様方が感心しているようですが?・・・・・これはお金のためですよ?

「さぁ、カイド様はお肉と一緒にニンジンをお召し上がりくださいませ。はい、あーーん、してくださいね」

(カイド様に小皿を渡しただけでは、私が見ていない隙に棄ててしまいそうだったので、強行手段ですわ。ほんとに、子供のようなところがある旦那様です。んもぉ、早くお口を開けなさい!)

「あーーん」

 少し間抜けなお声をあげてお口を開けたカイド様に、小さめのニンジンとお肉を一緒に放り込みました。

 生暖かい応援するような眼差しが一斉に私に注がれております。

(・・・・・・えっと、なんで?・・・・・・)

「「「アイビーさん、私達は毅然とした貴女の姿にいたく感動いたしましたわ! 私達は貴女の味方よ」」」


「「「そうだとも! このような優しい懐の深い女性は見たことがない! まさに貴婦人の鏡ですな。わしらも応援しますぞ!」」」

 とても、なにかを応援してくださっていて有り難いのですが・・・・・・なにを応援なのでしょうか?


☆彡 ★彡


「貧弱な女狐の頭は悪くなさそうねぇ? あの短時間で、これだけ味方につけるなんてやるじゃない? 私はカトリン公爵家のクレオパトラですわ! 貴女のような方をカイド様が妻に迎えたなんて、心外ですわ! たいした顔でもスタイルでもないし、そもそも、貴女は留学すらなさっていないでしょう? 私は隣国に留学した法律と会計学のエキスパートですのよ?」

「まぁーー、素敵! 頭が良くていらっしゃるのですね? 道理で知的でいて妖艶、見るからに賢そうですわ」

 私は後ろから突然声をかけられ驚きました。ですが、今はカイド様にブロッコリーを食べさせるのに必死ですわ。チラリとその女性を見て感想を述べた後、ブロッコリーをイカのマリネと一緒に、カイド様のお口に放り込みました。

(うん、今日はよく召し上がったようですわ。あーーん作戦成功ですわねぇーー)

「ちょっと! 聞いているの? 貴女、失礼じゃなくて? この私は才女と名高いカトリン公爵家のクレオパトラでしてよ! あの隣国の最高峰の大学を卒業したのよ」

 キャンキャンと騒ぎ立てる方ですねぇ? 最後のニンジンを無理矢理、カイド様のお口に放りこみひと段落して振り返りますと、まだクレオパトラ様がそこにいらっしゃいます。

「隣国の最高峰の大学は、確かにすごいですわ。学問の面におきましては、尊敬申し上げましてよ? ですけれど、クレオパトラ様は『恋人その3様』なのでしょう? 妻もいながら恋人が5人もいる方とお付き合いすることが賢いと思っていらっしゃるとしたら残念なことです。やはり大学では学問だけで、一般常識は学べないのでしょうか?」

 だとしたら、妹達の留学もやめさせたほうがいいかもしれません。私の妹達は成績が良いので、ゆくゆくは大学にも行かせたいと思っていたのです。ちょうどいいから、ここでいろいろお聞きしましょう。

「クレオパトラ様の専攻は法律なのですね? 国際弁護士の資格はお持ちですか? あれがあると、どの国に行っても通用しますから便利ですよね? 会計学ですか・・・・・・だとしたら会計士の国際資格は? ザヘリー公爵家の顧問弁護士はどちらの資格もお持ちですわ。しかも、とても常識のある方で性格も良い女性です。今度、一緒に3人でお食事しませんこと?」 

「なによ! 大金持ちのザヘリー公爵家の顧問弁護士なら優秀に決まっているじゃない! 自分では私に敵わないからそんな人を連れてこようとするなんて! 負け犬だということを認めたのね? 次期ザヘリー公爵夫人には相応しくないわ。さっさと荷物をまとめて実家にお帰りさないよ」

(んーー。さきほどから、この方のおっしゃる意味がさっぱりわかりません。が、負け犬というのは間違いですね?
だって、私は契約妻ですよ? そもそも、戦う立場ではありません。カイド様の愛を奪い合う気持ちは全くありません)

「『恋人その3様』は思い違いをなさっているようですわねぇ。私はそもそもこの戦いの部外者でしてよ? 負け犬とおっしゃいましたが、私はまだ戦ってもいませんわ。それと公爵夫人は学問を極めた者だけがなるものではありません。専門家は雇えばいいのですし、有能な人間を上手に使って適材適所に配置することが、大貴族の夫人のお仕事ですわ。それから、覚えておいていただきたいのは、私に出て行きなさいとおっしゃることができるのは、ザヘリー公爵夫妻だけです」

 周りのギャラリーが増えるなかで、どの方も拍手をなさっていますが、なにに感動したのでしょうか?カイド様の顔色は相変わらずですね。スープかなにかを召し上がったほうがいいのではないかしら?

 クレオパトラ様は血の気を失ったように白い紙のような顔色で、ふらつきながら去っていきました。あの方もニンジンが嫌いなのかもしれませんわね。ふらつくようなら、レバーも良いと思いますわ。

「クレオパトラさまぁーー。『恋人その2様』も絶世の美女でしたよぉー。レバーでも召し上がって、負けないでくださいねぇーー」

 私はそのふらついて去って行く後ろ姿が気の毒になり、思わずエールをおくったのでした。

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